AWC CAMPUS> 過去からのファイル 7-1 ■ 榊 ■ (46/75)


        
#838/3137 空中分解2
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CAMPUS> 過去からのファイル 7-1  ■ 榊 ■  (46/75)
★内容


プロローグ

広い道場には、100以上の畳が敷き詰められていた。
広々とした屋内の道場には時折、涼しい風が通り過ぎて行く。
8月も終わりに近付いているものも、猛暑はいっこうに衰える気配を見せていなか
った。
気象庁では、まだこの暑さは当分続くと言うから、たまった物ではない。
屋内とは言え、座っているだけで汗がにじみ出て来る。
外からはうるさいほどの蝉の声が聞こえてきていた。

  ミーン  ミーン  ミーン

「暑いな………」
道場のまん中辺りに、柔道着姿の榊が正座をしていた。
乱れもなく整然と座っている様子は、見ているだけで気持ちがいい。
榊は、そのあまりの暑さに思わず呟いた。
「本当に………」
同じように服を着、向い合わせに座っている御影も、榊と同じ方向に視線を向けて
いた。
離れた向こう側にある、開け放たれた扉。
そこからは、濃い緑色に輝く木々が見える。
風も丁度そこから吹いてきていて、心持ち涼しい。
「だいたい終了だ、御影」
「え? でも……まだ榊さんには勝っていません」
榊は苦笑いを浮かべながら、御影の方を向いた。
「この野郎。あくまで俺を倒したいようだな」
「それゃあまあ、目標ですし……」
御影の返答を聞いて、榊は思わず愚痴をこぼした。
「全く、何で俺が自分自身を倒してもらうために、教えないかんのだ」
今度は、御影が苦笑いをした。
「そりゃあ、そうですね」
「まあいい。最終訓練の内容を言う。よく聞けよ」
「はい」

この話は、榊がこの学校に入ってきたばかりの頃の話である。
負けを知らない御影は榊の存在を知ると、すかさず喧嘩を仕掛けた。
榊はほとんど相手にしていなかったが、最終的に本気を出し、御影を倒してしまう。
そして数日の思案後、とうとう榊に喧嘩の仕方を教えて欲しいと頼む。
榊はそれを了解し、御影を鍛え始めた。
考え方から変えていき、1カ月もたつと御影は前よりもなお、強くなった。
そして、最終訓練の内容を言い渡されるシーンから、この物語は始まる。
御影の心の移り変わりをご覧あれ。
今は昔の話である。

