#1178/3137 空中分解2
★タイトル (ENB ) 91/ 9/16 22:45 (175)
がんばれ美由紀ちゃん−大坂秋の陣−(7) かきちゃん
★内容
7.戦士の休息
”天空の剣”を手にいれた俺達はすぐ本陣に戻ろうとしたが、途中、黒田隊の大物
見に出くわしてしまった。
むこうは五十人程、こちらはやっと徳川の物見二十人であるから、戦えば負けるに
決まっている。
俺は用意してあった空馬にまたがり、美由紀を引っ張りあげ、後ろに乗せた。 「
明智さん、乗馬はできるの?」
美由紀が聞いた。当然の質問である。
しかし、俺だって馬鹿じゃない(と思う)。ちゃんと考えてある。
「しっかりつかまってて。」
と美由紀に言って、持ってきていた荷物のなかから釣竿を取り出し、糸ににんじんを
くくりつけ、馬の鼻面にぶら下げた。ほとんど大馬鹿物の世界だ。
だが、大馬鹿でもうまく行くときはうまく行く。
馬は鼻先のにっじんに向かって爆走を始めた。馬も大馬鹿馬だったよーだ。
爆走を始めた大馬鹿馬に振り落とされないように俺は必死で馬の首に釣竿を持って
いない方の腕でしがみついた。もちろん美由紀も俺の背中にしがみついている。背中
に美由紀の胸の感触が伝わって来る。こいいう状況にもかかわらず俺の目は垂れ下が
り、鼻の下はだらーんと垂れ下がっている。
黒田の大物見は一頭だけ爆走して来る馬に驚いた、と言うか、恐怖を覚えたようだ。
それもそうだろう。得体の知れない格好をしたやつらが乗り、手綱を引いている男
は力いっぱいにやけており、鼻先ににんじんをぶら下げて爆走する大馬鹿馬などそう
滅多にお目にかかれるものではない。
と言うわけで思わず道を開けてしまった黒田隊を後目に俺と美由紀を乗せた大馬鹿
馬は何とか本陣に着いた。
しかし馬は止まらない。目の前のにんじんに我を忘れている。
俺は釣竿を上にあげた。にんじんは俺の頭上である。
大馬鹿馬は急ブレーキをかけ、首を後ろに反らせてにんじんを追った。ちょうど”
ヒヒーン”といななくような格好になった。後ろに海老反ったのである。
おかげで俺と美由紀は後ろにずり落ちてしまった。
”きゃーっ!ぐしゃっ!ふぎゃっ!ぐえっ!”
俺はそれほどダメージを受けなかった。
が、俺の下敷になった美由紀は完全に白眼をむいていた。
「い、いかん!」
「えーとこういう場合は……。そうだ、人工呼吸、いや、心臓マッサージ……。い
やいや、最初に胸を締め付けているものを脱がせなくては……。どれどれ。」
俺はその正確な判断によって美由紀のサマーセーターをたくし上げにかかった。
スカートが例によってめくれ上がっているがそんなことはお構いなしだ。小さ目の胸
(かわいいっ!)をおおっているブラが覗いた。都合のいいことにフロンホックだっ
た。
俺の名誉にかけて言っておくが、決してよこしまな気持ちがあったわけではない。
この際、美由紀の命を救うことが先決なのだ。心臓マッサージや人工呼吸をするとき
は胸を締め付けているものを取り去ることは常識だ。俺の口許からよだれがたれてい
るような気がするのは全く気のせいだ。じゅる。
美由紀の胸を締め付けているもの、すなわちブラジャーのホックに手をかけようと
した、その時、後頭部に衝撃を受けた。
薄れ行く意識の中で振り返ると、美由紀の父親が金属バットを持って立っていた(
なぜこの時代に金属バットなんてあるんだ?)。
「わしの大事な娘に何て事をさらすんじゃ!」
とすごい形相で怒鳴っていた。
「おっさん、違うって……。」
しかし、それは声になっていないようだった。
