#1338/3137 空中分解2
★タイトル (EGC ) 91/12/20 20:38 (113)
一太郎君の話(3) PI
★内容
石段を登り切った一太郎君は驚いてしまいました。そこはお寺の本堂ではな
かったのです。大きなかがり火が四隅に焚かれていました。正面には何かわか
らない怪物の像が祭って在り、像の前の大きな皿からは青白い炎が燃えていま
した。その皿の前に女の人が地面に手足を縛られて寝かされていました。
一太郎君は女の人に駆け寄りました。
「おねえさん、おねえさん。どうしして縛られてるの。おねえさん」
「坊や、早く逃げなさい。もうじきドラゴ族の神官がやって来るわ。見つか
れば殺されてしまう。早く逃げなさい」
「ドラゴ族の神官?おねえさんはどうなるの」
「降霊の儀式が始まるの早く逃げなさい」
一太郎君は訳が分かりませんでした。でもここにいる事が非常にまずい事に
なりそうだから、石段の方へ走って行き降り始めようとしました。しかし下の
方から明かりが上がって来るのが見えたので女の人のところに戻って来てしま
いました。
「おねえさん、もう逃げれないよ。人が登って来るんだ」
「どこかに隠れなさい。そしてこの儀式が終わるまでじっと隠れていなさい。
さあ早く」
一太郎君はしばらく考えて正面の気持ち悪い像の後ろに隠れました。そして
後ろから覗いていました。なんと石段を登って来たのはトカゲでした。一太郎
君は2年生の時の事を思い出してしまいました。
登って来たドラゴ族は5人でした。ダブダブの服を着て頭巾をすっぽり被っ
た者が神官のようでした。残りの4人は護衛のようで神官を残し祭壇から降り
て行きました。一人残った神官は両手を夜空に向け呪文をとなえ始めました。
「^ヾ〇・‖…(》×≦/〜〃゛_:;£@☆ゝ、護国のために尽くしたド
ラゴ族の英霊たちよ、我が声を聞きこの祭壇に集い給へ。〃〇〜…”±≠‖∴
§¢※♀∞」
祭壇のまわりのかがり火がスッと消えてしまいました。像の前の青白い炎だ
けが燃えています。青白い光が像をより一層不気味に浮かびあがらせています。
祭壇の闇が一段と暗くなりました。その闇が数個の塊に集まって行きます。青
白い炎が大きく揺らぎました。
「おおー、我がドラゴの英霊たちよ。英雄のスタム・ボーンよ、この人間の
女の腹に宿り現世に復活されよ。∞∴♀°¢#&*★±÷《/〜…」
数個に固まった闇が神官と女の人のまわりを回り始めました。数回稲光が起
こり、その中の一つが一太郎君に当たりました。祭壇の青白い炎が一瞬大きく
燃え上がりました。数個の闇はあいかわらず神官と女の人のまわりを回ってい
ました。
像の後ろに隠れていた一太郎君が神官と女の人の間にゆっくりと歩いて来ま
した。
「坊やどうして出て来たの」女の人が言いました。
「黙れ人間。我が眠りを妨げた者はお前か」その声は一太郎君の声ではあり
ませんでした。
「なぜ我を現世に呼び戻す。理由によってはお前を殺すぞ」
「ははー」神官は平伏して続けました「我がドラゴ族は今、人間と戦ってい
ます。ドラゴの英雄スタム・ボーンのお力をお借りしたく」
「笑止。我が勇猛果敢なドラゴ族が貧弱な人間どもに負ける訳が無い。そん
な事で我が眠りを妨げたと、この償いお前の命でまかなってもらう」
一太郎君は平伏している神官の頭巾を掴み神官を祭壇の外へ投げ飛ばそうと
しました。
頭巾がとれ神官の顔が現れました。
「お前は人間。何時から我がドラゴに人間の神官が。おいお前訳を言え。そ
れにその首に付けている邪悪な輝きを放つ玉はなんだ」
神官は首に付けている玉をかざしながらゆっくりと立ち上がりました。
「我が神、ドムドーラの力の前には英霊スタム・ボーンも手を出せぬか。ス
タム・ボーンよ今一度闇に戻れ、この次はドムドーラ神の前にかしづかせてく
れる」
神官は一太郎君に腰の短剣を切りつけました。一太郎君は素早く身をかわし
ました。
「ガルーダ、あなたガルーダね」縛られていた女の人が驚き言いました。
一太郎君はやっと意識を取り戻しました。誰かが意識の中に話しかけてきま
した。
『子供、意識が戻ったようだな。』
目の前には短剣を抜いた神官が立っていました。
『恐がるな子供!神官の左手に持っている玉を何とかして神官から離せ。あ
の玉が在る限り我は神官に手が出せぬ』
『でもそんな事、無理だ』
また神官が襲ってきました。一太郎君は寸前のところで短剣を避けました。
『ほら剣をかわせたではないか。お前は我の知らない武術を身に付けている。
確実に神官より強い』
『でも相手には剣が』
『短剣だ。それならかがり火の薪を使え。剣を薪でよけ、玉を蹴り飛ばせ。
玉が無くなれば後は我が片付ける。ぐずぐずするな。次がくるぞ』
神官が襲ってきました。確かに神官の動きには無駄が多いと一太郎君は思い
ました。神官がまた切りつけてきました。それを左によけ、神官の右足を軽く
足で払いました。神官はつんのめり、前に倒れてしまいました。その隙に一太
郎君はかがり火のところまで行き薪を手にしました。神官も一太郎君が以外に
手ごわい事に気がつき慎重になりました。しばらく二人は相対して動きません
でした。
呼吸を整えた神官は短剣を横にはらってきました。それを一太郎君は薪で受
け止め神官の懐に入っていきました。玉を蹴り上げようとした瞬間。神官の右
手の拳が一太郎君の頬に当たりました。神官が短剣を捨て一太郎君を殴ったの
でした。
一太郎君は組み敷かれてしまいました。神官は玉を脇に置き両手で一太郎君
の首を締め付けました。一太郎君は必死で暴れ、何とか脇にある玉を遠くに蹴
り飛ばしました。神官は一太郎君の首を締め付け続けていました。
『よくやった。一太郎、後は我が片付ける』
一太郎君は遠のく意識でその言葉を聞きました。
一太郎君はいきなり神官を持ち上げました。そしてわめき散らす神官を祭壇
の外に広がる夜の闇に放り投げてしまいました。神官の叫び声が聞こえました。
一太郎君は縛られている女の人の縄を解き命令しました。
「女あの玉を砕け。今すぐにだ」
女の人は玉を頭上まで持ち上げ祭壇の床に叩きつけました。玉は粉々に砕け
散りました。
一太郎君の体がゆっくりと倒れていきました。
「坊や」女の人は言いました。
* * *
「一太郎君、一太郎君。しっかりして」修一君の声が聞こえました。
「一太郎君、ごめんね」石井君の声です。
「大丈夫だよね」木下も居ました。
「修一君」一太郎君は一言だけ言いました。
「一太郎君もうすぐ石段終わりなんだ。さあ一緒に行こう。あれ首のところ
どうしたの赤くなってるよ」修一君が言いました。
「ええっ。何でも無いよ」
一太郎君たちは一緒に石段を登って行きました。
一太郎君のお話これでおしまい。 PIN