AWC 凱旋門から見える街角 3  武雷暗緑


        
#1887/3137 空中分解2
★タイトル (AZA     )  92/ 6/27  14:50  (187)
凱旋門から見える街角 3  武雷暗緑
★内容
「でも、おかしいな。よく考えてみると、ユニコーン以外の者が犯人なら、ち
ょっとくらいは金をかけてでもユニコーンカードを偽造し、殺人現場に置いと
いてもいいと思うんだが」
「何を言い出すんだ、ジョニカタ君! ユニコーンが犯人じゃないと言ったの
は、君が最初だぞ」
「それはそうなんだが……。犯人の奴は、気付かなかったのかなって」
「こう考えればいい。犯人は警察にユニコーンに詳しい刑事、つまりカーター
刑事がいると知っていたから、裏をかきに出たんだ。わざとカードを置かなか
ったんだと」
「そうだな。となると犯人は、やはりパストールか山元。さっき共犯のことを
口にしたけれど、その可能性は考えなくていいと思う。二人はここに来るまで
全く知らない者同士だったんだから」
「まあ、単独犯だろうね。宝石の価値からしても、共犯は割が合わないね。ま
ずパストールが犯人なのだが、証拠がないからな。それに密室もだ」
 金沢が自分の勘を述べたそのとき、一人の男が事務所に入って来た。山元刑
事だ。彼の顔を知らないフランソワは、東洋人にどう対応してよいか、戸惑っ
ている様子だ。
「こちらの刑事さんをつけてたら、こんなとこに来ちまった。通訳のパストー
ルがいなくて迷ってたんだが、入らせてもらいたい」
 緊張した顔つきで、日本の刑事は言った。
「どうぞどうぞ。お客はどなたであろうと歓迎しますよ。まあ、座って」
 金沢が日本語を話すと、山元はほっとした顔つきになった。
「あんたは誰なんだい? 明かに東洋の血が混じっているみたいだが……。日
本語が達者ってことは、日本人との混血か?」
「そう、日仏混血の探偵。アルセーヌ金沢剛と言いますよ。カーター刑事とは
旧い友人でして。受付をしてくれているのは、フランソワ嬢。こちらが、まあ、
助手のブライアンロック君」
 金沢はみんなのことを、簡単に紹介した。
「ほほう、探偵さんか。で、何でカーターさんはこっちの探偵を訪ねるんだ?」
 金沢はカーター刑事と顔を見合わせ、ふたことみこと交わしてから、何かを
決めたようだ。
 そうして金沢は、これまでのいきさつや、さっきまで二人で話していた推理
を聞かせた。
「……という訳でね」
「なるほど、面白い。俺は刑事だ。犯人でもないし、口は堅いから安心しな。
それよりパストールが犯人かもしれんなら、今すぐに奴の部屋に押し入って、
もう一度宝石を捜すのもいいんじゃないか」
 山元の言葉はみんな、金沢が訳してカーターに聞かせている。
「ううむ。ちょっと手続きが面倒だが、やってみるか」
 カーターは決心した。

