AWC 短編小説:木花開耶姫


        
#1798/3137 空中分解2
★タイトル (LYJ     )  92/ 6/14   8:48  ( 97)
短編小説:木花開耶姫
★内容

  おい、鈴木、どうしたんだ、最近なんだか元気がないぞ、失恋でもしたんじ
ゃないのか、ハッハッハ。えっ、好きな人が出来た、ホントに!!それで、そ
の彼女とはいま交際しているのかい。なんだ、初めての出会いが3日前なのか
い。一目惚れだね。そんで、まだ片思いってわけ。どうしたらよいかって。バ
カ、そんなこと知るもんか、おやおや、ため息なんかついてるよ。ちぇっ、だ
らしがないなー。そんじゃ、話を聞いてやろうじゃないか。

 それで、その彼女とはどんなことで知り合ったんだい。えっ、彼女の兄さん
とお前とがパソコン通信仲間なの。なにっ、名前が「たがめゲンゴロウ」!!
ああ、その兄さんの本名じゃなく、通信用のニックネームなのか。ところで、
お前はなんていう名前なの。ふーん、「ドラQ」ね、二人とも勝手に名乗って
ろって感じだね。しかし、パソコンで文字だけをごちょごちょやりとりするあ
んなもののどこが面白いのかなー。まあ、それはいいとして、そのゲンゴロウ
兄さんの家に行ったときに彼女との運命の出会いがあったのかい。あっ、違う
の。じゃー、どうして知り合ったの。

 へーっ、パソコン通信で無料提供されている「木花開耶姫(コノハナサクヤ
ヒメ)」ってソフトを入手したいってパソコン通信の会議室ってやつに書き込
んだのがドラマの始まりか。ふーん、そのソフトは、植物の種を植えて美しい
花を咲かせるソフトなのかい。ところがそのソフトはお前の加入していないネ
ットに登録されていたってわけか。だけど、なんだなー、お前はパソコン通信
なんかやって、前から奇人・変人だとは思っていたけど、ゲームも変なものが
好きなんだなー。本当にお前はオジンくさい奴だよ。そんなんじゃ女にもてな
いぞっ。ええっと、そんで、そのゲンゴロウって奴がソフトを持っていて、お
前に渡してくれるってことになったんだな。3日前の日曜日、そいつと初対面
なんで「パソコンライフ」って雑誌を目印に持って待合せの場所で待っていた
のかい。

 そんで待ってたら、彼女が兄貴の代理で例のソフトの手渡しにやってきたっ
てわけか。ふーん、ゲンゴロウが風邪でダウンしたのか。なんだ、それで彼女
とは喫茶店でちょっと話をしてから、すぐに別れたのかい。ところが、帰宅し
てから、彼女の面影が目の前にちらつき出し、とても胸が苦しくなってきたん
だって、おやおや。その日から、街を歩いている若い女性の後ろ姿が彼女に見
えるし、テレビに出てる高千穂しのぶや丘ひろみなんかも彼女に見えるって。
でも、二人は全然違うタイプだけどなー。えっ、茶碗も皿も彼女に見える、す
べてのものが彼女に見えてくる、夜は彼女が手渡してくれたフロッピィを抱い
て寝ているって、うーん、これは重症だね。

 それで、どうしたらいいかって。それじゃ、彼女とまず会うことだな。その
ゲンゴロウに連絡をとって、なんでもいいから口実を作って奴の家を訪問した
らどうだい。とにかく、足繁くゲンゴロウの家に通って彼女と話す機会を多く
作ることが先決だな。それができたら、またアドバイスしてやるよ。じゃー、
頑張れよ、この恋わずらい。

 おっ、鈴木クン、今日はえらく晴れやかな笑顔でございますねー。うーん、
どうやら例の彼女の件、うまくいってるみたいだな。あれっ、この野郎、照れ
てるよ、うーん憎い、ニクイ。コラッ、イロオトコ、ちゃんと俺に話を聞かせ
ろよ。うんうん、ゲンゴロウにパソコン通信のメールを送ったって、感心、カ
ンシン。ところで、ゲンゴロウと会う口実はどんなことにしたんだ。ほーっ、
この前の「木花開耶姫」のお礼に珍しいソフトを見せたいって書いたのか。そ
したら、返事がすぐに来たのか。ふーん、その返事のメールをプリントアウト
したのがこれなのかい。じゃー、ちょっと読ませてもらうぜ。

  「珍しいソフトを見せてくださるとのこと、大変感謝します。ところで、
  拙宅までわざわざ来てもらうのも心苦しいですから、私の方からお宅を訪
  問させてもらおうと思います。ご都合のいい日と時間を教えてください。

   ところで、ドラQさんに謝らなければならないことがあります。それは
  私が女性だってことです。たがめゲンゴロウは男ではなく、女だったんで
  すよ。そして、この前の日曜日にあなたにお会いしたゲンゴロウの妹とい
  うのが本当の私なんです。こんな話を読まれて、ドラQさんはきっとびっ
  くりされるだけでなく激怒されることでしょうね。あなたを騙したことを
  本当に申し訳なく思っております。許してもらえないかもしれませんが、
  でも私の事情だけはお聞きくださいませんか。

   私がパソコン通信を開始した当初、あるネットの会議室に書き込みをし
  ましたところ、私が若い女性だというので大変歓迎もされましたが、一部
  の心無い男性たちから読むに耐えないようなコメントをもらうようにもな
  りました。また、メールでも変な内容のものが送られてきたり、しつこく
  交際を迫られたりしました。そんなことから、その後はIDやハンドルネ
  ームを変え、性別、年齢を明かにせずにネットにアクセスするようになり
  ました。

   会議室では私が先輩でしたね。私はあなたに自分が男性だなんてことは
  一度も言ったことはありません。でも、あなたは私を男性と思いこまれた
  ようですね。私が会議室の先輩として、あなたの質問にいろいろ回答して
  あげているなかで、まだお顔も拝見していないあなたに好意を感じるよう
  になりました。それで、あなたが木花開耶姫を探しておられると知って、
  お会いするのにいいチャンスだと思いました。あの日、私はあなたにたが
  めゲンゴロウとして会うつもりでいました。ところが、あなたを目の前に
  すると、思わずゲンゴロウの妹ですなんて嘘をついてしまいました。ゲン
  ゴロウを男だと思い込んでおられるあなたから、人をからかうんじゃない
  と叱られるのが怖くなったんです。

   これが私の弁解です。でも、嘘はやっぱり嘘です、許してもらえないか
  もしれませんね。祈るような気持ちでお返事をお待ちします。」

 ふーん、なるほどねー。あっ、俺はお前に、このメールにどんな返事を書い
たのかなんて野暮な質問はしないぜ。鈴木、おめでとう、パソコンのなかだけ
でなく、お前たち二人の間にもきれいな花を咲かせてくれよな。じゃー、また
な、バイバイ。……あっ、そうだ、ちょっと教えてくんないかな。えーっと、
そのー、パソコン通信のことで聞きたいんだけど、パソコン通信を始めるには
どうすればいいのかなーって、はははは。

                              やまもも





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