#1553/3137 空中分解2
★タイトル (GCG ) 92/ 3/31 13:54 (175)
Rock'n Roll Cinderella (4)Farlia
★内容
舞は、右手の人差し指を一本たててみせる。
「1万?いや、んな安いわけないよな。10万?100万?」
「何よ何よ。あたしってそんなに安っぽい女なのぉ〜〜〜」
舞は俺の胸倉を掴むと、前後に揺さぶりだす。
言った俺が大馬鹿者だった。大体100万円位で女の子が買えるはずない
ではないか。そもそも、人身売買は出来ないはずだ。
「ぅわぅわわっ。おぃ……ぉい、ゃめてくれ〜」
この細腕のどこから、力が湧いてくるのか聞いてみたかった。女の子の瞬
間的な力の強さを、舞から見せ付けられた気がする。
「はぁはぁ。じゃあいったいどれくらい借金したんだい?」
首を摩り、呼吸を整える。
「…………………1億円よぉぉぉぉぉぉ!!!」
これまた部屋を揺るがすほどの大声だ。
「1億円!?!?!?」
万年金欠病の俺にとって、1億円なんて大金は見当もつかない。それにし
ても、よくそこまで借金したものだと、変に感心してしまう。
「1億円かぁ。で、返せる見込みはなかったの?」
「あったら、逃げてなんかいないでしょう?」
「そりゃそうだけどさ。それにしても、よく1億円も借金したもんだね」
俺は、うんうんと頷く。
「ちょっと神崎さん。関心なんかしないでよね〜」
「あ、ごめんごめん」
ふぅ。深い溜め息を舞が漏らす。
「要は、借金の形に舞ちゃんと結婚させろって訳ね?」
「まぁ、そういう事なんだけど」
「じゃあ、何で三日後の十月二十七日の12:00時までなんだい?」
借金を取り立てるためなら、地の果てまで追ってくるのがヤクザ屋さん
だから、なぜ制限付きの護衛になるのだろうという事が疑問になるのも当
たり前だろう。
「それはね、賭をしたの」
「賭って誰と?」
分かっていたが、一応聞いてみた。
「そのヤクザ屋さんの三代目の人と……で、この人が、あたしの結婚相手
って事なんだけど」
ちょと考え込んで、舞は続ける。
「彼に言わせると、これはゲームなんだって」
「ゲーム?何の?」
「鬼ごっこ」
「はぁ?」
まったく先が見えない。ヤクザとゲーム。どこでこの2つが繋がるのかが、
ったく分からない。一体何の事だろうか?
「十月二十七日の12:00時。これが一応結婚式の日なのよね。で、そ
れまで逃げ延びる事ができたなら、この話はなし。借金もチャラ。でも捕ま
ったら……」
「なるほどね。慈悲深いのか、それとは金余りのボンボンの単なる余興に
すぎないのか。まったく楽しいこった」
”でも……それじゃあ、向こうのメリットはないようなものだし……”
少し疑問を覚えたが、今はそのことを考えても仕方が無かったので、俺は
気にせずに舞に向かってこう言ってやった。
「なぁに、三日やそこら、守ってみせるさ」
ようは強がってみたのだ。
はっきり言って、お金を粗末にする輩が、俺は大嫌いだった。
”たかがヤクザのボンボンの分際で…………一泡ふかせてやる”
俺は絶対このゲームに勝ってやろうと、心に決めるのだった。
* * *
「でもこれって、もう勝ったようなもんだよなぁ」
俺は自信満々の顔付きで、舞にいってみせる。
「なんで?」
分からないぞ、とでも言いたげな顔をしながら首を捻る舞。
「わかんないかなぁ?この部屋に隠れていればみつからないっしょ?」
俺はヤクザ屋さんなんかとも付き合いはなかったので、この部屋に隠れ
てさえいれば見付かりっこないはずだ。
しかし………
「でもぉ。あたし後をつけられてたよぉ」
突然の舞の爆弾発言で、俺は卒倒しそうになるのを懸命にこられていた。
「なんだってぇ。じゃ…ここの場所ってもしかしたら……」
「うん、ばれてるよ」
ニコニコしながら舞は頷く。
”この状況を、はたして舞は理解しているのだろうか?”
