AWC ぶら下がった眼球 第十一章  スティール


        
#1220/3137 空中分解2
★タイトル (RJM     )  91/10/ 3  21:14  (192)
ぶら下がった眼球 第十一章  スティール
★内容

            第十一章 神々と悪魔

        胸の痛みが収まらず、大佐との打合せを手
       短かに打ち切った。

        私は個室を与えられ、部屋を暗くして、ベ
       ットに転がった。ADAMのあの発言の原因
       を究明することには、開発者としての立場も
       あり、合意した。量産化と遺伝子の問題につ
       いては特に依頼はなかったが、できうる限り
       私は頭の中を整理しているうちに、眠りに落
       ちてしまっていた。
        というよりも、眠りと覚醒の間を何度も、
       さまよっていたようだ。心地好さと不快感は
       相互に繰り返して来て、私を包んだ。私は汗
       だくになっているのを感じた。無意識の中で
       何かが閃いた。

       「そうだ!きっと、そうに違いない!」

        私は飛び起きて叫んでいた。私は部屋の隅
       にあった小さな端末の配線を壁から外し、D
       OGに直結させ、DOGからデータを引き出
       した。私はADAMの脳の設計図を呼び出し
       た。ADAMそしてEVEの脳に、ある種の
       改良を加えていたのを思い出したのだ。AD
       AM型では、人間の脳の神経の結びつきの中
       で、弱いと言われている結びつきを補強して
       いた。文字通り補強して流れを良くしただけ
       なので、いままですっかり忘れていた。それ
       がきっと「あれ」との交信を可能にしたに違
       いないと思った。
        私はADAMの脳の設計図の中の改良部分
       を赤く点滅させた。それから傍らにあった太
       い銀色のペンを拾い、赤い点滅部分を経由す
       る神経を何本かたどってみた。

       (やはり、そうか。)

        私は大佐に電話して、ADAM型の脳の改
       良部分を元に戻すように提案した。私は体調
       が良くないがノアに戻ることにしたとも告げ
       た。大佐は、ADAMに逢ってからにしたら
       どうかと言ったが、私はその申し出を断った。
       自分の考えが正しいことを証明するためには、
       ノアの設備がどうしても必要だった。私の仮
       説が正しければ、ADAMの診察をする必要
       は無かった。もちろん、EVEに逢いたいと
       いう理由もあったが・・・

        私は大佐に別れを告げ、ノアに向かった。


        ノアについた私は、EVEの傍らに立った。
       EVEはあと30分で、人工睡眠から覚醒す
       るはずだった。目覚めても元通りに回復する
       のに、二三十分はかかるはずだった。私はE
       VEをいますぐ覚醒させないことにした。

        私は自分の仮説に基づいた調査を始めた。
       DOGからもう一度、ADAMの脳の改良部
       分の画像を出した。補強された神経の結びつ
       きをモデル化して、「あれ」と交信するつも
       りだった。おそらく「あれ」のモデルでも交
       信可能なはずだ。

        体調は不調で、順調に悪化していた。私は
       DOGにとって、この作業は未知の領域かも
       しれないということに気付き、自分でキーを
       叩き、DOGをサブに廻した。手が震えてい
       た。体調の悪化と緊張からくる震えだろう。
        手近に自分のものしか「あれ」が無いので、
       自分の「あれ」をモデルにすることにした。
       私は3Dビジョンに、自分の体全体の全神経
       のモデルの映像を映し出した。そしてADA
       Mの施したのと、全く同じ改良をモデルにし
       た。私は脳の部分を拡大し、改良部分を赤く
       点滅させた。それから一番怪しいと思われる
       神経経路をたどった。
        立体の画像も神経経路をたどり、神経の流
       れをたどった。一本の神経が胴体くらいの太
       さに大きくなっていた。私は先を急いだ。進
       めば進むほど、私の体は震えてきた。だが、
       結局好奇心には勝てなかった。最終地点にた
       ぶん「あれ」が居るはずだ。いや、きっと居
       る。私の勘は確信になっていた。

       (わはははははははははははははははは!)
        私は心の中で笑っていた。体調は悪化して
       いたが、精神は高揚していた。とうとう、誰
       も見つけられなかった神を見つけたのだ。

