AWC お題>ミルフィーユ     永山


        
#1165/3137 空中分解2
★タイトル (AZA     )  91/ 9/10   7:34  (115)
お題>ミルフィーユ     永山
★内容
 今回のお題がミルフィーユと知らされたとき、私の頭に浮かんだのは「フィ
ーメンニンは謳う」なる漫画に出てくるミルッヒって言う女の子。お題出題者
が言っているように、それほどにこれは女の子の名前を想起させる音を持って
いるらしい。                アンドロギュヌス
 てことで、女であれ男であれ両性具有者であれ無性者であれ「第三の性」人
であれ、名前にするのは止そうと決めた。
 では何とするか。植物の方は活用しにくいから、とりあえず(ここで大きく
話はそれるが、鳥瞰図という文字を初めて見たとき私は「おお、とりあえずっ
てこんな字を書くのか」と早合点しました)、お菓子の方で行くとしよう。
 問題は、私はミルフィーユを食べたことがない。食べたことはあるかもしれ
ないが、それがミルフィーユだと意識して食べたことはない、という事実。
 んじゃ金を払って食ってみるかとなり、暑いさなか自転車コギコギ、店を訪
ねた。
一件目 「一ヶ月前まで置いてたんですけどねえ」
 このくらいでくじけない。
二件目 「うちにはありません」
 そうですか。
三件目 「は? そういうのはないですねえ」
 不勉強ではないか。
四件目 「うちはパン専門店です!」
 怒らんでもええやんか。
五件目 「メーカーさんによって違いましてね。うちではこういうのをミルフ
   ィーユって言うんです」
 そう言われて、ちょっと変わったロールケーキみたいなのを差し出されてし
まった。三千円払う気はなかったので断わる。
 困った。街の菓子屋はみんなあたったつもりだが、どこにもない。
 仕方ないので、せめてどんな形状のお菓子なのかを見ておこうと思い、書店
に走る。何冊もお菓子作りの本を見た挙げ句、最後の最後で見つかった。これ
はまさに最後の最後であり、その本に載ってなかったら他の書店に行かねばな
らなかったのだ。
 で、値段を見る。¥670(税抜き¥650)とある。そこの書店は良心的
で、ちゃんと消費税を計算してくれるのだ。よって669円にて買えた。
 折角作り方が載っている本を買ってきたんだから、小説の主人公にも作らせ
てみたくなる。
 では主人公は女がいいか男がいいか? 女が菓子を作るというのは、(一応)
当り前に過ぎるようだ。ここは男にしてみよう。
 誰でもいいけど、ここは本山永矢としておく。彼に作ってもらおう。

 まず材料を買い集めないといけない。小麦粉ある、バターある、塩ある、氷
水すぐにできる、バター……え? 二回もバターが出てきたぞ。お、よく見た
ら片方は無塩バターだ。……でも、塩がいるってのはどういうことだろ? ま
っいいか。あと、生クリームに砂糖に粉砂糖。うん、揃えた。
 下準備とある。塩は氷水に溶かす? それなら温いときに溶かしとけばよか
った。バターは粉に混ぜる無塩と、生地に折り込む有塩を用意か。なるほど、
謎が解けた。生地をのばすときは、とり粉をふった大理石板、または冷たい台
の上で作業しろだって。とり粉ってのがないから、冷たい台でするか。
 いよいよ本番。ボウルで、中央をくぼませ柔らかめの無塩バターを切り混ぜ、
氷水を入れてさらにかき混ぜる。しっとりしたら手で掴むように練り、四角く
平にまとめる。その上部に切込みを入れ、ラップで包む。これを冷蔵庫で冷や
す。……む? どの程度冷やせばいいか書いてないぞ。ま、適当でいいだろ。
んで、生地を台にのせて中央が少し厚めになるように四方へのばす。写真を見
るとラップはとってあるよな。ふん、台って、下準備の冷たい台のことだよな。
その中央に柔らかくこねた有塩バターをのせ、四辺をバターにかぶせるように
包み、二十〜三十分間、冷蔵庫で冷やす。見ろ、こっちは時間が記してある。
それから冷やした生地を裏返し、めん棒で叩き延ばす。めん棒ってまさか、綿
棒じゃないよな。麺棒なんかないぞ。しゃーない、すりこぎで代用しよう。二
十×三十五センチくらいまで生地をのばす、か。それを三つ折りし、さらに三
つ折りする。それで、生地に指あとをつけて何回折り畳んだかを記憶し、また
二十分間冷蔵庫に入れる。これを全体で六回繰り返し、一晩冷蔵庫で冷やす、
だと?そんなにかかるのか? じゃ、一眠りできるぞ。