 どうやら寝ようとしていたらしいパストールは、邪魔をされて気分を害した
表情である。
「何なんです、一体。私は宝石のことなんか知りません」
「黙ってくれ。今、確かめるんだからな」
 カーターが怒鳴った。後で聞けば、こういう権力の行使は好かない彼なのだ
が、このときは成行きで仕方なかった。
 捜索が始まった。カーターと山元があたる。
 金沢はそれに加わらず、部屋の様子を観察している。
 数十分後、カーター刑事がうめくように漏らした。
「駄目だ。見つからない」
「だから言ったでしょうが、知らないと」
 パストールが勝ち誇ったように言った。
 と、山元刑事の方が叫んだ。
「そうだ! 413号室だ! 真田氏の部屋に宝石を隠したんだ、きっと。今、
あの部屋は空いているからな」
 こうして今度は、死んだ真田氏の部屋・413号室が調べられることとなっ
た。
「あった! あったぞ! 間違いなくフレンチコネクションだ!」
 カーターが捜し始めて間もなく、叫び声を上げた。
「え、どこに?」
「ここです。この電灯の上に。早速鑑定人を呼ぼう」
 すぐに宝石鑑定人がやって来て、鑑定をした。
「装飾は同じですが、これはよくできた偽物です」
「何だって? おい、本物はどうした?」
 鑑定人からパストールの方に向き直り、怒鳴り散らすカーター刑事。
「知らないって言ってるでしょう。第一、ここから盗まれていた宝石が見つか
ったからと言って、この私が隠したとは限りませんよ」
「ぐぐっ……」
 カーター刑事が返答に詰まると、代わって金沢が言った。
「証拠はないがね、パストール君。君が犯人だ」
「ほお。証拠がない、ねえ。では、密室の謎は解けたんですね?」
「ああ解けるとも。その偽物を見て、頭の中がまとまったよ。この事件は、真
田氏が悪いのだ」
「どういうことだ?」
 パストールだけでなく、私や二人の刑事も同じ疑問を口にした。もちろん、
フランス語と英語と日本語が混線したものだから、音は違っていたが。
「今から説明しよう。恐らく真田氏は、本物のフレンチコネクションは持って
いなかった。もしくは持っていたが、今度の出典依頼を機会に、保険をかけた
上で偽物を盗ませ、本物を失うことなく、保険金をせしめようと計略した。元
元は盗まれたように見せかけた騒ぎを起こすつもりだったんだろうが、そこへ
ユニコーンからの予告だ。ユニコーンに盗まれては、偽物であることがばれ、
ついで保険金詐欺もばれかねない。そこで他の人に盗んでもらうことにした。
そう、パストール君や山元刑事のような、宝石の真偽がつかない人にだ。警察
の人には頼めないから、必然的にパストールにとなる。何せ、こちらに知合い
はいないんだからね、真田氏は。
 さて、頼むときは詳しい訳は話さず、多少の金を払うと言っておく。宝石に
目がくらんだパストール君は、礼金だけでは満足できず、礼金がフイになろう
とも宝石をいただこうと考えたんだと思う。金に換えにくいがユニコーンが狙
っているのだから、うまく買い取らせられると考えたのかもしれない。そこで
真田氏の命を狙うとなるのだが、そうだね、こう持ちかけたんじゃないか。ユ
ニコーンの仕業に見せかけるために、窓を空けた半密室の中で怪我をしてはど
うですかってね。真田氏は計画を承知しても、怪我は自分でやると言っただろ
う。それを君は、他人がやらないと傷の角度でばれるとか何とか言って、真田
氏を納得させた。
 で、犯行当日。計画通りに真田氏の部屋に行き、チェーンロックをしたまま
ドアを開けてもらい、その隙間からナイフで切りつけた。真田氏は知らなかっ
たが、ナイフにニコチンを塗ってね」
「ちょっと待て。それじゃ、床に血が」
「分かっているよ、カーター。パストール君、君は真田氏に、ユニコーンは窓
から入って来ることになるんだから、ドアの方から床に血が落ちてはいけない
とでも言って、受け皿を用意させたんだ」
「それなら受け皿が現場にあるはずだろう」
 またも口を挟むカーター刑事。
「氷で作ってあったのさ。見たまえ、部屋には小型の冷蔵庫もあるじゃないか。
パストール君に切られた真田氏は、氷の器で血を受けながら、奥に引き返した。
ところがニコチンが回り、死んでしまった。氷は融けてなくなると。血の量が
多く見えたのは、氷の融けた水が混ざったからじゃないかな。それと、あの夜、
響き渡ったという物音は無論、パストール君が出したもので、自分の部屋のド
アでも叩いたんだろう」
「面白く聞かせてもらいましたですが、私は犯人じゃない。証拠もない」
