AWC がんばれ美由紀ちゃん−大坂秋の陣−(8)  かきちゃん


        
#1179/3137 空中分解2
★タイトル (ENB     )  91/ 9/16  22:50  (147)
がんばれ美由紀ちゃん−大坂秋の陣−(8)  かきちゃん
★内容

8.大坂秋の陣(1)

 徳川軍は徳川家康をはじめ、徳川秀忠、本多忠勝(美由紀の親父)、本多正純、榊
原康勝らの譜代の家臣に、伊達正宗、藤堂高虎、真田信之、細川忠興らの諸大名約一
万五千の軍勢である。
 対する黒田軍は、黒田如水をはじめ、黒田長政、豊臣秀頼、加藤清正、真田幸村、
長宗我部盛親、ら約二万五千。
  家康の采配が振られた。
 徳川軍の先鋒、本多(忠勝)隊と細川隊が黒田軍の豊臣隊、長宗我部隊に斬り込ん
で行った。
 それを黒田軍が鉄砲の一斉射撃で迎え撃つ。本多隊と細川隊は少しも怯まず両翼に
展開した鉄砲隊の援護射撃を得て突っ込んで行く。緒戦は徳川軍が押し気味に見えた。

 どのくらい時間が経っただろうか……。
 最初押し気味に見えた徳川軍が今は確実に押されている。潰滅は時間の問題か、と
見えた。
 今や、ほとんどの隊が全滅寸前である。真田信之、細川忠興は既に討たれたようだ。
 のこったのは徳川秀忠、本多親子、榊原康政隊、伊達正宗、藤堂高虎、そして本陣
にいる家康の旗本隊だけである。
 それも、まず伊達隊が崩れた。敵の鉄砲が馬上の正宗の胸を撃ち抜いたのである。
 大将を失った伊達隊はついに潰走を始め、さらに後詰めの部隊も散々に逃げ始めた。
これによって徳川軍は大混乱に陥った。
 そしてついに家康は退却を決意した。
 残っているのはすでに徳川秀忠隊、本多忠勝隊と藤堂隊だけである。榊原康政はさ
っき討たれた。
 徳川軍は本多忠勝隊を殿(しんがり)として退却を始めた。
 その時、獅子奮迅に長槍をふるっていた美由紀の父、本多忠勝が敵の足軽に突かれ
て忠勝の胸から鮮血が吹き出した!
 「いやぁ〜!」
 美由紀が絶叫した。
 忠勝はその場に前のめりに倒れ、その上を黒田軍が突進して行く。
 美由紀は膝を折って胸の前で両手を握りしめた。
 その時、奇跡は起こった。

 戦場のあわだたしい喧燥、努号、絶叫。
 それらが一瞬にして消え去った。
 と言うより両軍合わせて四万の軍勢がそれぞれの大将を残して雑兵だけ消え去って
しまったのである。残った大将たちは一同点目である。何が起こったのかわからない、
と言う表情である。美由紀もきょとんとしている。
 しかし俺には、何が起こったのかかろうじてわかった。さっき美由紀が胸元で握り
しめた右手に”超能力1”が握られていたことが……。
 つまり、美由紀は無意識のうちに”超能力1”を使ってしまっていたということ、
そして”超能力1”とはザコ封じの超能力、ファイナルファンタジー3なら”キル”
の呪文みたいなものだったということだ(しょせん、こんなもんだ)。
 広大な大坂城に残されたのは徳川家康、  藤堂高虎、黒田如水・長政親子、真田幸村、加藤清正、長宗我部盛親、そして俺と美由紀だけになってしまった。豊臣秀頼は
ザコだったようだ。
 黒田軍が点目になっている隙を突いて家康自らが斬りかかって行った。我に帰った
藤堂高虎が後を追っていくのを俺は泣いている美由紀の髪を撫でてやりながらぼーっ
と見ていた。
 家康はまだ我に返っていない長宗我部盛親をあっという間に斬り伏せ、さらにその
勢いで黒田長政に斬りかかって行った。藤堂高虎は加藤清正と対峙している。
 結局、家康は黒田長政を倒し、藤堂高虎と加藤清正は相打ちとなった。家康もただ
の狸ではなかったようだ。
 そして残るは両方の総大将、黒田如水と徳川家康、黒田方の真田幸村だけになった。
 最初の忍びの報告によると、如水と幸村は本丸にいる。如水は幸村を最も信頼し、
常に側に置いているそうだ。
 家康と俺達二人は広大な大坂城の中を本丸に向かって走って行った。

 「明智さん、しっかり!たぬくんは先に行っちゃったわよ!」
 美由紀が励ましてくれるのだが、所詮俺は不健康なサラリーマンだ。すでに息が切
れている。一日タバコ二箱男の、これが実力ってもんさ。
 それに比べ家康はさすが戦国武将だけにタフだ。あのまるまるした体で軽々と転が
って、いや、走って行く。
 美由紀もさすがに若い。十七歳パワーで俺の手を引っ張りながらまあるいおしりを
ふりふりしながら正常な呼吸で走り続けている。
 それでも最近運動不足でお腹が出てきた(ビールの飲み過ぎって話もあるが)標準
体重プラス2キログラムの男を引きずって走っているのだから、たぬくんとの差はど
んどん開いていく。たぬくんはすでに本丸に到着したようだ。
 俺達がやっとこさ本丸に到着した時にはすでに家康と幸村の対決が始まっていた。

