AWC お題>『若き日の約束』 らいと・ひる


        
#941/3137 空中分解2
★タイトル (NKG     )  91/ 4/25   6: 2  (198)
お題>『若き日の約束』 らいと・ひる
★内容

 永遠にでも続くかのような森のラビリンス。覆い繁った樹木の幹や葉は、太陽
光線さえ遮っている。方角どころか、今が昼のなのか夕方なのかさえわからない。
 もう、あれから三日たっただろう。我が第十二機械化歩兵部隊が敵の攻撃を受
けて、戦車部隊とはぐれてしまったのは。
 我が軍が誇る最新鋭の歩兵戦闘車も、燃料が切れればただの鉄の塊。我々はそ
こで白兵戦を余技なくされた。そこから地獄が始まったのだ。隊長のヘンリー曹
長と私以外は訓練をほとんど受けていない。それに加え、人数わずか八人という
半個小隊程の人数で何ができよう。戦場のまっただ中では、歩いて帰るわけには
いかない。とにかく進むしかなかったのだ。仲間達が勝利の凱旋をするであろう
目的地があることを信じて。
 私は志願兵ではない。敵の侵略行為により、やむなく国に徴兵されたただの男
である。自分の住む場所がなくなってからもう八年は経つだろう。私の住む街は
一番最初の犠牲となった街なのだ。あの頃はまだ二十二、三で若かった。八年の
月日は戦争を行っている者には長すぎた。もうあの頃の若さのパワーはない。
ば、戦いは嫌などときれいごとはいえないのだ。もう我が国の半分近くは占領さ
れてしまっている。私は勝利の為に戦っているのではない。生きる為に戦ってい
るのだ。
 そんな思いが私をここまで生きさせたのだろうか。度重なる戦闘で、もうすで
に仲間はいなくなっていた。
 もう戦いたくないという気持ちが再び押し上がってくる。できるなら逃げだし
たいと考える。だが、どうやってこの状態で逃げる事ができよう。この場所で戦
闘を放棄すれば、それは即、死につながる。この戦争はきれいごとでは済まない
のだ。敵は容赦なく襲いかかる。そもそも侵略的な戦闘開始が、それを物語って
いるはずだ。
 私は必死で仲間を探した。だが、見つかったほとんどが屍と化していた。血み
どろの無惨な死体。スプラッター映画など足元に及ばないような無惨な姿である。
 そういう自分の姿もまともとは言えないのかもしれない。二日前に右足に当た
った弾のおかげで傷口は膿んで直視できない状態であるし、服のいたる所には返
り血を浴びて不気味に赤黒く染まっている。
 そろそろ疲れてきた。どこかで休もうと、私は適当な場所を探していた。
 私の視界に、ちょうど大きな樹木にある大きな空洞が入る。樹齢千年はいくだ
ろうその樹木は、私に威圧感を与えながら目の前に立っていた。
 これはいいと、私はその空洞に入ろうとしてふと何かを感じとった。
 とっさに銃を向けてしまう私。戦場に長年いた悪い癖なのかもしれない。しか
し、自分では嫌悪感を感じるこの癖に何度命を助けられただろう。今のままの状
態では文句も言えないのかもしれない。
 じっと目を凝らして中を見る。そして、同じだけ耳にも集中させる。
 微かに耳に入る寝息。人が寝ているようだ。はたして敵か?味方か?
 注意しながら、左手でライトを取り出し空洞の中を照らし出す。
「…………」
 思わず懐かしさがこみ上げてくる。そこに居たのは、寝息をたてて眠っている
十五、六の少女の姿があった。髪は純粋な金髪、そして白い肌。私の国の人間だ。
 思わずうれしくなり声を張り上げようとした。だが、私はその少女の様子がお
かしい事に気がついた。よく見ると目を開けているのだ。そして、苦しそうに息
をはぁはぁさせている。その少女は悲しそうな目をしてこちらを伺っている。い
や、悲しそうなのではない。恐怖に満ちた目なのであろう。


