AWC 斎藤がギターを辞めたわけ       うちだ


        
#1797/3137 空中分解2
★タイトル (TEM     )  92/ 6/14   0:36  ( 88)
斎藤がギターを辞めたわけ       うちだ
★内容

街で斎藤と会った。買い物してたらばったりだ。私はおそるおそる背後に近寄っ
て、それとなく確かめて声をかけた。「斎藤・・・さん?」
振り返ったのは3年ぶりの斎藤だった。「やっぱり斎藤?すぐ分かったよー。」
「加奈ちゃんも。元気そうだねー。まだバンドやってる?」
「私?ううん。やってない。でもサナエはバンドやるとか言って、卒業してすぐ
東京へ行っちゃったんだよ。すごいでしょ」
「へぇー」斎藤は一瞬眩しいような顔をする。
斎藤は高校を卒業して、証券会社に勤めているとか。私は専門学校に通っている。
思えば遠くにきたもんだ。
「斎藤は?ギターやってる?」
「え。私、あれっきりだよ。」
「ええっ、もったいないー。上手かったのに。」
斎藤は困ったように俯いた。
「あんなの違うよ。練習すればある程度までは譜面どうりに指が動くだけだもの。」
「それが凄いじゃない。」
私なんて、タンバリンしかできなくてヴォーカルしてたんだもんねー。
「そーじゃなくて、歌聴いて音をとっていくとか、そういうのがホントの音楽じゃ
ない?」
「・・・斎藤の言うことは相変わらず難しいねぇ。」
「例えばさー、スタジオでサナエと加奈ちゃんって、聴いたことあるだけの歌で
も、簡単なリズムに適当にアレンジしてやってたでしょ。そういうノリ。」
ああ、そういえば。スタジオ借りて練習するのにベースのみっちゃんが遅刻魔で、
いつも待たされてた。その間、斎藤は“ドレミファソラシド”を15セットやっ
たのち、曲の練習をしていた。私とサナエは大好きな岡村ちゃんのメドレーをよ
く披露していた。サナエがコンガを叩いて、私はタンバリンを鳴らしながらを分
かんない歌詞を適当にごまかしつつ歌い踊っていたっけ。
「やだなぁ。あんなのすっごくいーかげんだよ。サナエは確かに上手かったけど
さ。斎藤のギターなんて1回目は出来なくても、次回の練習の時にはもう完璧だっ
たじゃない。そのほうが絶対に凄いよ。」
「・・・でも」
「考え過ぎだよ、斎藤さんはー。」
「・・・そーかなぁ。」
何て、もうどっちにしろギターはやってないらしいし、関係ないか。
「あれからもう3年もたつんだねー」
「早いよね。」斎藤もしみじみとしていった。
「ギターはやってないけど、今だって音楽聴くのは大好きだよ。」
高校2年の夏。私らは聴くだけじゃ飽き足らず、バンドを結成した。1回テレビ
出演するという超バブルな目的で。私がヴォーカルで、サナエがドラムだった。
(私はタンバリンしかできなかったもの。)サンドヒル楽器店でメンバー募集の
張り紙を見てやって来たのが、ギターを持った斎藤さんとベースのみっちゃんだっ
た。『シド&ナンシー』を見てピストルズを聴くようになったという、それにし
てはあまりにマジメすぎる斎藤はスタジオに定刻でやって来た。手先が器用で、
難しいリードも初心者にしてはそつなくこなしてたっけ。私たちのバンドで練習
していたのは、コピーもの2曲に、知夏が作ったオリジナル3曲だった。結構う
まくいっていたのにTV出演まで至らなかったのは、突然斎藤がギターを辞めた
からだ。
「あれれ、そういえば。斎藤さんて何であの時、バンド辞めちゃったの?」


ちょっと沈黙してから斎藤が口を開いた。
「いつかさぁ、バンドの練習やってた頃だけど、サナエが西高の男子と喧嘩して
た時、なかった?」
サナエはドラムのサナエだ。彼女は私と同級生で、可愛い顔してるくせにやたら
に気が強くてあちこちで敵をつくっている人だった。
「・・・彼女はああいう人だから・・・喧嘩ってどういう?」
「サンドヒルの前でサナエが西高の男子と口げんかして、追っかけられてみんな
で逃げたでしょ?あの時のこと。覚えてる?」
うーん、そんな事もあったな。もともとその西高の男のなかの一人が、サナエと
中学が一緒でその頃から因縁があったのだ。出会えば口げんかばかりしていたっ
け。(今考えればその男は彼女のこと好きだったんじゃないかなと思うけど)斎
藤は思い出しながら話しを続けた。
「その時さー。サンドヒルの前であいつらがサナエにふざけた事言って、ちょっ
かいかけてきて。サナエが“もうこんな奴、放っといて帰ろう”って、そいつら
置いてとっとと帰ろうとしたでしょ。そしたらその男が私らの事まで言い出して、
サナエがキレたじゃない?サナエが振り返って、そいつらに何かひとこと言った
ら、そいつらがいきなり逆上して追っかけてきたよね。」
私は斎藤の真意を図りかねた。「・・・よく覚えてるね。それが何?」
「あの時、サナエって何て言ったか覚えてる?」
あの時・・・サンドヒルの前を通り抜け、角の信号で立ち止まった彼女は振りか
えって・・・『○+*@A@☆!!』
「ああ、あれはー・・・意味のある言葉じゃなかったと思うよ。」
「えー、だって、意味のない言葉なんてある?」
そういえばあの時も、こんな会話をしてたっけ。しばらく追っかけられた後でゼ
ーハーしながら、斎藤は同じことをサナエ本人に聞いていたのだ。『今、何て言っ
たの?』『・・・何だっけ・・・忘れた。』『今言ったのに?』
「あの時斎藤はサナエの隣にいたでしょ?それで分からないんだから、あいつら
にも分からなかったんじゃないかなー。私も分かんなかった。」
「じゃあ、何であんなに突然、西高の子は怒ったんだろ?」
うーん。喧嘩自体、もともとそんなに意味のあることじゃないと思うし。
「知らないよ。・・・相手の気に障る事をしたほうが勝ちって、そーゆーノリじゃ
ないの?サナエも何も考えないで言ったんじゃないかな?」
「そーかなぁ。でも私は考えちゃうよ。」
「・・・・考え過ぎだよ、斎藤はー。で、それがギター辞めちゃった理由?」
「そう。」
斎藤の言うことは相変わらず難しい。

                             おわり




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