俺は疑問に思った。
大体、喜怒哀楽が激しくて、どれが本当の舞の心の内なのか理解し難い。
まぁ元々、女の子の気持ちほど分かりにくいものは、この世に存在しないん
だけど………第一、そんな事が俺に分かるとは到底思えない。
「でっ、でもさぁ。例えば走って逃げたりとかはしなかったの?相手を撒
くとかさ」
追われている身なのだから、普通はそれくらいの事はやってくれているの
だろうと俺は確信していた……のだが。
「うん、しなかったよ。でねでね、あんまり尾行してるのがバレバレだっ
たから、注意してやったのさ」
軽快な口調で話すと、ウィンクひとつ投げ掛けてくれる。
俺は軽いめまいを感じていた。出来ることなら、早くベットに横になりた
いと真剣に思った。
「じゃあ、これから僕たちはどうしたらいいんでしょうかぁ?」
俺は既に自信なんて総崩れしてしまって、カケラも残っていない。これか
ら起こるであろう苦難の道程を考えるだけでも、涙が出てくるってもんだ。
「どうするって……逃げましょ。鬼ごっこなんだから、にげないと捕まっ
ちゃうからね。
「ごもっともなんだけどさぁ。なら、俺たちはこんなとこでのんびり語り
合っていてもいいわけ?」
「うん。大丈夫だと思うよ」
「へっ??なんで?」
「ヤクザ屋さん、今日は忙しいんだってさ。だから明日まで延期なんだっ
て言ってたよ」
めまいが頭痛に変わってくるようだ。親指と人指し指を額に当てて、頭を
支えながら心の中で愚痴を漏らす。
”ったく、ヤクザの考える事は理解できん”
その間、一体何をしているのか聞いてみたい気もする。
が、まぁいいとこ、お礼参りにでも出向いているのだろう。否、案外やる
気がなかったりして……
「じゃあ別に、今日から守る必要はなかったんじゃないの?」
「ちっちっち」
舞は人差し指を左右に振りながら、舌打ちをする。
「違うんですねぇ、これが。せっかくゲームなんだから、最初っから楽し
まないと損損でしょう?」
「否、そういう問題ではないと思うんですが……」
「それに今のうちに、緊迫感や雰囲気に慣れておいたほうがいいしね」
「はぁ。そんなもんですかねぇ」
もう呆れ果てて、どうでも良くなりかけていた。
「あっ、そうだ。せっかくだからタイトルなんて付けてさぁ。えっと……
…『舞と瞬の逃避行』なんてどうかしら?」
”もう、どうでもいい……”
涙が出てきそうだった。
「じゃあ、せっかくだから、あたしの………になってよ………ねぇちょっ
と聞いてるのぉ?」
聞く気がなくなっていたので、単語が要所要所とぎれて聞こえてくる。
「ん…ああ、そうだね…」
俺は舞が何を言っているのかも分からずに、ただウンウンと相槌を打った。
「やったね!じゃあ、今日から神崎さんは、あたしの彼氏って事でよろし
くね」
「うんうん、今日から舞ちゃんの彼氏………ん?誰が?」
「えぇ?もしかして、聞いてなかったのぉ?」
「あぁ。う…いやいや。あははははぁぁあ…怒る?」
笑ってごまかしながら、横目でちらっと舞の様子を窺う。
「ひどい!」
そう言いながら、舞は握り拳を作る。
「うっ」
舞の動作に怯えながらも、賢明に虚勢を張り続ける俺。
”ケッ。男たるものが、女なんぞの尻に敷かれてたまるかっての”
などと心の中では思うのだが、やはり現実は厳しい。
「男に二言はないわよねぇ」
怒声と鋭い視線にがんじがらめになって、俺は石像のようにカチンカチン
になってしまった。
「そんなに、ビックリマーク5つも付けるほどの事でもないだろぉ?」
「いいえ。やっぱりム−ドってのが大切なのよ。神崎さんも、そう思うわ
よね!」
と、語尾を強調する。
「はっはい。ごもっともです…」
半ば、強制されるようにして、俺は応えた。
そのときの俺の顔ときたら、見れたもんじゃなかっただろう。舞という恐
怖に怯えつつも笑顔を作り、そこへ涙を流すと言う荒技を疲労していたのだ
から。
”この依頼が終わるまでの辛抱だ、終わるまでの…辛抱辛抱っと……うぅ”
何とか自分を納得させようと賢明に試みるのだが、どうしても承服し難いよ
うで、俺の心の中では最終戦争を思わせるほどの葛藤が展開しているのだっ
た。
さも満足そうな笑顔を浮かべ、舞ははしゃいでいる。
”俺の気持ちは、一体どうなってしまうんだろうか?”
はぁ〜あ。今日何度目の溜め息だろう?はっきり言って疲れる。
彼女イナイ20年の俺には知る由もなく、只空しさに囚われるだけだった。
「ほらほら、せっかく彼女ができたんだからぁ。もうちょっと元気だした
らぁ?」
誰のせいだ誰の!……とは言えずに、ただひたすら開き直ろうと全力を尽
くすしかなかった。
「こら!」
舞は、指で俺を指し示すと、
「何一人で考えてんだ!」
「あっ……ははっ。いやぁなに、せっかくだから、今日は派手にパーっと
やろうか…なんてね」
心にもないことを口にしながらも、今の一言で完全に吹っ切れてしまった。
”なぁに。後3日くらいじゃん。そっちがその気ならぁ、こっちも精一杯
楽しんでやらぁ”
何となく吹っ切れたというよりは、『もうどうにでもしてください』の方
が適切なようだ。投げ遺りに近いというべきか……
「うん!それナイスなアイデア。でねでね、実はねぇ」
何を思ったのか、舞は立ち上がると台所に駆けて行く。
「お〜い。いったい何を……どわぁ」
な〜んと。舞は両手に溢れんばかりの食材が入った篭を俺に見せている。
「へへっ。凄いでしょ?今日はバッチリご馳走を作ってあげるからね〜」
なんて、先程の嵐はどこへやら、上機嫌で再び台所へ引き換えしていった。
どうやら最初っから、そうするつもりだったらしい。
台所から響いてくる舞の鼻歌を聞きながら、いったいどんな料理が出てく
るのやらと考えてみた。
とんでもない食べ物が、テーブルの上にずらりと並ぶ光景が目に浮かぶよ
うだ。人間の食べることの出来る料理が出てくるのを願いながらも、俺は食
当りの薬を探しにかかるのだった。