#1560/3137 空中分解2
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Rock'n Roll Cinderella (11)Farlia
★内容
* * *
あたしは目を疑っていた。
”この子が三代目ぇ?どう見ても小学生よね………”
あたしの目の前でニコニコしているのは、どう考えてもそこら辺に転がっ
ている男の子。あたしが想像していた顔中に傷があるゴツイ男の三代目像と
は似ても似つかない。余りのギャップの差に、あたしはクラクラしていた。
あたしは男の子の目線に合わせるようにしゃがむと、
「君が、三代目?」
……一応聞いてみた。
「はい。良く来てくれました。ずーっと待ってたんですよ」
どうやら三代目には間違いないようだ。
ここで一つ疑問が過ぎる。
”あたしの所へ電話してきた三代目と声が違う……”
「あの……立ち話も何ですから、こちらへどうぞ」
ためらいがちに三代目が進言する。
あたしは促されるままに部屋の中央にドンと置いてあるソファに腰を下ろ
す。
「悠也さんも、御一緒しませんか?」
「はっはい」
まさか自分まで呼ばれるなんて思ってもいなかったのだろう、悠也は吃り
ながらぎこちない動作で腰を下ろす。あたしと悠也が座ったのを確認してか
ら、三代目も腰を下ろす。
”礼儀正しいわね……それにあの口調、どう考えても良いとこの坊っちゃ
ん言葉よね。まぁ、良いとこじゃなくて、悪いとこの坊っちゃんなんだけど。
自分の部下に対してまで、あそこまで丁寧な言葉を使うものかしら?”
「名前……聞いてもいいかしら?」
「凛君ね。あたしは………」
「存じてます。舞さんですよね。僕、舞さんのことなら何だって知ってい
るんですよ」
ニコニコしている顔からは、人畜無害のようにしか見えない。
”否、羊の皮を被った狼ってこともありえるし……”
「ちょっと前になるんだけど………僕が学校帰りに不良に絡まれてる所を
助けてくれましたよね」
「え?」
記憶を呼び起こしてみた。
”えっと、えっとぉ………ん?そう言えば……”
「思い出した。たしか二・三人の不良に絡まれてたところに、あたしが通
り掛かって……」
「そうです。あのときの僕です。僕はね、あの時決めたんです」
「何を?」
「僕のお嫁さんにしようって」
”やっ、やっぱり……悪い子じゃないんだけど、後十年位先の話になると
おもうんだけど”
「あのね、男の子は十八才にならないと結婚できないんだよ」
「知っています。でも、愛さえあればっていうじゃありませんか」
”子供がこんなセリフを言うなんて……世の中どうなってるのかしら?”
瞬がここにいたら、”おまえもそ〜だろ”と言うに違いない。
「あのね……言い難いんだけど、あたし好きな人がいるの。だから……」
「そうですか……」
ガックリと肩を落とす凛。でも直ぐに立ち直り、
「いいんです。分かってた事ですから。ただ、これだけが言いたかったん
です」
「え?じゃあ三日間の事は?一億円の借金の事は?結婚の事は?」
肝心な事が話題に上らない。
「何の事ですか?」
「じゃあ何にも知らないんだ……」
”凛の言う事が本当の事だったら…………おかしいわね???”
「何かあったんですか?」
「ええ、実は………」
あたしは今まであった事を凛に話してみた。
「僕はそんな事はした覚えがありません」
凛はキッパリと言い切る。
「僕はただ、話がしたかっただけなんだ。無理やりにだなんて……今日だ
って、舞さんの方から来てくれるって言うから楽しみにしてたんだよ」
「でも、あたしは強引に連れてこられただけだし………」
「あのぉ、口を挾むようですが…俺は会長の方から姉さんを連れてくるよ
うにと指示されたんですけど……これって関係ありますか?」
「悠也君、だってあなた達は凛君に頼まれたって言ってなかったっけ?」
「はぁ、確かにそうなんですけど。会長の方から、三代目の頼みだからと
聞いて、てっきりそういう事だとばかり思ってまして」
そうか、すべては凛君の父親の仕業だったのね。あたしは納得した。
「父さんが………舞さん!」
「なに?」
「ここにいちゃ駄目だ。はやく逃げないと……もう少しで父さんが来る事
になってるんだ」
「ええぇ?」
「悠也さん、舞さんを連れて逃げて下さい」
「でっでも、そんな事をしたら会長に何をされるか分かりません」
自分の事を言っているのか、それとも凛の事を言っているのか、どちらに
も取れる事を口にする悠也。
「僕だったら大丈夫だよ、悠也さん。父さんは僕には甘いんだ」
凛は悠也に微笑んで見せる。
「そうですか……じゃあ何とかしてみます、三代目。姉さん、行きましょ
う」
あたしは立ち上がると、悠也と一緒に部屋のドアへと急ぐ。
が、あたしと悠也が扉を開ける前に、開いてしまった。
中に入ってきたのは、ヤクザ屋さんの代名詞的な男。そこに立っているだ
けで威圧されそう。
悠也が口をパクパクさせながら、縋るような顔をあたしに向ける。どうや
ら一番会っては行けない相手に鉢合わせをしてしまったみたい。
「と、父さん」
あたしの後ろから、やや悲鳴めいた凛の声が聞こえてくる。
「もうお帰りかな?そんなに急かなくてもよろしいではないですか」
その顔付きからは想像出来ないような柔らかな口調で語り掛けてくる。
