AWC 想いが壊れていく −3−   作 うさぎ猫


        
#786/3137 空中分解2
★タイトル (CWJ     )  91/ 3/ 5  16:21  (173)
想いが壊れていく −3−   作 うさぎ猫
★内容

  ママは夕飯の準備をしていた。
あたしはテーブルに座ったまま、夢の中の出来事を考えていた。
 「あれはなんだったのだろう」
湖から聞こえてくる声。
森の中でのDとの出会い。
 いや、なによりも軍は、どうしてDをああまでして必死に捜そうとしたの
か。まるで、狂った野良犬のように。
 戦争中ならわかるが、たった一人の脱走者の為に森まで焼こうとして。
軍が悪魔にでも取り付かれたのか。それとも、ただ狂っているだけなのか。
 血の臭いを求めて、やって来た狂気。
それは森を焼き、Dを焼いた。
すべてが噛み合わない歯車のように、カラカラと空回りを繰り返している。
 「やだ、夢の出来事なのに」
あたしはいつのまにか、夢と現実を混同していた。
 「ちょっと蘭!? ボーッとしていないで手伝ってちょうだい」
そうだった。夕飯の手伝いに来ていたのだ。
あたしはもそもそと椅子を下りた。
 「蘭、大丈夫?」
ママが心配そうに、あたしの顔を見る。
 「うん、大丈夫よ。ちょっと考え事してただけだから」
そういって、コップを取ろうとして手がすべった。
コップは高い音をたてて飛散した。
 「もう、なにやってるの!」
ママが怖い顔をする。
 「痛っ!」
あたしは、あわてて割れたコップを拾おうとして指を切った。
血が赤く流れていた。
 ママは真っ青になり、そのまま倒れてしまった。
まさか、このぐらいの事で倒れるなんて思わなかったから、あたしの方がビッ
クリしてママにすがりついた。
 「ママ、しっかりして!」
 「サタンが・・・」
 「えっ?」
あたしはママの言った意味がわからず聞き返すが、ママはすぐに意識が戻った。
 「蘭、どうしたの?」
ママはまるまるとした目で、あたしを見た。
 「どうしたのじゃぁないでしょ。びっくりしたじゃないの!」

 パパが帰ってきてから、あたしたちは食事をした。
マーフカウのステーキに、オオツノムシのフライ。
今日は豪華なので、パパは大喜びだった。
 でも、あたしは食欲がない。
あの夢が気になってしょうがなかったのだ。
特にDの事が頭から離れない。
 「蘭、どうした」
パパがあたしを心配してくれる。
 「ううん、なんでもない」
 「ほんとにこの子ったら、最近変なのよ」
ママが困ったというふうに言う。
 「もぅ、大丈夫だってば!」
そういって、あたしはステーキをほおばった。
 そのとき、ママの顔色がまた悪くなる。
パパが心配して駆け寄った。
 「どうした?」
 「大丈夫よ」
そう言いながらもママは席を立って、横になると言った。
 「本当に大丈夫なのか?」
パパの心配そうな言葉に、ママは笑顔で答えた。
 そして、ふらふらと歩いていたが、つまずいて転んだ。
あたしが駆け寄るよりも先に、パパが抱き起した。
ママは気絶していた。
 「どうしたんだ、瞳!」
ママの名を呼ぶパパ。
気絶しているはずのママの表情が変わってくる。
顔の肉が、ぐにゃぐゃと生き物のように蠢く。
口もとは笑っていた。
 「我が名はルーシファ。我が望みは世界の支配」
ママはにやにやと笑いながら、不気味な声で言う。
 いや、これはママの声じゃない。
アルトの低い声。絞り出すような不気味な声。
ママの姿をした悪魔が笑っている。
 「どういう事だ。あの時と同じだ・・・ あの時と・・・」
 「あの時?」
パパは不思議な事を言う。パパまでおかしくなったのだろうか。
 「やだ、やめてよ」
あたしは、これも夢なのではないかと疑った。
 しかし、それを証明する事は出来なかった。

