#827/3137 空中分解2
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CAMPUS> 過去からのファイル 3-4 ■ 榊 ■ (35/75)
★内容
「そうだ。ちょっと調べてくる。あと頼んだ」
「わかった、まかしておけ」
榊は集まっている人に軽く礼をすると、引いた男を追って部屋を出て行った。
外に出ると、警察の集団がいた。
犯人は、警部らしい男に一礼すると、車の中に入って行き、どこかに行ってしまった。
榊はしめたと言わんばかりに、指をパチッと鳴らし、背広姿の警部らしき男に近付い
た。
男は少々不精髭をはやし、30過ぎぐらいの顔立ちをしている。
しわのある背広の胸のボタンは、いくつか開けられ、かなりラフな格好であった。
榊が近付くと、警部ははっと顔を上げ、榊の顔を見た。
あきらかに警部の顔に驚きの表情が出る。
「ぼっ、坊っちゃま!」
榊はそう言われると、はずかしげに頭を掻いた。
「よしてくれ。恥しい」
「いや、そんなことより坊っちゃま。どうしてこんな所に………」
「この家の子のクラスメイトでね………それより、ちょっと聞きたいことがある」
榊が真面目な顔で、顔を近付けると、警部はハンカチを取り出し、額の汗を拭った。
「何でしょう」
「犯人の身分………というより、職業かな」
警部はあわてて背広の内側をまさぐった
右・左と手が急いで移り、何とか見つけたらしく、にこやかな顔になる。
取り出した手には、ぼろぼろの手帳が握られており、それを開けた。
幾枚かページをめくると、手が止まり、しどろもどろに答えた。
「………えーと名前は三橋種一で………32才。谷口組の下っぱですね…………」
「谷口組………最近、騒がしい………」
「はい、今回も何か裏があると踏んでいるのですが。証拠が何もないので踏み込みも
出来ないんですよ」
「なるほど、犯人が見つかって、そいつが引き殺した。確かにそれで事件は解決だも
んな」
榊はぱっと手を開いてみせる。
警部も懐に手帳をしまいながらうなずく。
「一応、谷口組が慰謝料も出すと言うことでこの事件は終わりになります」
榊は苦々しい笑顔で鼻を掻いた。
「くやしいな」
「そうですね。でもこれが現状なんです」
その時、榊の表情が変わり、にやりと笑った。
何か意味を含んだ不気味な笑い。
警部はそれを見ると、榊の考えていることに気付き、訝しげな顔をした。
「榊坊っちゃま。また、事件をおこさないで下さいよ。この事件もやっと片がつきそ
うな所なんですから」
榊は警部の言葉など全く聞かず、時計を見ながら指を折って、何かを計算し始めた。
「坊っちゃま!」
「ええい、うるさいな………いいか、よく聞け。今回はお前に手柄をやるから俺に従
え。いいか? 10時32分ちょうどに谷口組の組長の家に入り込め。理由は通報が
あったって事にしとけ。わかったな? 10時32分だ」
「はい、解りました。けど…………あっ! 坊っちゃま!」
榊は白バイにまたがると、エンジンを駆けた。
「ちょっと借りるよ!」
「坊っちゃま!」
榊は警部の声も聞かず、警察の前で堂々と無免許運転で発進し始めた。
ウィリーしながらの急発進の後、すぐに角を曲がり、榊の姿は見えなくなった。
ただ、夜中の路地に暴走族なみのエンジン音が響いたが、その音もやがて聞こえなく
なった。
普通の家の2・3倍はありそうな、日本様式の少し趣味の悪い家。
敷地の端にあるガレージには、白と黒のベンツが置かれていた。
榊は背の高さほどの木の門を、まるで自分の家かのように勝手に開け、中に入って行
った。
ざっと視界が広がる。
目の前に庭が現れ、道が家につづいていた。
榊は日本庭園の小砂利道を歩いて行くと、大きな家の玄関に着いた。
そこですらも、榊はなんの恐れもなく、中に入って行く。
当然、2・3人のやっちゃんに出会うがだれも疑いを持たない。
当り前と言えば当り前かも知れない。
この世界にそんな度胸がある奴がいるのだろうか。
榊は和風の作りの家を好きな様に歩き回り、ふすまを開けていった。
何か探していることに気付いた一人のやっちゃんが、腰を低くして榊に尋ねた。
「あの、何を探していらっしゃるんで………」
