#1115/3137 空中分解2
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派遣前の出来事( 4) ハロルド
★内容
○ 同・屋上
屋上でバレーボールをしたり弁当を食べたりしている
社員達。その中でグループから離れて北室と阿倍野が
二人で話している。
阿倍野「ところで北室、お前の名古屋の出張はいつだったっけ?」
北 室「一か月後。まだ少し先の話だ。それがどうした?」
阿倍野「いやあ、それは別に……いいんだ」
北 室「ほう……」
二人、黙り込む。白けた雰囲気。
阿倍野「この前、何かあったのか?」
北 室「何かって?」
阿倍野「ほら、この前の『ソールトレイン』の時さ。何か彼女と言
い争ってただろう?」
北 室「ああ、その事か」
北室、阿倍野を怪訝な目付きでみる。
阿倍野「何か彼女を怒らせるような事でもしたのか?」
北 室「そんなんじゃないよ。じゃあな」
帰ろうとする北室の前に、阿倍野、立ちはだかる。
阿倍野「とにかく何かあったら何でも相談しなよ。俺に出来る事な
ら力になるよ」
北室の阿倍野を見る目が険悪になる。
北 室「お前に出来る程度の事で俺の問題が解決するってのか?」
阿倍野「……何を怒ってるんだ?」
北 室「お前の考えが見え透いているからだよ」
阿倍野「何の事だ?」
北 室「とぼけるな! お前、真知子の事どう思ってるんだ?」
阿倍野「(驚き)なんでそんなことを聞くんだよ?」
北 室「大概他人のもめ事に首を突っ込みたがるのは下心がある証
拠さ」
阿倍野、一瞬うろたえるが、すぐに笑ってごまかす。
阿倍野「その……何て言うのかな……(照れながら)俺の理想のタ
イプだったりするんだよな」
北室、阿倍野に背を向けて立ち去ろうとする。
阿倍野「(慌てて後を追いかける)おい! ちょっと待てよ!」
阿倍野、慌てて北室に追いつく。
阿倍野「そう気を悪くするなって。別に彼女をお前から盗ろうなん
て思っちゃいねえよ」
北室、阿倍野を見る。
阿倍野「俺はただ……その……忠告してやってるんだ。彼女はあの
通り美人だしさ……いつなんどき俺みたいなやからに狙わ
れるかわからない。大切にすべきだっていいたいんだよ。
それだけだよ」
北 室「有り難いお言葉」
阿倍野「女には誠心誠意尽くすべきだよ。彼女を怒らせるような事
はしない事だ」
北 室「肝に銘じておくよ」
阿倍野「(非難めいた口調で)なんで彼女を怒らせてたんだ?」
北 室「……」
阿倍野「まあ大体想像はつくけどな」
北 室「なんだよ」
阿倍野「ありふれた理由だよ。お前は彼女の心を踏みにじったんだ。
白状してみろ。例えば他の女と二股かけててそれがバレた
とかだな……」
北室、呆れ、そして段々と怒り出す。
北 室「(阿倍野の襟首を掴んで)あてずっぽうもいい加減にしろ
よ、この野郎!」
阿倍野「違ったかな?」
北 室「(阿倍野を離して)もういいよ。それより浮気はお前さん
の方だろう」
阿倍野「何だよ、それ」
北 室「社内の噂ではお前さんは年上で人妻の彼女がいる事になっ
てる。俺はこの前、その事実を確認した」
阿倍野「(うんざりして)その話は止めろよ」
北 室「俺の方こそ忠告しといてやるが人並の恋をしたかったら、
あんまり乱れた事は慎んどけよ。じゃあな」
北室、去って行く。
○ ラブホテル「ロマンス」・外観
派手なネオンの立て看板。
○ 同・客室
北室と真知子がベッドで愛し合っている。
二人、やがてお互いの身体を離し、真知子、ため息を
つく。
○ 同・翌朝
北室、目覚めてベッドから起き出す。真知子はもう既
に起きて着替えている途中。
○ 道路
二人、歩きながら話している。
北 室「提案があるんだ……」
