AWC      派遣前の出来事( 6) ハロルド


        
#1117/3137 空中分解2
★タイトル (GSA     )  91/ 8/23   7:38  (192)
     派遣前の出来事( 6) ハロルド
★内容
○ 喫茶店
      阿倍野と真知子が話している。

阿倍野「あいつ、意外に捌けてたな」
真知子「元々ドライな質だから、あいつ」
阿倍野「高校の時からそうだったの?」
真知子「昔はもっとひどかったけど最近は人間が出来てきたみたい
    ね」
阿倍野「(笑い)あれでかい?」
真知子「以前はどうしようもないワルだったわ」
阿倍野「君とあいつと初めて会った時の事を話してくれないか」
真知子「(うろたえて)別に話す事なんか…
    …」
阿倍野「頼むよ」
真知子「…………」
阿倍野「話したくない事でもあるの」
真知子「……まあ少しね」
阿倍野「じゃあ余計に聞いとかなきゃいけないと思う。僕達の間で
    は隠し事は一切なしだ」

      真知子、話し始める。

真知子「……あれは高校二年の時だったわ。私はクラスの委員長だ
    ったある男の子を好きになったの。私の初恋だったわ。私
    には親友が一人いて、その娘が橋渡しをしてくれるってい
    うの。私はその娘にお願いして私の書いたラブレターを彼
    の元へ持って行かせたわ。ありとあらゆる美辞麗句や感動
    的な言い回しを使って、自分としては愛のこもった最高の
    ラブレターを書いたの。そして……返事はその娘が聞いて
    きた。結果はノーだった。私は仕方がないと諦めたわ。い
    つもはその親友と学校の行き帰りを一緒にしてたけど……
    その日以来よそよそしくなっちゃって、そして全然会えな
    くなったのよ。私は学校の帰りにその娘を待つ事にしたわ。
    それで信じられないものを見たの。……その娘は私の初恋
    だったその男の子と一緒に歩いていたのよ。それを見て私
    は思わず陰に隠れた。彼女達の話し声が聞こえてきたわ。
    その内容は私が書いて、その娘が彼に渡したラブレターの
    事だった。表現に身に覚えがあったからすぐにそうだとわ
    かったわ。男の子は私の親友に言ったの。『君には素晴ら
    しい文才があるんだね』って……」

      阿倍野、やりきれない表情でため息をつく。

真知子「私は凄く打ちのめされたの。たった一日で初恋の人と親友
    を同時に失ったわ。(言葉を区切る)……私は自殺を試み
    たの」

阿倍野、驚く。

真知子「私は放課後、校舎の屋上に登って柵を越えたの。そこで北
    室進悟の登場ってわけよ」
阿倍野「飛び降りようとする寸前を止められたってわけだね」

      真知子、首を横に振る。

真知子「違うわ」
阿倍野「えっ?」
真知子「私は飛び降りたのよ。そして私を救おうとして彼も一緒に
    飛び降りたの」

      阿倍野、信じれないっといった表情。

阿倍野「それってマジかい?」
真知子「彼はそういう危険な冒険が大好きな人間なのよ。彼は空中
    で私の身体を掴むともう一方の手で屋上の縁を掴んだわ。
    そして中ぶらりん!」
阿倍野「信じられない!」
真知子「屋上にいた他の不良達どもが私達の身体を引っ張り上げた
    の。私はあいつに怒鳴ってやったの。『何で救けたのよ!』
    って。あいつが話したその理由がまた傑作なの。『お前に
    飛び込まれると、騒ぎになって校舎の屋上が使用禁止にな
    って隠れて煙草が吸えなくなる。自殺なら他でやるんだな』
    だって」

      阿倍野、思わず笑ってしまう。

真知子「彼が行ってしまった後、不良の一人が本当の理由を教えて
    くれたの。あいつがアメリカにいたとき、ある一人のヤン
    キー娘……本物のヤンキー娘よ。その娘と恋に落ちたんで
    すって。その娘はジャンキー、つまり麻薬中毒者で、あい
    つがそれを無理に止めさせようとして部屋に閉じこめたの。
    そしたら部屋から銃声がして……その娘はピストルで自分
    の頭を打ち抜いたって。その時からあいつは人が自殺する
    のを黙ってほっとけないんですって」
阿倍野「…………」
真知子「……こんなのはほんの一部よ。彼の事を話していったらき
    りがないわ」
阿倍野「……いい青春時代だったんだな」
真知子「(笑って)今でも青春してるわ」
阿倍野「僕のせいで嫌な事を思い出させちゃって……」
真知子「いいのよ。……若い女の子ってつまんない事で自殺しよう
    なんて考えるものなのね。自殺もそうだけど自殺する理由
    っていうのが考えてみるとよくよくつまんないわ。……男
    に振られたぐらいでそうするなんて」
阿倍野「そういう時もあるさ。失恋の痛手なんてすぐ直る……」