榊は足を止め、顔に傷のある黒スーツの男の顔を見た。
笑っているらしいのだが、脅しているとしか見えない顔を見ながら榊は平然と聞いた。
「ここの組長は?」
「へっ? 社長の事ですか?」
「そうだ、どこにいる?」
黒スーツの男はやっぱりと言う顔でうなずいた。
−−これだけ堂々としたお方が、社長以外の男と会うわきゃあない。きっと、社長の
知合いの方だろうに…………
黒スーツの男は勝手に解釈して、ますます腰を低くして、礼儀正しい態度で応対した。
不気味な笑顔が、更に不気味になる。
「どうぞ、こちらです」
「ありがとう」
榊は大きな男の後ろに付いて行った。
榊は心の中で微かに思った。
−−いやー、殴り込みも平和的にできるもんだな。やってみないと解らん。
榊は一人うなずきながら、奥の部屋へと案内された。
家の中にしては随分歩くと、今までとは違った豪華な木のドアの前に着いた。
大きなドアの前につくと、男は横に外れ、礼儀正しく頭を下げた。
「こちらです」
「ありがとう」
榊はあいも変わらず、堂々と中に入った。
いきよい良くドアを開けると、中から怒鳴り声が聞こえた。
「ドアは静かに開けんかい!」
「そりゃそうだな」
どすの聞いた声にも屈せず、榊はゆっくりドアを閉め、恐ろしく迫力のある組長の方
に歩いて行った。
部屋はかなり広く、洋風の飾り付けがしてあった。
中央の奥に机があり、そこに組長がいる。
左の壁いっぱいに広がる窓ガラスには、夜のライトに照らされた見事な庭園が見えた。
組長はちらっと榊を見、呟くように言った。
「何の用や…………」
組長は椅子に座り、机の上の書類を読んでいた。
葉巻をくわえ、足を組んでいる。
これだけで、天に救いを求める人が何人いることだろうか。
榊は事もあろうに、その机より前に顔を乗り出した。
すぐ至近距離にごっつい顔がある。
「誰に頼まれて、芹沢夫妻を殺した?」
榊は自分の年を知っているのだろうか。
かなり低い声で、いきなりやっちゃんに食ってかかった。
すこしだけ、組長の眉が上がる。
すぐ至近距離に、榊の顔があるにも関わらず、組長は大声で叫んだ。
「おい! 誰かいないのか!」
「おっとっと」
榊は思わず両手で耳を押さえ、“大きい声”と言わんばかりに片目をきつく閉じる。
そうしているうちに、わらわらと柄の悪いやっちゃんがやって来た。
相変わらず机の上で耳を押さえている榊を指さし、組長は言った。
「つまみ出せ」
あらゆる格闘技をマスターし、御影と唯一対等に格闘できる榊と、泣く子も黙るやっ
ちゃんの闘い。
この勝負、一体どちらが無謀だったと言うのだろう………
そのまま、3分お待ち下さい………
「じゅーうご………にん!」
榊は15人目の男の腹に拳をめり込ませると、倒していった男の数を言う。
広い部屋に30人はいたやっちゃんは、いま半分となっていた。
榊はあいも変わらず息一つ乱さず、にこっと笑っている。
165cmほどのガキは何の構えもとらず、のほほんと立っていた。
そのガキに屈強の男達が何人も倒されているなんて、誰が想像できよう。
組長も手下もほとんど唖然としており、手を出すことも忘れていた。
その時、やっちゃんの群衆をかき分け、一風変わった殺気の強い男が現れた。
顔にいくつか傷を持つ、かなり隙のない男。
見ただけで、かなり強いことが解る。
「おーお。とうとう用心棒登場か? 平和的に解決できるかなーと思ったんだけどな
ー」
男は、榊の言うことなど全く気にせず、榊に倒された輩を見た。
血を出して気絶している男に向かって、唾を吐き捨てた。
少し榊の表情が変わる。
「まったく、情けねー奴らだ。こんなガキになに手ーやいてんだ………おい、ぼーや」
「おれ?」
「他にだれがいる」
男はにくったらしい声で言うと、榊はにっこり笑って、男を指さした。
「お前」
平然と榊が答えると、男の表情に明らかに殺気がこもる。
「こんのガキャー………いい気になりやがって」
男が構えもとらず、ゆったりやって来たとき、突然、榊の表情が一変し、怒りの表情
になった。
そう思った瞬間、男は床に叩き伏せられた。
そして、榊はその男の上に立っていた。
片手は男の頬を両側からつかみ、もう片手は二本指を立て、その先は男の額のまん中
を指していた。