真知子「なあに?」
北 室「俺達、しばらくの間だけ少し距離をとって付き合ってみな
いか?」
気まずい沈黙。
真知子「……本気で言ってるの?」
北 室「このままじゃあ埒があかないよ。一度やり直すつもりで別
れた方がいいんじゃないかな」
真知子「本当にやり直そうと思ってるの?」
沈黙が流れるが、先に北室が口を開く。
北 室「やり直すっていうのはだな、何も二人がやり直すわけじゃ
ない」
真知子、不思議そうな表情で北室を見る。
北 室「……二人が……それぞれやり直せるかも知れない」
真知子、キッとした表情で北室を見る
北 室「(真知子の心を見透かしたように)そういう事もありえる
っていうだけの話だよ」
真知子、黙って北室を見据えているが、やがてため息
をついて言う。
真知子「貴方のいう通りかもしれなしわね。このまま続けてて埒が
あかないんだったら……」
北 室「……でも……まあ、また仲直り出来るとも限らないしね…
…だからある意味でこれは賭だ。二人が本当に仲良くなれ
るかどうかの」
真知子「それで……いつまで別れてるの?」
北 室「それは……明日までかも知れないし、九十年先かもしれな
い」
真知子「どっちなの?」
北 室「もし別れててもお互い寂しさを感じず、相手の方を必要と
しなかった場合は九十年だ」
真知子「明日の場合は?」
北 室「とにかく二人の内どちらかがどうしても会いたくなって相
手を必要とする時。その時には連絡をとって会おうじゃな
いか」
真知子「愛を再確認する訳ね」
北 室「いい考えだろう?」
真知子「いかにもアメリカかぶれの貴方らしい合理的な考え方だわ」
北 室「君は俺のアメリカかぶれなところが嫌いなんだろう?」
真知子「そういう訳じゃないけど」
北 室「俺がアメリカに引かれるのは…その…自由だからさ。前に
も話したろう。俺はアメリカでいろんな職を転々とした。
そして自分の気に入ったいい仕事をした時にはすぐに実力
を認められて重要な役目を任されたんだ。そうなるのに周
りの何の抵抗や妨害も感じなかったな。その自由な気質が
アメリカに引かれる一番の理由さ」
真知子「日本だって自由よ」
北 室「そうだけどまだ完全とは言えない。例えばだ……前に俺は
ある仕事を任されそうになった。これ以上俺に合った仕事
はなかったし、俺以外にこの仕事を出来る者はいないと思
う程だった。俺は俄然張り切った。しかし、重役の一人が
俺はまだ若すぎると言った。(吐き捨てるように)結局仕
事は、歳は俺より上だが実力はNo.2の男が選ばれた」
真知子「その話は知ってるわ。でもそのおかげで私達こうして一緒
にいられているんじゃないの」
北 室「俺は完全な自由が欲しいんだよ」
真知子「でもそれが日本の風習なんだから仕方ないじゃない」
北 室「そうだな。俺には古い日本の風習は合わない。弱い国の風
習は合わないんだよ」
真知子「…………」
北 室「古い風習に従って弱い人間同士が集まってできてる。だか
ら自分より優れた者を見ると驚異を感じ安いんだろうな」
真知子「アメリカは強いの?」
北 室「他人の実力を認める勇気があるのさ。俺は自由で強い者が
好きなんだ」
真知子「貴方がアメリカが好きな理由はよくわかるわ」
北 室「…………」
真知子「でもね、進悟。自由って一つ間違えれば利己主義に変わっ
てしまうのよ。例えばアメリカが自由貿易を押しつけてく
るとその影響で苦しむ人々だってきっといるはずよ」
北 室「まあそういう人々がいる事は認めるさ。でもそんなのは極
小数だろう?」
真知子「そうね。極小数ね。でも苦しみは苦しみよ。誰が味わうに
したって苦しみがある事にはかわりないわ」
北室、立ち止まり、先に歩いていく真知子を眺める。