AWC  一太郎君の話(2)               PIN


        
#1337/3137 空中分解2
★タイトル (EGC     )  91/12/20  20:25  (107)
 一太郎君の話(2)               PIN
★内容

 小学校5年生の時
 一太郎君はとっても臆病者になってしまいました。一太郎君は2年生の時の
事件以来暗闇を極端に恐がります。それでお母さんが将来を心配して3年生に
なってから空手の道場に通っていました。

 小学校5年の夏休みの事です。一太郎君の通っていた道場は毎年夏になると
合宿がありました。期間は一週間、場所は山のお寺で行われます。そして合宿
最終日に肝試しがあるのです。3年生4年生の時はお母さんが心配して合宿に
は参加しませんでした。一太郎君自身も肝試しのある合宿には行きたく無いと
思っていました。7月になると合宿参加の案内が道場に張り出されます。今年
もお母さんから不参加だと言ってもらおうと一太郎君は思っていました。

 「一太郎君、合宿どうするんの。行くよね」声をかけてきたのは5年のクラ
ス替えで同じクラスになった修一君でした。
「僕きっと行かないと思うよ。修一君も知っていると思うけど、僕恐がりだか
ら」
「一太郎君もしかしたら肝試しが恐いのかな。だったら心配ないよ。去年僕行
ったんだけど全然恐くないんだ、ただ暗いだけでさ。お寺の本堂までの石段を
登るだけだもの。その石段はね、毎朝駆け足で登らされるんだ。一緒に行こう
よ」
 修一君は意地悪な子ではありませんでした。地味な一太郎君の事を気遣って
声をかけてきたのでした。一太郎君はあの事件以来一時的でしたがいじめられ
っ子になってしまい、今ではとってもめだたない子供になってしまったのでし
た。当然友達も殆どいません。旭君と充君が近所のよしみで付き合ってくれる
ぐらいです。友達と言えるかどうかわかりませんが。その二人も違うクラスに
なってしまい今のクラスでは殆ど話しを交わす子はいませんでした。
 「お母さんと相談してみるよ」そう言って一太郎君は道場から家に帰りまし
た。お母さんに相談するともう5年生だから、と言う事で合宿に参加する事に
なってしまいました。

 「さあ、今から肝試しを執り行う。みんな心の準備はいいかな。数人づつで
行く。最初は低学年の者からだ。この石段を登って本堂まで行く。毎朝駆け足
で登った道だが、けっこう長いし、暗いから十分気をつけて行くように」

 「よし、今度は5年生の番だ」
 「一太郎君、みんなで行くから全然恐くないだろ」
  「そうだね、修一君」

 一太郎君たちのグループは4人でした。隣の学校に通っている石井君と木下
君、そして修一君です。
  一太郎君たちは懐中電灯の明かりで足元を照らしながら気をつけて石段を登
って行きました。
 「俺、肝試しってお墓の中を歩かされるのかと思ってたんだ。こんな事なら、
心配しなけりゃよかった」登り始めてすぐに木下君がしゃべり始めました。
 「一太郎君、全然恐くないだろう」修一君が尋ねてきました。
 「そうだね、全然恐くないや」
 「一太郎、お化けだぞー」石井君が懐中電灯を下から顔にあてながら言いま
した。
 「うわー、お化け、恐い」木下君がしゃがみこみましだ。そして、「お化け
だぞー」と懐中電灯を顔にあてながら立ち上がりました。
 「お前の顔、昼間の方がよっぽど恐いぞ」石井君がふざけたように言いまし
た。
 一太郎君たちはワイワイ騒がしく石段を登って行きました。
こんな悪ふざけがしばらく続きました。

 「この石段ってこんなに長かったかなぁ」石井君が独り言のように言いまし
た。
 「毎朝登っていたけど、もっと短かったような気がするよ。修一君はどう思
う」木下君が言いました。
  修一君は懐中電灯で先を照らしました。階段がずっと先まで続いていました。
そして振り返って照らしました。階段がずっと続いていました。
 「ちょうど真ん中へんなんだ。朝は駆け足で登っているから短く思えるんだ
よ。もう少し登ったらおしまいさ。一太郎君もそう思うだろう」
 一太郎君は不安げに頷きました。

 一太郎君たちはそれからまたしばらく登り続けました。
 「おかしいよ。絶対におかしい」木下君が言いました。
 「俺もう飽きた。面白くない。いつまで登ったら本堂に着けるんだ」石井君
が怒った調子で言いました。そして「もしかして俺たちお化けに騙されてるん
じゃないか」とおびえたように言いました。「登っているつもりが実は降りて
て、少し降りたらまた登っている。結局同じところを行ったり来たりしている。
実は俺さっき石段に印を付けたんだ。これと同じ印」石井君が懐中電灯で石段
を照らしながら言いました。「わぁーお化けだ」石井君が急に石段を駆け上が
りました。
 「やだー」一太郎君
 「ひぇー」おびえて木下君は駆け出しました。
 「わー、ちょっと待てよ」修一君も走り出しました。

 「脅かすなよ、石井。なあ修一君」木下君が数段先で待っている石井君に追
いついておびえたように言いました。
 「本当だよ」と修一君。
 「どうだい。さっきのは恐かったろう。でもみんな嘘でーす。あんまり退屈
だったからちょっとね。皆さんごめんなさい。それに石段おしまい」石井君が
懐中電灯で先を照らしながら言いました。
  「あっ、一太郎君が。石井君のせいだぞ」修一君が振り返って、登って来た
石段を照らしながら言いました。そして「一太郎くーん、今のは石井君の嘘だ
よー。今からそっちに戻るからねー」大きな声で言いました。

         *      *      *

 「やだー」一太郎君はしゃがみこんでしまいました。
 バシャンと懐中電灯の壊れる音がしました。みんなの走っていく音が聞こえ
ました。しばらくしゃがみこんでいた一太郎君は、おそるおそる立ち上がりま
した。
 誰もいません。まわりは真っ暗でした。それで石段の上の方が明るくなって
いるのが分かりました。修一君の声がかすかでしたがはっきりと聞こえました。
  「修一君が迎えに来てくれる。石井君のは嘘だったんだ」一太郎君はほんの
少し落ち付きました。
 一太郎君は長い間そこで待っていました。でも修一君はやって来ませんでし
た。そこで一太郎君は暗闇の中を注意深く登って行くことにしました。石段の
上の方から漏れる明かりでかすかに石段が分かるのでした。

                        PIN
  一太郎君の話(3)に続く






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