#1554/3137 空中分解2
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Rock'n Roll Cinderella (5)Farlia
★内容
* * *
が、時間が経過するにつれて、台所のほうからぷーんとよい匂いが漂って
くるではないですか。
俺の予想は、どうやら外れそうだった。
よ〜く耳を澄ますと、タンタンタンタンと、歯切れのよい包丁の音が聞こ
えてくる。案外ましな料理が出てくるのではないかという思いが、俺を少し
だけ幸せにした。それどころか、『女の子が居るって事はいいものだ』、と、
先程までの恐怖の体験のことをころっと忘れて、無情の幸福を味わってしま
っているのだった。
”まだかなまだかな”
いつのまにか、料理が待ち遠しくなっているあたりが、かなり調子がいい。
ついつい掛け声などをかけてしまう俺。
「もぅちょっとだよぉ」
台所から、返事が返ってくる。
”う〜ん。いい気分”
新婚さんて、こんな感じなのだろうか?無性に羨ましく思えてくる。
”いやいや。思えてくる…ではない。今は俺もその一員ってかぁ?”
俺の創造力はたくましく、次から次へと物語が展開していく。
そんな事をしているうちに、料理ができてしまったようだ。
「はぁい。おっまたせ〜」
「まってましたぁぁぁぁぁ」
間髪入れずに返事を返すと、ワクワクしながら料理の登場を待つ俺。
「おおおおおぉぉぉぉぉ」
テーブルの上に所狭しと並ぶ料理の数々を見て、俺は歓喜の声を上げた。
当初、テーブルの上に並ぶと思われていた下手物の数々とは似ても似つかな
いような、立派な料理だったからだ。
”何と手作りの素晴らしきことよ”
今までが、レンジでチンの生活が続いていただけに、手作りの有り難みが
骨身にしみる。
”鳴呼、涙で料理が滲んで見えない…今日でコンビニ通いともおさらばさ”
3日までの辛抱などとぬかしていた自分が恥ずかしい。出来ればこの幸せ
が長く続く事を、俺は願わずにいられない。
「ん?どうしたのぉ?」
「いやぁ。手作りの料理なんて久々で……うぅ」
俺は先程舞から借りていたハンカチで、涙を拭う素振りをしてみせる。
”実際涙が出ていたってのは、ここだけの話だ”
「ほらほら泣かない泣かない。料理は逃げていかないからね。じっくり味
わって食べるんだぞぉ」
舞に慰められながら、一口料理を口に運んでみる。
「こっこれはぁぁ………うっ」
「う?」
「うまい!グ〜よグ〜」
「へへっ。やったね」
舞はニコニコしながら、ガッツポ−ズ。
”鳴呼、生きててよかった。齢20才にして、ようやく幸せを手に入れた
かぁ”
言う事なし。俺は、今の幸せを噛み締めるのであった。
「う〜ん。ここにビールでもあれば、最高なんだけどねぇ」
舞が、ぼそっと一言。が、確かにその通りでははある。
”そういえばたしか、コンビニでビールを……しまった、酒だった。まぁ
いいか。一応、アルコールなんだし”
確かに、酔っ払ってしまえば皆同じなので、別に構わないだろう。
「あのさぁ、ビールじゃなくて酒ならさっき買ってきたんだけど」
俺は酒をテーブルの上に、ぽんと置く。
「うんうん。お酒でもいいよぉ。乾杯しよ」
舞はパタパタと走っていき、グラスを二つ取ってきてくれた。
「んじゃ。まぁお1つど〜ぞ」
コポコポコポ。舞がお酌してくれる。
「ほれほれ。舞ちゃんも、どぞどぞ」
俺は逆に注ぎ返してやる。
「んじゃ。まぁ…………えっと、なんだっけ?まぁいっか。んじゃカンパ
ーイ」
「カンパーイ」
チン!
グラスとグラスが触れ合い、澄んだ音色をたてる。
* * *
〜2時間後〜
時刻は23時34分。
既に部屋は崩壊状態にあった。
酔っ払って我を忘れて暴れまわった結果がこれ…である。以前よりひどい
状態になっている。これがどの様な状態か、想像する事は難しくない。
簡単に説明すると、『ごみ箱』から『夢の島』へ変貌したとでもいえば良
いのだろうか?
