AWC 『stone of sage』 act1.果林失踪 [ Sally ☆//


        
#1413/3137 空中分解2
★タイトル (FNM     )  92/ 1/26   3:56  (151)
『stone of sage』 act1.果林失踪   [ Sally ☆//
★内容

 大学に入学してまだ間もない5月。
 俺は隣の部屋でガンガンとかかっている歌謡曲に辟易しつつ、夕食のあと片付けをし
ていた。
  え?男の俺が真面目に皿洗いなんぞ、信じられないって?おいおい、こう見えても俺は結構「マメ」な男なんだぜ。掃除だって週に一度は欠かさずやってるし、ゴミの選別
だってちゃんとやる。食った後の皿だって、ほおって置けばたまる一方だから、こうし
てすぐに洗うようにしているんだ。
 え?マメ過ぎる男は女にモテない?ほっといてくれ……。

 まぁ、とにかく、皿を洗っているところに電話が鳴ったんだ。
 「もしもし?」「あ、俺だ。」……声の主は、高校からの同級生である美咲高志(ミサキタカシ)である。こいつは小学生の頃から空手をやっていて、腕はかなりのものなのだが、その割には細身で一見華奢そうな体つきをしている。それに加えて美形ときているから、当然のことながら女共はほっておかないのだが、本人いたってクールに構え、恋愛など
には興味がないといった風情である。

 ん?そういえば、俺の自己紹介がまだだったなぁ。俺の名前は一色一也(イッシキカズヤ)19才、念のためだが性別は男。まぁ、美咲ほどではないにしても、結構いい男っぷり
なのではないだろうか。
 それほど女好きというわけでもないが、嫌いな方でもない。一応十人並みにかわいら
しい彼女もいて、万事順調といった生活である。
 特技というほどのものはないが、車とバイクの運転技術には少々自信がある。と言っ
ても「実際」に免許を手にいれたのはつい2カ月前のことなので、あまり大きな口は叩
けないのだが……。
 ま、そんなところかな?あとのことは、俺のこれからの話を聞いてくれれば、追々わ
かってくるだろうから以下省略。前置きが長くなってしまったので、ここで話を電話に
戻そう。
 「実は大変なんだ。」
 そう言ってる割には、美咲の声は落ちつきはらっている。もっともこいつはいつもこ
んな調子で、短気な俺としては時々無性に頭にくるのだが、まぁ冷静沈着と言えば美点
にこそなれ欠点とは言えんだろう。
 「どうした?」
 「果林が失踪した。」
 「シッソウと言うと、あの突っ走る奴か?だったら果林にはいつものことだろう。」
 「こんな時にボケをかましてどうする。疾走じゃなくて失踪だ。」
 「発音が同じだからよくわからん。」
 「マジにやってるんだったらアパートまで殴りにいくぞ。」
 「おお。返り討ちにしてくれる。」

 美咲に負けず劣らず、俺も緊迫感がない。とりあえず話は美咲が部屋に来てからとい
うことでまとまる。
 ところで話に出てきた果林という人物だが、フルネームは相沢果林(アイザワカリン)という。自称性別女(おっと本人に聞かれたら殴り殺されるなぁ)。やはり俺と同じ高校の出で、クラスこそ違ったが以前からの顔見知りである。俺と美咲と果林の3人は、腐れ縁
のように同じ教育学部の同じ学科で、同じ教育心理学を専攻するハメになってしまった。 だが、この3人のうちの誰一人として教職に向いていそうな奴がいない、というとこ
ろが『ミソ』である。
 果林は高校時代から、女の割にはドライな性格で他の同世代の女達とは明らかに違っ
た雰囲気をかもし出していた。男言葉を使い、さっぱりした気性で、きれいな顔立ちの
割には女っぽさがない。悪く言えば「がさつ」なのだが、気を使わなくて済むという点
で、俺はこいつのことを結構気に入っている。しかし果林が失踪とは……単なる家出の
間違いじゃないのか?

 「昨日の夜、果林の親から電話があったんだ。娘の居所を知らないか?って。」
 「へ?……だって果林は……。」
 「そう。3日前、親と話をつけてくると言って実家に帰ったはずだった。」
 「つまり……帰ってないから、親から電話がきたわけだな?」
 「そういうことだ。」
 だからといってすぐに『失踪』というには、ちと早計なのではないだろうか。いくら
果林の親が心配症だからといっても、自分の娘が誘拐とか「かどわかし」にあうような
生優しいタマじゃないことぐらい知っているだろう。
 「家に帰らないで高校時代のダチのところにでもいるんじゃねぇのか?」
 「しかしあの親だ。既に思いつく限りの家に電話したあとだろうさ。」
 「うむ……。」