      阿倍野、真知子を見てびっくりする。真知子が半泣き
      になっている。やりきれない表情の阿倍野。

○ ジャズクラブ・ソールトレイン
      カウンターで川原と静子と北室が話している。北室は
      バーボンを飲んでいる。

川 原「あんないい娘さんに逃げられるなんてついてないねえ」
北 室「逃げられたんじゃないよ。逃がしてやったのさ」
静 子「負け惜しみ言ってる」
北 室「何だと、この」
静 子「でもさ、阿倍野さんて結構可愛いんじゃない? 女はああ
    いうタイプに母性本能をくすぐられるのよ」
北 室「(吹き出して)十八の学生が母性本能の事なんかわかるの
    か?」
静 子「母性本能の事もわかるし、プライドの高い男はふられるっ
    て事もわかりますよーだ!」
北 室「マスター! 未成年の女の子をバーで働かせるのは法律違
    反だよ!」

      静子、ツンとしてカウンターの奥に引っ込む。

川 原「喧嘩するほど仲がいいって言うけどねえ」
北 室「あいつとはいつも言い争ってたな」
川 原「(冗談めかして)殴り合いの喧嘩はなかったのかい?」
北 室「(笑って)ふざけるなよ。いくらなんでも……でも一度だ
    けひっぱたかれた事があったな」
川 原「話してよ」
北 室「あれは高校三年の時だったかな。隣の高校の番長グループ
    と対立してたんだ」
静 子「(驚き)ツッパリだったの?」
川 原「札付きの悪だった。少林寺拳法やボクシングを平気で喧嘩
    に使うし、バイクは乗り回すし、酒と煙草を十六で覚えた」
静 子「ゲーッ!」
川 原「それからすると立派な社会人になったもんだ」
北 室「殴られた話は聞きたくないのかい?」
川 原「聞くよ、聞くよ!」
北 室「その番長は俺に言った。バイクで勇気を試して決着をつけ
    ようぜってな。俺にはわかってた。タイマンじゃあ俺にか
    なわないのを知って別の方法をとった。わかっていたが敢
    えて俺はその申し出を受けた。俺達は近くにビルの建って
    る空き地に行った。そしてビルに向かってバイクを並べ、
    そしてビルの壁に向かってバイクを突進させてどちらが先
    にブレーキを踏むかで決着をつけるレース……俗に言うチ
    キンランレースで決着をつける事にしたんだ」
静 子「そのチキンライスレースって先にブレーキを掛けた方が勝
    ちなの?」
川 原「逆だよ。壁にぶつかるぎりぎりの所までブレーキを掛けな
    い方が勝ちなのさ」
静 子「で? どっちが勝ったの?」
北 室「俺だ。七十キロで走らせて壁から三十センチの所でバイク
    は止まった」

      静子、微笑む。

北 室「俺はそいつらにもう二度と俺達の高校にちょっかいを出さ
    せないように誓わせて帰した。その後で真知子がやってき
    た」
川 原「ほう」
北 室「俺は真知子からどんなに俺の勇気を称えてくれるか期待し
    たもんだ。そして真知子は俺の前まで歩み寄ってきて立ち
    はだかった」

      北室、言葉を区切る。

北 室「あいつは俺にビンタを食らわせやがった」

      川原と静子、くすくす笑う。

北 室「あいつは俺に言ったもんだ。『自分の命を粗末にしてどう
    いうつもり!』ってね。俺はなんともなかったんだからい
    いじゃねえかって言ってやった。あいつは言いやがった。
    『貴方にはつくづく愛想が尽きたわ』って。そして『貴方
    って本当に危険な冒険の中でないと満足できない人なのね。
    そんな危険な人ともうこれ以上一緒にはいられないわ』っ
    てね。真知子の怒りはその後しばらく収まらなかった」

      三人、沈黙。

静 子「そりゃあ、北室さんが悪いわよ」

      川原、静子に、余計な事を言うな!と言わんばかりの
      ジェスチャーをしている。

北 室「他にも結構パンチは食らったけど、あの小さなピンタは強
    烈だった。忘れる事の出来ない痛みだ」

      三人、沈黙。

川 原「まあ一杯いきな」

      川原、北室に水割りを作ってやる。

北 室「ありがとう………」

      北室、グラスに口をつける。




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