        神経の行き着く先には、格子状の「あれ」
       があった。「あれ」とは遺伝子であった。

        私は遺伝子と交信するつもりだった。そう、
       遺伝子こそ、神だったのだ。

        性に悦びを与え、人を繁殖させた。死なせ
       ないために、死に苦痛を与えた。羞恥心や征
       服欲、その他のいろいろな感情。すべて遺伝
       子の設計図に基づくものだ。私も線を引いて
       同じ様な設計図を描いたのだから、私がその
       ことを、一番理解していた。

       聖書の言葉「私は常にあなたとともにいる」
       「私は始まりでありそして終わりでもある」

        少なくとも、人間の遺伝子は、人間の神だ。

        そうだ。いままで、神と接触したというの
       は、遺伝子と接触していたに違いない。

        私はとうとう、神の虚飾の仮面を剥ぎとる
       ことに成功した。

        私は、豪快に笑いながら、遺伝子との交信
       を試みた。キーを押す指は震え、手は痺れて
       いた。私は感動してさえいた。

        神経を通して、遺伝子の声を聞こうとした。
       データ変換はうまくいった。3Dビジョンに
       は文字、スピーカーからは低音量の音を出さ
       せた。そして、文字と音は同時に出た。

       【 我は、我が姿知りし者を決して許さず 】

        私は思わず絶叫していた。指の震え、手足
       の痺れがますますひどくなった。私の体調の
       悪化は・・・。

        体中がよじれ、神経がずたずたにされるよ
       うな痛みが、体中を走った。心を恐怖・不安
       が支配し、私を襲った。私は発狂した。発狂
       して、苦痛や心の苦しみからくる感情で、目
       の前の機械をメチャメチャにするために床に
       叩きつけた。私が信じられないくらい強く叩
       きつけたので、それは大きな火花を散らし、
       四散した。火花の光が、私を刺激した。私は
       両の腕を折り曲げ、これ以上は無いというよ
       うな恐ろしい声で絶叫した。私は地獄の苦し
       みを味わいながら、遺伝子が自分を護るため
       に、自分の正体を知った者をこうやって始末
       してきたことを悟った。この恐ろしい仕組み
       は最初から人間の体に仕込まれていたのだ。

        私の姿は怪物そのものだった。私は次の破
       壊物を求めてキッチンに向かった。キッチン
       へ向かうドアを破壊しようと、絶叫しながら
       何度も体当たりしていた。私の力は何十倍に
       も膨れ上がり、私の体は何十倍にも強くなっ
       て、ただただ、死のみにむかって突き進んで
       いた。

        ドアを破壊した一瞬、フラッシュバックが
       あった。バベル博士の死にざま。そうだ、こ
       れと同じ、博士の研究室はメチャクチャにな
       っていて、博士は自分で自分の命を断ってい
       た。博士は発狂したと片づけられていたが・
       ・・。私はよろめきながら、キッチンの上の
       ガラスの物を両手で横に払って落として割っ
       た。私の前に鏡があった。私の苦しんだ狂っ
       た顔があった。その一瞬の光景を、私は長く
       感じていた。

        私はEVEのことを思いだし「EVE!E
       VE!」と悪魔のようにだが叫んだ。私は食
       器入れをいくつか叩き壊しながら、EVEの
       名前と、そして「死にたくない!死にたくな
       い!」と何度も絶叫した。

        私の頭は潰れるほどの痛みを感じ、指や手
       足はちぎれてしまっているように痛かった。
       私は「痛い!痛てぇよぉ!」と何度も中くら
       いの声で叫んでいた。心と体と内蔵はぐちゃ
       ぐちゃになっていた。

        私は余りの苦しみに堪えかねて、脇の包丁
       差しから、先の尖った包丁をなんとか掴んだ。
       しかし、私は自分の喉を掻き切るという行為
       すら出来ずに、さらに苦しんだ。私はもう声
       も出ず、咳き込んだ。
        魂が飛び出たように、私の眼には私の上半
       身が映った。私は悪魔の断末魔のような顔を
       していた。私の眼は色々な原色の色を出して
       光っていた。私の持っていた包丁は少しずつ
       着実に伸びて、刀になった。私はその刀を首
       に押し当て、思い切り轢いた。私はEVEの
       名前を叫んだが、呻き声にしかならなかった。

        最近快調なれみんとん、すてぃいるでした。




前のメッセージ 次のメッセージ 
「空中分解2」一覧 レミントン・スティールの作品
修正・削除する         


オプション検索 利用者登録 アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE