#1412/3137 空中分解2
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『stone of sage』 prolog [ Sally ☆//
★内容
一人のサラリーマン風の男が歩いている。歳の頃は30代半ば……。
しこたま酒を飲んでご機嫌らしい。
自宅への近道である公園を横切ろうとして、その入り口に差し掛かった時のこと、目
の端で白い陰がゆらりと揺れるのを捉えた。見れば淡い色のワンピースを身にまとった
少女である。
男はふらふらと心もと無い足どりで、少女に近づいて行った。
一般的な酔っぱらいの例に洩れず、少々は「ひやかし」の気持ちもあったであろうが、根は良識のある男であったから、こんな夜更けに若い女が出歩いているのをだまっては
見過ごせない気持ちもあった。
もっとも、知らない酔っぱらいに声をかけられた時に若い女が感じる一種の不快感に
ついては、全く考えが廻っていなかった。
「……お嬢ちゃん。こんな時間に歩いていると危ないぜ……ウィック!この辺は通り
魔が出るんだ。……一昨日の夜も、この近くの通りで人やられたんだぜ。」
男が、酒臭い息が少女の髪にかかるほどの至近距離まで近づくと、少女はちょっとだ
け、顔をしかめた。しかしうつ向いていたので、その表情は男には見えない。
「これで3件目になるなぁヒック!……ウィック!。静かな街だと思っていたけど、
これじゃ危なくて……ヒック!うかうかと午前様もできやしねぇ……フゥゥ。」
男はちょっと大きく息を吐いた。少々だが、酔いも醒めてきたようだ。
「どうだい、送ってやろうか?」
随分と無愛想な娘だと思いながら、うつむいている少女の顔を腰を少々かがめてのぞ
き込むと、10代といった風情のあどけない娘である。
「ウィック……まったくなぁ、近ごろの若い女ってのは、こんな時間でも平気で出歩
きやがる。まったく親の顔が見たいねぇ……。」
男はまったくの厚意で、通り魔が出ると危険だから送ってやろうと再度言った。少女
は無言のままである。
まったく近ごろの若い娘は、まともな返事もできやしねぇ。そう思いながら軽く少女
の肩に手を置く。すると「ククッ」っと含み笑いが聞こえた。
「おじさんこそ、まっすぐ歩けるの?」
少女の目が猫のようにキラリと光った。
男は、このあどけない少女に、突如として恐怖の感情を抱いた。
日常でならば、この年頃の娘がいくらいきがって凄味を効かせてみても、それほどの
恐怖感を他人に与えることは困難であったろう。俗に言う『ツッパリ』娘であったとし
ても群れていない限りは、それほど突飛なことをしでかすことはない。一人では何もで
きない……否、しようとしないのが、今の十代の若者たちなのである。
だが、その少女にだけは、男は心からの戦慄をおぼえた。
それは動物的な勘であったかもしれない。たとえその恐怖が、アルコールの見せた妄
想であったとしても、その少女にその年頃には似つかわしくない落ち着きと、凄味があ
ることは事実である。
男はよろけるように、数歩後ろに下がった。しかし、思ったほどの距離をとることは
できなかった。男が下がりきる前に、少女が二言目を発したからである。
「飲み過ぎると次の日後悔すると言うけれど、あなたには今しか後悔する時間がない
わ。」
次の瞬間、叫び声をあげる間もなく男は崩れ落ちた。丁度足元にあったシーソーに腰
を掛けるような格好で、目はじっと少女を見つめたまま……。男が倒れたのは、シーソ
ーの上がっていた方の側であった。男の体重によって、シーソーは勢いよく地上にたた
きつけられ、その拍子に男の体は空中に投げ出される。
少女は男が地上に落ちて動かなくなるのをじっと見つめていた。口元には柔らかな微
笑をたたえている。
これで4件目の通り魔事件である。しかしそのことはもはや男の関知するところでは
ない。
ここ、都心に近いK市では、事件はまだ始まったばかりである。
- 続 -