AWC            派遣前の出来事(12) ハロルド


        
#1123/3137 空中分解2
★タイトル (GSA     )  91/ 8/23   8: 2  (171)
           派遣前の出来事(12) ハロルド
★内容
○ 同・外・(夜)
      春美が北室が出てくるのを待っている。そこへ小さな
      女の子を連れた親子三人連れがやってくる。親子はと
      ても幸せそうで、手をつないで楽しく笑っている。春
      美、それを羨望と悲哀が混ざった表情で見て、ため息
      をつく。そこへ北室が出てきて春美を見るとその状況
      に気付き、同じようにため息をつく。北室、悲しみに
      うなだれている春美をしばらく見ているが、やがて春
      美のそばに歩み寄り、春美の肩に優しく手をかけてや
      る。春美、北室の方を向く。北室、春美を元気づけよ
      うと微笑む。二人、しばらく見つめ会っているが、や
      がて正面を向いて歩き出す。

○ 白田家・外観(夜)
      春美の家の前でタクシーが止まる。そこから北室が先
      に降りて、先に乗った春美を降ろしてやる。

北 室「ここがお前さんの家か。いい家じゃないか」

      春美、無言のまま、うつむいている。その春美の肩に
      手をかけてやる。

北 室「大丈夫かい?」

      春美、うなずく。

北 室「……まあ、気をしっかり持ってな」

      春美、顔を上げ、北室を見つめる。

北 室「それじゃあここで……」
春 美「北室さん」

      北室、きょとんとして春美を見る。

春 美「本当に申し訳ありませんでした」

      北室、微笑む。
北室「もう馬鹿な真似はするなよ」

      春美、うなずき、名残惜しそうにまだそこに佇んで北
      室を見つめている。

北 室「さあ、もう行って」

      春美、仕方なさそうにゆっくりと玄関に入っていく。

北 室「何か話したい事があったらさっき渡した名刺に住所と電話
    番号が書いてある。電話なり手紙なりよこしな。いつでも
    相談にのるよ」
春 美「(泣き顔と微笑みが混ざった表情)……はい」

      北室、春美が中に入って行くのを見届けようとしてい
      る。春美、それに気付いてドアに向かう。北室、それ
      を見届けてからタクシーに乗り込み、タクシー、走り
      去ってゆく。春美、ドアから玄関の門まで引き返し、
      北室を乗せたタクシーを見えなくなるまでいつまでも
      見送っている。

○ 某高級ホテル・ロビー
      前に夏枝と阿倍野が待ち合わせたホテル。夏枝が先に
      来ていて腕時計をチラと見る。正面玄関から阿倍野が
      花束を持ってやってくる。

夏 枝「遅かったのね」
阿倍野「…………」
夏 枝「(阿倍野の花束を見て)それにこれはポインセチアじゃな
    いわ。また違う花を買ってきたりして……。これはシクラ
    メンじゃないの。私が言ったのはポインセチア! ポイン
    セチアよ。……どうしたの?」

      阿倍野、無表情で黙っている。

○ 同・客室内
      ダブルベッドで阿倍野と夏枝が裸のまま並んで横たわ
      っている。
阿倍野「いよいよ別れなきゃならなくなった」
夏 枝「…………」
阿倍野「もう終わりにしよう」
夏 枝「この前もそう言ったじゃないの」
阿倍野「今度こそはもうけじめをつけようと思う」
夏 枝「言っておくけど本当にそう決めたのなら私達、これから絶
    対会っちゃいけないのよ」
阿倍野「わかってますよ」
夏 枝「本当にそうかしら? 本来なら私達もうとっくに別れてな
    きゃならないのよ。それなのにこうして会ってるじゃない
    の」
阿倍野「…………」
夏 枝「私はいいのよ。別れてあげるわ。私には主人がいるもの。
    貴方だってこんなおばあちゃんといつまでも一緒にいるわ
    けにはいかないでしょ」
阿倍野「別にそんな事……」
夏 枝「私が恐いのはね、私が元通りの家族になった時、また貴方
    が私の生活の中に入ってくる事。それが一番恐いのよ。一
    度直りかけた傷がまた抉られたりしたら、もう二度と修復
    不可能になるわ」
阿倍野「僕が傷をつけてるって言うんですか」
夏 枝「言葉の綾でしょ。とにかく別れるんだったら本気で別れて
    ほしいの。貴方がもう私に会わないんだったら私から貴方
    に会いに行ったり連絡したりする事はないわ。絶対に」
阿倍野「…………」
夏 枝「はっきりして。貴方男でしょ? 私達本当に別れるの。別
    れないの? 決めるのは貴方よ」
阿倍野「…………」
夏 枝「貴方が決めて。私達、どうするのか?」

○ 北室の部屋
      北室、ベッドに横たわっている。そこへ電話の呼出音
      が鳴り、北室、受話器をとる。
北 室「もしもし、北室ですが」
電話の春美の声「もしもし、あの……私、白田という者ですけど…
    …」
北 室「春美ちゃんか?」
春美の声「はい!」
北 室「北室だ。よく電話くれたね」
春美の声「(悲しそうな声で)どうしてもお話したくなっちゃって
    ……」
北 室「(険しい表情)どうかしたのか?」

○ 白田家・ダイニングキッチン
      春美が受話器を握りしめて半泣きになっている。

春 美「ママがまたあの阿倍野という人に会ってるんです」
北室の声「それは確かなのか?」
春 美「ええ」
北室の声「お前さんの思い過ごしとかじゃないんだね?」
春 美「ママがまた電話で呼び出されたのを聞いたんです。間違い
    ありません」
北室の声「全くなんてこった……」
春 美「ママは電話を切ったら夕方から出かけて行ってまだ帰って
    こないんです」
北室の声「大丈夫か?」
春 美「私、もうどうしていいかわからない」

      春美、泣き出す。
北室の声「気をしっかり持つんだ、春美ちゃん」

○ 北室の部屋
北 室「(受話器に)お前さんが泣いたって始まらないだろう。と
    にかく落ちつきな」
春美の声「私どうすればいいの?」
北 室「お前さんはただお前さんが本当にやらなければならない事
    をしてればいいのさ」
春美の声「それって学校の勉強の事?」
北 室「勉強だってなんだっていいさ。とにかくあまり思い詰める
    な」
春美の声「そんなの無理です」
北 室「例え今自分が苦しくてもそのエネルギーを何か他の事にぶ
    つける事によって報われるんだよ。……そしてお前さんの
    想いがいつかお袋さんに通じてきっとわかってくれる時が
    来るはずさ」
春美の声「でもママは……」
北 室「あのバーのマスターも言ってたろう……お母さんにはお母
    さんの人生があるさ。厳しい言い方だけどお母さんの人生
    を変えるのにお前さんがしてやれる事は何もないんだ」
春美の声「何も出来ないの?」
北 室「ああ、それは神のみぞ知る所さ」

○ 白田家・ダイニングキッチン
春 美「神様?」
北室の声「ああ、俺はそんなもん信じちゃいないけどな……」

      春美、泣きながら笑う。

北室の声「でもお前さんは信じてな。その内何とかなる筈だよ」
春 美「……本当にそうかしら?」

○ 北室の部屋

北 室「大丈夫。何とかなる。何とか……」





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