AWC Rock'n Roll Cinderella (13)Farlia


        
#1562/3137 空中分解2
★タイトル (GCG     )  92/ 3/31  14:18  (163)
Rock'n Roll Cinderella (13)Farlia
★内容
               * * *
 一足先に『****ホテル』に着いていた凛は、自室で自分の親である会
長と睨み合っていた。
 容姿からは想像もできないような形相で睨む姿は、ヤクザのトップで通っ
ていた父親でさえ怯むものがあった。
 もちろんそれだけでは、この男を根本から恐れさせることは出来ない。そ
う、凛の手には父親の銃であるM92Fが握られていた。
 「父さん。僕の言いたいことは分かっていると思うけど……」
 銃口を向けたまま、静かな口調で話し始めた。
 「お前が望んだ事だから、私が何とかしてやろうというのに」
 優しく、それこそ諭すように話す口調からは、とても悪人には見えなかっ
た。
 「それは違うよ、父さん。僕はこんなことを望んじゃいないんだ」
 「お前はあの娘と結婚がしたいのだろう?年なんか気にすることはない、
ここでは私が法律なのだから」
 「……人にはそれぞれ想いがあるから、だから………だから、それは決し
て他人が入ってきちゃいけない事なんだ、きっと。だって、それは自分自身
の問題だから……」
 自分に言い聞かせるようにして一言一言話す凛を見て、根っからのヤクザ
であるこの男が優しい笑みを浮かべている。
 「余計な……お世話だったかな、凛?」
 父親としての顔が、凛に向けられていた。
 「母さんを直ぐに亡くしてから男手一つで育てた割に、立派になって……
今日は何か見違えたようだな、凛。何しろこんなヤクザな稼業だから、せめ
て父親らしい何かをしてやろうと思い立ってな。まぁ、余計なお世話になっ
てしまったがな」
 「父さん、じゃあ?」
 凛の顔が、眩しいほどに輝く。
 「凛がそう言うなら、仕方があるまい……ただ最後に一つ、折角だから試
してみるのも良いだろう?」
 「試す?何を」
 「あの神崎と言う男だ。あの娘に相応しいかどうか…な。それくらいなら
良いだろう?」
 「そうだね。僕は舞さんが選んだ人だから、きっと乗り越えてくると思う
けどな」
 手に握っていた銃を下ろし笑う顔は、いつもの凛の顔だった。
 コンコン。ドアをノックする音が聞こえる。
 「誰だ?」
 「会長、連れてきました」
 ドアの外から、図太い男の声が聞こえてくる。
 「どうやら着いたようだな、凛。本当にこれで良かったのか?」
 凛の頭に手を置いて、笑い掛ける顔は『聞くまでも無かったが』と言う顔
をしている。
 「もちろん」
 それに応える凛の顔も、生き生きしていた。
               * * *
 「入ってもらいなさい」
 あたしは『****ホテル』の中の一室の前で、男達にか込まれて立って
いた。さっきノックしていたドアから、聞き覚えのある返事が返ってくる。
 会長の声だった。
 男の一人がドアを開け「姉さん。さぁどうぞ」と、不愛想な口調で部屋へ
入るのを促している。
 促すとは言葉だけで、実際には強制的とも言えるようにして部屋に入った。
 「いらっしゃい。舞さん」
 が、意外にも向かえてくれたのは凛君。最後にあったときの表情とはかな
り違うように見える。何か嬉しい事でもあったみたい。
 凛君の向こうには、諸悪の根源の会長が立ってこちらを伺っている。
 「そして、さようなら」
 「えっ?」
 ”さようなら……って?凛君、何言ってるのかしら?”
