#811/3137 空中分解2
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CAMPUS> 怒涛の体育祭 (3) ■ 榊 ■ (19/75)
★内容
いた。
「恒樹ぃー。おまいの姉さんが決闘申しこまれて、運動場で一決戦やるそうだぜー」
龍二は、足で蹴ってドアを閉めると、近くの椅子をひっぱり出して座った。
神野龍二 −−− 通称りゅう
彼の能力は、念動力を筋肉として使い、人より優れた運動能力を発揮できること。
少林寺拳法もやっており、頭を丸めている。
「勝負の結果、占うまでもないわね…………」
クールに言い放ったのは、ここESP部の部長、秋坂ゆうである。
彼女は、紺のブレザーを着て、まん中にある大きな机の奥に座り、タロットのカード
で遊んでいた。
彼女の能力は、予知と人の能力を見ること。
彼女のその能力を見る力によって、残りの部員、二人が引き抜かれたのである。
そして、部長になれた由縁である能力は分子振動破壊。
彼女は一定以上の感情の高まり −− つまり、怒りやいらいらなど −−
大声で叫ぶと、物がその声に共鳴を起こし、砂つぶになるまで破壊されてしまのであ
る。
コントロールしてやっているのかどうかは知らないが、一応生物に対しては無害であ
る。
適任がいないため、5年も部長を続けており、今22である。
よく、<あねさん>と呼ばれている。
「恒樹、行ってこんのか?」
龍二は、窓側の所にぽつんと座っている男に声をかけた。
セーターに白のズボンという、きちんとした格好をしていた男は読んでいた本で顔を
隠した。
「やだよー。お姉さんに関わるとろくな事ないもん……」
男らしくない愚痴を言うこの男。
名前を柳瀬恒樹という。
正真正銘、あの柳瀬沙羅の弟である。
能力は、今の所無し。
部長のゆうによって、沙羅に会いに来たときに引き抜かれたのだが、いまだに能力が
開花せずに、とどまっている。
ゆうが言うには、かなりの能力があるらしいのだが、勉強駄目、運動駄目、加えて臆
病の軟弱者である。
ゆうはカードを片手に集め、胸のポケットにしまうと、恒樹の方に歩いて行った。
「恒樹。いつも言っているでしょ。あなたに足りないのは、あと勇気だけだって。そ
の自閉的な性格のせいで、あなたの能力が発揮されないのよ」
ゆうが言うと、恒樹は覆い隠していた本を降ろし、下を向いた。
「だってー……」
ゆうは腕をくみ、冷たい目で龍二に合図した。
「はいはい」
龍二は椅子から立ち上がり、恒樹の方に寄って行った。
「ちょっと、ちょっと、たんま!」
「いくぜ」
龍二は恒樹の背中をつかみ、軽々と持ち上げ、恒樹を背負った。
「ところで、あねさんも行きますか?」
「そうね、いきましょうか」
「僕は行きたくないー!」
恒樹はあくまで反抗したが、龍二の背中でばたばたしても、無駄なことだった。
恒樹程度の力と体重じゃあ、龍二の一本の腕にかなわないのである。
かえって、動いた方が服が伸びて質が悪い。
「男は、あきらめが肝心だぜ。恒樹」
龍二は、すたすたと運動場に向かって歩き出した。
「安心しなさい、今日はいいことがあるって出てるわよ」
ゆうはタロットを一枚だして言った。
恒樹は相変わらず、龍二の背中でばたばたしながら、叫んだ。
「陰謀だーーーー!」
運動場には、かなりの人が既に集まっていた。
正門に近い、第12校舎の前の運動場である。
校舎の脇に生えている草花の近くに、観客は立っていた。
それから15mぐらい離れたところに、沙羅が立っている。
沙羅は目を閉じ、1m50ぐらいありそうな木刀を地中に突き刺し、黙想に入ってい
た。
<空羅>と沙羅が名付けた構えである。
この構えを取るのは、年に二度とない。
この構えはひどく疲労が激しいのだ。
「おっ、まだ相手は来てないのか」
途中で恒樹を降ろし、肩をくんで歩いていた龍二が言った。
すぐ、その後ろにいたゆうの隣の男は、ハンディートーキーを耳にあてている。
情報部の下っ端だろう。
「ちょっと、敵さん、いまどこ?」
「あっ、秋坂部長。ちょっと、まってください……」
男はしきりにトーキーと話し始めた。
了解と最後に言うと、男はゆうの方を向いた。
「いま正門に着いたところだそうです」
「ありがと」
ゆうは、龍二達の方に行った。
恒樹の肩を叩く。
「はい」
恒樹が振り向くと、ゆうはその横に着いた。
「いい、よく見てなさい。あなたも、あの人と同じ血が流れているのよ」
ゆうは目をつぶって、堂々と立っている沙羅を指さした。
「僕はきっと捨子なんだろう」
「いや、きっと柳瀬さんの方が捨子だろ。なんせ、女で俺より強いなんて以上だぜ」
恒樹と肩をくんでいた龍二も話に加わった。
ゆうは、沙羅の向いている方を指さした。
その先に、奴らが見えた。
「ほら、来たわよ」
その一声で観客が静かになった。
奴らは、如月を先頭にした15人ぐらいのグループだった。
黒の学生服を着た、がらの悪い連中ばかりである。
わきにいた2・3人が、草花をけ散らしている。
中には、唾を吐きまくっている奴もいれば、わざわざ屑かごの中身を出していく奴も
いた。
通った後には、それと解るほど汚れて行く。
「あんの、やろ」
龍二が行こうとしたのを、ゆうが止めた。
「柳瀬さんの試合よ。私達の出る幕じゃないわ」
龍二は冷静に戻り、握った拳をゆるめた。
「くそ」
他の観客も同じ思いだった。
それは、恒樹とて例外ではなかった。
誰が気づいたろう、恒樹がが真面目な顔で、奴らをみていた事を。
奴らと沙羅の間隔が3mぐらいになり、沙羅の目が開いた頃、観客の中から新聞部が
近寄って行った。
可愛い女の子のレポーターと、録音機器を持った男の二人だった。
レポーターは、可愛い声で話しかけた。
「あのー、すみません。新聞部なんですけど……」
間発いれずに、如月の剣がうなり、少女を弾き飛ばした。
少女は2・3mもふっ飛び、倒れ込んだ。
あきらかに、血が出ているのが解る。
機械を持っていた男が近寄って行き、観客の中から待機していた救護班が出て行く。
すぐ近くでどたばたやっているのも気にせず、如月は沙羅をにらみつけた。
「久しぶりだな、借りは返させてもらうぜ」
沙羅は剣を引き抜き、片手で持つと、その先は如月の喉もとまで延びた。
如月の喉がごくりと鳴った。
「てめえら。ゆるさ……」「ゆるさないっ!」
沙羅の声ではない、男の声がした。
みんなの視線が、ぱっと観客の中の一人にそそがれた。
「恒樹…………」
龍二は驚き、声をもらした。