 ここで説明を加えておくと、俺達の実家は青森のど田舎にある小さな市である。高校
を出るとたいがいの若い奴は、就職や進学のために街を出る。近くに大学がないわけで
もないが、どうせ自由な大学生活を送るなら親元を離れた方がいいわけで、したがって
地元に残る奴は極端に少ない。
 果林の実家は、そんな街でも旧家の結構いい家である。どの程度の「いい家」かと言
うと、俺や美咲が果林の実家に遊びに行くと、決まって彼女の母親は和服姿で背筋をピ
ンとのばして「つつつっ」滑るように玄関に現れ、左手でスッと着物の裾を払い、三つ
指をついて「一色様、美咲様、今日はようこそいらっしゃいました。」と言うほどの家
である。
 いや、別に着物を着ているからすごいというわけではなく、まぁそれだけ格式を重ん
じる家で、果林はそこの一人娘というわけだ。
 なんでも父親が**議員に立候補するとかしないとか……。それだけの家に生まれつ
きながらお嬢様然としていないところが、果林の長所でもある。
 「んで、果林はなんでこんな時期に実家に帰ったんだ?」
 「なんでも見合いがどうとかって言ってたなぁ……。」
 「見合いぃ?」
 俺は口に入れたばかりのコーヒーを吹き出しそうになるのを必死にこらえた。
 「あの男女(おとこおんな)が見合いってかぁ?」
 「いや、そうじゃなくてぇ。」
 美咲の話によると、最近大学の構内で果林のことをしつこく聞き回る奴がいたらしい。それを聞きつけた果林が、とっつかまえて首を締めて吐かせたところ、相手方の身辺調
査だったいうわけだ。
 「しかし……あそこの親も思いきったことをするよなぁ。勝手に見合い話を進めるな
んて。」
 まったくだ。果林という爆弾の導火線に火をつけたようなものだ。怖い物知らずとい
うか、なんというか……。
 親の決めた相手をすんなり承諾するような娘と、思っているわけでもあるまいに。
 その時玄関のチャイムが鳴った。

 「キャッホー!かぁず君。」
 「……ナオ?」
 「遊びに来てやったぞぉい。」
 これは俺の彼女。華田尚子(はなだなおこ)。やはり俺達と同じ教育学部である。ち
ょっとぬけてるが、なかなか可愛い奴だ。
 「お前……歩いてきたのか?」
 「そうよぉ。」
 なんでそんなことを聞くのだと言わんばかりにキャイキャイと笑って見せる。。
 「あのなぁ……最近この辺は通り魔が出て危ないから、来るときは電話しろって言っ
ただろぉ?バイクで迎えにいってやるからって。」
 「通り魔ぁ?」
 「そそ。新聞でもテレビでも大騒ぎしてるじゃないか。」
 「だってぇ、ナオコ新聞読まないものぉ。」
 俺は頭を抱え込んだ。可愛いことは可愛いのだが、こいつと話すと時々どっと疲れる
ことがあるのだ。
 「とにかくね?危ないからね?今度から来る前に電話しなさい?」
 「ほい。わかったぞーい。」
 尚子は大きくうなずいた。
 「さてさて、お邪魔なようなので、俺は消えるとするかなぁ?」
 そう言って美咲は玄関に向かって行った。
 「まぁ失踪と言ってもここ2,3日のことだし、そのうちヒョッコリと現れるかもし
れんからな。」
 「そうだな。とりあえず俺は明日にでもまた、果林の親に電話してみるぜ。」
 「ああ。なんか新しいことがわかったら知らせてくれ。」
 「果林さんがどうかしたのぉ?」と、これは尚子の声。
 「ああ、ちょっとな。」
 「ふぅん。果林さんってこの前初めてお話したけど、ホント美人よねぇ。」
 尚子は幾分沈んだ声でそう言った。1週間ほど前に学食で一緒にいた時に、偶然果林
と会ったので、俺の彼女として改めて尚子を紹介したのだ。
 二人とも同じ学科なので顔だけは知っていたが、話をするのは初めてだったらしい。
尚子はいつもはネアカのひょうきんな娘であるが、その時ばかりは果林のクールな美人
顔に圧倒されっぱなしで、おとなしかった。
 もっとも尚子でなくとも、果林と初めて面と向かって話をする奴は大概そうだ。
 陶器のような白い肌に彫りの深い顔立ち。赤みを帯び、光に透けると金色に近い輝き
を放つ柔らかいウェーブのロングヘア。もちろん染めているわけではない。
 その顔立ち故に恋人にしたがる奴も多いのだが、その西欧の人形のように整った風貌
とは対象的な、男言葉と時折見せる女性らしからぬ気迫のせいで、いまだに男運がない。 「かず君も果林さんって美人だと思うでしょ?」
 「ん?いやぁ、ナオの方が可愛いよ。」
 あんなのを恋人にしたら、こっちの身が保たないというのが正直なところである。
 「ほんとぉ?ナオコうれしい!」
 俺が制するのも聞かずに、尚子は俺の首にきつくしがみついた。やれやれというよう
に美咲が玄関口で苦笑いしている。俺は手だけで「じゃぁな」と合図する。
 「ああ、そうだ。」と玄関から出かけた美咲は顔だけ覗かせた。
 「一也、お前最近バイクに乗ってるのか?」
 「ん?いや、乗ってないぜ。」
 大学までは近いので徒歩で通っている。
 「どうかしたか?」
 「いや、なにね。」
 美咲はためらいがちだが、おもしろがっているような感じである。
 「前輪……パンクしてるぜ?」
 「ぬわにぃ?」
 俺は今月のバイト代に羽が生えて飛んで行く様を思い浮かべて肩をおとした。


                   - 続 -




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