 本丸の門の前で対峙している家康と幸村。幸村は”ここから先は一歩も通さないぞ”
とはかりに大きな目を一層大きく見開いて家康を見据えている。家康はこの戦国一・
二を(上杉謙信と)争う猛将を前に少しも怯むことなく太刀をかまえている。
 太刀を正眼に構えて対峙している二人の間合いがじりじりと詰まっていく。見てい
る俺と美由紀も呼吸するのも忘れたかのようだ。
 「きえ〜っ!」と烈迫の気合いと共に家康が太刀を幸村の喉もとに突き立てようと
した、その時……。
 幸村は笑ってごまかした!
 気を取りなおして再び家康の攻撃!
 幸村は笑ってごまかした!
 ”何なんだ、これは?”
 俺と美由紀は顔を見合わせた。
 家康がいくら攻撃を仕掛けても幸村は笑ってごまかすばかり。これでは何も進展し
ないし、第一、ストーリーが進まない。
 家康の攻撃!
 幸村は笑ってごまかした!
 家康の攻撃!
 幸村は笑ってごまかした!
 家康の攻撃!
 幸村は笑ってごまかした!
 家康の攻撃!
 幸村は笑ってごまかした!
 もう同じ事を何回繰り返しただろうか?
 俺も美由紀も最初の緊張感は何処へやら、俺は脇に座って持ってきた兵糧のまずい
干し飯をくちゃくちゃ噛みながら「缶コーヒーが欲しいよー」なんて言ってるし、美
由紀は俺の肩によりかかってくーくー寝息を立てている。干し飯を食い終わるとなん
だか俺も眠くなってきた。
 幸村に笑ってごまかされながらも家康はなおも攻撃をやめない。さすがの家康もゼ
ェゼェ言い始めた。家康の体力が尽きるのももう時間の問題になってきた。それに引
き換え、幸村は笑っているだけだから大した疲れた様子もない。
 息を切らしながらも家康はますます精神を集中している。明鏡止水の如し、って感
じで能面のような無表情を崩さない。
 ……ん?、能面?
 俺はハッと思い立ち、眠っている美由紀を起こし、
 「美由紀ちゃん、道具袋!」
と言って美由紀から道具袋を受け取り、同じ攻防を繰り返している二人に近寄ってい
き、幸村の背後に回った。
 ”後はタイミングだ”と俺は息を呑む。
 家康の攻撃!
 幸村は笑ってごまかした!
 家康の攻撃!
 ”今だ!”
 俺はこの瞬間、道具袋から取り出した”能面”を幸村の顔にかぶせた。
 幸村は笑ってごまかせなかった!
 家康の太刀は見事に幸村の喉元を貫いた。幸村の顔面には能面の無表情が張り付い
ていた。
 家康が太刀を引き抜くと幸村はあおむけにどう、と倒れた。その拍子に幸村の顔か
ら能面がはずれた。
 幸村は笑っていた。
 「天晴な奴じゃ。」
 共に勝利をおさめた家康の上田攻めの時、関ヶ原の時の上田城での攻防。幸村は寡
兵を率いて鬼神のような顔をして戦っていたのだろう。
 最期は家康との一騎討ちだった。戦い片はどうあれ、結果はどうであれ、幸村は満
足だったのであろう。もしかすると幸村は戦いの時の鬼神のような顔よりもその太陽
のような笑顔の方が似合っていたのかも知れない。
 「天晴な奴じゃ。」
 家康はもう一度言うと力尽きたように片膝をついた。何しろ一時間以上も張り詰め
た状況の中で戦い続けたのだ。
 「大丈夫ですか?」
 美由紀が駆け寄って言った。
 「駄目じゃ。わしももう歳じゃ。心の蔵が……。」
と言うと胸の辺りを押さえて”うっ”とうめき、仰向けに転がった。たぶん、心筋梗
塞でも起こしたのだろう。
 心配そうに見つめる美由紀。そして俺。家康は、
 「わしはもう駄目じゃ。如水はたぶん天守に登っておる。忠勝の娘よ……。」
 「はい。」
目に涙をためた美由紀が答える。
 「こんな戦いに巻き込んですまなかったな。そこの光秀の末裔と共に如水を倒して
元の世界に戻って幸せに暮らしてくれ。」
 それだけ言うのにも息がぜぇぜぇ言っていかにも苦しそうだ。しかし、家康は続け
て、
 「光秀の末裔よ、如水を倒すには……。」
 家康がしゃべることが出来たのはそこまでだった。
 唇の動きが静かに止まるとその体の生命の活動も停止した。天下を動かすほどの、
いや、俺達の世界では天下を取った、その男の大往生だった。




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