AWC CAMPUS> 過去からのファイル 3-5 ■ 榊 ■ (36/75)


        
#828/3137 空中分解2
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CAMPUS> 過去からのファイル 3-5  ■ 榊 ■  (36/75)
★内容


男の顔にはっきり当惑の表情が浮かんだ。
榊はうめく様に話し始めた。
「強いと思っている奴ほど見かけに惑わされ、油断する。だがな、それも実力だ。威
張ってんじゃねえよ………この、ガキ!」
榊は構えていた二本の指を放ち、男の額のまん中を突く。
一体どれだけの力がその指にこもっていたのだと言うのだろう。
男は声一つ上げず、白目を向いていた。
榊がゆっくり立ち上がると、両側からやっちゃんが襲ってきた。
殆どやけに近い。
榊は一瞬、にこりと笑うと、二人の視界から消えた。
「なっ………」
声を上げたのは組長だった。
数歩前で立っていた榊はがいつの間にか、凄い至近距離に顔を近付けていた。
殆ど顔と顔がくっつく。
そして、組長が顔を下げるより早く、榊に鼻の頭をぺろっと舐められた。
「うわっ!」
組長はおもっいっきりあとずさった。
やっと、にっこりと笑っている榊の顔が見えるまで飛びのくと、その榊の後ろで二人
の男が倒れていくのが見えた。
床に倒れるとき、振動と共に大きな音が部屋に響いた。
この出来事は組長を圧倒するのに十分だった。
組長の顔から気力のいっさいが消えた。
榊はそれを読み取ると、中学の子供らしい笑顔をして、再度、聞き直した。
「芹沢夫妻を殺すよう頼んだ人は?」

「やっぱりね………ありがと」
榊は軽く頭を下げると、ぼーっと立っているままの手下の方を見た。
榊が顔を向けると一瞬びくっとするが、榊がにっこり笑うと、わずかに笑顔の表情が
浮かぶ。
しかし、口の端が引き吊っているのが、解らんでもない。
榊はふところから銃やらドスやらを取り出した。
手下は一斉に自分のふところや、自分の手を見だした。
「危なかったもんで、ちょっと拝借」
榊は机から飛び降り、一人一人の手に返しに歩いた。
「はい、ドスね………あっ、ほら、ちゃんと握って。そうそう………あっ、落とすよ!
気を付けて」
その後、狙われることなど一切考えず、榊は親切に返していった。
もっとも、銃を取り返しても、榊の命を狙おうと考える奴はいなかった。
13人目に返し終ると、榊は中央に戻り、しっかり銃やドスを持っているみんなを見
渡し、ニッコリと笑う。
そして、何を思ったか叫び出した。
「きゃー! 助けてー!」
いかにも演技という声で榊がいきなり叫び出したのを見て、組長を始め、手下共も首
をかしげた。
そのころ、どこからともなく足音が響きだし、いきなりドアが開けられた。
「警察だ! 通報があった。そのまま、動くな!」
警部を先頭とした、警察部隊だった。
わらわらと入ってきた警官は、30人ぐらいはいるだろう。
手下共は言われた通り、銃を持ったまま静止した。
一瞬、警部も唖然としたが、気を取り直して言った。
「銃刀法違反だ。逮捕する。武器を捨てろ」
警部が銃を構えて言うと、組長を始め手下共ははっと気付いた。
「やられた!」
組長が声を上げると、榊はペロッと舌を出し、知らん顔をした。
ここらへんの根性がたくましい。
組長が気付いた時にはもう遅かった。
組織は見事、全滅した。
「くそっ! このガキ。よくも………」
苦しげに組長が言うと、榊の顔から笑顔が消えた。
その迫力に一瞬、組長さえもたじろいだ。
「よくもだー? 人をあっさり殺しておきながらよく言うよ」
榊は組長と向き合い、自分の心臓を指さした。
「いっぺん、よーく自分で考えて見ろ。いかに自分勝手だったかと言うことをな。大
人だろ? 15のガキに説教されるな」
言い終わると榊は体を反転し、手錠をはめに回っている警部の肩を軽く叩き、足取り
も軽く、外に出て行った。
「あっ、坊っちゃま」
警部が何か言おうとする前に、榊はドアを出て行ってしまった。
警部が榊が出て行ったドアを見ていると、後ろから組長が警部の肩を叩いた。
「あの小僧、何者だ」
苦やしげとも取れる声を警部に放つ。
それに対し、警部は後ろも向かずに答えた。
「榊財閥の御子息様だ」
組長の顔に少なからず驚きの表情が浮かび、その後、満足そうな笑顔となった。
「あの小僧がそうだったのか。いや、仲間に入れるなんて始めから無理だったのか。
惜しい人材だ………」
警部はちらっとだけ組長を見た。
すぐ視線を戻す。
「確かにな………うちに来て欲しいくらいだよ」
まるで榊の幻影を追い駆けるかの様に、二人は榊の出て行った、半分開きかけのドア
を見つめた。

