#829/3137 空中分解2
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CAMPUS> 過去からのファイル 3-6 ■ 榊 ■ (37/75)
★内容
その時、校長は急に頭を上げ、思い付いたように手をポンと叩いた。
「おお、そうだ」
「ん?」
斉藤はそれに気付き、校長の方に視点を変えた。
校長の顔はさっきとうって変わり、和やかな顔になった。
度量がありそうな暖かい顔に、斉藤は校長に何かの魅力を感じ、驚いた。
榊の前ではああだったが、本当は立派な校長らしい。
校長は、校長らしい威厳のある低い声で話し始めた。
「そう言えば、用事がまだだったな」
「あっ、そうだ。でも顔見せじゃないの?」
斉藤は机に乗せていた肘を上げ、立って校長と向き合った。
「まあ、そうだが………」
校長は机の上に散らばっている紙から一枚取り出し、斉藤にみせた。
斉藤も思わず乗り出してそれを見た。
なんて事はない、学校の地図だ。
その校舎の一角を指さす。
「ここの教室を使ってくれ。自由に使って構わない。それと………」
校長は斉藤に近付くよう小招きした。
「?」
何かと思って斉藤が近寄ると、校長は小さな声で言った。
「別に授業でんでもいいぞ」
斉藤はその一言を聞いて、目を丸くした。
かりにも彼は校長だ。
先生の鏡である立場上、生徒には公平に扱い、文武を進めるべきである。
「なんと、太っ腹な………気に入った。この学校いろいろ利用させてもらう」
校長は自分の腹を見た。
「太っ腹と言うのが、気にならんでもないが………まあ、好きなようにしろ………好
奇心と自分かってな行動は学生の特権だ。頑張ってくれ」
斉藤は校長に向かってにこやかに笑うことによって、その感謝の意を示した。
校長はこの時点では、厄介者を二人も請け負ったとは知らなかった。
榊に少なからず興味を憶えた斉藤は、榊の事をいろいろ調べてみた。
しかし、調べれば調べるほど恐ろしい男だった。
第一回目の実力試験では、全問正解の単独トップ。
運動も万能で、クラスの委員長なるものをやっていると言う。
しかも、財閥の一人息子。
はっきり言って、その頃の榊は男子の嫌われ者の筆頭だった。
人と話すことなど滅多になく、いつも本ばかり読んでいた。
それでいて、やるべき仕事はこなしてしまうから余計に腹が立つ。
そして、冷酷な男だった。
しまいには、女子からも嫌われるに至るほどだった。
だが、榊は一向に気にせず、生徒の模範を示し続けていた。
ちょうど夕方5時頃。
実験に明け暮れ、ちょっと外に出てみた時に、運動所の端で見かけた光景だが、榊が
番長グループ6人ぐらいに囲まれていた。
こりゃあ面白いと思って見ていると、榊は番長に胸倉をつかまれた。
そして、榊は容赦のない一発を食らって、その場に倒れた。
「あちゃー、やっぱり、ケンカは駄目か………どれ、助けに行くか………」
と思って頭を掻きながら歩き出す。
どうなったかと思って歩きながらまた運動場を見て、斉藤は足を止めた。
ちょっと、目を離した隙に、いつのまにか番長グループ全員が倒れていたのだ。
離したと言っても3秒程度である。
その間に………
斉藤は口を開けたまま、その光景をしばらく見ていた。
榊はいつの間にか校門の方にまで歩いて行き、見えなくなってしまった。
斉藤は手擦りに持たれかけ、頭を掻きながら考えた。
“榊という奴、何者だ………”
斉藤はますます、榊に興味を抱いた。
そして、この後、面白い形で斉藤と榊の戦いが始まった。
昼放課。
食堂に行く者、遊びに行く者、クラブに行く者。
殆ど人のいない教室の中では、昼の強い日差しが、東の窓から差し込み、窓際で寝て
いる人の体を照らしていた。
数人しかいない教室は静まり返り、運動場から聞こえる遊び声が遠くに聞こえる。
