#1283/3137 空中分解2
★タイトル (RJM ) 91/11/22 22:59 (132)
ぶら下がった眼球 第二章 スティール
★内容
第二章 会議室で・・・
「じゃあ、本題に入ろうか」と、我々を集め
た男は言った。歳は四十歳過ぎといったとこ
ろか、背は人並みだが、体のがっしりした男
だった。少し目つきが悪かった。彼は、皆を
見渡した。私は、彼をスパイか何かではない
かと思った。が、それにしては優雅さという
か、貴族のような気品があった。彼は、私達
に説明を始めた。説明というよりも、演説の
ような感じだった。
「自分はコーチェフ・ストラフスキー大佐だ。
こうして君らと逢えたことを嬉しく思って
いる。今回、諸君に集まってもらったのは
他でもない、ある計画の推進のためだ。そ
のある計画とは、私の恩人であり、君らに
とっては恩師であるバベル博士のバビロン
計画だ」
一瞬、会議室にどよめきがおこった。彼は
それを目で制しながら、言った。
「諸君らも知ってるように、我々の宇宙にお
ける活動のすべては、軍の活動とされてい
る。つまり、広い意味では君らも軍人だ。
ただ、研究開発部門は、形態としては公社
という形をとり、現在では、実質的に民間
企業と変わりないところまできています。
研究開発公社の前総裁は、バベル博士の若
い頃の教え子であり、友人でもありました。
このことは、みなさんもよく知っているこ
とと思います。博士の死後も、前総裁の指
示でバビロン計画は公社ではなく、軍直属
のスタッフの手によって秘密裏に推進され
てきました。バベル博士によって、バビロ
ン計画は99%まで完成したはずなのです
が、その後十年近く、まったく進展が見ら
れません」
私は、軍のスタッフの無能さに、心の中で
吹き出していた。残りの1%に人間の本質が
隠されているのだ。これから、我々に協力を
求めるのだろうが、私以外に自分から希望し
て計画に参加する者は、おそらくいないだろ
う。
「そこで、上層部の承認を得て、バベル博士
の教え子の中から、協力してもらうものを
募ることにしました。定員は一名です」
会議室に、軽い笑いの渦が起こった。バベ
ル博士の惨めな末路を、みんな知っていた。
そして、軍の冷たさも。
「一番良い条件から、先に言いましょう。報
酬は、今の年棒の給料の二十年分。ただし、
バビロン計画が成功すればの話です。失敗
すれば、通常の給料だけです。それと、ス
ペースラボラトリーシップとして、最新鋭
のノア6号が研究の場として提供されます。
ノア6号は、計画に参加してくれた方のご
希望があれば、五十年間の無利子ローンで
譲り渡します。船は新品の物で、研究機材
も最高の物をお望みの通り、準備します」
確かに、破格の条件だった。これなら、希
望者も出るかもしれない。大佐は物分かりの
よい人物のようだ。
「バビロン計画の概要ですが、これは、説明
する必要はないでしょう。希望者とは、後
で、個別に面談します。計画がどこまで進
捗しているかも、そこで詳しく説明します」
私はなんとなく、不安になった。私の他に
も希望者が出るかもしれない。大佐は相変わ
らず、鋭い目つきで話を続けた。
「希望者は明確なプランを持って、秘書を通
して、私の部屋にきてください。私は、明
確なプランを望みます。ハビロン計画の事
を事前に知らせていなかったので、みなさ
んのほとんどがまったく準備していないこ
とてしょう。しかし、ここで、私を納得さ
せ得る解答を持っていない者は、私の期待
に応えることはできないだろうと、私は確
信しています」
場の雰囲気は緊張したものに変わっていた。
大佐の話は終わった。みなレストランやカフ
ェに場所を変え、食事をしたりコーヒーをす
すりながら、バビロン計画の失敗の原因につ
いて、口から泡を飛ばして、激論を続けてい
た。
「軍においておくには、惜しい男だな」隣に
座っていたモーゼルは大佐について言及した。
私も同じように思っていた。ただ、モーゼ
ルは私と違い、個人的な趣味から、大佐に興
味を持ったのかもしれない。
「でっ、応募するのかい、ヘンリー」
「ああ、策がある」
「お前も、もの好きだな。大佐に一目惚れで
もしたのかい。確かに条件はいいから、挑
戦する価値はあるな」
「衛星軌道上で地球を毎日見られるのが気に
入ったのさ」
「人間嫌いのお前が地球のそばにいたがるの
もまったくおかしいぜ」
「下で暮らすのと、上から見下ろすのは違う。
上から見ると、偉くなったような気がする」
私はバビロン計画に興味を持っていたのに
は、理由があった。しかし、それは誰にも言
いたくない理由だったので、ここでは何も言
わなかった。それに私にはバビロン計画を成
功させられるという自信があった。私は自分
の考えを率直に言った。
「俺が思うに、ハビロン計画で造られる人体
は完璧なんだ。問題は、なぜ失敗するのか
ということだ」
「うーむ、教育期間が短すぎるのか、それと
も、脳に植えつけられる記憶の足りないの
か?」
私は、モーゼルも他の人と同じように誤っ
た考えを持っているようだな、と思ったが、
態度には出さなかった。