#1123/3137 空中分解2
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派遣前の出来事(12) ハロルド
★内容
○ 同・外・(夜)
春美が北室が出てくるのを待っている。そこへ小さな
女の子を連れた親子三人連れがやってくる。親子はと
ても幸せそうで、手をつないで楽しく笑っている。春
美、それを羨望と悲哀が混ざった表情で見て、ため息
をつく。そこへ北室が出てきて春美を見るとその状況
に気付き、同じようにため息をつく。北室、悲しみに
うなだれている春美をしばらく見ているが、やがて春
美のそばに歩み寄り、春美の肩に優しく手をかけてや
る。春美、北室の方を向く。北室、春美を元気づけよ
うと微笑む。二人、しばらく見つめ会っているが、や
がて正面を向いて歩き出す。
○ 白田家・外観(夜)
春美の家の前でタクシーが止まる。そこから北室が先
に降りて、先に乗った春美を降ろしてやる。
北 室「ここがお前さんの家か。いい家じゃないか」
春美、無言のまま、うつむいている。その春美の肩に
手をかけてやる。
北 室「大丈夫かい?」
春美、うなずく。
北 室「……まあ、気をしっかり持ってな」
春美、顔を上げ、北室を見つめる。
北 室「それじゃあここで……」
春 美「北室さん」
北室、きょとんとして春美を見る。
春 美「本当に申し訳ありませんでした」
北室、微笑む。
北室「もう馬鹿な真似はするなよ」
春美、うなずき、名残惜しそうにまだそこに佇んで北
室を見つめている。
北 室「さあ、もう行って」
春美、仕方なさそうにゆっくりと玄関に入っていく。
北 室「何か話したい事があったらさっき渡した名刺に住所と電話
番号が書いてある。電話なり手紙なりよこしな。いつでも
相談にのるよ」
春 美「(泣き顔と微笑みが混ざった表情)……はい」
北室、春美が中に入って行くのを見届けようとしてい
る。春美、それに気付いてドアに向かう。北室、それ
を見届けてからタクシーに乗り込み、タクシー、走り
去ってゆく。春美、ドアから玄関の門まで引き返し、
北室を乗せたタクシーを見えなくなるまでいつまでも
見送っている。
○ 某高級ホテル・ロビー
前に夏枝と阿倍野が待ち合わせたホテル。夏枝が先に
来ていて腕時計をチラと見る。正面玄関から阿倍野が
花束を持ってやってくる。
夏 枝「遅かったのね」
阿倍野「…………」
夏 枝「(阿倍野の花束を見て)それにこれはポインセチアじゃな
いわ。また違う花を買ってきたりして……。これはシクラ
メンじゃないの。私が言ったのはポインセチア! ポイン
セチアよ。……どうしたの?」
阿倍野、無表情で黙っている。
○ 同・客室内
ダブルベッドで阿倍野と夏枝が裸のまま並んで横たわ
っている。
阿倍野「いよいよ別れなきゃならなくなった」
夏 枝「…………」
阿倍野「もう終わりにしよう」
夏 枝「この前もそう言ったじゃないの」
阿倍野「今度こそはもうけじめをつけようと思う」
夏 枝「言っておくけど本当にそう決めたのなら私達、これから絶
対会っちゃいけないのよ」
阿倍野「わかってますよ」
夏 枝「本当にそうかしら? 本来なら私達もうとっくに別れてな
きゃならないのよ。それなのにこうして会ってるじゃない
の」
阿倍野「…………」
夏 枝「私はいいのよ。別れてあげるわ。私には主人がいるもの。
貴方だってこんなおばあちゃんといつまでも一緒にいるわ
けにはいかないでしょ」
阿倍野「別にそんな事……」
夏 枝「私が恐いのはね、私が元通りの家族になった時、また貴方
が私の生活の中に入ってくる事。それが一番恐いのよ。一
度直りかけた傷がまた抉られたりしたら、もう二度と修復
不可能になるわ」
阿倍野「僕が傷をつけてるって言うんですか」
夏 枝「言葉の綾でしょ。とにかく別れるんだったら本気で別れて
ほしいの。貴方がもう私に会わないんだったら私から貴方
に会いに行ったり連絡したりする事はないわ。絶対に」
阿倍野「…………」
夏 枝「はっきりして。貴方男でしょ? 私達本当に別れるの。別
れないの? 決めるのは貴方よ」
阿倍野「…………」
夏 枝「貴方が決めて。私達、どうするのか?」
○ 北室の部屋
北室、ベッドに横たわっている。そこへ電話の呼出音
が鳴り、北室、受話器をとる。
北 室「もしもし、北室ですが」
電話の春美の声「もしもし、あの……私、白田という者ですけど…
…」
北 室「春美ちゃんか?」
春美の声「はい!」
北 室「北室だ。よく電話くれたね」
春美の声「(悲しそうな声で)どうしてもお話したくなっちゃって
……」
北 室「(険しい表情)どうかしたのか?」
○ 白田家・ダイニングキッチン
春美が受話器を握りしめて半泣きになっている。
春 美「ママがまたあの阿倍野という人に会ってるんです」
北室の声「それは確かなのか?」
春 美「ええ」
北室の声「お前さんの思い過ごしとかじゃないんだね?」
春 美「ママがまた電話で呼び出されたのを聞いたんです。間違い
ありません」
北室の声「全くなんてこった……」
春 美「ママは電話を切ったら夕方から出かけて行ってまだ帰って
こないんです」
北室の声「大丈夫か?」
春 美「私、もうどうしていいかわからない」
春美、泣き出す。
北室の声「気をしっかり持つんだ、春美ちゃん」
○ 北室の部屋
北 室「(受話器に)お前さんが泣いたって始まらないだろう。と
にかく落ちつきな」
春美の声「私どうすればいいの?」
北 室「お前さんはただお前さんが本当にやらなければならない事
をしてればいいのさ」
春美の声「それって学校の勉強の事?」
北 室「勉強だってなんだっていいさ。とにかくあまり思い詰める
な」
春美の声「そんなの無理です」
北 室「例え今自分が苦しくてもそのエネルギーを何か他の事にぶ
つける事によって報われるんだよ。……そしてお前さんの
想いがいつかお袋さんに通じてきっとわかってくれる時が
来るはずさ」
春美の声「でもママは……」
北 室「あのバーのマスターも言ってたろう……お母さんにはお母
さんの人生があるさ。厳しい言い方だけどお母さんの人生
を変えるのにお前さんがしてやれる事は何もないんだ」
春美の声「何も出来ないの?」
北 室「ああ、それは神のみぞ知る所さ」
○ 白田家・ダイニングキッチン
春 美「神様?」
北室の声「ああ、俺はそんなもん信じちゃいないけどな……」
春美、泣きながら笑う。
北室の声「でもお前さんは信じてな。その内何とかなる筈だよ」
春 美「……本当にそうかしら?」
○ 北室の部屋
北 室「大丈夫。何とかなる。何とか……」