#1284/3137 空中分解2
★タイトル (RJM ) 91/11/22 23: 7 (117)
ぶら下がった眼球 第2・5章 スティール
★内容
第2・5章 ちょっとはみだしちゃって・・・
一時間後、私は大佐の部屋にいた。大佐は、
私にココアを勧めた。大佐は大きなギョロ目
で、私の顔をじっと見た。大佐のあごは少し
しゃくれていた。パイプが似合いそうな高貴
な海賊か、海軍の将校といった感じの男だ。
大佐はもったいぶった口調で言った。
「それで君の案は、どういったものかな?」
私はいきなり話を振られて、戸惑った。が、
大佐に対して訊ねようしていた質問を思い出
した。
「その前に、確認しておきたいことがありま
す。ハビロン計画で創りだされる人間は、
超人ではなく、まったく普通の人間なんで
すね?」
「そう、その通りだ。その点は最初と変わり
ない」
「いままで、さんざん叩かれて、もう飽き飽
きしているかも知れませんが、敢えて聞き
ます。それなら、なぜ、遺伝子レベルから
始めるのですか? 健康な男女の精子と卵
子の試験官内での結合で充分なのでは?」
「いや、遺伝子レベルからだ。純粋な虚無か
らの培養だ。超人ではなく、まったくの常
人を創り出すことが、前提条件だ」
「そうですか」私はハビロン計画のコンセプ
トが、前とは変わっていないことを確認して、
安心した。
「それでは、次に、バビロン計画の状況を聞
かせてください」
「人体のほうは、完璧だと思う。どうも、オ
ツムの中身のほうがうまくいかない」
大佐は、頭を自分の人差し指でこづきなが
ら言った。私はやはりそうかと思いつつ、ア
ゴに手をやった。
「感情は?」
「無い」
「生きる気力は?」
「無い。まったく、無い。皆無だ。人間の脳
をシュミレートしてもだめ。感情をプログ
ラムにしても、それだけで成長がない。も
う、我々だけでは、お手上げだ」
「そのプログラムというのは、オリジナルで
すか? 構造的にはロボットやアンドロイ
ドに使われている条件判断や枝葉選択の応
用といっしょですか?」
「そうだ」
私は笑いながら、言った。
「それじゃあ、ロボットと同じ動作しかしな
いのでは」
「いや、もっと滑らかだ」大佐は憮然として
答えた。
人間なんだから、滑らかなのは当然だろう。
私は、大佐の人柄が気に入った。私は自分の
考えを言うつもりになった。
「いや、それはちょっと、進む方向が違うと、
思います」
「どういうことかね」と、大佐は身を乗り出
した。
「人間は、ロボットではありません。死を恐
れ、子供を作り、服を着て、時には休まな
ければならないのです。ロボットの物とは、
別の思考体系が必要です。人類は、本能と
いうか無意識下の呪縛というような共通の
行動様式を持っています」
私はここまで言って、大佐の顔を見た。大
佐は葉巻に火を点けながら、続きを促した。
「共通の呪縛とは例えば、死は苦しみである、
、生殖行為は快感を伴う、裸は恥であるな
どの無意識の集合体のような物です。バビ
ロン計画が、人間とまったく同じ物を創る
のが目的なら、人間の長所だけではなく、
欠点や苦悩をも模倣しなければなりません」
大佐が何か言いたそうな顔をしたので、私
は話を中断した。大佐は立ちあがって、あご
の下に手をやった。何かを考えているようだ。
その物腰には上品さが漂っていた。
「君に任せたとして、どのくらいかかる?」
「人体の培養はどのくらいかかるのですか?」
「数週間だ。大量生産ならもっと短縮できる。
だが、実験用ならそれで充分だろう」
私は言った。「それなら、一、二ヶ月もあ
れば、大丈夫です」
大佐は少し驚いたような顔をして、聞いた。
「しかし、ソフトウェアの開発に時間がかか
るんじゃないのか?」
「もう、とっくにできています。脳神経科学
と精神科学は、私の専門です。本も三冊出
しています。私の能力をお疑いなら、本を
買って、ご覧になるのがよろしいかと思い
ますが」
「うん、そうだな、そうするよ」と、大佐は
言った。こうして、私のバビロン計画への参
加が決まったのであった。