街灯の明りだけの暗い路地裏で、榊は頭を掻きながら、黄色の受話器を持ち、何か話
をしていた。
「あっ、父さん? また頼み事なんだけどいい?………あのね、谷口組が今、長谷川
警部の手柄で全員逮捕されたんだけど、事件もみ消して、家に雇ってくれない? …
……え? 僕がやったんだろうって? 僕は出来ないよ。そんな恐いこと………それ
にほら、警備員が足りないって言ってたでしょ…………えっ?! 僕のボディーガー
ド?……………まあいいや。それでいい……………ん。じゃあ。早く帰ります。それ
じゃあ………」
榊は受話器を置き、電話を切ると、上を向き、百円をカチカチ電話機に当てながら、
何か考えていた。
そして、また黄色の受話器を持ち上げると、榊はその百円玉を入れ、薄汚れたプッシ
ュを押した。
耳に三回だけコールが鳴り、相手は出た。
「もしもし、未杉? 俺だ。榊だ」


11時を過ぎ、誰もいなくなった芹沢家は、静まり返っていた。
部屋の中には焼香の香りが立ちこめ、一列に正座をして座っている三人を包んでいた。
黒い喪服姿の3人は何も言わず押し黙っている。
天井の蛍光灯が、いつもより鈍いような錯覚を受ける。
どこからか虫が入り込み、嫌な音を立てて飛び回っていた。
耐えかねた斉藤が、まず口を開いた。
「何か話しでもしようか」
斉藤は足を崩し、美那と菜緒の前に座り直した。
伏せていた二人の顔が上がった。
二人とも、どこか気が沈み、憂欝な顔になっている。
斉藤は二人の顔を見ると困った様に、頭を掻いた。
二人は何も言わず、じっとうつろな目で斉藤を見る。
斉藤はしばらく考えていたが、何かいい案が浮かんだらしく、ニヤリと笑う。
そして、もったいぶる様に二人に言った。
「榊と俺の出会いって聞いてみたくない?」
わずかながら、二人の目に元気が戻った様な気がした。
斉藤はその反応を見ると、少し落ち着いたらしく、くつろいで話し始めた。
「あれは、中学に入学したての頃」

小学校の幼さを残した入学したての斉藤は、自分の倍はある大きな扉をノックした。
「斉藤です。入ります」
まだ変声期にもなっていない高い声で斉藤は言うと、校長室と書いてあるドアを開け
た。
中にはもうすでに他の人がいた。
校長はそのすでに来ていた男と話し合っていた。
校長は話が一段落したところで、ドアの前で立ち止まっている斉藤を呼んだ。
「おっ、斉藤君か。そんな所に居らず、こちらに来なさい」
ここの校長は結構気さくなタイプだと声で解った。
少し太った、もうかなりの老人だ。
先にいた男は校長に挨拶した。
「それじゃあ、僕はこれで」
「あっ、ああ………また、いつでもいらっしゃい」
校長は応対に困っているらしく、少しおどおどしていた。
斉藤が校長の方に歩いて行き、男が出て行こうとし、二人はすれ違った。
男は斉藤より少し背が高めの、氷血男のような印象を斉藤は受けた。
すれ違った時に見た鋭い目に、斉藤は少なからず恐怖を憶えた。
斉藤は校長の方に行くことも忘れ、その男が出て行くのを見ていると、やがて、その
男は礼儀正しく出て行く前に深く一礼し、静かにドアを閉めた。
気さくなタイプの校長にはこうゆう真面目な奴は苦手だろう。
斉藤はドアが閉まると校長の所に近寄り、挨拶よりまず先に、聞いた。
「あの男、何者ですか?」
校長ものって、体を前に出し、ひそひそ声で斉藤と話した。
「榊財閥の御子息様でな………榊健司と言うんだ」
「榊財閥! あの………」
榊財閥と言えば名はあまり知られていないが、世界的な規模の企業で、兵庫のこの市
辺りでは全てを牛耳っているところだった。
その御子息ともなれば、県議長の息子より上である。
校長は本当に困った顔をした。
「何かあったら、すぐ私はクビだ…………これから毎日がつらいよ………」
斉藤は机に顔をのせ、同情する様にうなずいた。
「確かにね………」
斉藤は何か思案の目でドアの方を見た。






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