#1114/3137 空中分解2
★タイトル (GSA ) 91/ 8/23 7:26 (162)
派遣前の出来事( 3) ハロルド
★内容
○ ジャズクラブ・『ソールトレイン』(夜)
カウンターの椅子に腰掛けている真知子。
真知子「私達もう駄目かも知れないわね」
その隣の北室が険しい表情で真知子を見る。店内は暗
く、内装が凝っているモダンなカフェバー。店の奥に
ピアノが一台置いてあり、女性ピアニストが緩やかな
曲を弾いている。カウンターではマスター兼バーテン
の川原正二(61)が皿を洗っている。
北 室「仕事が忙しくて会えないだけだよ。愛が覚めちまったよう
な言い方するなよ」
川 原「喧嘩かい?」
北 室「(笑って)最近機嫌が悪くてね」
川原、カウンターの奥に移動する。
真知子「愛が覚めたわけじゃないわ」
北 室「そうだろ?」
真知子「…………初めから愛なんてないのにそれが冷めるわけない
でしょ」
北 室「(うんざりして)またその話か」
真知子「私はいつも貴方の事を想ってたわよ」
北 室「じゃあそれでいいじゃないか」
真知子「…………私は見返りが欲しいの」
北 室「……俺も君の事を想ってるよ」
真知子「……自分の心を偽って?」
北 室「(ため息)愛し合っていないカップルなんていくらでもい
るさ」
真知子「貴方ってロマンチストなのにこういう事だけは最低ね」
表のドアから新しい客が入ってくる。それは阿倍野の
姿。阿倍野は自分より年上の三十代の女(白田夏枝・
37)を連れている。阿倍野と夏枝、テーブルのシー
トに腰掛けようとした時、阿倍野、カウンターの北室
と真知子を見る。
阿倍野「(夏枝に)ちょっと待ってて」
阿倍野、カウンターの方へ行く。
阿倍野「(二人に)やあ、お二人さん」
北 室「よう」
真知子「あら、昼間はどうも」
北 室「偶然だな。いつもこの店に?」
阿倍野「いや、たまたま寄っただけだ。そっちは?」
北 室「(川原の方に少し視線を送り)常連さ。会社の近くでこん
な雰囲気のいい所はないからね」
阿倍野「いいカップルには打って付けの場所だな」
北室と真知子、お互い顔を見合わせる。少し白けた表
情。
北 室「一人?」
阿倍野「ん、いやあ、ちょっとね」
阿倍野、夏枝の方を見る。
真知子「もしよろしかったらお連れの方も御一緒にこちらでお飲み
になりません?」
北 室「そうしよう」
阿倍野「いやあ、そうしたいけど、やっぱりお邪魔はしたくありま
せんからね。向こうで飲んでますよ」
北 室「そうか……」
阿倍野「それじゃあ。(真知子の方を向き)また会社の方へでも…
…」
真知子「(好意のこもった目で)ええ!」
阿倍野、真知子と離れるのが名残惜しそうに去ってゆ
く。真知子、阿倍野がテーブルの夏枝の横に座るのを
見送る。
北 室「年上の女だ」
真知子「そうみたいね」
北 室「噂は本当だったな」
真知子「何の事?」
北 室「(質問には答えず)奴の事が気に入ったか?」
真知子「……まあ、少しね」
北 室「男だったら誰でもいいのか?」
真知子「ええ、少なくとも貴方よりはね!」
阿倍野、遠くから北室と真知子が争っているのを見守
っている。そして真知子に見とれている表情。夏枝、
肘で阿倍野をつつき、睨んでいる。阿倍野、夏枝の肩
に手を回し、夏枝、阿倍野の肩に寄りかかる。阿倍野、
まだ北室と真知子が争っているのを見ている。
○ 某駅前・(真夜中)
タクシーが止まり、阿倍野が車からおりる。中にいる
夏枝が話す。
夏 枝「終電は間に合う?」
阿倍野「余裕だよ。おやすみ」
タクシー、走り出す。
○ 走行中のタクシー内
夏枝が乗っている。
○ 白田家・外
タクシー、門の前に止まり、夏枝が降りる。夏枝の家
は一戸建ての立派な家で周りは同じような家の集まり
の高級住宅街。
○ 同・中
二階の部屋の窓から外の様子を白田夏枝の娘・春美
(駅で自殺しかけた少女)が覗いている。春美、階段
を降りて行き、玄関で夏枝を迎える。
春 美「お帰りなさい」
夏 枝「あら、まだ起きてたの」
春 美「あのね、ママ……」
夏枝の夫である白田伸夫(47)が居間から出てくる。
伸 夫「夏枝、ちょっと話がある」
夏 枝「(冷たく)ええ」
春 美「ママ、あの……」
夏 枝「(春美に)明日の朝聞くわ」
夏枝と伸夫、居間に向かう。春美、階段を途中まで上
ったところで立ち止まり、両親の話に聞き耳を立てる。
夏枝の声「離婚手続きの事?」
春美、険しい表情
○ 同・居間
伸 夫「(冷静に)ああ、私としてはあまり気が進まないがね」
夏 枝「世間体をはばかっでしょ?」
伸 夫「(呆れて)春美の事が可愛そうなんだよ」
夏 枝「貴方は私を許さないんでしょ?」
伸 夫「しかし、まあ、……いざ離婚となるとね…そうもいかない」
夏 枝「私達もう終わりよ」
伸 夫「私はこうして償いをしてるよ。後は君があの青年と別れて
くれればそれですむんだ」
夏 枝「(ヒステリックに)貴方って……、私がどうして貴方を許
さないのかその理由が全然わかってないのね」
伸 夫「わからないねえ。君の浮気を知っても私はこうして冷静に
君の言い分を聞いてるじゃないか」
夏 枝「(泣き叫ぶ)だから!……それよ!……それが原因なのよ!
私達の事を真剣に考えてないから冷静でいられるのよ!」
○ 同・春美の部屋
春美が暗い部屋でベッドに顔を伏せて泣いている。
○ 今内商事・営業三課室(昼)
正午の時報が鳴り、社員、欠伸などしながら机を立つ。
○ 同・社員食堂
社員達が食事をとっている。北室は一人で食事をとっ
ている。そこへ定食のおぼんを持った阿倍野がやって
くる。
阿倍野「よう!」
阿倍野、北室の前に座る。
阿倍野「話があるんだけどいいかな?」