気が付くと俺は手足を縛られて転がされていた。
「な、何だこれは!」
じたばたもがいていると美由紀の親父がやってきて、
「いいか、俺の娘に変なことをしようとする奴は自由にしておくわけにはいかん。
しばらくそのままにしておれ!」
「ご、誤解です!俺は人工呼吸をしようと……。」
「軽い脳震盪を起こしているだけの人間に人工呼吸など必要あるか!」
点目。
「ただの脳震盪だったんですか。」
「そうだ。」
と親父が言うと言うと、影から美由紀がひょこっと出てきた。元気そうにしていると
ころを見ると本当にそうだったらしい。
「おまえは脈も呼吸も確かめずに人工呼吸をするのか!」
「おっちょこちょいは遺伝なんですぅ。」
とかわいこぶって言ったが効き目はなかった。俺は救いを求めて美由紀の方を見たが
、美由紀は、”あっかんべー”をして、
「明智さんのえっち!」
だって。かーわいー。
”あんまり怒っているようには見えないな。”と思って少しほっとした。
内心では、”えっちするならえっちするで、意識のあるときにしてくれればいいの
に。”と思っている、かどうかは”神の味噌汁”(ちょっと違う?)だ。
結局、いくらいいわけをしても聞き入れてもらえなかった。
縄を解いてもらったのは次の日の朝だった。美由紀の口添えがあったらしい。美由
紀の親父は、
「いいか、今度美由紀に変なことをしようとしたら打ち首だぞ。」
と恐い顔をしながら縄を解いてくれた。
「冗談じゃない、美由紀に変なことなんて、頼まれても……。いや、頼まれたらす
るだろうなあ。」
などと俺は考えていた。正直な奴。
縄を解いてもらってすぐ家康公に呼び出しをくらった。
狸のおっさんの前に行くと、作法通り平伏しなければならない。俺の隣でも、美由
紀がちょこんと座って平伏している。
「面を上げよ。」
と言われるまでじっと我慢の子である。
「大坂城攻めについてそち達にも言っておくことがある。」
だって。さらにたぬくんは、
「如水軒を倒すのに”天空の剣”が必要なことは前にも言ってあるな。実は、”天
空の剣”についてなのだが……。」
「”天空の剣”が何か?」
”俺達が見つけてきたのは実は”天空の剣”ではなかったとか?”とちょっと不安に
なった。ちらっと美由紀の方を見てみると同じ様なことを考えているようだ。
”簡単に見つかりすぎたもんなあ”
「そちたちが見つけてきたのは間違いなく伝説の”天空の剣”であった。」
ほっ。
「しかし、この”天空の剣”がどの様な働きをするかはまだわかっていない。実際
に使ってみないとわからないようじゃ。ドラクエみたいに凍てつく波動がほとばしる
のではないらしい(このおっさん、ドラクエをやってたのか?)。また、”天空の剣
”が正しい呼称なのかもわかっていない。さらに、先程わかった事なのだが、どうも
この剣は明智一族しか使えないようなのじゃ。」
それが何を意味するかというと、もしや……。
たぬくんはあっさり俺の考えていた事を肯定した。
「そう、”天空の剣”はそちしか使えない、”超能力1”はその忠勝の娘しか使え
ない……。」
「つまり、俺と美由紀ちゃんが最前線で戦うしかないと……。」
たぬくんは苦々しく、
「そういう事だ。雑兵はわが軍で片付ける。その後で二人で如水と戦ってもらいた
い。」
俺と美由紀は顔を見合わせた。どっちみち、もとの世界に帰るには如水を倒して超
能力2を取り返すしかない。そして如水を倒すための剣、”天空の剣”は俺しか使え
ないのだからそうするしかない。美由紀は俺を見てうなずいた。
「わかりました。」
「そうか、やってくれるか。さすが光秀の末と忠勝の末じゃ。何、案ずることはな
