AWC ◇ある私立高校の男の子達<1>◇ らっこ


        
#1713/3137 空中分解2
★タイトル (YQA     )  92/ 5/18  15:38  (142)
◇ある私立高校の男の子達<1>◇         らっこ
★内容


<賢司くん>

  僕はこういうのも何ですが、学校の成績はいい方です。そして今、僕が
注目を浴びる、期末テストの真っ最中なんです。
  一時限のグラマーの試験が終りました。早速僕の元に馬鹿どもが集まっ
てくる頃です。ほらほら、来ました。今回は女の子が先でした。いつもは
頭にフケをふりかけてるやつなんですけど。てめえよるなフケがうつるだ
ろ、みたいな。
「ねえ、賢司くん。どうだった、今の試験?」
「えー。まあ、難しかったよねー」
「でしょー?  ね、言ったでしょ?」彼女は途中から彼女の友達に言いま
した。「賢司くんでも難しかったんだもん。あたし達に簡単なわけないじ
ゃん」
  すると友達が言いました。「そうだよね?  良かった良かった」
  それから彼女達は「行こう」とか言ってどっかに消えました。僕も、良
かった。
  どうやら彼女達には、僕って男は単に試験のものさしのようです。
  さて、低能野郎はどうでしょうか?  やってきました。フケ野郎が。
「おい賢司。どうだったよ、今の?」
「え?  あれなぁ。卑怯だよ、グラマーの近藤のやつ。だって『出る』っ
て言っといて全然出ねえんだもんな。あんなの出来ねえよ」
「だろ?  近藤ってむかつくよな。でも良かったよ。賢司も出来ないでさ」
  それから彼は「今度こそは賢司に勝てたか。やったぜ」みたいな顔をし
て行きました。
  このクラスのやつら、みんな馬鹿なんです。フケ野郎だけじゃないんで
す。僕に勝てたかどうか、そんなことが何になるんでしょうか?  そんな
こと気にしてるんなら、次の試験のために教科書でも読んでればいいのに。
  はっきり言って、今回の試験は簡単でした。このグラマーは僕、八十五
点はとれてるでしょう。答案が返ってくるのが楽しみです。楽しみで仕方
がありません。だってその時、僕はこのクラスの馬鹿どもに憎まれるでし
ょうからね。
「何が難しかっただ、この馬鹿。八十五点もとりやがってよ。この大嘘つ
きのくそ野郎」ってみんなに思われるんです、僕は。最高の気分ですね。
  僕は思わずにやっとしてしまうんでした。



<秀一くん>

「ったくよお」体育館のトイレで、俺はつぶやいた。
「おい、キャビンくれよ」古谷が橋本に言った。
「はいよ。で、何がたくよおなんだよ?  秀一」橋本はキャビンを古谷に
差し出しながら、俺に言った。
「何がって橋本。柳田だよ柳田。俺が廊下にガム吐き捨てたら、いきなり
ビンタ食らわしやがってよお。やりかえそうと思ったぜ」
  やりかえせるわけないけどさ。柳田ってのは柔道の先生で、体がでかく
って、見るからに強そうで、実際強いんだけど。
「ガムってお前、もしかして駄菓子屋の当りクジつきのじゃねえだろうな
ぁ?  それもストロベリー味の?  それで『残念でした』とかいってアカ
ンベーされたんだろ?」って橋本。俺達は爆笑した。
「ところで今何時?」古谷が言った。
「馬鹿。そういう時は『ほったいもいじんな』だろ?  近藤に習わなかっ
たのか?」俺は笑いながらそう言って、時計を見た。「あと五分で五時間
目始まる」
「じゃあこれで最後にすっかぁ」橋本はタバコを深く吸い込んだ。
  ガチャッ。誰かがトイレに入ってきた。こんなとこのトイレ使うやつな
んて俺達と同じ目的のやつらか、先生の見回りか、だからさ。焦ったよ。
  みんな慌てて手をばたばたさせて、煙を消そうとした。
「おい、お前ら出てこい。お前らが出てこなくてももう煙が出てるぞ」
  柳田の声。もう最悪。
「どうする?」俺は言った。
「出るしかねえな。停学だもお。くそったれ」橋本が唾を吐いた。
  そして、三人でひょこひょこ出ていった。
  俺は言った。「はい、カルガモ親子でーす。みんな、お母さんにちゃん
とついて来るんですよ」俺達は口をそろえてぴよぴよ言った。
「ふざけんな馬鹿」柳田は言った。「ああヤニくせえ。お前ら一年五組だ
な?」
「いえっさー。ばれちゃいましたぁ?」橋本は言った。
「俺ら、停学っすかぁ?」って古谷。
「退学でもいいんだぞ」柳田は言った。「ほら来い。前から目つけてたん
だよな、お前らにはよ」
  きったねえな。いいじゃん別に。悪いこととしたら怒られることの区別
くらいわかってるよ。そう言おうとしたけどやめた。「でも何でわかった
んですか?」俺は言った。
「どうせ誰かがちくったんだろ」橋本は壁を軽く殴った。
「そうだ。よくできたな、お前らにしちゃ」柳田が言った。
「ひゃっほー」俺達はそろって飛び上がった。「先生、通知表は5だね?
やったやった」
  柳田は呆れてた。にやっとしやがってさ。でも真顔になって「そうだ忘
れてた」柳田は手を出して「ほら。タバコ出せ」
  橋本はふざけた。よくふざける男なんだ。「知りませんよ。タバコなん
て」
  俺も続いた。「タバコなんて吸ってませんよ。ガムですガム。駄菓子屋
の当りクジつきの。それでもってストロベリー味の」
  俺達は爆笑した。
  俺は調子に乗って続けた。「そしたら先生きいてよ。『残念でした』っ
てアカンベーされちゃってさ」
  すばやく柳田が手をあげた。バシッバシッバシ。