 「終わったんだよ、全部。否、後一つ残っているがな」
 会長が笑みを浮かべながら、語る口調で話している。信じられない光景だ
った。
 「早く帰ってあげてよ、舞さん。神崎さんの所へ……それと、プレゼント
があるんだ、受け取ってくれる?」
 「帰れって……何がなんだか……」
 「それより、受け取ってくれるの?」
 会長の言葉に半ば呆然としているあたしに、凛君の急かすような声が響い
て来る。
 「何…プレゼントしてくれるの?」
 「ウェディング・ドレス、なんだけど。もう使う事もないし、良かったら
使ってください」
 部屋の奥に掛けてある純白のウェディング・ドレスが目に入る。
 「あれを、あたしに?」
 「うん。それと……これも」
 凛君の手に握られていたのは、指輪だった。見た目にも、とんでもない金
額のする指輪である事は理解できる。
 あたしは考えた末、受け取る事はできないと返事を返していた。
 「これは将来凛君の花嫁さんになる人に、プレゼントしてあげて」
 「こら、少しは凛の言う事も聞いてやらんか」
 父親として口出しをする会長の姿を見て、あたしは苦笑していた。
 「せめて……そうだな、ウェディング・ドレスくらい貰って行け……」
 ポン。掌に握り拳を当てて、良い案でも浮かんだかのようなポーズを作る
会長。
 「せっかくだ、着て見せてくれ。なぁ、凛」
 凛も頷いて、親子揃っての願いにあたしは折れた。
 あたしはウェディング・ドレスに近寄って手に取ると、男二人を外に出し
て着替えてみた。
 「へ−。割に似合っていたりして?」
 自分で言っていて、少し恥ずかしかった。
似合うか似合わないかは、そのうち世間様が判断してくださるに違いない。
 が、追い出した二人の反応を見て、自分もそれなりかなーと思ったりする。
 「綺麗だね、舞さん」
 「ありがと」
 凛君がお世辞を言うようなタイプではない事は承知していたけど、そのま
ま認めて貰うのも何となく照れるので、一言だけ付け加えた。
 「お世辞でも、嬉しいよ」
 「お世辞だなんて、とんでもない。ね、父さん」
 ジーっと見つめて、まるであたしを鑑定するかのような表情を浮かべてい
た会長は、一言、
 「ああ。見事な着こなし、たいしたもんだな」
 着こなしって……着物じゃないんだけどなぁ。あたしは心の中で苦笑い。
 「じゃあ……あたし、そろそろ行くね」
 いつまでも和んでいると帰る機会を失いそうだったので、些か唐突かもし
れなかったが、あたしはそう切り出した。
 「……舞さん、お元気で」
 凛は少し寂しそうな顔をしたが、すぐに元の笑顔に戻っていた。
 「早く、素敵な彼女見付けなよ〜〜」
 ドレスの裾を捲し上げ、走り去るようにあたしは部屋を飛び出していた。
               * * *
 「帰るの大変だわ………」
 『****ホテル』を出たのはいいけれど足が無いので、あたしはウェデ
ィング・ドレスのままテクテクと歩いていた。
 夜道なのでウェディング・ドレスもさほど目立たない。もっとも人通りな
どないにも等しいので関係ないという話しもある。
 「ヒッチハイクでもしようかなぁ」
 辺りを見渡すが、ぜ〜〜んぜん車が通ってこない。やっぱり他力本願は良
くないと考え始めた頃、後方からあたしの決意を挫かせるような車の爆音と
ヘッドライトの光。
 振り返った頃には、既にあたしの横に着けていた。
 「姉さん」
 顔を出したのは、何と悠也。
 まるで計ったようなタイミングの良さに、呆れながらも内心は大いに喜ん
でいた。
 「グッド・タイミング!悠也君。良かったら乗っけてってよ」
 「もちろんです。そのために来たんですから」
 車の中は、悠也一人のようだ。おっかないお兄さん連中が同乗していなか
ったのは、解放されたと言う証しでもあるわけなんだ。
 助手席を開けてもらって車中に入ろうとするのだが、ウェディング・ドレ
スが邪魔になって入れそうもなかったので後部座席をぶんどることになった。
 「これから神崎さんのとこ行くんでしょう?」
 「う〜ん。そのつもりなんだけど……やっぱ、怒ってるよねぇ?」
 「気にすることはないっすよ。言って聞かない野郎なら、殴り飛ばしてや
ればいいんです」
 「でもそれって、ふつう男の人がよくやる手よねぇ」
 「最近は女性に主導権があるんですよ」
 悠也は人差し指を左右に軽く振りながら、笑っている。
 ”ふむ……。そう言えば、そうかな???”
 たしかに最近の女性は物凄く強い。あらゆる面においてだ。
 ”あっ。仕事を一つ、忘れてた”
 ふっと、肝心な事を思い出した。
 「ねぇ悠也君。行きの時、神崎さんと一悶着あった場所覚えてる?」
 あたしは指輪の事を思い出していた。
 「はい、あの橋の上でしょう?」
 「あたしを、そこで降ろしてくれない?」
 「いいですけど……何かあるんですか?」
 「うん、ちょっと用事が……ね」
 ”ちょっと…どころじゃない、大事な物があそこにはあるから……絶対見
付けてみせる”
 『……こんなちっぽけな指輪なんて、必要ないわけだ……』
 悠也の声が耳の奥で燻り、同時に指輪が舞うシーンが目に浮かんでくる。
妙にリアリティに溢れ、時を遡り同じ場面にいる錯覚を起こすほどだ。
 過ぎてしまった時は取り戻す事は出来ないけれど、叶うなら戻りたいと
 ”止めようと思えば止められた……?”
瞬を止める事の出来なかった自分に対して、情け無くて悔しくて………気が
付くと、頬には温かなものが流れていた。
 手で頬を拭ってみる。涙は拭っても拭っても流れ続けて止まらなかった。
そのうち拭うのも止めて、流れるままにしておくことにした。
 たまに泣くのも、いいものだから。
 「そろそろですよ、姉さん」
 あたしに気遣うかの様な悠也の声。
 声を上げて泣いていた訳じゃないけど、聞こえないほどの小さい嗚咽と
雰囲気で分かったのかもしれない。




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