#1563/3137 空中分解2
★タイトル (GCG ) 92/ 3/31 14:21 (178)
Rock'n Roll Cinderella (14)Farlia
★内容
「ありがとう…」
そう言った次の瞬間には、あの橋の上に車は止まっていた。
ゆっくりとした動作で車から降り、外で「んっ」と伸びをする。
「で、ここで何かあるんですか?」
悠也は運転席から窓を開け、顔を出して尋ねる。
「ちょっと……ね」
「待ってますよ」
そう悠也は言ってくれたが、あたしは首を軽く左右に振ってみせる。
いつまで待つことになるか……分からないのに、待たせる事は出来なかっ
た。
「そうですか……じゃあ俺はこのへんで」
多少不服そうな顔をするが、あたしが譲りそうもないのを感じたらしく挨
拶をして車を出した。
車が視界から消えるまで見送ると、あたしは思い起こしていた。ここでの
出来事を。
「たしか……ここらへんだったかな?」
自分の立っていた位置を確認するように、キョロキョロしながら辺りを見
渡す。暗くなってしまったので、位置関係を正確には思い起こせないでいた。
「そして、ここらへんと」
今度は瞬の立っていた所。
そこで適当な小石を見繕って、同じ投げ方をしてみる。
ポチャ。投げた小石の軌道を追い掛けながら小川を見て、およその位置を
確認する。
”あそこらへんかな?”
あたしは目星を付けて、小川を見てみた。
月の光と街灯で小川の様子が良く見える。流れも緩やかで浅いようだ。
それにこの高さなら……あたしは橋の手摺に手を掛けて、勢いよく飛び下
りた……までは良かったが、ウェディング・ドレスのおかげで足が縺れ、結
局お尻から落ちてしまうのだった。
盛大に水飛沫が飛び散り、あたしは頭の上から足の先までびしょ濡れ。
「うぇ〜ん。せっかくのドレスがぁぁ」
まもなく十一月、流石に水遊びをする季節ではなく、ただ冷たかった。
ブルブルっと震えながら立ち上がり、髪を掻き揚げてギュっと絞る。
どれどれ……試しに底から手掴みで持ち上げて見る。手に取れた物は、砂
利と小石ばかりで目的のものとは程遠い。
「これは、苦労しそう……ね」
あたしは手当たり次第に探し始めた。
* * *
部屋に入るなり、俺はヘルメットを投げ付けベットに寝転がった。
かなり頭にきている事は、自分でも自覚はしているのだが制御する術を俺
は心得ていなかった。自制心を使いこなすには、弱冠二十歳の若造には無理
があるようで、取り敢えず物にあたるしかなかったのだ。
だからといって所構わず破壊し尽くすような暴挙は、自分自身のみを破滅
させる事くらいは考える事が出来たので、影響のない最低限度の破壊に止め
ておいた。
そういえば帰り道、世界中で俺より不幸な人間はいないと錯覚して、幸福
な人間総てに対し石をぶつけてやろうと本気で考えていたっけな。行動には
出さなかったが、道行く人々は敏感に感じ取っていたらしく、視線を俺から
反らして逃げるように足速に立ち去っていたことを思いだした。
「あれじゃ、俺もヤクザと大差ないって……」
苦笑いを浮かべながら、その時の光景が目に浮かんだ。
「あ〜〜あ」
ベットに寝ていたとしても、このやり場のない怒りを抑えることなど出来
はしないことは百も承知していた。
あの後、居酒屋でドロドロになるまで酔い潰れてみるのも、また良かった
のかもしれなかったが、酒なんかでは一時的に気分が楽になるだけで、その
後が始末に負えなかったし、第一見場が悪い。そんな訳で、俺は唯一落ち着
ける自分のマンションに戻ってきたのだ。
が、落ち着けるはずの部屋も、ごみ箱のような状態では落ち着けるどころ
か、その逆ったようで………それでもベットの上だけは、寛げるだけのスペ
−スが残っていた。
頭を抱え体を横にしながら、俺はベットに埋もれるように身を預けた。
ベットには微かに甘い香りが残っている。舞が残していったものに違いな
い。
そもそもこんな事になったのも、諸悪の根源たる舞のせいである……いや、
その依頼を引き受けた俺にも、ほんのすこ〜しばかり悪かったのかもしれな
い……いやいや、俺は正義感の強い人間だから、
放っておけなかった……いやいやいや、あの時俺は騙されていたんだっけ…。
「結局、振り回されただけだ……あ〜〜情けな」
頭に巻かれた包帯が、情け無さを更に引き立てているようだ。
手で後頭部を触ると、まだかなり痛む。医者に傷の度合いを聞く前に飛び
出したので状態は分からなかったが、そこそこの重傷なはずだ。本人が言う
のだから間違いない。
「報酬も貰えず、頂いたのはこの傷だけか」
最低だな……俺は悪態をついていた。
もちろん自分自身にでもあり、『竜人会』の連中であり、舞にでもある。
もう関係ない事だ……気にしても仕方ね〜〜し……大体善良な俺が、やく
ざ絡みのゴタゴタに巻き込まれる事事態が、何かの間違いだったのだ。
うんうんと、首を立てに振りながら一人納得していると、何となく気分が
晴れて行くようだ。
やはりここは切り替えが必要なのだろうか?
スッパリと今までの出来事は忘れてしまって、これからまた地道な生活に
勤しむ事が最良のほう方なのだろうか?
”何となく、心の底にわだかまりが残るようで……スッキリしないな……”
体をグルっと回し、俯せて枕に頭を埋める。
”向かえに行ってやればスッキリするって”
頭に俺の声音で語りかける声が聞こえる。
「だから向かえに行ったじゃないか。しっぺ返しを食らったけど」
誰もいない部屋の中で、大きな声を張り上げて『声』に応える。
”けど、それが舞の本心だと今でも思ってるのかい?”
さらに問い掛けて来る。
「本人が望んでるんだから仕方がね〜だろ」
”そうそう、さんざん騙されて、挙げ句の果てに指輪まで買わされて、し
かも捨てて来たんだからなぁ”
声音が同じだが、先程の『声』とは違い少し捻くれているような『声』。
いわゆる『良い瞬、悪い瞬』の登場ってやつだ。
埋めた頭を上げ声のする方へ目を動かすと、目の前で俺と同じ顔をした体
長五センチくらいのやつが、二人浮かんでいる。それぞれ白と黒の服を着て
いて、どうやら白が『良い瞬』黒が『悪い瞬』らしい。
”向かえに行ったほうが良い。舞さんも本心ではそれを待っているんだよ”
良い瞬が俺に語りかける。
「そうだよなぁ、あれはきっと何かの間違いに決まってる……」
俺は『良い瞬』の方へ傾く。
”そうかねぇ、また手酷い仕打ちが待ってるのかも知れないぜ”
『悪い瞬』がボソッと一言。
「そうそう、また殴られたら叶わないし……」
うんうんと、俺は頷きながら悪い瞬の方へ傾いて行く。
”君はあの娘を、ヤクザなんかにくれてやるつもりなのかい?もちろん、
放っておくなんて事は、君の良心が咎めてできないはずだと思っているが”
”いや、彼女はヤクザに捕まって幸せそうに見えたがね”
”そんな事はない。舞さんは優しい人だよ”
”そうかねぇ。人をさんざん騙した女を信じるって方が間違ってるんじゃ
ねーの?」
俺をそっちのけで、争いが独り立ちし始めた。
”君は黙っていたまえ”
良い瞬が悪い瞬に抗議している。既に第三者と成り下がった俺は、その光
景を特等席で眺めていた。
”そういうおめーこそ、引っ込んでいな”
『悪い瞬』が『良い瞬』の胸を、ドンと叩く。
”暴力で人を手懐けようとは……、暴力もまた一つの手段ですか?”
