AWC Seaside -幻影- Farlia


        
#1339/3137 空中分解2
★タイトル (GCG     )  91/12/21   4:43  ( 71)
Seaside -幻影-        Farlia
★内容

 真冬の海は寂しい。
 それが夜になれば、なおさらの事である。
 身も凍り付くような寒さの中で、僕は一人砂浜に座って水平線をじっと眺
めていた。
 回りを見渡しても誰もいない・・・あるのは星の光と小波の音、そしてど
こまでも果てしなく続く海のみである。
 海は一秒たりとも同じ形をとる事もなく、波はまるで息衝いている事を示
すかのように振る舞う。
 この寒さの中であまり寒いと感じないのも、きっと海というとてつもなく
大きな母の胸に抱かれているからに違いない。
 僕はこの偉大なる母に、しばしの間身を預ける事にした。
 目を閉じ、耳を澄ます。
 すると、今まで見えなかったもの、聞こえなかったことを感じ取る事が出
来た。
 そこには一人の少女がいた。
 誰もいない夜の海に少女が一人、とても幻想的な世界がそこにはあった。
 真っ白のワンピースに身を包んで、少女は浜辺を一歩一歩着実に歩んで行
く。
 そして小波を伴奏として歌い始める。

         星光に映える青き海よ
         あなたの胸に抱かれて眠りたい
         万物の源、大いなる母、海よ
         この浮わついた魂を
         導いておくれ「明日」という希望へと

 鈴の音のような美しい歌声が、夜空に響き渡る。
 (あなたも、ここが好きなのね)
 少女は僕に話しかける。
 否、話しかけてはいない、その証拠にまだ歌を歌い続けているのだから。
 (口に出して話す必要はないの、心と心で通じ合うものだから)
 少女は微笑みながら、僕の心に話しかけてくる。
 何となく分かるような気がした。
 (歌、うまいんだね)
 心の中で語りかけてみる、
 (ありがとう。あなたも、ここにくる事が出来るのね)
 (ここはどこなの?)
 (さぁ、私にも分からないわ)
 ふっと彼女の姿が消え失せたかと思うと、いつのまにか僕の目の前に立
ち手を差し伸べている。
 (せっかく二人は出会ったのだから)
 僕は、彼女の手を借りて立ち上がる。
 (さぁ、はやくはやくっ、二人だけのお祭りよ)
 彼女は急かし、僕の手を取ると海辺へ誘う。
 (今日は、踊り明かすの)
 海は限り無く優しく、受け入れてくれる。
 彼女が躍ると、水飛沫は宝石となり彼女を彩る。僕はそんな彼女が眩し
 (よし、僕もっ)
 いつ終わることもなく、僕達は踊り続けた。
 そして、夢のような時間は過ぎて行く────
 (今日はとても楽しかった、また会えるかな?)
 (会えるわ、きっとね。)
 にっこり微笑んだかと思うと、右手で口を抑えてクスクスと忍び笑いを
漏らしている。
 (ん?なんか面白い事言ったかなぁ?)
 (ううん、なんでもないの。じゃあたし先に帰るね)
 (あっちょっと待って、名前聞いて・・・・)
 言っている途中で、彼女は消え失せてしまった。
 ─────はやく帰っておいでよ。
 と、一言残して。

 目を開けると、そこはいつもと同じ砂浜であった。
 「ふぅ」吐く息は寒さの為に凍りつき、結晶となって夜空に漂う。
 「結局は、自分自身が作り出した幻・・か」
 ・・・いや、そうでもないようだ。
 向こうから歩いてくる、彼女の姿を僕の目は捕らえていた。

    そう、だって僕達は出会ったばかりなのだから。

                    <おわり>




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