  それで結局、俺達は二週間の停学か、頭を丸坊主にするかのどっちかを
選ぶことになったんだけど、停学にしたよ。丸坊主はさすがに、厭だから
ね。



<孝之くん>

  僕は明子と喫茶店にいた。
「ねえ?  高校卒業したらさ、アメリカ行かない?」
「一緒にぃ?」明子は言った。
「そう。一緒にさ」僕は微笑んだ。
  明子はアイスコーヒーの氷をストローでいじりながら「どうして、いき
なり?  何かあったの?」
「いや別にないけどさ。明子も僕も大学落ちたじゃん。浪人なんて厭でし
ょ?」
「あれどうして?」明子は氷から顔をあげた。「何度も言ったとおり、あ
たしは浪人するよ。それで大学行くの」
  今度は僕が氷をいじりはじめた。でも勇気を出して言い始めたんだ。最
後まで言わないと。
「でもさ、何も大学は日本だけじゃないよ」
「じゃあ孝之、英語できんの?」
  僕は困った。それが全然出来ないんだ。追試受けてやっと卒業が決まっ
たほどに。
「でもさでもさ、アメリカ行けば何とかなるんじゃん?  英語なんて出来
なくてもさ。日本にいる外国人なんてほとんど日本語できないじゃん」
「アメリカ行けば何とかなるぅ?」明子は一瞬ブスになった。
「なるよなるよ。僕ら、夢を捜しに行くんだ。素敵じゃないか」
「あほくさ」明子は僕を睨んだ。そう感じた。
「アメリカ行けば何とかなるなんてね、あたし達の親の時代よ。孝之、生
まれてくる時代間違ったんじゃないの?」
「え……?」
「今ね、日本ほどに自由な国はないの。どうせ孝之、日本が厭になったん
でしょ?  大学落ちたから。日本でうまくやれないのが外国行ったって同
じだってば」
「そ、そうかな……」僕は敗北った。完璧に。だって図星すぎたんだもん。
  明子は伝票を掴んで立ち上がった。「アメリカよりいいとこあるよ」
「え?  どこ?」そう言いながら、僕は厭な感じがした。
  明子は微笑んで「ホテル!」
  うえー。僕は泣きそうになった。財布に結構お金入れて来ちゃったしな。
もう、最近こんなのばっか。
  僕って情けない男だよね。僕、学校とかコンパじゃ結構もてる方なんだ
けど、かっこよくてもててるんじゃなくて、従順だからもててるんだな。
それに貧乏じゃないし。でもこんな僕にも夢があってね、それはアメリカ
に行かなくてもかなう夢なんだ。それは、ベッドでタバコを吸いながら、
「お前、いつまでたっても下手だな」とか言うことなんだけど。ちょっと
控え目になっても、「お前にはもう飽きた」とかくらいは言いたいな。
  でも結局何も言えずに、休憩でン千円払ってさ。まあそれもいいか。何
かいいことも、あるだろうしね。






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