「カリッ」
METSと書かれた緑の紙コップを持ち、ドアの所に立っていた斉藤は口の中の氷を
砕いた。
斉藤はしばらくボリボリと氷を砕きながら、中の様子を見ていた。
教室の中央 −−− 榊。
榊は暑っ苦しい黒の学生服を、衿まできちんと填め、姿勢よく椅子に座り、いつも通
り本を読んでいた。
本には緑色のカバーがしてあったが、どうせ題名が解っても斉藤が知っているわけが
なかった。
斉藤は榊の無表情な顔を見ながら、最後の氷を噛み砕くと、榊の方に寄って行った。
斉藤が榊の前の席に座っても、榊は相変わらず何の反応も無しに本を読んでいた。
斉藤がコップを榊の机に置くと、榊は本から視線を外し斉藤をチラッと見たが、何で
もなかったかの様にまた本を読み出した。
斉藤は見えるはずのない題名を見ようと、カバーのかかっている表紙を見た。
「何の本だ? 榊」
榊は相変わらず本を読んでいる。
「“TRONから見た社会的秩序。”」
やはり、彼はわけの解らないものを読んでいた。
斉藤も意味が解らず困りはてる。
「………どこまでが本の名前だ?」
「全部」
「………もう一回言ってくれるか?」
「“TRONから見た社会的秩序”」
やっぱり、解らないらしく、苦しげに斉藤は頭を掻いた。
「まーいい…………榊、ジュース飲むか?」
「俺を実験の材料に使わんでくれ」
斉藤は更に苦しげに頭を掻いた。
そして、おもむろに榊の顔をのぞき込む。
「何で解った?」
「色と匂い」
「………失敗か」
斉藤は立ち上がると、コップを掴み、いきなり一気飲みしだした。
飲み干すと斉藤はコップを握りつぶし、手で口を拭った。
「別に毒じゃないんだけどね」
榊は初めてちゃんと斉藤の方を向くと静かな声で聞いた。
「一体なんの薬なんだ?」
「ん? これ?」
斉藤は握りつぶしたコップを指さした。
「そう。いま飲んだやつ」
「いや、内臓器官の肉を硬くして強化する薬なんだが…………うまくいったかな……
…まあいいか………それじゃあな」
斉藤は後向きで手を振ると、入ってきたドアから出て行った。
榊は斉藤が見えなくなってから、やれやれと思い、また本を読みだした。
すぐその後、廊下で誰かが倒れる音がした。
先ず、榊に軍杯が上がった。斉藤、一敗。
そして、これを口火として、戦いは始まった。
実験のため、榊を屋上から落とそうとしたが、逆に落とされ、失敗。
ただし、実験は運よく成功。0勝2敗。
戦闘用の無人ロボットを榊と闘わすが、途中で爆発。
実験は失敗だが、榊はその後、入院。斉藤の勝利。1勝2敗。
笑い薬を上からぶっかけてみるが、榊はあっさりそれを避け、第三者が巻き込まれ、
パニックとなる。1勝2敗1分。
これぐらいは避けれるかなと、新作の空気銃で榊を撃つ。だが、殺意もなく撃たれた
ため3発腹にくらい、入院。2勝2敗1分。
そして、飽くなき戦いのように見えたその闘争も、案外早い終結をみた。
その後、斉藤に対する榊の目は変わり、斉藤が近付くだけで、榊は身構えるようにな
った。
「おい、別に今回は何も企んでないぜ」
「解るもんか」
榊の目から警戒心は一切、消えない。
「怪我、大丈夫か?」
「おかげさまでね」
「………だから………構えをといてくれー」
「お前がどこか行けばな」
「……まあ、いい………ちょっと、これを見てくれんか」
斉藤は自分の右腕をまくり、少しおかしな形の腕を榊に見せた。
榊はやっと、警戒をとき、斉藤の手を取って見た。
「ひどいな………一回や二回の骨折じゃあ、こうはいかない」
「さすがだな……その通りだ」
斉藤は元通りに服を直した。
お互い、向い合わせに教室の席に座った。
「それで?」
榊が初めて斉藤に聞いた。
「お前、自分でしたくて、そんな事やってるのか?」
「?」
「人を迫害してまでも、勉強したり、運動したり」
「…………」