い、如水軍は必ずや叩きのめす!最後の対決まで我が軍の最後尾にいてくれればよい
。」
”当り前だ。”と内心思ったが、”ははーっ”と平伏して見せた。
家康は満足気にうなずいて、側に控えていた忠勝に、
「皆の物に伝えよ、総攻撃は十日後、早朝である。各自、十分に矢弾を磨いておく
ように。」
と言うことで十日間暇になった。俺達は別に矢弾を磨く必要はない。
本陣の片隅で俺と美由紀はカップメンを食べながら手持ちのアイテムの確認をして
いた。
「えーと、今までに使ったのがにんじんと釣竿、残っているのが”天空の剣”と”
超能力1”と”能面”か。しかし何に使えばいいんだろう。」
「少なくとも、”天空の剣”は如水と戦うまでは使わないのよね。」
美由紀の着替えはいつもミニスカートである。相変わらずふとももがまぶしい。
「せめて”超能力1”が何に使う超能力かわかればなあ。」
「あら、でもそれは”天空の剣”と”能面”についても同じ事よ。」
「しかし、今までのにんじんと釣竿の例からみると何か大したことなさそうだな。」
と俺は悲観的なことを言って、
「あーあ、無事に元の世界に戻れるのかなあ。」
などと愚痴めいた事を言うと、美由紀は、
「もし、”超能力2”を奪い返せても……。」
急に悲しそうな顔になった。突然どうしたんだろう。
「私、元の世界に帰れないかも知れない。」
「ど、どうして!」
「だって、”超能力2”を取り返すってことは、黒田如水を倒すってことよ。
そしたら、家康公は徳川幕府を開くはずよ。そうなったらお父さんは家康公の右腕と
してここに残ることになると思うの。私、お父さんをおいて戻れないわ!」
と言って泣きだした。
おろおろおろおろ。どしたらよかんべ。とりあえず、
「坊さんが二人でおしょーがつー。ナンチャッテ。」
と先カンブリア代のギャグを言ってみた。美由紀は呆然として俺を見ている。気まず
い空気が二人を包む。
「と、とにかくさ、お父さんが必ずここに残るって保証もないんだし……。」
「ううん、私にはわかる。お父さんはきっとそうする。」
美由紀は断言した。
「そ、それに、お父さんがここに残るったって美由紀ちゃんまで残る必要は……。」
「ここまで捜しに来てやっと見つけたのよ。もう見捨てて行くなんて出来ないわ!」
「……。」
俺は何も言えなくなった。美由紀ももう何も言わなかった。しばらく二人黙り込ん
だ後、
「ごめんなさい。」
突然美由紀が呟いた。
「?」
「私、自分の事ばっかり考えてて……。明智さん、お父さん亡くしてるのよね。
それに明智さんは私のためにこんな所まで来てくれたのに……。」
潤んだ眼で俺を見上げている美由紀がたまらなくいとおしく思えた。誰かの歌に
”LISTEN TO MY HEART 愛しさを言葉にはできなくて”とあった。実際言葉になん
かできるもんじゃない。俺は黙って美由紀の肩を抱き寄せた。
「いいんだよ、そんな事。俺も自分の意志でここまで来たんだ。それに、元の世界
に帰るかどうかなんていま考えてもしょうがない。如水を倒してから考えればいいん
だよ。」
美由紀はコクン、とうなずいた。美由紀の温もりが俺の肩ごしに伝わって来る。風に
そよいだ美由紀のセミロングの髪から何とも言えないいい香りが漂ってきた。
そして美由紀は眼を閉じて……。
と、その時、
「くおらぁ〜!まーたおれの娘に手を出しとんのかぁ!」
美由紀の親父である。俺達は成層圏まで飛び上がった。雲の上から美由紀の親父が馬
に蹴られているのが見えた。
どうやらあの大馬鹿馬のようであった。