AWC Rock'n Roll Cinderella (12)Farlia


        
#1561/3137 空中分解2
★タイトル (GCG     )  92/ 3/31  14:16  (168)
Rock'n Roll Cinderella (12)Farlia
★内容
               * * *
 俺は市街地を爆走していた。
 こんな速度で市街地を走るのは、暴走族くらいだろう。暴走族が嫌いな俺
が、こんなことをしては笑われてしまうが一刻を争っていたのでたいして気
にならなかった。
 フッと、俺の視界の中に先程舞と一悶着あった装飾品店が目に入ってくる。
 俺はウィンカーを出してバイクを停車させると、ヘルメットを縫いで店の
中へ入ってみることにした。
 買う物は決まっていた。店員を呼び付けると、俺は一つのダイヤを指差し
て、
 「これ……下さい」
 俺は財布を除いて、現金がどれくらい入っているか確認してみた。どちら
にしても、ローンになることは変わらないけど、多少頭金として入れておい
たほうが賢明と言うものだろう。
 他人の財布で頭金を払うと言うのも妙な気分もするが……
 財布の中には、一万円が十枚ほど……全部というわけにはいかなかったの
で、取り敢えず五万円ほど入れておくことにして、差額の四十万は分割して
おくことにした。
 それからが長かった。手続きやら何やら、俺は時間がねーんだよって何度
心の中で叫んだことか。
 長かった拘束に絶え切れなくなって俺は、指輪だけを取って左手の薬指に
はめると、鑑定書やら色々な付属品には目もくれずに、さっさと逃げ出して
しまった。
 まぁ、住所も書いたしローンの手続きも済んだ事だし……構わないよな…
 勝手に納得して、俺は再びバイクで『竜人会』の本部事務所へと急いだ。
               * * *
 そもそも人と人が出会うと言う事は、確率で表せるはずはない。何分の一
・何百分の一・何万分の一の確率で人は出会うのかもしれなかったが、俺は
やはりそんなもので決められるとは思っていない。
 ちょっとした偶然で、あるいはきっかけで……というのが俺の考えだ。
 少しばかりカッコつけた言い方をすると『運命』なんて言葉も出てきたり、
これが男と女だと『赤い糸』だったりするわけだ。
 そして俺と舞とが再び出会うというのも、偶然だったのかもしれない。
 一瞬……ほんの一瞬だけ時が止まった。
 市街地を疾走する俺の視界に、一台の車が目に入ってきた。交通量の多い
街なかにあって、その車だけが視界に入ったというのもやはり偶然だった。
 車と擦れ違う瞬間、俺は目が合った。
 ”まっ舞ちゃ……ん?”
 擦れ違ったのは一瞬だが、それでもしっかり目に焼き付ける事ができた。
 不貞腐れた顔をこちらに向けていたが……気が付いた?
 一瞬の出来事で、サイドミラーに映っていた舞を乗せた車との距離があっ
というまについてしまっていた。
 俺は強引にバイクを転回させると、クラクションや罵声をよそに車を追い
掛け始めた。
               * * *
 車に追い付いたのは、街からかなり離れた橋の上だった。
 互いにかなりの速度で走っていたために、追い付いた頃には人通りもない
ような橋の上だったというわけだ。
 橋といっても小さな橋で、小川の上にちょこんと架かる程度の代物で、さ
ほど重要な役目も果たしていないらしく、人が通る気配すら感じられない。
 この川を眺めるだけに、この橋が存在するのではないだろうかと思わせる
くらいだ。それくらいこの橋の下に流れる小川は、澄んでいてとても綺麗だ
った とにかく車に追い付いた俺は、そのまま抜き去り通り抜けなくするよ
うに車体を横にして停止させた。
 車間距離が余り無かったために、路面とタイヤの摩擦音と共に車は急制動
をかけて停止する。
 幸い交通量が極端に少ないためか、路上の真ん中で停止している分にもま
ったくといって良いほど影響がない。もっとも、それが裏目にでないともい
えなかった。なんたって相手はヤクザ、いくらでも卑怯な手を使ってくるに
違いなかったからだ。
 俺はバイクから降りるとゆっくりとした動作でヘルメットを脱いで、車か
ら出てくる男達と対峙していた。
 車から出てきた男は二人。車の中に残ったのは運転手である悠也と、後部
座席に男が一人と舞だけである。
 分が悪いなんてものじゃない。最初っから勝ち目なんて無かったのかもし
れなかったが、とっさに出た行動がこれだったのだから仕方がない。
 「悪いが、その車の中にいる娘を放して貰おうか」
 話す声がやや震えているが、ヤクザ屋さん相手に一般人が立ち向かってい
るのだから仕方がない。
 ヤクザ屋さんは無言で何も応えず、その代わりに両方の指をバキバキ鳴ら
しながら俺のほうへと近付いて来る。
 何と言っても喧嘩を苦手とする俺にとっては、一対一でも苦労しそうなの
に本職相手に二対一となれば焦らずにはいられない。ジリジリとにじり寄っ
て来るごとに、心臓が高なる。
 ガチャ。今にも男が殴り掛かろうと俺にストレートを放とうとした瞬間に、
車のドアが開かれて中から舞が姿を現した。
 俺に殴りかかろうとした男は、握った拳を解きゆっくり腕を下ろし舞の方
へ向き直って近付いて行く。
 「姉さん、直ぐに片付けますから車の中へ……」
 ここまでは俺に聞こえるような声で話し、そのあと何やら舞に耳打ちをし
ている。刹那、舞の顔が強張る。
 ”何か吹き込まれたのか?”