とにかく、惨澹たるこの状態を、少しは分かっていただけたと思うのだが。
「だから、俺も辛かったんすよぉ〜」
何故か、俺は訳もなく悲しくなって泣いていた。
平静なときであれば、俺が泣き上戸であったと理解もできたのであろうが、
今は御覧の通り、ベロンベロンに酔っ払っている訳で分かろうはずもなかっ
た。
この事は、後で舞に大笑いされるまで、知る事のなかった俺の隠された一
面であった。
が、舞も人の事は言えはしなかった。
「な〜に、泣いてんのよぉ。この若輩者〜〜きゃはははははははは」
この言動から察しは付くであろうが、舞は俺と正反対。つまり、笑い上戸
ってなわけだ。
「やっぱり、家で待っていてくれる人が居るって事は、いいもんですよね
ぇ〜〜うぅぅ」
鳴呼、溢れ落ちる涙が止まらない。
「うんうん。わかったわかった。寂しかったんだねぇ瞬ちゃんはぁ。」
舞は頷き、俺の頭を撫でてくれている。
もう立場なんてものはすっかり逆転してしまい、慰めなければならない相
手に、逆に慰められてしまっているところが無残であった。
おまけに名前を『ちゃん』付けで呼ばれているところが、取り返しのつか
ない仲になっていることを証明しているのだった。
「うぅぅぅ。何か頭がクラクラしてきたぁあ」
俺は情け無い声を上げながら、天を仰ぐ。
「あぁ。回る回る目が回るぅぅぅぅぅううぅうぅ」
「きゃはははははははは。瞬ちゃん、おもしろ〜い」
こちらも回っている様子だが、どうやら楽しんでいるらしい。結論から言
うと、舞は何事でも楽しめればそれでいいらしい。
「あぁぁ。もぉ駄目だぁ。先に寝るぅぅ」
意識が掠れかけ、俺はいつでも気絶できる体制にはいっていた。
舞の方は、興奮状態でとても寝れないんじゃないかとも考えたが………や
はりこの状態で他人に構っている余裕もなく、俺は今にも眠ってしまいそう
な意識を少しだけ奮い立たせると、
「舞ちゃ〜んベット1つしかないからさぁ。俺の奴、使ってねぇ。ふぁあ」
「ん〜わかったお〜」
「んじゃ俺は、取り敢えず床で寝るわぁ。おやすみぃぃい」
「おやすみぃぃ」
俺に意識は、滑り落ちるかのように闇の彼方へと旅立っていく。
こうして、とても長く感じられた1日が、ようやく幕を閉じるのであった。
* * *
* * *
「こらぁ貴様〜〜極道もんの女に手ぇ出すたぁ、いい度胸だぁ」
見覚えのない部屋で、その筋に勤務なさっている方が俺を睨んで凄んでい
る。現状がまったく理解できていない俺にとって、これは最悪の事態以外の
なにものでもない。
第一、極道の女に手を出すなんて事は、間違ってもない!……はずだ。
「何言ってやがる。俺がいつ女に手を出したって言うんだ?」
実の潔白を主張しようと、俺は当然ながら抗議してやった。
「あ〜ん。何すっとぼけた事ぬかしてやがんだ」
「そんな事言っても、知らない事は知らないと言っただけだろ」
俺は自分の言っている事に自信があったためか、腰に手を当て胸を張って
堂々とした態度で接していた。普段の俺には、考えられないような行動をし
ている。いつもなら、縮み上がってやってもいないことを『やった』と応え
るところだ。俺は少しだけ、おかしいと思い始めていた。
「ほほぉ。そこまでしらを切るんだったら仕方がない。こいつをみてもし
らを切り通せるなら切ってみやがれぇ!」
怒声で部屋が崩れ落ちてしまうのではないかと思われるくらいの、ヤクザ
屋さんの声。
”いったい、何を見せるつもりなんだろう?”
ヤクザ屋さんの言うことに多少の興味を覚え、俺は様子を伺うことにした。
が……
「舞、出ておいで」
先程の怒声から打って変わって、猫撫で声でだれかを呼んでいる。
俺はというと、『舞』と言う言葉に異様な焦りを覚えて始めていた。
”まさかな……まさかだよなぁ”
が、無情にも出てきたのは…
「まっまっ舞ちゃん??」
そう。何とあの舞が出てきたからさぁ大変。
先程までの余裕が綺麗さっぱり無くなって、代わりに冷や汗が滝のように
流れ出してきた。
出てきた舞はというと、俺に向かって人差し指を突き付け、
「この人よ、この人。あたしに『あんな事やこんな事』を無理やりさせて
……………うわぁぁぁぁぁん」
などと、とんでもないことを言って、ヤクザ屋さんに抱き付いてオイオイ
泣いているではないか。
「こっこら。おれがいつそんな事をしたぁ。大体……」
「何よ、無抵抗のあたしに『あんな事』しておいてと惚けるつもりなの?」
舞の次から次へと速射砲のように飛び出してくる言葉の数々に、俺は反論
できないでいるのだった。
「やはり貴様がたぶらかしていやがったのか……俺様の可愛い舞をたぶら
かしてくれたんだ、それ相応の事をしてもらわんとなぁ。まぁ指の1つでも
貰っておいてやろうかのぉ。さぁ覚悟せいやぁ」
そう言うと、ヤクザ屋さんは懐からドスを取り出して鞘から抜くと、俺に
チラチラと見せ付ける。
「ひぃぃぃぃ」
いかにも切れそうな銀色に輝く刃。それを見ているだけでも、背中が凍り
付きそうなのに、さらに指を詰めるって言うんだから冗談ではない。
身の潔白を晴らしたかったが聞き入れて貰えそうにない。仕方がないので
何とか逃げ出すしか方法はなかった。しかし、部屋の出口はヤクザ屋さんの
後ろにあるので、逃げ出すにはどうしても一戦交えないといけないらしい。
喧嘩は苦手だ。ついでに、相手は凶器も持参している……勝ち目は万に一
つもないのではないだろうか?
どうしよう、どうしようと悩んでいる間に、とどめを刺すかのような舞の
一撃が放たれた。
「指一本なんかじゃ足りないわ。どうせなら、この先女に手を出せないよ
うにぜ〜んぶ詰めちゃって頂戴。あっそうそう、ついでに足の指も詰めちゃ
うと面白いかもしれないわねぇ」
可愛い顔をして恐ろしいことを言い出すから、余計恐怖心が増してくる。
これは本当に早いところ逃げ出さないと、御飯が食べられない手にされてし
まう。