「気分はどうだい?」
 私は目を覚ました少女に問いかける。昨日、打った抗生物質は効いたはずだ。
私は部隊で衛生兵をやっていたので医療品は常に持ち歩いているのだ。ただし、
右足の膿みは、戦いの毎日で手当をする暇がなくてなってしまったものである。
「……………」
 その少女は、震えながら私の顔を見る。
「大丈夫、味方だよ。私の名前はロイシャル・ハーバネット。仲間はロイって呼
んでる。」
「……あたしは………キャロル………キャロル・マーシャル。」
「………しかしまあ、よくこんな激戦地で生き残ったもんだ。私が必ず仲間の所
へ連れてってやるから、その強運を大切にして生き抜けよ。」
「いやっ!」
 突然、キャロルが耳を押さえて叫ぶ。
「いやっ!もう生きたくない。……家族はみんな死んだのよ……それに………」
 私は、急に泣き叫ぶキャロルにただ呆然としていた。まあ、こんな戦場で普通
の神経でいろなんて、無理に決まっているのだ。
 しばらくして泣きやむキャロル。今度は私の顔を睨みつける。
「なんで、あたしを助けたの?なんで、あたしをあのまま死なせてくれなかった
の?」
「放っておけるわけがないだろ。味方なんだから………」
「味方?……あなたも人殺しなんでしょ!」
 私はキャロルの問いかけに答える事はできなかった。『人殺し』。それは、と
うの昔に考える事を止めてしまった観念なのだから。
「………しっ!静かに。」
 私の悪い癖が始まった。どんな状況下でも周りの気配を探ってしまうという。
 敵のゲリラ兵だろうか。数は三人、自分の水筒の水の音に気を使ってない事を
考慮すると、おそらく新兵だろう。これなら三対一でも勝てる、という勝算が頭
に浮かんだ。敵はまだ、こちらの様子に気づいていない。こういう場合は先手必
勝だ。
 私は、キャロルに静かにしているように命ずると、近くの登り易い樹木の上に
上り、その下を敵兵が通るのを待った。右手には大型の万能ナイフを握りしめる。


 楽勝で三人を倒すと、私はキャロルのいる所へ戻ろうとした。そこで誤算があ
った事に気づいた。倒したはずの三人のうち水筒を付けているのが二人しかいな
いのだ。
 しまった数の読み違いだ、と思った時はもう遅かった。左肩に熱い感触を受け、
それがだんだんと痛みに変わっていく。銃声がしたのはそれからだった。とはい
っても熱い感触と銃声の間には、ほんのコンマ何秒の差しかないだろう。
 私はそのまま倒れ込んだ。左肩にかすったのではない、左肩を貫通したのだ。
私には立っている気力が残ってなかったのだ。
 倒れたおかげで、敵兵の顔がしっかり見える。しかし、それが恐怖をさらに植
え付けようとしていた。
 敵兵は銃を向けながらニヤリと笑う。まるで、人殺しを楽しんでいるかのよう
に。
 ちょうど私の頭を狙っている。情け容赦なく、一撃で倒すつもりらしい。私は
なんとか生き延びようと必死でもがく。私はあきらめはしない。
 2メートル程、離れたところに私の銃が落ちていた。倒れたショックで飛ばさ
れたのだろう。
 必死でもがきながら動く、だが敵兵は撃ってこない。おそらく敵兵も銃の事に
気がついていて、手が届く寸前で撃ち殺そうと考えているのだろう。陰険な手口
だ。
 しかし、私はあきらめるわけにはいかない。相手が陰険に考えようが、少しで
も生の可能性があるほうにかけたい。
 あと六十センチ、五十センチ、四十センチ。頼む届いてくれと、必死で思いな
がら手を伸ばす。だが、敵兵の遊びは終わったらしい。今度は容赦なく引き金を
引くだろう。
 敵兵の右手の人差し指に力がじりじりと入ってくる。ほとんどゲームだと思っ
ているのだろう。ぎりぎりまで私を追い込み、そして始末する。戦争が生みだし
た狂気のゲームなのだろうか。
「やめてー!」
 キャロルの叫び声が聞こえる。あれほど静かにしてろといったのに、これでは
共倒れになってしまう。一瞬、そう思ったのだが、それは間違いだった。
 いきなり敵兵の頭が爆発して砕け散り、脳しょうが降り注いでくる。
(スキャンニング…………)
 私は、昔読んだSF小説に出てくる言葉を思い出していた。サイコパワーによ
り、物質を内部から破壊するというアレである。
「………まさか、キャロル………きみか?」
 キャロルが足を震わせながら私のもとへやってくる。
「……わ…わかったでしょ?あたしは強運の持ち主なんかじゃない!あたしもあ
なたと同じ人殺しの仲間なのよ。…………もうたくさん!こんな思いをしてまで
生きたくない!」
「………キャロル…………」
「ロイ、あなたはどうして生きてるの?………こんな事をして………どうして生
きていられるの?」
 キャロルの問いかけが私の心に突き刺さる。だが、わたしはそれでも生きてい
かなければならないのだ。
「ねえ、どうして?どうしてよ?!」
「………約束さ………」
 私はぽつりと答える。人に語るには辛すぎる過去だが、今はそんな事も言って
いられないだろう。
「約束?」
「そう、若き日のね。とはいっても、まだ八年しかたってないがな。」
「…………」
 キャロルは私の話に興味を持ったらしい。じっとして私の言葉を聞いている。
「八年前まで、私は平凡な男だった。だが、侵略によって私の街が戦いに巻き込
まれた。仲間達と逃げる途中で、私のミスで仲間の一人が撃たれたんだ。会社の
同僚でね、ミックっていうんだけど、そいつが死ぬ間際に言ったんだよ。もし、
ほんとうに悪いと思っているなら生き続けてくれって、死ぬ事は簡単過ぎる、だ
から生きろって、それが俺への償いなんだ、約束だぞって………ショックだった
よ。人が死ぬのをまじかで見たのはあれが初めてだった。それも、自分のせいで
………はっきりいって、そのまま生きるのは辛かった、他の仲間からもめちゃく
ちゃ言われたし、ほんとうに辛かった。それが最初の約束だった。そして、辛さ
のどん底にいた時、私はエレーンという同じ年の女の子に出会った。彼女は私の
心を気遣ってくれる優しい子であった。その時の気持ちといったら一言ではあら
わせないよ。ほんとうに生きていてよかったと思った。生きるのが辛かった私が
そんな事を考えだしたんだよ。よく言うだろ、生きていれば良い事があるって、
まさしくアレだよ。彼女は生きる楽しさを教えてくれた。戦争前もただ、呆然と
生きているだけだった私にだ。だが、そんな幸せも長くは続かなかった。逃げる
途中で再び戦いに巻き込まれた私達は絶体絶命の危機に立たされた。敵に囲まれ
た私達に彼女は一つの助かる提案を出したんだ。別々に逃げればどちらかが助か
るはずだと。その時に彼女は言ったんだ。あたしだけが逃げ延びても、あなたの
事で悔やんだりしない。あたしは、絶対にまたあなたに会えるって信じるから、
だからあなただけが生き延びても、あたしの事で悔やんだりしないで、あたしに
会える事を信じてって。それが、二番目の約束さ。私はエレーンに再び会える事
を信じている。」
 キャロルの目には微かに涙が溜まっていた。感受性が鋭すぎるのだろう。こん
な少女が人殺しをするのはたしかに辛すぎるはずだ。
「………最初の約束は、私に辛くても生きなければいけない事を教えてくれ、そ
して、二番目の約束は、希望を信じて生きるという事を教えてくれた。それが、
私が生きている……生き続けている理由だ。」
「信じていれば希望はやってくるの?」
「信じるだけじゃだめだ。精いっぱい生きなければ。」
「でも、あたしには耐えられない……あたしには、ロイのような勇気がないもの。」
「勇気は誰にでも作れるよ。ちっぽけでもいいから幸せを見つけるんだよ。何か
に心を動かされた事でもいい、キャロルの鋭い感受性をマイナスではなく、プラ
スの方へ向けるんだ。そうすれば勇気は自然と出来上がってくる。」
「でも………人を殺してまで…………」
「私は人殺しを容認するつもりはない。だけど、最低限の正当防衛は必要なんだ
よ。人間は生きる権利と義務を背負っているんだから。」
「……ロイ………」
「………キャロル、きみは優しすぎるんだよ。だけど、今のキャロルの優しさは
弱さでしかないんだ。………強くなってくれ。」
「…………それは、命令?」
 キャロルは目に溜まった涙を拭い取り、私の顔をじーっと見つめる。
「……いや…………………約束だよ。」


