#1118/3137 空中分解2
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派遣前の出来事( 7) ハロルド
★内容
○ 走行中の自動車内
阿倍野が運転し、真知子が助手席に乗っている。阿倍
野がハンドルを切ると車、ラブホテル・『ロマンス』
のあのネオンサインの立て看板の駐車場に入る。真知
子、愕然とする。
○ ラブホテル『ロマンス』・玄関(夜)
真知子「(ためらって)ここ?」
阿倍野「どうしたの?」
真知子、頭を抱える。
真知子「……ご免なさい。私……やっぱり」
阿倍野「今更どうして?」
真知子、涙ぐむ。阿倍野、ため息。
○ ジャズクラブ・ソールトレイン
北室がグラスの酒を飲み干す。
北 室「あの野郎、ビンタ食らわせやがった」
川 原「(うんざりして)それはもう聞いたよ」
さらに酒を注ぐ。
○ 同・数分後
ボトルの中の酒、さらに減っている。
北 室「マスター、ビンタを食らわせやがったんだぜ、ビンタ!」
静 子「お父さん、お先に」
静子、帰る。
北 室「ビンタだぜ、ビンタ」
○ 同・さらに数分後
一本目のボトルが空になり、二本目のボトルも半分近
く減っている。北室はもうぐてんぐてんになってカウ
ンターにうなだれている。
北 室「うーい、…………ビンタを食らわせやがった」
○ 路上(夜)
北室が川原にビンタを食らわされている。
川 原「おい、しっかりしろ。大丈夫か?」
タクシーがドアを開けて待っている。川原、その中に
正体のなくなった北室を押し込む。
川 原「気をつけてな! 運転手さんに住所は教えといたから」
北 室「うーいっ、あんがと」
北室を乗せたタクシー、走り去っていく。
川 原「やれやれ、別れた女がもう恋しくなりやがった」
○ 北室の部屋(翌朝)
ワンルームマンション。電話の呼出音に北室、起こさ
れる。北室、頭痛に耐えながら電話に出る。
北 室「(受話器に)もしもし」
川原の声「無事に帰れたみたいだな」
北 室「何とかね……。痛ーっ!」
川原の声「大丈夫かい?」
北 室「頭が割れそうだ」
川原の声「そうか。じゃあトイレに行きなさい」
北 室「(怪訝な表情)……腹の調子が悪いんじゃねえぜ」
川原の声「二日酔いで頭が痛くなるっていうのはな今のお前さんに
何か悩みごとがあって、それがお前さんにいたずらを仕掛
ける心の病気なんだ。だからまずトイレに入って、その心
の病を追い出す感じで、思い切り出せば、頭いたは直るし、
お前さんの悩みのほんのちょっぴりは解決に向かう筈さ」
北 室「(うんざりして)只の二日酔いの頭痛にそこまで言うこた
あねえだろう」
川原の声「とにかく言われた通りにやってみな。それじゃあ」
北室、受話器を置く。頭を押さえながらトイレに行く。
○ 今内商事・1Fフロア
北室、頭を押さえながら会社に出る。そして公衆電話
で話している阿倍野を見る。
北室、阿倍野に気付かれないようにしながらそっと近
づき、陰に隠れる。
阿倍野の声「……うん、そうなんだ。今日もう一度会って欲しいん
だ。頼むよ。大丈夫?それじゃあ八時にいつもの所で……」
阿倍野、受話器を置いて北室に気付かず行ってしまう。
北室、阿倍野を険しい表情で見る。
○ 同・営業三課室(夕方)
五時になって社員が帰り仕度を始めている。北室、阿
倍野がいそいそと帰るのを見る。
○ 路上
阿倍野の後を北室が距離をおいて付けている。
○ 電車内
満員電車の中に阿倍野と、そして少し距離を於いて北
室がいる。
○ 路上の花屋
阿倍野、そこで花を選んでいる。
阿倍野「(花屋の娘に)何という花だったかな? ちょっとややこ
しい名前で………」
花屋の娘「フリージアですか?」
阿倍野「そんな名前だったかな? じゃあ取り合えずそれでいいや。
下さい」
それを遠くから見ている北室。
北 室「花? きざな事を……」
○ 某高級ホテル・ロビー
ソファーに阿倍野が腰掛けている。それを遠くの物陰
から北室がみている。北室、ため息をつきながら、拳
で額を叩く。
北 室「(独り言)俺は馬鹿か!」
そして、再び阿倍野の方を見る。女の方はまだ来ない。
北 室「(独り言)もう真知子とは終わったんだろうが。情けない」
再び阿倍野の方を見るが女の方はまだ来ないので北室、
帰ろうとする。
阿倍野の声OFF「やあ!」
阿倍野の声に北室、振り向き、そして驚く。阿倍野の
もとへやってきているのは真知子ではなく阿倍野の元
の恋人の白田夏枝である。北室、怪訝な表情で二人を
見ている。
× × ×
阿倍野「久しぶりだね」
夏 枝「本当にね……」
阿倍野「はい、誕生日おめでとう! 君がほしがってた花だよ」
夏 枝「これはフリージアじゃないの。貴方また間違えたわね。私
が言ったのは、ポインセチア! ポインセチアよ」
阿倍野「ごめん、ごめん。花の名前がややこしくてさあ……」
夏 枝「(微笑みながら)……でも嬉しいわ。それじゃあ行きまし
ょうか」
× × ×
二人、客室のエレベーターに向かう。北室、それを呆
れ顔で見ている。そして振り返り正面玄関の方へ向か
う。北室の目の前に一人の可愛い私服姿の少女が佇ん
でいる。北室は最初誰だか思い出せない。
○ 北室のイメージ
駅のプラットホームで自殺しかけた少女を救う北室。
○ 某高級ホテルロビー
北室、その時の少女が今、目の前にいる少女・白田春
美であるという事がわかったという表情。春美は半ベ
ソをかいている。北室、何を見て泣いているのかと思
い、春美の視線を辿ってみると、今にもエレベーター
に乗り込まんとしている阿倍野と夏枝の二人に辿り着
く。二人がエレベーターに乗ってドアが閉まると春美、
涙を流し正面玄関へ駆け抜けて行く。それを見ている
北室。
○ 同・客室
阿倍野と夏枝がベッドで裸で寝ている。阿倍野は煙草
を吸っている。二人、しばらく黙っている。
夏 枝「(急に)他に好きな人が出来たのね」
阿倍野、びっくりして夏枝を見る。
夏 枝「隠しててもすぐわかるわ」
阿倍野「別に隠してたわけじゃあ……」
夏 枝「ちゃんとした彼女がいるのにどうして私みたいな人と付き
合うの?」
阿倍野「……ちゃんとした彼女じゃありませんよ」
夏 枝「ちゃんとした彼女にしたいと思ってるんでしょ?」
阿倍野「…………」
夏 枝「だったら、不誠実な事は慎んで相手に誠意を見せなきゃ駄
目じゃない」
阿倍野「(険しい表情)つまり貴方と別れろって事ですか?」
夏 枝「私達、本当に潮時みたいね。今の今までずるずると付き合
ってきたけど」
阿倍野「もう少し待って下さい」
夏 枝「もう少しって後どれくらい?」
阿倍野「わかりません。はっきりは言えません。とにかくもう少し」
夏 枝「彼女の方に何か問題でもあるの?」
阿倍野、うろたえるが沈黙を守る。