 *********************************

  次の日は、いつものママにいつものように起された。
ちょっぴり安心した反面、この平凡さが不安でもあった。
 ピンク色のパジャマを脱ぎながら、フッと外を見る。
巨大な窓ガラスを通して、メトロポリスの景色が広がっていた。
あたしは、下着のまま窓ガラスに近づいた。
 「いい気持ち」
朝日があたしの体を通っていく。
 よく考えてみれば、外からは下着姿のあたしが丸見えでとっても恥しい事を
している。
 しかし、今のあたしにとってそんな事はどうでもよかった。
昨日は不思議な事ばかりあって、変な一日だった。
ママは治ったみたいだけど、また再発するかもしれない。
 すべての謎は、あの湖にある。
Dの事も、湖へ行けばわかるかもしれない。
 「あなたは何をしているの!?」
ママが部屋に入ってきた。
遅いので、また呼びにきたのだ。
 「あなた女の子でしょう。そんな格好で、外から丸見えじゃないの」
ふぇ、あたしはおろかな事をしていたのだ。

 パパにキスをしてから家を出る。
昨日は結局、学校を休んでしまった。
並木道で体がだるくなり、倒れてしまったからだ。
 「今日は大丈夫よね」
並木道にさしかかった所で、あたしは立ち止まり考えた。
 一歩一歩、踏み締めるように歩く。
今日は体もだるくならないし、あの声も聞こえてこない。
 しかし、代わりに待ち受ける者がいた。
軍服を着た男たちが、あたしに声をかけたのだ。

 *********************************

  あたしは椅子に座って、白い壁をながめていた。
頭が少し痛む。
 軍服の男たちに麻酔をかがされ、ここへ連れてこられたらしい。
逃げようにも手足は椅子に固定されていて動けない。
 「いいかげんに学校へ行かせてよ!」
あたしは白い壁の部屋で、力いっぱい叫んだ。
 「お目覚めかな?」
後ろから声が聞こえてきた。
声の主は白衣を着た学者風の男。
 あたしはビックリした。
だって、彼の事を知っているのだ。
夢で見たあの男だ。
 「ようこそ、我が研究所へ」
男はやさしい声で、紳士的な喋り方をした。
 「いったい、どういうつもりよ」
あたしは不幸だ。徹底的に不幸だ。
 今日はちゃんと学校へ行き、平凡に暮らそうと思っていたのに。
 「白鳥蘭さんですね。あなたに少しばかり聞きたい事がありまして」
 「あなたたちは、人にものを聞くときはこうやって縛りつけるの!?」
あたしは腹が立っているのと、恐怖感とでおもいっきり怒鳴った。
 「あぁ、これは失礼」
そう言うと、男は手足を縛っている金輪を外した。
 「紹介が遅れましたが、わたしは連邦研究所の・・・」
 「サムブレイン」
あたしが男の名を言うと、驚いたようだった。
 「なぜ、わたしの名を知っているのですか」
 「言っても信じないだろうけど、夢にあなたが出てきたの」
 「夢?」
 「えぇ、マリアっていう美人と一緒にね」
サムは戸惑っているようだった。
 「あたしに聞きたい事って?」
その言葉で、彼は自分の職務を思い出したようだ。
 「Dを御存知ですね」
Dですって!? あたしは、心臓がはじけてしまうのではないかと思った。
 「Dは? Dは無事なの!?」
 「えぇ、もちろん。彼には莫大な研究費がかかっています。無事でなければ
困ります」
 「研究費?」
 「彼は我々連邦の財産です。しかし、あなたと会ってから精神弊害を起して
いるのです」
 「つまり、どういう事よ」
 「先ほど調べたのですが、あなたとDには同じ遺伝子が存在している。これ
はいったいどういう事なのですか?」
 「どうって、なにがよ。遺伝子ってなんの事よ」
あたしには、訳がわからない。
Dは研究対象であたしと同じ遺伝子を持っている。
 「答えていただきたいのですが」
 「あたしが知りたいわよ。いったいどういう事なの!?」
サムは不思議そうな表情をした。
どうやら、あたしがDの事をいろいろと知っていると思っていたのだろう。
 しばらく考え込んでいたサムは、突然大きな声で聞いてきた。
 「あなたの父の名は、なんというのですか?」
 「えっ、あぁ、パパの名前は竜だけど」
 「白鳥竜、そうですね」
ひょっとすると言ってはいけない事を言ったのだろうか。
サムは怖い顔であたしをにらんだ。



                           ・・・4へつづく




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