#1294/3137 空中分解2
★タイトル (DZE ) 91/11/24 13:18 (114)
こんにちわ。遊びにきました。 蝦夷(えみし)
★内容
最近拾った、中国地方の民話に脚色してみました。2800字小説です。
前村のリツ
稲の刈り取りを終えるころ、一年でいちばん楽しい村祭がやってくる。山の茸や木の実採りも終わり、村人たちの心は艶やかな紅葉の色彩と笛太鼓の音色に浮きあしだつ。
一人暮らしのリツは、笛太鼓が遠くに聞こえる時期になると、失った子供たちの喜び駆けまわる姿が思いだされ、いたたまれない思いにかられるのである。
(もうあれから二十五年も経つんじゃのう。月日は川の流れのようじゃ。じゃが、もうすぐおまえたちのところへ行けるぞな。)
前村は用水の便が悪く、少し日照りが続くと裏山の水源は干上がってしまい、飲み水にも事欠くようになる。ため池も何度か掘られたのだが、水の抜けやすい土で一度もうまくいかなかった。
家族を亡くしたその年は、長い日照りが続いたため田畑の緑は枯れ、洗濯さえ満足にできないありさまだった。
数えで14才になる息子の定次は、8才の誕生日を迎えてはしゃぐ弟の吉三を連れて奥山に水汲みに出かけていった。
「おっかあ、水汲みついでに行者草でも採ってくるでの。ひさしぶりに、うまいもん食わしてやらい。」
兄弟二人、楽しそうに家を出ていったのが、子供たちの健やかな顔を見た最後になった。
その日、兄弟は日が暮れても戻らず、心配した夫の安蔵が提灯を手に息子たちを迎えにいった。安蔵は、奥山まで探しに行って水桶を見つけたが、息子達の姿はなかった。
翌朝、近所の衆にも頼んで奥山を手分けして探したところ、行者草の生える高く切り立った崖下に無惨な二人の遺体が見つかった。
弟が崖上で滑ったのを助けようとして、二人とも転落したらしかった。
リツは七日七晩泣き通した。
安蔵が、寺の本堂の建立のための伐採で、誤って倒れた大木の下敷きになって死んだのは、子供たちの葬式を出してわずか半年の後のことだった。
あまりの悲しみに、リツは泣くのも忘れてただ呆然とするばかりだった。リツの両親$b;`$s$G$$$?$+$i!"H`=w$OE7368IFH$K$J$C$?!#
村人たちは、リツに祟りがあると噂した。若いころ、リツを女房にするのを安蔵と争った鷹吉などは、「リツの前生は人を呪い殺した女だったのだ。因果応報でなければ、あんな目に遭うものでねえ。」といった。それを聞いた多くの村人が頷いた。
それまでリツと親しかった村の女房連中も、あまりの不幸続きに気味悪がって近づかなくなった。リツは誰に慰められることもなく、辛い孤独な日々を送るようになった。
それからのリツは村人たちとあまり話すこともなく、狂ったように働いて過ごした。朝、暗いうちからの農作業が終わると、綿と麻つむぎが待っている。夜、月が出れば再び畑にでて耕した。
寡婦のリツを狙って、ときおり家に夜這いをかけてくる男の姿があったが、リツは戸締まりを厳重にして寄せつけなかった。鷹吉などは、白昼リツに近づき突然抱きすくめようとさえした。リツが懐に隠し持った短刀を自分の喉に向けると、逃げていった。
リツは、一日も早く夫や子供たちの待つあの世に行きたかった。朝晩、家族の菩提を弔うとき、何度そのまま首を吊って死んでしまおうと思ったかわからない。しかし、ひそかに期することがあって思いとどまっていた。
リツは村の寄り合いにもでず、寺社の寄付にも応じなかった。近在の慶事葬式にも出向くことはなかった。村人たちはリツを敬遠し、道端で出会っても声もかけなくなった。いつのまにか月日は過ぎ、髪も白くシワのめだつ歳にもなった。
村人たちは、吝いリツを「吝婆」と蔑んだ。子供たちもリツを見つけて「乞食婆」とはやしたてた。だが、身なりは汚くてもリツの優しく澄んだ目で見つめられると、なぜか悪口が言えなくなってしまうのだった。
村祭の終わったある日、リツはめったに出かけたことのない峠を越えて歩いていった。大切そうな小荷物を抱え、いくつもの山を越えてゆくのを見た村人は一様に訝しがった。
北風に木の葉が舞うようになった寒い日、リツは家族の眠る墓の前に座ったまま死んでいた。まるで覚悟の自殺のように見えた。
眠るように穏やかな顔には微笑が浮かび、なにごとかをなしとげた者だけがもつ美しい死顔を見た村人は、「リツさんは、皆がいうような人ではなかったかもしれん」と、つぶやいた。
リツが亡くなって年が明けると、山向こうから道具をたくさん担いだ大勢の屈強な男たちがやってきた。村人が驚いて「なにごとか」と問うと、「あるお方の指図で、土普請をしにきたのだ」と頭領が答えた。
「あるお方とは誰か」と聞いても、「他言無用ときつく言われている」ととりあわない。「村の衆のお役にに立つことじゃ。黙って見ていなさるがよい」というので、村人は傍観することにした。
男たちは、部落の上の、かつてため池を掘った跡を再び深く掘って大きく堅牢な池にした。村人たちは、工事がため池であることを知ったが、うまくゆくはずがないと思った。すでに自分達が何度も失敗しているのだ。
しかし、男たちの工事は、これまで見たこともないほどしっかりしたものだった。底や土手の土に苦土を混ぜ、何度もつき固め漆喰で防水した。さらに、それを何度も繰り返し、比類のない立派なため池をつくりあげた。
「これなら、もう水に困ることはない」と誰もが思った。村人たちは、おそるおそる聞いた。「この池はわしらも使えるんかいの。」
頭領は答えた。「もちろん、おまえさんたちの池じゃ。費用は高価じゃが、すでに頂戴しておる。安心しなさい。」
金をだしたのがリツだと知れたのは、行商人の噂話からだった。村人たちはそれを知って恥ずかしさのあまり、しばらく口が聞けなくなってしまった。
豊かな水をたたえた池の脇で、リツの立派な葬儀が行われたのは、翌年の命日であった。
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