                            終

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ あとがき ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
 いやー、また調子こいて一気に書き上げてしまいました。だけど、物語の舞台
がひんしゅく買いそうだな。不謹慎だとは思ったんですが、どうしてもこのテー
マで書きたかったもので………あまりそのことでは責めないでください。
 物語はオーソドックスで、セリフもありがちなパターン。確か、初めてアップ
した(とはいっても一カ月前。)『夢から醒めた天使』の後書きでも同じような
事を書きましたっけ。でも二つともテーマも同じなんですよね。自らのテーマで
もある『生きる』という事。(きゃー恥ずかしいー、自分のテーマに酔ってんじ
ゃねえよ!って)難しいですね。セリフの言い回しが、やっぱりパターンにはま
ってしまいました。若さゆえの……人生経験が乏しいゆえの未熟さです、お許し
を。(とは言っても、みなさんのきびしーい批評を書いていただかないと、らい
と・ひるはいつまでたっても成長しませんので、びしびしお願いします。特に榊
さーん、五月うさぎさーん(笑))
 それと、ほんとうはこの後にキャロルのその後の長いエピローグがあったので
す。内容は、おばあさんになったキャロルが、孫に生きるという事について説教
をする時に、ロイの顔が浮かんできて約束の話を静かに語りだすのですが、その
時ほろっと涙を流すんです。そしてまた、孫に生きる事についての約束をさせる
のです。200行を越えてしまったし、蛇足になってしまう恐れがあったのでカ
ットしたんですけど………どちらの終わり方がよかったでしょうか?




前のメッセージ 次のメッセージ 
「空中分解2」一覧 らいと・ひるの作品 らいと・ひるのホームページ
修正・削除する         


オプション検索 利用者登録 アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE