AWC ◇ある私立高校の男の子達<2>◇ らっこ


        
#1714/3137 空中分解2
★タイトル (YQA     )  92/ 5/18  15:44  (110)
◇ある私立高校の男の子達<2>◇         らっこ
★内容



<靖雄くん>

  俺ってとってもシャイな方なんだけど、こないだクラスの中の、俺のフ
ェイバリットな女の子に、話しかけたんだ。ミュージックの話をね。そし
たら彼女も僕と同じような趣味でさあ、結構トークアバウトしちゃったり
したんだよね。
  で、「じゃあレコード貸したげようか」って言ったら彼女、イエスって
さ。もう俺はハッピーでさあ。で、貸してからもう一週間たってたから、
そろそろ返して、って言ったんだ。貸した方から返してなんて言いづらか
ったけどさ、彼女と少しでもトーキングしたかったし。僕ってシャイなん
だ。
「あのさあ、こないだ貸したレコード、そろそろいい?」
「え?  何のレコード?」って彼女。もしかしたらわざととぼけてるのか
な。俺のこと好きでさ。好きってもまあライクくらいで。あは。
「だからあ、ペイルセインツのだよお」
「あ、ごめんごめん。ごめーん」彼女、一生懸命に僕を拝むんだ。
  だから俺はワンダーって「え?  何が?」
「あのね、あれね、言いづらいんだけどぉ。あれさぁ、斎藤くんに貸しち
ゃってさぁ」
「ってことは、又貸し?」俺は泣きそうになったよ。
「ううん、そういうことじゃないんだけどぉ」彼女、俺を拝みっぱなしな
んだ。
  わかったよエンジェル。俺はもういいのさ。斎藤かあ。あいつもペルセ
イ好きだったんだな。
  折角今日は彼女と喋れる、って思ってマウスウォッシュしてきたのに。
くちゅくちゅってさ。それにコロン全身にぶっかけてきたし。トランクス
も新しいのはいてきたんだよ。まあ、あんまり関係ないか。
  彼女になめられてる、って思ってたけどそんなことないじゃん。斎藤と
も仲良くしようっと。
  あっでもその前に、フケをなんとかしないとな。こんなんじゃメイビー、
彼女に嫌われちゃうから。今日帰りにシャンプー買って行こう。やっぱ石
鹸じゃ駄目だわ。

  それからしばらくして僕は、斎藤に「馬鹿」って言われて、目が覚めた
んだよ。そうか。今まで全然わからなかったよ。気付いてたやつなんてい
る?



<啓介くん>

  愛知から東京へサッカー留学してから二年。今は楽しい楽しい独り暮し。
最初は目指せ国立競技場、ってなもんで、張り切ってたんだけども。サッ
カー部なんてひどいよ。ちょっと何かあるとすぐ”説教”でさ。誰かが水
飲んだ、とか、学食出るとき頭下げなかった、とかでさ、部室でばんばん
殴る蹴るの暴行でさ。俺、昔っからニュースとかで「殴る蹴るの暴行をく
わえました」とかいうの、すっごい不思議だったんだよな。だって「つね
るかじるの暴行」だっていいんだもんな。でも先輩に教えられたよ。やっ
ぱり人間、つねったりかじったりするよりは、殴ったり蹴ったりなんだよ
な。
  だから”説教”が厭で一カ月でやめたよ、あんなとこ。ざまあみろ。別
にサッカーやってなくてもいんだよ。男同士で同じとこでシャワー浴びた
りしてさ。きたねえきたねえ。梅毒が、タイムリーな話題としてはエイズ
か、エイズがうつりそうだぜ。
  まず、独り暮し始めて俺がしたこと。それは裏ビデオの通信販売。笑っ
ちゃ駄目だぜ。でもまさか親と一緒に住んでて買えるやつなんていないだ
ろうな。でもなんてことはない、きっちりモザイク入ってやんの。くそっ
たれ。まあいいや。
  でも俺の家、みんなの喫煙室になっちゃってんのな。参っちゃうよ。そ
れと連れ込み旅館。エロビデオの視聴覚室。家出少年&泥酔者一時預かり
所。仮設スタジオ。もっとあるけど、そりゃもう滅茶苦茶ってやつなんだ。
  で、今は千春が遊びに来てるわけ、俺の家に。
「風呂、先いいよ」隣で横になっている千春に俺は言った。「でもさっき
まで掃除してたから、少し臭うかもね」
  俺はカビキラー、こういうのって言っていいんだよね、NHKじゃある
まいし。それとかで、風呂場の掃除をしてたんだ。千春が来るまで。
「えー、何それ?」
  何それってそのままだよ馬鹿。そう思ったけど言わなかった。「だから
さ、有毒ガスが発生してるかもよ」
「うわ、厭だなぁ。でも入っちゃうね」裸で千春は風呂場に行った。
「ぶったおれたら叫べよな」千春に声をかけた。
  有毒ガス、か。そんなもんでてるのかな、ホントに。俺はタバコを吸い
ながら考えた。だったら、もしかしたら千春は死ぬのかもな。
「ハハハ」俺は笑った。さっき飲んだ酒がきいていたのかもしれない。か
なり飲んだからな。千春が買ってきたワインと、家にあったビールとかを
ばんばんさ。だから、酔っていたんだよ。相当ね。
  そうか死ぬのか、千春は。良かった良かった。どうぞ死んでくれ。
  教室でもさ、奇麗な女の子と話していてイイ線いっても、「千春がいる
もんね」ですまされちまう。俺の青春はこの女で終るのか。千春で。最近
あんまり好きじゃなくなってたんだよね、千春。でも嫌いじゃないんだけ
ど。好きだけど、何か一緒にいても面白くない。俺のわがままだろうけど
さ。時々どうしようもなくさ、うざったくなることがあったんだ、千春に
対して。
  だから「別れよう」なんて言えない。絶対に。言えない。よな。
  したがって。死ぬんならここで死んでくれ。ここで……。ここで?
  ちょっと待てよ。厭だよそんなの。俺の家で人が死ぬだって?  冗談き
ついぜ。俺の家は千春の死に場所か。名古屋場所じゃなくて、死に場所か。
わけがわかんねえや。もしここで死なれたら幽霊として出てきたりすんじ
ゃねえだろうな。俺が他の女に乗っかってたら千春が来て、「赤いちゃん
ちゃんこ着せましょか」とか言われたら大変だ。厭だ絶対。
  俺は拝んだ。千春、ここで死ぬのはやめてくれ。ここだけは。死んでも
いいけど、いや是非死んでくれ。でもここではやめてくれ。頼む。一生の
お願いだ。プリーズ。プリーズプリーズミー。ああ、これじゃ意味が違う。
とにかく生きて出てきてくれ。神様、いるんだったら、いらっしゃるんで
したら、どうか千春をお助けください。どうか神様、ああ面倒くせえ。こ
ら神様……、こら神、助けろよ。頼む。頼んでやる。ええい畜生。
  千春はすぐ出てきた。「体流しただけだから、早いでしょ?」バスタオ
ル一枚体に巻き付けて。
  そして千春は俺の隣に寝ころんだ。「ねえ」
「アハハハ」俺は笑った。馬鹿らしい。そう簡単に人が死んでたまるか。
「千春、俺のこと好き?」
「え?  いきなり何言ってんの?」
「好きか、ってきいてんだよ。好き?」何か照れちゃったね、やっぱ。
「あっは。うん」千春は俺の右腕の、ダッコちゃんになった。
「そっか……。じゃあ俺も千春が好きだ」






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