#1177/3137 空中分解2
★タイトル (ENB ) 91/ 9/16 22:40 (156)
がんばれ美由紀ちゃん−大坂秋の陣−(6) かきちゃん
★内容
6.遠くて近きはダンジョンの中
俺達は徳川軍(と彼らは言っていた)の本陣に連れられてきた。前方に巨大な城郭
が見える。大阪城だそうだ。
ここに連れられてくる途中、美由紀の父親が美由紀が持っていた超能力を見て、
「それはわが本多家に代々伝わる超能力です。」
「本多家?」
俺は聞き返した。
「だってあなたは小林……。」
「お父さんは婿養子だったのよ。」
と美由紀がかわりに答えた。俺は納得して、
「何の超能力なんですか?」
と聞いたが、
「それは使ってみなければわからないのですよ。そして、これを使えるのは本多家
直系の女だけなのです。いい加減な設定と言うか行き当たりばったりと言うか……。」
「と言うと、今は美由紀ちゃんだけということですか?」
小林氏(今は本多氏)はうなずいた。
結局超能力の使い道はわからずじまいだった。
「ほう、そちが忠勝の言っていた光秀の子孫か。」
天幕の中でふんぞり返っていた狸みたいなじいさんが言った。美由紀は、狸じじい
を見て、
「徳川社長!」
などと言ったのを本多氏が制して、
「大御所様にござる。」
と言った。まだきょとんとしている俺達に小林氏は耳打ちした。
「徳川家康公ですよ。」
俺達三人を見て狸じじいは、
「どうも、そち達二人は事情を飲み込んでないようじゃのう。それでは、余が説明
してやろう。」
本多氏は、「ははーっ」と平伏した。ほとんど平べったい。
「余が徳川商事の社長だったのは今から三百八十年後のぱられるわーるどでの事じ
ゃ。」
俺達は素直に、「ぎえ〜っ!」と驚いた。それにしても未来の事を”だった”などと
過去形で言うとは何という狸じじいだ。
「そこの若いの(と俺の方を見て)はあの明智光秀の子孫じゃ。あやつは山崎の合
戦で農民に殺されたように伝えられているが、実はちゃんと逃げ延びていたのじゃな
。そういえば、あの明智小五郎という名探偵もそうじゃな。」
このじじい、しゃべり出したら止まらないようなので、しゃべりたいだけしゃべら
せておくことにした。
「そして、お嬢ちゃん(もちろん美由紀のことだ)、そちの父親はわしの右腕、本
多忠勝殿なのじゃよ。もちろん、余は徳川家康じゃ。」
それからの狸じじいの話はこういうことであった。
ここは慶長十九年、大阪冬の陣のあった年だ。しかし、俺達のいた世界(これを、
今後ワールド1と呼ぶことにしよう)とこの世界(以下ワールド2とする)
では歴史が違っているそうだ。つまり、ワールド1では関ヶ原の戦いでは家康公率い
る東軍が勝利をおさめ、この年、豊臣秀頼の大阪城を包囲したのだが、ワールド2で
は、関ヶ原で東軍が敗れたのだそうだ。
「小早川秀秋が裏切らなかったんじゃよ。あの裏切り物めが!」
などと狸じじいが言っていた。裏切っても裏切らなくてもけっきょくは裏切り物か。
かわいそうというか、自業自得というか、小早川秀秋とは困った人物である。
おじいさん(もちろん毛利元就のこと)がかわいそうだな。
ということで、小早川秀秋は最後まで自陣を動かず、戦闘は膠着状態におちいり二
ヶ月続いた。
「で、天下を取ったのは誰だとお思いかな?」
狸じじいの問いに、
「やっぱり、秀頼公かな?それとも、石田光成……。」
と答えてみたが、正解は全然違っていた。
「黒田如水軒じゃよ。」
「というと、元秀吉の軍師の黒田官兵衛考高ですか?」
「そう、関ヶ原の合戦の間にあのちんば(如水のことである)めは九州を平らげて
攻めのぼってきたのじゃ!」
二ヶ月間の戦闘で疲れきった東西両軍は混乱の極致に陥った。黒田如水は徳川方だ
と思われていたが、まず最初は東軍に襲いかかってきた。仰天した東軍を追い散らし
た後、今度は矛先を西軍に向けた。西軍も簡単に崩れた。
黒田軍は西軍の石田光成、大谷吉継、安国自恵瓊、直江兼次らを討ち取り、関ヶ原
を占拠した。徳川軍は、上田で足止めされていた徳川秀忠と共に江戸に戻った。
こうして、関ヶ原で漁夫の利を得た黒田如水は大阪に入り、大阪城にいた毛利輝元
らを廃して大坂城を手に入れた。
「そして今は豊臣秀頼を傀儡として天下に号令を出しておる。」
関ヶ原から十年余、体勢を整えなおし、黒田如水を倒して天下を掌中にしようと江
戸から軍を発したのだそうだ。
俺はずっと疑問に思っていた事をたずねてみた。
「その状況はわかりましたけど、いったいどうやってあの世界からこの世界にやっ
てきたんですか?」
家康の答えは簡単だった。
「なに、超能力2を使ったんじゃよ。」
「超能力2!?」
俺と美由紀は同時にずっこけた。
「しょせんはドタバタだったんだ……。」
俺はこっそり呟いた。
家康や忠勝は先祖返りだったらしい。それがワールド1に戻らなかったのは、