 さあて、今日は一気に作ろう。まず、冷蔵庫から取り出した生地を半分に切
り、薄くのばす。二十×二十五センチくらいにのばし、定規をあてて長方形二
枚を切り出すって。定規定規……。うん、物差しでいいだろ。天板にのせ、一
端冷やしてから空気穴を開ける。空気穴ってのは写真を見ると、フォークで開
けるらしい。チョコンんチョコんと。こいつをオーブンで焼く。220度Cね。
はいはい。むむ? また時間が書いてない! これはオーブンの前を離れる訳
にいかなくなったぞ。くそっ、なるべく下らない本を読んで、オーブンの前に
陣取るか。
 おっ、焼けたみたいだ。えーっと、焼けたら金網にとって冷まし、周りを切
りそろえる。生クリームとク、クレ。何じゃこりゃ。クレーム・パティシェー
ルってのを作っとかんといかんらしい。文字通り、クレームをつけたいぞ!
 このクレーム何たらってのは、22ページに作り方があるらしい。どれどれ
……。ほほう。イギリス式とフランス式があって、前者は全卵、後者は黄卵を
使うらしい。むむ、よく見ると、イギリス式のクレーム何たらってのはカスタ
ードクリームのことらしい。これなら市販品があるぞ。ま、いいか。卵を分け
るのも面倒だし、ここは一つイギリス式で行ってみよう。
 えー、ボウルに卵をとり、少しずつ砂糖を加えながら白っぽくなるまでよく
混ぜる、か。……これが……仲々……白くならんじゃないか! この写真から
すると、そんなに白くならなくていいみたいだな。よし、ここいらで妥協しよ
う。で、ふるった小麦粉と塩を入れてよく混ぜ、熱した牛乳を少しずつ入れて
かき混ぜ、鍋に移すと。弱火にかけ、絶えずかき混ぜながら火を通し、沸騰し
てからさらに二〜三分練ったところで火からおろす。……? キルシュとか言
うのとバニラエッセンスを買ってこなくちゃならん。
 えーーっと、キルシュにバニラエッセンしゅを……エッセンしゅだって。よ
だれが出てきたかな。エッセンスと有塩バターを混ぜると。人肌ほどに冷めて
から、さらによく練る。ん、できた。
 やっとここまで来た。焼けた生地に生クリームとクレーム・パティシェール
を塗って二枚重ねる。側面にも生クリームを塗り、刻んだ生地のきりくずをま
ぶした上に、粉砂糖をふる。これで完成を見た訳だ。

 こうして本山君にミルフィーユを作らせた訳だが、ここで困った。作ったか
らには当然、食べるべきだ。が、私はこのお菓子の味を知らない。完成したの
をテーブルに運ぶ途中、ひっくり返させてもいいのだが、それじゃ面白くない。
ここはやはり、食わないと駄目だ。
 が、前記したような状況で、すぐにミルフィーユを口にできそうもない。そ
こで私は、ロッテから出ている「ガドーミルフィーユ」なるお菓子で間に合わ
せることにした。いちごとブルーベリー味があるみたいだが、ノーマルないち
ごを選ぶ。
 ついにミルフィーユを、まがりなりにも食うとあいなった。箱を開けると、
一つ々々包装してあった。親切パッケージってか。小袋を開けると、ただのパ
イみたいなのが姿を現した。やや厚めかな? 一口噛むと、さっくりと崩れて、
粉が散った。味は当然ながらいちごクリーム。まあ、繊細なパイと言えなくも
ない。しかし、この菓子の二枚目の部分に指を突っ込むのは、かなりの困難を
伴いそうだ。いくら大きなミルフィーユでも、死ぬ間際の人間なら、菓子をぐ
ちゃぐちゃに潰してしまうことだろう。
 と、他人の作品はさておき、自分のだ。ここまでしながら、いいアイディア
が浮かばない。ミルフィーユのパイのひっつき具合いを、虚実の皮膜に例えよ
うかと思ったが、長くなりそうなので止めてしまった。
 しゃあない。ここは本山君に菓子をひっくり返してもらい、オチとしよう。

 どひゃ! 何だよ、俺、何にもつまずいてないぜ! うーむ、こうして落ち
たのを見ると、黄色いゴキブリホイホイと言えなくもない……。

−おしまい




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