AWC ジャスティス大統領 2   永山


        
#1884/3137 空中分解2
★タイトル (AZA     )  92/ 6/27  14:37  (166)
ジャスティス大統領 2   永山
★内容
 スラムとゴーストタウンを混合したような町並みの一角に、八神は車で連れ
て行かれた。二階建ての廃ビルに入り、鉄筋なのにきしんでいるような階段を
上ると、扉のない部屋があった。
”Yukinori!”
 英語による発音がした。その方向を見ると、ルーシーが座っている。違う、
座らされているようなのだ。後ろ手に縛られて、木製の椅子に括られていた。
「ルーシー! 大丈夫か!」
 ルーシーがその声に反応する前に、
「そう心配そうにしないで。私達はフェミニストですから、女性に手荒なこと
などいたしません」
 と紳士が答えた。しかし、椅子に括りつけておくこと自体、手荒なことでは
ないのかと、八神は思った。
 室内をよく見ると、いかにも怪しいといった黒サングラスの男が二人、スチ
ール机を挟む格好で立っていて、机にはオールバックで目付きの悪い男が両肘
をついている。
「承諾はもらえたようだな」
「はい」
 オールバックの問いに丁寧に答える白髪紳士。そして自分は下がってしまっ
た。
「彼女の身については、こちらの命令に従えば、安全を保証すると聞いとるね」
「ああ」
 オールバックの荒っぽい日本語に、八神は低く応じた。
「こちらがこんな手を使ったのは、君の腕が、暗殺に欲しいからだ」
「暗殺だと? 俺は人はおろか、動物も撃ったことはないんだぜ」
 相手の思いがけない言葉に、八神は強がって、乱暴な語尾を用いる。
「いい機会じゃないか。今度、初めて人間を撃ってみるといい」
 人を小馬鹿にしたように言うオールバック。
「冗談じゃない!」
「そう、冗談ではない。いいかね、決心が変わったりせぬ内に言っておくが、
君にはもう後戻りは出来ないのだ。ルーシーベネットが大事ならな。このこと
を肝に命じておけ」
「……」
 八神が言い返せぬ内に、相手は目付きを一層鋭くして、切り出した。一枚の
古そうな写真を机に滑らせながら。
「標的はこの男だ。名はゼネラルキング」
 写真には痩せた金髪の男の全身があった。目の前にいる男以上に目付きが鋭
く、その瞳はサファイアのように美しい。比較するものがないのだが、背は高
そうだ。
「この男が何者で、どうして我々が狙っているかなんてことは、知らないでい
い。君はこの男を殺すだけでいいのだ」
「しかし、俺が捕まっていい訳じゃないんだろう? 俺があんたらのことを話
すかもしれない」
「もちろん。完璧に狙撃手の役目をはたしてもらう。なに、君の腕なら簡単に
成し遂げれよう。うまい具合いに、標的は一週間後にパーティをやらかすのだ。
奴の屋敷の広い庭に客をたくさん招いてね。そのとき、君は近くの高層ビルか
ら狙えばいい。相手は政府の要人というんじゃない。防護なんて、ないに等し
い」
「……ここまで来て、断わりようもない。分かった。距離は?」
「おお、忘れていた。地図を持って来させよう。おい!」
 オールバックが叫ぶと、さっきの白髪の紳士が地図を抱えて戻って来た。
「ゼネラルの屋敷はここ。周りに高層ビルは六つです」
 紳士は説明を始めた……。

「有効射程は充分だな」
 試射を終えた八神は、そう漏らした。
「そうだろう。一流職人に作らせたんだからな。あとは君の腕次第だ」
 オールバックは嫌らしく笑いながら、葉巻をふかした。
「本当に、無事に返してくれるんだろうな。ルーシーを」
「八神。これは一種のビジネスだ。義務は果たさなければならない。条件は守
らないといけない。それぐらいの規則は当然、我々もわきまえている。ルーシ
ーベネットの身は、君が義務を果たした直後、自由にしてあげよう」
「あと、二日か……」

