AWC 十五年大陸(1) おうざき


        
#1715/3137 空中分解2
★タイトル (UCB     )  92/ 5/18  21:40  ( 98)
十五年大陸(1) おうざき
★内容
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*      一九九二年 コバルト短編小説新人賞応募落選作      *
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                十五年大陸

 私、ロッテ・フォイエルバッハは、可住惑星調査移民宇宙船「ボードレール」
の船内で生まれた。
 フランスの偉大な詩人の名前をつけられたこの巨大宇宙船が、いつ地球を離れ
たのか、実のところ、よく知らない。
 私の母が、ずっとずっと小さな子供だった頃、もしかしたら、それよりさらに
もっと前の事だったのかも。
 扱いは宇宙船でも、感覚としては、宇宙都市に推進装置をつけて移動できるよ
うにしたと考えていい。
 私はもう学校を卒業する年齢だけど、それでも船内の事を隅々まで知っている
訳じゃない。
 とにかく、広い。
 それに、何でもある。
 公園も、お店も、警察も。
 本も、クッキーも、鏡も。
 誰も、ここを宇宙船の船内だと考えていないんじゃないかと思うほど広い。
「ロッテ、おはよう。お出掛けかい?」
 同じ学年のハインリッヒ・ケンビスだ。
 でも、それほど仲がいい訳じゃないから、気安くファーストネームで呼ばない
でほしいな。
「おはよう。ちょっと、情報図書館にね」
 普段なにげなくしているいろんな挨拶は、地球の自然現象と関係があるのだと、
聞いた事がある。
「ああ、ロッテはまだ進路を決めてなかったんだね」
「あら、その言い方だと、あなたはもう決まっているのかしら」
 しまった、聞くんじゃなかった、と思ったけど、もう遅い。
「実は決まってないんだ。ちょうどいい、僕も一緒に行こうかな」
 やっぱり、こう来ると思った。
「ハインリッヒって知ってるでしょ。彼氏、ロッテにお熱みたいよ」
 情報通の女の子のあの言葉、本当だったんだな。
 好きだ、て告白された訳じゃないけど、ハインリッヒは最近よく話しかけてく
る。
 どうしようかな、うふふっ。
 一言二言、話をしているうちに、なんとなく私たちは肩を並べて歩いていた。
 そして、冗談を言っているんだと思っていたら、彼は本当に図書館について来
た。
「ねえロッテ、マリア・フォイエルバッハって人、聞き覚えはないかい」
 求人情報なんて見向きもせずに、他の情報をおもしろ半分に調べていたハイン
リッヒが、何かの記録に視線を落としながら、話しかけてきた。
 彼が手にしている記録には、私によく似た女の人の顔写真があった。
 私は首をふった。
「見覚えないわ」
「でも、ロッテに似てるね」
「ええ」
 彼は、私の顔と写真を、ちらりと身比べた。
「君に似て、美人だ」
 もう、ハインリッヒったら!
 私は、記録をのぞきこんだ。
 そして、驚いた。
 この人は、父の妹、つまり私の伯母だという内容が書いてあるのだ。
「全然知らなかったわ」
「ずっと昔、行方不明になってるみたいだ」
 本当だ。「調査中行方不明」になってる。
 調査って何?
「私、これのもっと詳しい資料を見たい。機械検索してくれない? ね、お願い
ハインリッヒ」
 きゃっ、ハインリッヒをファーストネームで呼んじゃった。
 って、そんな、はしゃいでる場合じゃないか。
 コンピューターを使う機械検索は、最も詳しい情報をスピーディーに、また必
要なら、映像や音響メディアによって知る事ができる方法だけど、操作には免許
がいる。
 情報処理科クラスのハインリッヒは、その免許を持っているのだ。
 彼氏にしとくと、何かと便利かも。
 ああ、こんな事考えてる場合じゃないのに、私ったら。
 機械を操作していた彼が、指を止めた。
「この情報は機密事項です、あなたのお名前をどうぞ、だってさ」
「いいわ、私の名前を入れて」
「綴りは?」
 私の名前で、親族である事を確認した機械は、情報を画面に表示しはじめた。
 そして、マリア・フォイエルバッハに関するあらゆる情報を次々につなぎ合わ
せていった結果、私たち二人は、遠い昔に起こった、一つの悲しい物語に直面し
たのだった。
         *
「ナンバーファイブより通信報告。『バビロン』に知的生命体反応は認められ
ず。画像観測による惑星表面は、薄い緑色の斑点を多数認めるも、塩素と硫黄の
混合体からなる高圧のガスに覆われ、惑星内部の探索は不可能」
 これが、ボードレールに送られた、第一報だった。
 ボードレールは、限度を知らない科学技術と膨らみつづける人口に背中を押さ
れ、可住惑星を求めて終わりのない旅を続けていた。
 幾度目かの探査で、船はこの巨大な惑星にめぐりあった。
 ボードレールの指導者たちは、この惑星に「バビロン」のコードネームを与え、
人々が住む事ができるかどうかの調査を開始する事を決定した。
 いくつかの事前調査の後、ボードレールはバビロンの衛星軌道に乗り入れ、そ
こから有人調査艇が次々と降下していった。
 アルベルト・シュリーマンは、調査艇「ナンバースリー」の操縦席から外を眺
め、驚嘆してつぶやいた。
「なんて馬鹿でかい星だ。直径だけでも木星ほどはあるんじゃないか、マリア」
 声をかけられて、機械を操作していたマリア・フォイエルバッハは、顔をあげ
てそれに応えた。
「もし移住可能となれば、人類は四番目の新大陸を手に入れる事になるわね」
「そうだな。ボードレールにとっては、地球を出発して以来の快挙という訳だ」
 アルベルトは、マリアを押しやるように彼女の席の方に体を伸ばし、モニター
テレビを覗きこんだ。




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