裏声を使っているのが良く分かる。本来の自分の声を無理やり押し殺して
いるのだ。あたしに多少なりとも気を使ってくれているらしい。
「いえ、待っている人がいるもので……この次にでもゆっくりと」
「神崎……瞬の事かな?今頃死線を彷徨っているところではないかな?式
には招待したのだが……はたして来れるかのぉ。はっはっは」
”やっぱり総てこの人が操っていたのね……”
あたしは睨み付けながら、
「そう簡単にやられたりはしないわよ。きっと向かえに来てくれるわ」
言ってやった。
「気の強いお嬢さんだ。まぁ、彼が向かえに来てくれたとしてだ、邪魔を
するようなら……」
いったん話しを区切って、仕立てたばかりのようなピッとした背広の内側
から黒光りする凶器を取り出した。
銃!ベレッタ社のM92F。もちろんあたしにはオモチャの銃であろうが
本物の銃であろうが、その名称すら分からないのだから区別など付かない。
「約束は守ってもらうよ、お嬢さん」
それだけ言うと、銃をしまい込む。
「父さん。お願いだから止めてよ。僕はそんな事を望んじゃいないんだ」
凛はあたしの側に来ると、敢然と立ち向かって行く。
「凛、これは子供が口を挾むことじゃない……悠也、お前はお嬢さんを二
階の特等室に御案内しろ」
「はっはい」
ビクビクッと顔を真っ青にして、悠也が頷く。
「お嬢さんには夕方までおとなしくしていてもらって、時間になったら式
場の方までお連れすることにでもしましょう」
「式場って……たしか明日のはずでしょう?」
そう、あしたの十二時というのが結婚式の予定のはず。
「もちろん約束通り、明日の十二時に予定していますが?約束は約束、き
ちんと守らなくてはね」
言うこと言う事嫌味に聞こえてくるから不思議。今この人に何を言われて
も、きっと腹が立つに違いないとあたしは思った。
「ふんっ。約束ねぇ」
あたしは悠也の手を取ると、自分から進んで部屋を出ていくことにした。
「舞さん………」
後ろで凛が何かを喋っているが、最後まで聞き取ることができないまま部
屋を立ち去ることになった。
* * *
あたしの通された部屋は、客用の寝室のような部屋だった。
取り敢えず部屋事態には不満はないけど、窓ガラスの外の鉄格子は邪魔だ
な……と思う。これじゃ体の良い牢屋のようなものだしね。
「じゃあ姉さん、時間になったらまた呼びにきます」
悠也の声が沈んで聞こえるのは、あたしの事を気にしてくれているからに
違いない。
「あの……姉さんすいません。俺が至らないばっかりに……」
「別に気にすることないわよ。これもまた運命ってね」
あたしは笑って見せる。
「でもね……今までの経過が問題じゃないの。要は結果がどうなるか……
大丈夫、負けないからね」
あたしの言葉を聞いて少しは安心したのか、
「そうですね、まだゲームは終わったわけではないですからね」
悠也は軽く笑みを浮かべると、扉をゆっくりと閉める。
カチャリ。鍵の掛かる音。
「そんなに念を入れなくても、逃げやしないってば」
あたしは誰もいない部屋で、一人愚痴た。
大体逃げたくても逃げれないでしょ、こんなとこにいるんだから。
あたしはベットに仰向けに寝転び、天井とにらめっこをする。別に意味は
なかったが、この騒動が終わったらどこか静かな所で今みたいに寝転がって
星でも眺めたい、そんな事を考えていた。
とにかくどんな状況下にあっても何か楽しい事を考えていれば、めげたり
はしない。今までがそうだったから……今回もこの逆境を乗り越えられるに
違いなかった。
瞼を閉じ、深呼吸する。
”よし、寝る!”
寝具は一式揃っているものの、暇を潰すものは何一つない。せめてテレビ
でもあればいいのだが、ここには備え付けられていないらしい。
どうせもう一騒動起こりそうだから、今のうちに寝ておいたほうが賢い。
こんな時、どこでも直ぐに寝れると言うあたしの特技が役に立つ。
あたしは、そのまま眠りにつくことにした。
* * *
コンコン。扉をノックする音が聞こえる。
あたしはベットから起き上がると、返事を返す。
「姉さん、時間になりましたので……行きましょうか」
窓から夕日が差し込んでくるぐらいだから、それなりに時間は経っていた
らしい。
「分かったわ。じゃあ、行きましょ」
元気良く飛び出したはいいが、廊下で待っていたのはゴツイお兄さん連中。
「よくもまぁ、ここまで御丁寧に……」
あたしは半ば護送されるような感じでビルを出ると、その前に停まってい
る車に乗り込む。
前回と同様にして後部座席で挾まれるような形で乗せられている。前回と
違うのは、腕を縛られていないというくらい。
バタン。と、ドアが閉められ、ゆっくりと車が動き出す。
行き先は式場と決まっていた。
これから行く『****ホテル』は、ここからだとそれなりに時間が掛か
るが、その分だけ環境が良い所でそこで式を挙げる人も結構多いみたい。
式を挙げる人にとっては良いけど……あたしの場合は、挙げさせられるわ
けだから、なーんにも嬉しくない。どんなに着飾ってドレスアップしてみた
ところで、幸せそうな花嫁さんには絶対見えないと思う。
はぁ。溜め息を漏らしたくもなる。
そんなあたしの思いをよそに、車は一路『****ホテル』へと急いでい
た。
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