#1126/3137 空中分解2
★タイトル (GSA ) 91/ 8/23 8:12 (102)
派遣前の出来事(15) ハロルド
★内容
○ 同・病院・外
先ほどの女が病院の門から出てくる。顔は帽子を深々
とかぶっているので見えない。女、病院から出てきて
病院の方を振り返って顔を上げると、それは白田夏枝
の顔。夏枝、病院の方をずっと見つめているが、やが
て街の方へ歩き出す。その姿を病院の門の前に立って
いる北室進悟が見送っている。北室、視線を再び夏枝
から病院の方へ戻す。そこへ佇んで煙草を吸い続ける
北室。
○ 某駅前(夜)
北室が煙草を吸いながらそこに佇んでいる。北室が視
線を駅の方へやると、そこに真知子の姿。
北 室「(無表情)来たか」
真知子「(微笑んで)……ええ、……来たわ」
二人、沈黙。
北 室「(話難そうに)阿倍野の容体はどう?」
真知子「全治二週間。安静が必要だけど傷は大したことはないって
……」
北 室「……そうか……よかった」
再び、沈黙。
北 室「またこれからも看病を?」
真知子「ええ……」
北 室「そうか」
真知子「今日は阿倍野さんをたすけてくれたお礼をいいに来たの」
北 室「あいつのことで君がお礼をいうのか?」
真知子「……」
北 室「…自分勝手なようだけど…もう一度考え直してくれないか。
俺と一緒にアメリカへ来てくれ」
真知子、首を横に振る。
北 室「真知子……」
真知子「貴方ってアメリカみたいな人よね」
北 室「……」
真知子「生きていくのに誰の力も必要ない。一人で生きていける。
人に自分の考え方を押しつけて絶対に曲げようとしない」
北 室「別にそんなことはないさ。俺にはお前が必要なんだ」
真知子「私はそんな貴方の強さに今までひかれてきたけど、今の私
にはお互いにたすけあって生きていく人間が必要なんだっ
てわかったの。その方が性に合ってるんだって悟ったのよ」
北 室「お前は怪我人に同情してるだけだろう。そんなのは本当の
愛じゃない」
真知子、呆れ顔で北室の顔を見る。
真知子「貴方には私達なんかよりこれからもっと大変な人生を送る
人だと思うの。でもそれは貴方一人でやっていってほしい
のよ。私にはついていく自信がないの」
北 室「……」
真知子「貴方は将来絶対に凄い成功をすると思うわ。それに貴方は
私とするよりもっと幸せな結婚をする人だとも思う」
北 室「(苦笑して)本当にそう思ってるのか」
真知子「貴方のその堂々とした正面をみるとそれが見えてくるみた
い」
北 室「よせよ。ばかばかしい」
真知子「私は貴方の後ろ姿しか似ていない人についていく事にした
けど……でも大丈夫。心配しないで」
北 室「まるで嫁にいく前の俺の娘みたいな言い方だな」
二人、笑う。
北 室「これでおさらば?」
真知子、頷く。
北 室「そうか……」
真知子「ごめんなさい」
北 室「……いいんだ」
二人、沈黙。夜の街はネオンや車のヘッドライトで輝
いている。
真知子「……結局こうなっちゃったわね」
北 室「本当にな」
真知子「私達、長かったわね」
北 室「これからの方が長いさ」
真知子「そうよね……きっとそう」
二人、見つめ合う。
真知子「それじゃあ」
北 室「……ああ」
真知子「また会うことがあるかもしれないけど……」
北 室「けど……なんだ?」
真知子「その時には、いい友達になれてるわよ、私達」
北 室「(微笑み)そうだな」
真知子「頑張って」
北 室「君も」
真知子、去って行く。北室、その姿をいつまでも見送
っている。途中で真知子、振り返り北室に手を振る。
北室、軽く手を振りかえす。真知子、雑踏の中にまぎ
れ、やがて見えなくなる。
○ 歩道橋(夜)
北室、車のヘッドライトの洪水の中にいる。しばらく
考え事をしているが、やがてとぼとぼと歩き出す。