ワールド1では徳川家康が天下を取っていたからであり、また、歴史に介入すればタ
イム・パラドックスが起こってワールド1が消滅してしまう恐れがあるからである。
しかし、ワールド2では歴史自体がこの慶長十九年までしか進んでいない。従って、
未来が存在していないのだからパラドックスは起こり得ないのである。
よくタイムマシンを使って未来に行くというSFがあるが、それは宇宙創設以来の
全事象の途中に存在しているからできるのである。現在進行中の宇宙の事象は、それ
自体未来の最先端であり、そこから先は未確定、つまり存在していないことになる。
タイム・パラドックスは既に確定してしまった事象について干渉してしまうために、
その時点での物質構造が乱れ、結果として物質自体が不安定になり、ついには消滅し
て歴史はその時点からやり直しということになってしまう。そして、ワールド2のこ
の時代は現在進行中なのである。
20世紀のワールド1にいた家康と忠勝がワールド2に来たことで、ワールド2に
はそれぞれ二人の家康と忠勝になったかというとそうではない。ワールド1からきた
彼らはワールド2の彼らになってしまったのである。肉体は一つだが、その中にワー
ルド1での社長と秘書だったときの記憶とワールド2での戦国武将としての記憶を合
わせ持ったのだ。俺と美由紀は、ワールド2には存在していなかったのだから、ワー
ルド1にいたときのままである。
「それで、その超能力2と言うのは……?」
と俺は聞いてみた。
「時空間テレポートの超能力じゃよ。これを使うと時間、次元、全ての移動ができ
るのじゃ。余は社長室のゴミ箱を通路として使った。その時つい落としてしまったん
じゃが、それを忠勝が拾って自宅のドアを通路にしたんじゃ。」
美由紀の親父が頭をかきながら、
「それが消える前におまえ(もちろん美由紀にむかってだ)達が通ってしまったん
だよ。」
「それじゃあ、その超能力2を使えば元の世界に戻れるのね?」
と美由紀が聞いたが、忠勝はすまなそうに、
「それが、奪われてしまったんだよ。」
「誰にですか?」
「如水の手の物にだ。」
美由紀は俺の方をすまなそうに見ながら、父親に、
「じゃ、じゃあ、如水を倒さない限り元の世界に帰れないってこと?」
「うん、実はそうなんだ。」
忠勝は簡単に認めた。そして、
「如水軒を倒すには”天空の剣”が必要なんだ。そしてそれは……。」
ほとんどRPGの世界になってきた。
「はぁ、本当に小さい穴だなあ。」
大阪城の外郭に開いている小さな穴を俺達は長嶋一茂、じゃなかったしげしげと見
つめていた。小さな穴といっても忠勝が言っていたように小柄な美由紀ならば(14
8センチ、4?キロ)何とかもぐりこめそうだった。
とうとうダンジョン攻略ということになってしまった。徳川隊の物見と一緒に”天
空の剣”が眠るという洞窟(と言っていいのだろうか?)にやって来たのだが、俺が
入るのは不可能な大きさなので、美由紀一人に任せることになってしまう。
美由紀は頭から穴にもぐっていった。ちょうど猫が興奮して全身の毛を逆立ててい
るようなかっこうである。俺は”ぱん”と手を打ち、Vサインをして、さらにOKマ
ークを出し、最後に遠くを眺めるような格好でおでこに手を当てた。
”ぱん・つう・まる・みえ”であった。美由紀は「よっこらしょっと」と女子高生
らしからぬかけ声とともに穴の中に消えていった。
俺と物見隊は見張りしかすることがない。しかし、如水の軍隊がいつ攻めて来るか
わからないので一時たりとも気を抜けない。それに、美由紀が戻って来るのが遅かっ
たり、中から悲鳴が聞こえたりしたときは穴を無理やり広げて助けに行くことになっ
ている。
そんなはでなことをしたら如水の軍隊が攻めて来る可能性が大きいが、そんなこと
や”天空の剣”なんかより美由紀の方が90億倍も大事だ。
それにしても俺は美由紀が豪快に心配だった。穴の中がどうなっているのかまった
くわからないのだ。美由紀は一応、忠勝の脇差しを持ってはいたが、ダンジョンの定
石通り恐ろしい魔物がいたら……。それを考えていたらいても立ってもいられない。
美由紀が穴に入って一分ほど経ったところだろうか、心配でぼーっとしていた俺の
肩を誰かが”つん”とつっついたので、
「しぇ〜っ!」
と思わずイヤミ先生をして飛び上がった。しかし、歯は出てこない。
「み、美由紀ちゃん!」
俺の肩をつっついたのは美由紀であった。美由紀はにこにこしながら俺に一本の剣
を差しだした。
「こ、これはまさしく”天空の剣”。」
俺はすぐにわかった。ドラゴン・クエスト4公式ガイドブック下巻/知識編に載っ
ていたのとそっくりだった。
「穴に入ったら目の前にあったの。」
そう、”遠くて近きはダンジョンの中”だったのである。
アーメン。