「確かにそうだ」
 金沢はあっさり、引き下がってしまった。
 代わって山元刑事がパストールに聞いた。
「ちょっと聞くが、君はこの真田氏の部屋には入っていないな?」
「はあ、入っていませんよ。部屋の中まで通訳はいりませんから」
「そうか」
 山元刑事はにやっと笑った。そして言った。
「カーター刑事、この部屋のありとあらゆる箇所の指紋を検査してみて下さい。
きっとパストールの指紋が出るはずです。それこそ証拠だ、君が真田と相談す
るためにここに入ったな」
「そ、そんな! あ、入りました。間違えていました。入ったことがあります
!」
「えらい慌てようだな、パストール。いまさら態度を変えても、無駄だぜ。決
定的な証拠として、これをやろう」
 そう言うと山元刑事は内ポケットから小型テープレコーダーを取り出し、金
沢に渡した。再生しろと、金沢に身振りで合図を送る。
 再生ボタンを押すと、真田とパストールの会話が聞こえてきた。金沢が推理
したような会話である。
 金沢が聞いた。
「山元さん、これは?」
 その途端、山元刑事は素早い動きで部屋のドアまで移動し、電灯を消した。
全てが闇となる。庭からの明りが、わずかに室内を照らす。
 何かを剥す音がした。誰だか分からないような声が、山元刑事の方から聞こ
えた。フランス語である。
「私はユニコーン。殺人犯の汚名を晴らすため、山元刑事と入れ替わり、ここ
へやって来たのだ」
「まさか! いつ入れ替われるんだ?」
 カーター刑事が叫んだ。信じられないといった声の響きである。
「美術祭でだね、ユニコーン」
 金沢が言った。
 山元刑事だった人物の影がうなずいたようだった。
「そうか。それであのとき、山元刑事は一端、いなくなったのか」
「その通り。カーター刑事、私を捕まえたいと思っているだろうが、少なくと
も今はやめておくのが賢明だと思う。やめなくばあなた方は気絶することにな
ろうし、万が一、うまく捕らえても、世間から茶番ではないのかと言われよう」
 言われてみると、確かにそんな状況が今度の事件にはあった。
「さて、カセットテープは私が盗聴の意味を持たせ、この部屋にセットしてお
いた物だ。それは証拠として警察に提出してしんぜよう。それから金沢君、君
の推理は仲々素敵なものだった。私の好敵手となり得る才能だ。これからも競
うこととなろうから、そのつもりで。
 それではまた会う日まで。アデュー!」
 言い終わると、山元刑事の影はさっと動き、瞬く間もなくその姿を隠してし
まった。
 金沢が電灯をつけたが、ドアの近くに山元刑事の服とユニコーンカードがあ
るだけであった。カードにはこう書いてあった。
「私は一度盗むと予告したからには、必ず盗む主義である。フレンチコネクシ
ョンの本物も見つけ出し、いずれ手にしてみせる故、覚悟の程を。なお、山元
刑事は、美術祭会場の物置にいます。 アルセーヌのユニコーン」
 これを見て、金沢が言った。
「さすがだな。今度は本当に頭脳の勝負になるだろうな。それにこのレコーダ
ー……」
「レコーダーがどうしたんだ?」
 パストールを取り押さえたカーターの質問に、金沢は続けて答える。
「ユニコーンの声紋を取ろうと思って、録音ボタンを押したんだが、テープの
爪が折ってあった……」
「ほう……って、もし録音されていたら、どうするつもりだったんだ! 大事
な証拠が消えてしまうとこだったぞ!」
「すまないすまない。すっかり忘れていたよ。ま、どうせあの様子では、すぐ
に自白するだろうけどね」
 と、金沢はすっかりうなだれているパストールを指さした。

 数日後、すっかり回復した山元刑事が、私達の探偵事務所を訪れた。さてさ
て、何回目のことか……。何故かまだフランスにいるのだ。
「金沢さん、ユニコーンから連絡は?」
「ないですよ。あなたもよく続きますね。これで十日連続で、ここに来ている」
 事件を抱えていない金沢は、退屈しのぎに日本でのアルバムを見ていたのだ
が、その手を止めて言った。
 山元は答を聞くと、
「奴にお返しするまで、何日でも来ますよ」
 と言って、飛び出して行った。
 金沢は笑って、またアルバムに見入った。

 実はアルバムには、金沢とユニコーンが一緒に写っている物があった。もち
ろん、金沢もユニコーンも忘れている程、遠い昔の事。

−FIN.




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