 回転扉を押した。暗殺に最適のビルだ。黒サングラスの男二人が監視役でつ
いて来る。銃もまだそいつらの手の中だ。
「いいなしっぱいしたときはおまえだけがつかまることになるんだぜ」
 男は、紙に書いてあるらしいローマ字を棒読みした。
「うるさいな、プレッシャーをかけるなよ……と言っても、分からないよな」
 そうごたごたやっている内、屋上にたどり着いた。
「三十分だな」
 時計を見る。一時からパーティが始まると聞いている。ゼネラルキングとや
らが何者で、何のためのパーティかも知らないが、相当の財力・権力があるこ
とが分かる。庭に赤絨毯まで引っ張り出すなんてのは、ただ者じゃない。
 試しに狙いをつけてみる。不思議と手が震えることはなかった。まだ本番じ
ゃないせいかと、八神は考えることにした。それにしても人が多い。
「あれだけの人数がいると、成功しても、逃げきれるかね」
 黒サングラスに言ってみたが、言葉が通じないのだ。答えるはずがない。
「やれやれ」
 ため息をつきかけたが、気を緩めてはいられない。そろそろ時間である。
 一時を少し過ぎたところで、写真の人物が姿を見せた。
「ヒィ?」
 八神は黒サングラスの一人にスコープを覗かせながら、聞いた。
”Yes! Shoot,OK?”
「オーケー」
 自分を落ち着かせるために、ゆっくりと答えた八神。
 精神集中のため、息を大きくつくと、一気に銃を構えた。スコープに標的の
姿を映す。
 そして何も考えずに、トリガーを引く−−命中−−。
 パーティの主役の頭を撃ち抜かれた下では、朝の通勤ラッシュよりもひどい
騒音が起こっていた。
「こっちを見つけるかもしれん」
 大丈夫なのか、をどう英語で表現しようかと考えていたら、突如として爆音
が空に響き渡った。どこで待機していたのか、ヘリコプターがその巨体を現し
た。そいつは八神達のいるビルの上空で静止すると、縄梯子らしき物を投げて
よこした。
”Come on!”
 先に飛びついた方の黒サングラスが、爆音に負けない大声で叫んだ。八神は
風に揺れる梯子に悪戦苦闘しながら、必死に昇ろうとした。
”Hurry up!”
 最後になったもう一人の黒サングラスが、下からせきたてる。
 冷汗をかきながらも、八神は機内に転がり込んだ。その汗は、高さからくる
ものばかりではない。
「大丈夫だって言ってたのは、このことだったのか」
 機内にいた白髪紳士に向かって、八神は強がって見せた。相手は、黙ってう
なずいただけである。
「警察に知らせるんじゃないのか、下の奴らは? ヘリで逃げたんじゃ、目立
ってしょうがない」
「心配無用。奴らも叩けばほこりが山と出る身。追って来るとしたら、自力で、
だ」
 地上では、主人を失った人間達が、こちらを見上げて、何かわめいているみ
たいだった。

「よくやってくれた。ここまでうまく事が運ぶとは、正直、思っていなかった」
 ヘリコプターが着陸した海岸近くの広場には、古い倉庫が立っており、中で
は例のオールバックが待っていた。
「そんな感謝の言葉なんかいらない。早く、ルーシーを返してもらおうか」
 八神は先ほどの興奮を押さえながら、相手に要求した。
「慌てるものではない。日本の諺にもあっただろう。慌てる何とかはもらいが
少ない」
「よく知っているな」
「とにかく、大統領も喜んでおられる」
「大統領?」
「ジャスティス大統領。我々の組織の首領であり、さっきおまえが殺した男の
実の子だ」
「何? 子が親を暗殺したのか?」
「驚くことはない。組織を大きくするのに、競争相手をけ落とすくらい、当り
前だろう」
「……気分が悪くなりそうだ。もういいから、早く約束を守ってもらおうか」
 八神が言うと、オールバックは指を鳴らした。後ろ手に縛られたままのルー
シーが、黒サングラスに連れられて来た。
「おい、縄を解いてやれ」
 オールバックが命ずると、白髪紳士がナイフで縄を切った。
「ルーシー!」
 両手を広げて、八神は叫んだのだが、ルーシーはこちらには来なかった。
「どうしたんだ?」
「あなたは本当によくやったわ。データ通り、腕もよかったし」
 ルーシーベネットは、低いが正確な発音をした。
「?」
「まだ分からない? 頭は腕と反対ね」
「……グルってことか」
「そうだ。約束は、等と愚問をしないでくれたまえ。私は、彼女を自由にする
と言っただけだからな」
 オールバックが笑っていた。
「こんな役目も楽じゃなかったわ。やっと自由になれた訳よ」
「チッ!」
 そう言うが早いか、八神は倉庫の窓を破って、外に飛び出した。精神的打撃
は大きかったが、グズグズしていると、殺されることは充分、予想できた。
”Run after!”
 そんな大声が、倉庫内から聞こえてきた。

「なるほどね。普段は、女学生しているんだ」
 八神は教えられた大学の近くに、丁度よい場所を見つけた。夕闇が迫ってお
り、風が冷たかった。
 最近になってこの街では、身元不明の黒サングラス男の射殺体が、二体続け
て転がされており、ちょっとした話題になっていた。
「これは嘘じゃなかったのか」
 八神はそれからメモをじっと見つめた後、それを丸めて捨てた。
 なけなしの金をはたいて買った最高の銃を構え、狙いをつけた。白のドレス
を来た女に。この距離なら、外しようがない。
「さらば忌まわしき女よ−−」
 そう呟いて、引金にかけた指に力を入れた。ルーシーベネットは、初めて八
神の前に現れたときのように、赤いドレスの女になっていた。

 そして八神は、監獄八と呼ばれるようになった。

−−続く−−




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