AWC          派遣前の出来事(10) ハロルド


        
#1121/3137 空中分解2
★タイトル (GSA     )  91/ 8/23   7:51  (132)
         派遣前の出来事(10) ハロルド
★内容
○ 今内商事・部長室の前
      北室が部長室から出てくる増田と対面する。

増 田「よう北室君。今からの会議でサンディエゴの件は君に任せ
    ようと提案するつもりだ」
北 室「実はその件の事なんですが……」
増 田「何だね?」

      北室、言い難そうにしている。

増 田「まさか辞退するなんて言うんじゃないだろうね?」
北 室「いえ、決してそんな事は……」
増 田「じゃ何だね?」
北 室「……いえ、別になんでもありません」

○ 同・営業三課室内
      北室、自分の机の上で頬杖をついている。そこへ阿倍
      野がコートを脱ぎながら帰って来る。二人、一瞬目を
      合わすが、すぐにそらす。

○ 同・外
      春美、寒い中を佇んでいる。

○ 同・営業三課室内・数時間後
      時計が五時をまわり、社員の何人かは帰宅の準備。阿
      倍野、椅子にコートをかけたまま、オフィスを出る。

○ 同・外
      春美、まだそこに佇んでいる。何気なくビルの入り口
      の反対方向の方を見るとそこに小さな女の子を連れた
      親子三人連れが見える。親子はとても幸せそうで楽し
      く笑っている。春美、それを羨望と悲哀の混ざった表
      情で見ながらため息をつく。春美が親子に気を取られ
      ている間に阿倍野、入り口から出てきて通りの向こう
      に消える。春美は全く気付く様子がない。

○ 同・営業三課室内
      青田直子が窓の外を見る。

直 子「雨かしら?」
北 室「(窓までやってきて)雨が振ってきてるのかい?」

      北室、窓の外を見る。

北 室「霧雨程度だ」
直 子「北室さん、傘持ってきました?」
北 室「こんな小雨じゃあ降ってる内に入らないよ」
直 子「でも寒いし、濡れると風邪をひきますよ」
北 室「大げさだな」
直 子「あれは阿倍野さんのコートかしら?」

      直子、阿倍野の机のコートを取りにいく。

直 子「北室さん、このコート借りていっちゃえば? 阿倍野さん
    はもう帰っちゃったみたいだし」
北 室「別にいいよ」
直 子「駄目駄目、最近悪い風邪が流行ってるんだから」

      直子、北室に無理にコートを着させる。

直 子「北室さんて白も似合ってるのね」
北 室「勝手に借りていっていいのかな?」
直 子「明日の朝に返しておけば大丈夫よ」
北 室「それじゃあ着て帰るよ。また明日」

○ 同・外(小雨)
      春美、寒くて震えながら、まだ佇んでいる。そこへ阿
      倍野のコートを着た北室が出て来て、通りの向こうへ
      行く。春美、振り返り、阿倍野の後ろ姿とそっくりな
      北室のそれを見る。春美、その後を尾ける。広い道路
      では距離を於いている。北室と春美、しばらく歩き続
      ける。やがて北室、裏通りの狭い道を歩く。春美、恐
      怖の表情で鞄の中のナイフを握り締める。北室と春美
      の間隔、段々狭まっていく。春美、足音をたてないよ
      うにして近づいていく。北室のま後ろに来て春美、ナ
      イフを構える。その時学生鞄の鈴の音がちゃりんとな
      り、北室、その音で振り返る。春美、その顔が阿倍野
      でなく、北室であるのを知り、驚きの表情。あまりの
      驚きにナイフを落とし、学生鞄も落としてしまう。北
      室、その姿を見て呆然としている。春美、半泣きにな
      りながらワナワナ震えだし、鞄のみを拾ってその場を
      逃げ出す。

北 室「おい。お前さんは!……」

      北室、地面を見おろすとそこに封書がある。北室、そ
      れを拾って、少女の去る方向を少し見て険しい表情を
      し、意を決して、封を破り、中の手紙を読む。北室の
      表情、青ざめる。

○ 街中
      北室、あちこち走り回り、春美を探している。

春美のN「パパとママへ 恐らくこの手紙が読まれている頃には私
    は死んでいるでしょう。私はいつも二人が仲直りするのを
    願ってきました。でもパパは仕事ばかりでママには無関心、
    ママはその寂しさから、愛情を他の男の人に向けるように
    なりました」

      北室、高い高層ビルを見上げる。

春美のN「私は何度も二人に別れないようお願いしました。しかし
    二人ともお互いへの拘りから許そうとしません。私は二人
    の不仲から将来を悲観するようになりました。そしてとう
    とう自ら命を絶とうと決心したのです。私は小さい頃、三
    人でよく買い物に行ったあの時だけを記憶を胸にとどめな
    がら死にたいと思います」

      北室、春美を捜すあまり車道から飛び出し、車にひか
      れかける。

春美のN「死ぬ前に何か二人にしてやれる事はないかと考えました。
    それは二人の喧嘩の原因になってるあの阿倍野という人を
    道連れにする事です。私とその人が旅立った後はどうぞ私
    の事など気にせずまた前のような家庭、新しい幸せな家庭
    を二人で築いていって下さい。さようなら。白田春美」

      北室、どこを捜しても春美を見つけられない。途方に
      くれる。その時遠くから列車の音がする。

○ 歩道橋
      下には電車の軌道がある。そこに春美が佇んでいる。
      遠くから列車がやってくる。春美、息を飲む。列車、
      近づいてくる。列車、真下まで来た時、春美、身を乗
      り出す。上半身が降りかけた時、突然背中の服の生地
      を掴む手がある。春美、北室に引き戻されている。春
      美、北室から離れようともがく。その下を列車が通過
      する。北室、春美を歩道橋の内側まで戻し、春美、泣
      きながらばたばたと暴れる。やがて春美、北室の服を
      掴んで暴れるのを止め、泣きじゃくり始める。北室、
      自分の胸にしっかりと春美を抱きしめる。





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