ACT 1

「2学期も始まったが、みんな出席してるな? 夏休みぼけしてるなよ」
20代後半の、いかにも体育系の先生らしき男が、大声で叫んでいた。
が教室内にいる生徒の中には、殆ど聞いているような奴はおらず、勝手なことばか
りしていた。
先生もすでに諦めているらしく、渋顔で話を続けた。
「えー、転校生を紹介する。おい、入って来い」
その一言で、教室内は一変に静かになり、みんなの意識しドアに向けられた。
静かにドアが開く。
苦しそうに学生服の首の所を引っ張りながら、男が入ってきた。
格好良くはあるが、それよりも普通と違った独特の厳しい雰囲気が女子の心を奪った。
あちらこちらで、「かっこいー」と話し合う声が聞こえて来る。
その男は教壇を登り、先生の横に付いた。
結構背は大きく、178cmの先生と張り合っていた。
「神奈川の方から転向してきた、御影誠一郎君だ。仲良くやれよ」
先生がひとこと言うと、御影は軽く頭を下げた。
「おーい、自己紹介やれー! 自己紹介!」
後ろの方から野次のような声が聞こえた。
「自己紹介だとよ。簡単にしてやってくれ」
「はい」
御影は、先生の変わりにまん中に立った。
「ちょっと事情があって、学校という学校を行った事がないもんで、解らないこと
が多いんだ。自己紹介と言っても何やっていいんか良く解らないんだけど、何やれ
ばいいんだ?」
御影は、一気にここまで言うと、どっと笑いが起きた。
「なんだー。学校もなかったんかー?」「趣味は? 趣味」「はよ、ひっこめー!」
「好きな女性のタイプは!?」
一気に、話題が飛び交う。
御影は軽くうなずくと、話し始めた。
「一つ、一つ、答えてくぞ。昔の事情に関しては何も言えん。趣味は特になし。特
技も特になし。好きなタイプの女性はない。馬鹿ではないはずだ。あとは、ひっこ
めとの事らしいから、先生。どこに座ればいいんですか?」
御影の話し終ると、教室内は潮が引くように静かになった。
なぜなら、御影は罵声のように飛び交うみんなの声をより分け、すべて答えのである。
御影が普通ではないことを知ったみんなは、静まり返ってしまった。
先生も放心状態にあった。
「先生」
「あっ、ああ。そこの開いた席に座ってくれ。」
「はい」
御影は、後ろの方に開いた席を確認すると、生徒の間を歩き始めた。
みんなはその様子をじっとみつめていた。
まん中辺りで、誰かがさっと足を出してきた。
しかし、御影は初めから予測でもしていたかのように、足を高くあげ、飛び越えて
行った。
「ひゅー、やるー」「たいしたもんだ」
「うるせー!」
足を出した男が一喝すると、みんなは黙ってしまった。
そして、すかさずその男は御影に対して殴りかかっていった。
腰の入った、強烈な右フックは、いつの間にか後ろに回されていた御影の手にすっ
ぽりおさまった。
「何!?」
男の顔にありありと驚きの表情が浮かぶ。
普通の奴なら、受けれる物ではない。
だが、御影はことこういう事に関しては普通ではない。
御影は、そのまま何事もなかったように歩き出し、後ろにある窓際の方の席に足を
運んだ。
男は諦め、ぷいっと前を向いた。
「ふん!」
みんなは相変わらず惚けて御影を見つめていた。
男はますますいらだった。
「いいかげん、前向きやがれ!」
男が叫ぶと、他の生徒はしかたないというふうに前を向き始めた。
「くそ! おもしろくねぇ……」
一方御影はその頃、一番後ろにある席にたどり着き、座ったところだった。
先生は、その頃合を見計らって、話し始めた。
「委員長!」
「あっ、はい……」
御影の前の席の男が立ち上がり、おずおずと返事をした。
気の弱そうな、細めの、眼鏡をかけた男だった。
なるほど、いかにも秀才タイプの委員長さんだ。
「おまえが、彼の面倒見てやってくれ」
「は、はい……」
委員長は気弱そうな声で返事をし、ちらっと後ろの御影を見た。
御影は笑顔で手を振ってみせる。
だが、委員長は軽く頭を下げただけで、また席に座りなおした。
「それじゃあ、終わりだ」
先生がひとこと言うと、全員席を立ち、一礼し、放課となった。
先生がとっとと出て行くと、生徒のほとんどは御影の席により集まって行った。
特に女子が先頭を切っている。
さっきの啖呵を切った男は、分が悪そうに教室を出ていってしまった。
出て行き際に御影をにらみつけ、大きな音をたて戸を閉めた。
御影は、横目でその一部始終を観察していたのだが、おそらくあの男は気付いてい
なかっただろう。
「ねえ、御影くん」
「え? あぁ」
急に御影は言葉に詰まった。
このころも、女性は苦手のようだ。
しかし、そんなこと「かっわいいー」としか受け取らない女子は、気にせずに話し
かけてきた。
「あの堺君を手玉に取るなんて、すごーい。何か格闘技でもならってたの?」
周りに人だらけでうるさい中、御影は困ったように頬をかいた。
「ねぇ、どうなの?」
「似たような物を、少し………」
「わぁー、すごい!」
「なんだ、柔道か? 剣道? それとも、少林寺?」
右側にいた男が突然口をはさんだ。
「いや……そう言う物じゃない」
「ねえねえ、そんなことより、気を付けてよ。彼、恐いのよ。帰りなんか気を付け
てねー」
前の机に顔をのせていた女の子が心配そうに言ってくれた。
「あ、ありがとう」
心配そうな机の上の女の子の顔が急にしたに沈み、変わりに上にのっかっていた子
の顔が正面にきた。
「大丈夫だもんねー。けっこう喧嘩強いんでしょ?」
あまり次々とくる質問に苦笑いしていると、いつの間にか入ってきた教師が教壇か






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