AWC         派遣前の出来事( 9) ハロルド


        
#1120/3137 空中分解2
★タイトル (GSA     )  91/ 8/23   7:48  (146)
        派遣前の出来事( 9) ハロルド
★内容
○ ジャズクラブ・ソールトレイン(夕方)
      カウンターで川原と北室が話している。

川 原「それでその阿倍野って奴が前のその年上の恋人と会ってた
    ってわけかい」
北 室「あの野郎、きっぱり別れたって言ったのに……」
川 原「とどのつまりは前の女が恋しくなったってことかな。(北
    室を上目使いで見て)まあそういうのはよくある事さ」

      北室、バーボンに集中している。

川 原「でもそれってあんたにとってはチャンスじゃないかい?」

      北室、答えない。

川 原「真知子さんとよりを戻すチャンスなんじゃないのかい?」
北 室「……」
川 原「だってそうだろう。前の恋人と会ってるって事を真知子さ
    んに言ってやればさ、真知子さんと阿倍野は喧嘩して別れ
    る。そうしたらお前さんが真知子さんとまた結ばれるって
    わけさ」
北 室「……」
川 原「……おーい」
北 室「……」
川 原「聞いてるかい!」
北 室「ん? 何だい?」
川 原「……それでお前さん、どうするんだい?」
北 室「このままほっとく訳にもいかないしな」
川 原「ほっとく訳にもいかないってどうするの?」
北 室「直接本人に言うさ。それが一番手っとり早い。それにもう
    現に当の本人にここで会う約束をしているんだ。何もかも
    話してやる」
川 原「ここに来る? 直接本人が? それで何もかもバラすつも
    りなのかい?」
北 室「ああ」
川 原「それはいくら何でもまずいんじゃないかい」
北 室「どうして? 当の本人の一番の問題だろう?」
川 原「そんな……いくら私がさっき言ったからって……」
北 室「真知子の為にも仕方がない」
川 原「何もわざわざ事を荒立てなくてもいいじゃないか」
北 室「事を荒立てようなんて思っちゃいないさ。ただ忠告をして
    やるだけさ」
川 原「お前さんの口からかい?」
北 室「(不思議そうに)そうだよ。他に誰が言うっていうの?」
川 原「あんたが言ってしまったら喧嘩になるに決まってるじゃな
    いか」
北 室「喧嘩なんかする筈ないだろう。理性ある大人同志だ」
川 原「わたしゃあね、お前さんの気持ちはそりゃあわかるよ。た
    だやり方がまずくないかって言ってるんだ」
北 室「何故だい?」
川 原「もしこの事を真知子さんに話してやればそりゃあ、阿倍野
    君と真知子さんの仲はまずくなるさ。でもだからといって
    お前さんとよりを戻せるとは限らないだろう。それにかえ
    って……」
北 室「(不思議そうに)一体何わけがわからないを言ってるんだ
    い?」
川 原「だから! かえって真知子さんがお前さんの事を軽蔑しや
    しないかっていってるんだよ。そんな告げ口みたいな真似
    をして……」
北 室「何か勘違いしてるんじゃないのかい? おっ、来た来た。」
川 原「えっ?」

      川原、入り口を見ると阿倍野がやって来る。

川 原「あー、当の本人て野郎の方か」

      阿倍野、北室の隣に座る。

阿倍野「どうしたんだ。急に呼び出して」
北 室「阿倍野、俺は前に言ったよな。真知子と付き合っていくん
    だったらその前に付き合ってた女とは手を切れってな……」
阿倍野「(動揺する)ああ、それがどうした」
北 室「実はな……俺は偶然見たんだ。お前が前の恋人とホテルで
    会ってる所をな……」

      阿倍野、顔がひきつる。重苦しい沈黙。

阿倍野「……わかったよ。お前の言いたい事よくはわかった。で、
    お前はどうするつもりなんだ?」
北 室「俺は別にどうもしない。ただもう一度前の女と別れるよう
    に忠告するだけさ」

    川原、安心した表情。

阿倍野「……この事は真知子さんには言ったのか?」
北 室「まだだ」
阿倍野「言うつもりなのか?」
北 室「お前さんがこれ以上真知子を裏切るようならね」
阿倍野「…………」
北 室「お前は真面目な男だ。まさか始めから二股かけるつもりで
    真知子と付き合っていこうなんて思ってるわけじゃないだ
    ろう?」
阿倍野「それは……違うよ、もちろん」
北 室「にもかかわらず二股かけるって事は真知子の事も本気で愛
    してないって事だよな」
阿倍野「それは違うよ」
北 室「何が違う?」
阿倍野「本気で愛してないのは俺の方じゃない。彼女の方だ」
北 室「……責任転化するつもりか?」
阿倍野「そうじゃない」
北 室「そうしてるじゃないか」
阿倍野「(じれったそうに)わからないのか?」
北 室「何が?」
阿倍野「(腹立たしく)彼女はまだお前に未練があるって事だよ」

      重苦しい沈黙。

北 室「彼女がそう言ったのか?」
阿倍野「口に出しては言わないさ」
北 室「当て推量を理由に昔の女とまだ付き合い続けるつもりなの
    か」
阿倍野「お前が別れろっていうんなら別れてやるさ。でももし彼女
    の心がやはりお前にあって、お前がそれを利用するような
    事をしてみろ。ただじゃ済まさないぞ」

      阿倍野、席を立って出ていく。阿倍野を見送ってから
      川原、クスクス笑っている。

北 室「(怒って)何がおかしいんだよ」
川 原「いや、なにね。世の中いろいろ偶然てのはあるんだなあと
    思ってね」
北 室「何の事だよ」
川 原「お前さんが阿倍野君の密会の現場をよく偶然に見る事が出
    来たなあってことだよ」

      北室、何か反論しようとして、口を開きかけるが、す
      ぐに悔しそうな表情でムスッとしてしまう。

○ 路上(昼)
      阿倍野、帰社の途中。防寒の為の白いコートを着てい
      る。その遥か後ろからセーラー服姿の白田春美が後を
      尾行している。

○ 今内商事近くの路上
      春美、まだ阿倍野の後ろを尾けてきている。やがて阿
      倍野、会社のビルに入る。そして春美も一緒に入るが
      その中で見失ってしまう。そして中を探すが見つから
      ない。

受付嬢「何か御用ですか?」

      受付嬢の言葉にびっくりし、春美、首を振って出てい
      く。そしてビルから少し離れた物陰から入り口を見張
      る。そして学生鞄の中の一通の封書と登山用のナイフ
      を見る。





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