”そうとも”
両手を腰に当てて、当然の勝利と言わんばかりのポ−ズを決める。
”そうですか……言って分からない人には鉄拳制裁”
『良い瞬』の拳が、『悪い瞬』の腹に食い込む。更に右に左に顔面に入り、
ぼろ雑巾のようになってしまった『悪い瞬』は、白いハンカチを懐から出し
て降参の表明。
『良い瞬』がこんな事をしても良いのかと半ば呆然としながら眺めつつも、
予定通りの展開に俺は満足していた。
”そもそも、あなたがしっかりしないのが一番悪いんです”
俺に振返りそう言うと、『良い瞬』はふっと消え失せる。
「そう簡単に言ってくれるが、迎えに行くったって場所がわかんね…ん?」
俺は思い出したように、胸ポケットに手を入れてみる。ポケットの中には
一枚の紙切れが入っていた。
俺は四つ折りにされていた紙切れを取りだし、開いて読んでみた。
「なるほど……さっきのは『****ホテル』に向かう最中だったって訳
か」
式場の欄に書いてあったホテル名を見付け、頭に叩き込む。
続いて日付と時間だ。
「どうやら聞いてた通り、二十七日の十二時に間違いないようだな……」
間違いはない、確かに……どうする?向かえに行くのか?答えは決まって
いたが、今更ながら決心が付きにくい。もし『悪い瞬』の言ってた通り、あ
れが舞の幸せだとしたら………。その想いが決心を鈍らせていた。
ピンポーン。呼び鈴で俺の思考はとぎれる。俺は上体を起こし、軽く伸び
をする。
「優柔不断らしい…な。また怒られる『しっかりしないのが一番悪い』っ
て」
苦笑いしながらベットを後にして、玄関へと向かう。
「ど〜ぞぉ」
ドアを開けて入ってきたのは、少し気弱そうな青年だった。人畜無害そう
な青年、実は悠也だったりするのだが、瞬は気が付かないでいた。まぁ、悠
也は運転席にいたので、渦中の人である瞬が気が付かないのも仕方がない。
「あのぉ、神崎 瞬さんの部屋でしょうか?」
いかにも弱々そうな声で尋ねて来る。
押し売りかな?それにしては、押しが弱いし……。、
「確かにそうだけど……ドアにも書いてなかった?」
答えを返しながら、俺は品定めするかのように青年を見た。
「えっ、そうでした?」
「そうです」
「あのですね、俺…いや私はこういう者ですが、知ってらっしゃると思い
ますが……」
財布を取り出し名刺を渡された俺は、それにさっと目を通してみた。
「えっと、『竜人会』組員…………悠也さんですか……へ?」
一歩二歩と後退し、引きつった顔で悠也を睨む。
「なっ、何で……俺に何か用でもあるのか?まさか盗聴器で俺の独り言を
盗み聞きして、さっそく妨害に来やがったのか?」
今一番招いてはいけない客を、部屋に入れてしまった。せめて確認してか
らにすれば良かったのに、俺はなんて馬鹿なんだぁぁ。
確認したところで、普通は本当の事は言わないだろうが……
「そんな事はしてません、実は……」
「分かった。後腐れのないように、俺を殺すつもりなんだろう。ちっくし
ょーー殺される前に殺してやらぁ〜。今、包丁持ってくるから、待ってろ!」
持ってくる物を言ってしまっては、仕方がない。包丁片手に舞い上がって
戻ってきたのは良いが、そのときには悠也の手に拳銃が握られていた。
「あの〜。少しおとなしくして頂けますか?」
「もっもちろんです、ははははっ」
包丁をゆっくりと床に置いて、万歳をする。
「ここじゃなんですので、部屋に入ってでも……」
意味深な悠也の言葉に、俺は戦慄した。