 男と話していた舞は苦々しい表情を男へ向けるが、頷き一歩俺のほうへ歩
き寄る。
 「折角向かえに来たってのに……あいつらに何か言われたのか?」
 俺は男達を指差す。
 「………………」
 舞は何も応えない。じっと俺の方を見ているだけで、口は堅く閉ざされた
まま……何か思うことがあるのか、それとも…?
 「こんなやつらに従う事ないだろ?早くこっちに来て逃げちまおう」
 「……バイクが邪魔で車が通れないんだけど」
 「はぁ?」
 「バイクが邪魔って言ってんでしょ」
  本心か?それともあいつらに言わされてるのか……おそらく後者の方に
違いないのだが。
 「本当に言いたい事はそんな事だったのか?」
 俺は自分でも驚くくらいの大声を吐き出した。
 「本心も何も……捕まったんだから仕方がないじゃない!もっとも護衛も
まともに出来ない人に、依頼を頼んだあたしが馬鹿だったのかもね」
 舞の放ったその言葉は、俺を逆上させるのには十分すぎた。
 「何言ってやがんだ。だいたい人目の付きやすいような所で大騒ぎしてた
のはそっちだろ。まぁ、そっちも捕まって喜んでいるみたいだし、調度いい
んだろ?」
 俺の言葉で、舞の方もカチンときたらしい。表情が見る見るうちに、変わ
って行く。
 まさに一触即発の状態まで縺れ込んだといっても過言ではないだろう。互
いの目が血走って、割って入ろうものならたたで済みそうになかった。
 「馬鹿な頭が、更に馬鹿にならないうちに、さっさと病院へ帰ったほうが
良いんじゃないの?」
 フンッと、鼻であしらうような表情を作って挑発してくる。俺は真っ向か
らそれを受け止めると、努めて静かな口調で言葉を返す。
 「馬鹿でも結構。ヤクザなんかと結婚する、どこかのお馬鹿さんよりはま
しだと思っているんですがねぇ」
 「そのお馬鹿さんは、ヤクザなんかと結婚する為に結婚式場へ急いでるの
に、邪魔をする方がいらっしゃって迷惑しているんですけどねぇ」
 ここで一呼吸いれて、
 「きっと素敵なウェディング・ドレスと高価なエンゲージ・リングが、あ
たしを待っているんだわ」
 『高価なエンゲージ・リング』を目一杯強調する舞。
 「高価……ねぇ。なら、もうこんなちっぽけな指輪なんて、必要ないわけ
だ……」
 俺は左の薬指に嵌めてあった指輪を外し、掌で転がす。
 「あっ……」
 舞の目が俺の掌の指輪を見て小さな声を上げるが、俺は気付かずにそのま
ま指輪を握って宙に放り投げた。
 乱反射しながら舞って行く指輪は緩やかな放物線を描いて、橋の下の小川
の中へと落ちて行く。その軌道を目で追うかのように、舞いの視線が動いて
いることに、残念ながら俺は気が付くことができなかった。
 俺は水の中に指輪が落ちるのを確認すると、踵を返してヘルメットを被る。
 「結婚でも、何でもすればいいじゃね〜か」
 ぜんぜん決まらない捨て台詞にイライラしながら、俺はバイクに跨がると
今来た道を爆音を出しながら駆け抜けた。
 舞の脇を擦り抜けるとき、どんな表情をしていたのか覚えていない。ただ、
俺の方を、長い髪を靡かせながら見ていた事しか頭には残っていなかった。
               * * *
 「姉さん……」
 ボーっとしているあたしに、運転席から出てきた悠也が優しく声を掛けて
くれる。
 先程まで明るかった外が、既にどっぷりと暮れていた。今は夕日の代わり
に、車のヘッドライトと街灯が辺りを照らしているだけになっていた。
 「さぁ、行きましょう」
 「うん」
 あたしは悠也が開けてくれた車のドアを潜って、席に着くと目を静かに閉
じた。
 気分が高揚していたのを落ち着けたかった………本当は一人になりたいと
ころだけれど、それが叶わないので仕方がなくそうしているのだ。目を開け
れば男共に挾まれてろくに考える事もできない。目を閉じてしまえば、顔を
見ていない分だけ少しは落ち着いてくる。やや現実逃避気味になっていたの
かも知れなかった。
 やっぱりヤクザはヤクザでしかないのかしら?あたしは先程の事を思い出
していた。
 あたしが車から出たとき、こんな事を男は言った。
 『会長から言われていることなんですが………あの神崎とか言う男、邪魔
なら………』
 男はあたしに、チラッと銃を見せる。
 『私としても殺しはしたくないので、姉さんが適当に追っ払う方が問題な
くていいんですがねぇ。まぁ、どうしても駄目なときは……ってわけですが
ね』
 と、それだけ言うと、後は何も話さなかったけど……
 あの時はどうすることもできなかった。自分の想いを無理にネジ曲げて、
言いたくもない事を口走っていた。
 ”指輪……かぁ”
 指輪が宙を舞う光景が、頭に焼き付いていた。
 ”あそこなら……探せそう……”
 「姉さん……見えてきましたよ」
 あたしが目を開けると、悠也が前方を指差している。
 その先には『****ホテル』が静かにそびえたっていた。





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