AWC             派遣前の出来事(13) ハロルド


        
#1124/3137 空中分解2
★タイトル (GSA     )  91/ 8/23   8: 6  (166)
            派遣前の出来事(13) ハロルド
★内容
○ 今内商事・オフィス内
      時計が正午を指している。阿倍野の机に北室が詰めよ
      る。

北 室「(険しい表情で阿倍野に)話がある」

○ 同・屋上
      北室と阿倍野が話している。

阿倍野「あんまりいい話じゃなさそうだな」
北 室「お前、本当に真知子と付き合う気があるのか?」
阿倍野「ああ、何故だ?」
北 室「本気で真知子を愛してるんだろうな」
阿倍野「そうだよ! 何故だ!」
北 室「じゃあなんでまた白田夏枝と会ったりするんだ!」
阿倍野「(驚く)なんで……お前がその名前を知ってるんだ?」
北 室「この前のお前みたいにあてずっぽうだと思うか?」
阿倍野「…………」
北 室「俺は真知子と付き合うんだったら前の恋人とはきっぱり清
    算しろと何回も言ったよな」
阿倍野「(険しい表情)ああ、だからそうする為に会いに行ってた
    んだよ!」
北 室「へえ、別れ話をするのに夕方から呼び出して夜中の十二時
    過ぎまで彼女を引き留めたのか?」

      阿倍野、信じられないっと言った顔で北室を見る。

阿倍野「何でそんな事まで……」
北 室「とにかくもうこれ以上お前が浮気をしながら真知子と付き
    合っていくのを黙って見てられないよ」
阿倍野「どうする気だ?」
北 室「……真知子に話す」

      二人、沈黙。

阿倍野「(開き直り)分かったよ。じゃあ勝手にそうすればいいだ
    ろう」
北 室「……阿倍野」
阿倍野「なんだかんだ言いながらも結局お前も真知子さんとよりを
    戻したいんだろう?」
北 室「勘違いするな。お前みたいな甘ったれ屋のゲス野郎とは突
    き合わせたくないだけだ」
阿倍野「(険しい表情)言ってくれるじゃないか」
北 室「言われて悔しかったらもっときっちりしたらどうだ?」

      北室、阿倍野の襟首を掴む。阿倍野、自嘲的に笑う。

阿倍野「俺だって決めれるものだったら決めたいよ」
北 室「じゃあ何故決めない?」
阿倍野「真知子さんが俺についてきてくれるとは限らないしな……」
北 室「何言ってるんだ。現にお前は真知子と付き合ってるじゃな
    いか」
阿倍野「だけどやっぱり真知子さんはお前の事が忘れられないみた
    いだぜ」
北 室「…………」
阿倍野「真知子さんの為に俺が夏枝と別れる。しかし真知子さんは
    まだお前に未練があっって二人はよりを戻す。結局は俺が
    夏枝と別れるだけで終わるってわけだよ」

      北室、阿倍野を離す。

北 室「お前は根性無しすぎるぜ」
阿倍野「はっきり言ってお前が憎い。お前がこの世にいなければど
    んなにいいか……」

      二人、沈黙。阿倍野、屋上のフェンスに肘を掛け、風
      景を眺める。北室、何か考えている。

北 室「……俺がこの世からいなくなるのは無理だよ。……だが少
    なくともこの日本の国からいなくなる事は出来るよ」
阿倍野「なんだって?」

○ ジャズクラブ・ソールトレイン
     北室がカウンターでマスターの川原と話している。

川 原「それでお前さんがサンディエゴに派遣されるって事を言っ
    たのかい?」
北 室「ああ」
川 原「それでその事を真知子さんにも話に行くのかい?」
北 室「そうだ」
川 原「彼女はどう言うかな?」
北 室「あいつは何もいいやしないよ。あいつプライドの高い女だ。
    自分から復縁話をもちかけたりはしない。絶対に」
川 原「まあそれはそうだろうけど」
北 室「今度久々に俺と会って、俺の口から復縁話が出るのをあい
    つは待ってる。でもそこで俺がアメリカに行くって話をし
    たら、俺の心はあいつにはないんだと完璧に悟るだろう。
    俺の事は諦めて阿倍野とうまくやっていく筈さ」
川 原「……それで出来るのかい?」
北 室「(キョトンとして)何がだい?」
川 原「だからだ……ちゃんとアメリカへ行くって事を言ってだ…
    …ちゃんとお別れして来れるかって事だよ」
北 室「(怒って)人の話をどういうふうに聞いてたんだい!」
川 原「お前さんの気持ちはどうなんだい?」
北 室「……俺の気持ちがどうだってんだ」
川 原「……別れた女に未練はないのか?」
北 室「何を言うかと思ったら……」
川 原「どうなんだ?」
北 室「……ないね」
川 原「……そうか」

      川原、皿を洗い始める。

北 室「マスター、俺は一度別れた女とやり直そうなんてこれっぽ
    っちも思っちゃいねえよ。俺にとって一番大事なのは真知
    子の事じゃねえ。俺自身のこれからの事さ」
川 原「ほほう」
北 室「別れた女とやり直したいなんて一人じゃ生きて行けない弱
    い人間の言う事だよ」
川 原「大層な御講釈だな」
北 室「でも俺は違う。俺は自分が強い人間だって事がわかってる
    からな。一人でも十分生きて行けるんだよ。そうなんだよ!」

○ ある喫茶店(夕方)
      真知子が先に来ている。そこへ北室がやってくる。

真知子「久しぶりね」
北 室「久しぶりだな」
真知子「阿倍野さんが話を聞いてこいって言ったからきたんだけど
    ……」
北 室「大事な話なんだ」
真知子「なんなの?」
北 室「俺にとって念願の日がやってきたんだ」
真知子「何?」
北 室「いよいよ、俺はアメリカに出発する」

      真知子、ショックを受けた表情。

真知子「(驚き)本当に!」
北 室「サンディエゴで人材が一人欠けたんだ。 俺が代わりに行
    く事になった」
真知子「(動揺している)そ、そう、そうなの……」

      真知子、少し目が涙に潤んできている。北室もそれを
      見て、険しい表情。

真知子「よかったじゃない。アメリカ行きは貴方の念願だったもの
    ね……」

      真知子、ますます目が潤む。北室、真剣な表情でそれ
      を見守っている。

真知子「そう……そうなの……それで今日はさよならを言いに来た
    のね。永遠のさよならを……」
北 室「…………違う……」
真知子「違うって?」
北 室「……俺と一緒についてきて欲しいんだ」

      北室、自分の言葉に自分で驚いている。

真知子「(驚き)本気で言ってるの?」
北 室「本気だ」
真知子「……貴方って……勝手すぎるわ」
北 室「ついこの前までは自分を偽って君を愛してきた。今では自
    分を偽って君と別れてる」
真知子「もっと早く聞きたかった……」
北 室「今からでもまだ間に合う」
真知子「無茶よ」
北 室「阿倍野の事は俺がなんとかする。後は君が正直な気持ちを
    聞かせてくれればいい」
真知子「駄目よ 私達もう終わったのよ」

      北室、真知子の手を握る。

北 室「お前次第だ」





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