#785/3137 空中分解2
★タイトル (CWJ ) 91/ 3/ 5 16:16 (183)
想いが壊れていく −2− 作 うさぎ猫
★内容
ゴロニャンが、ポーンと空を飛んだ。
そして、あたしの顔に張り付く。それも朝っぱらから。
まったく、おもしろくない。
「なんなのよ、もぅ!」
まだ半分寝ている頭で、ゴロニャンを叱る。
たまにいい夢を見ているとこれだ。
ゴロニャンは二本の触覚をヒラヒラさせながら、家具の上を飛び回る。
このあいだペットショップで見つけてパパにおねだりしたものだが、今は後
悔している。まさか、こんなに元気な動物だとは思わなかったのだ。
あたしはベットからもそもそと起きると、飛び回るゴロニャンを捕まえてそ
のままベットへ押し込んだ。
全身がやわらかい毛で覆われているので、抱いているととっても温かい。
こういう時は、ゴロニャンを飼っていてよかったと思う。
はじめはバタバタともがいていたゴロニャンだったが、やがてあたしの胸で
おとなしくなった。
とっても温かくていい気持ち。
しかし、そんな気持ちもけたたましい目覚まし時計の音で消えた。
「ふぇ、時間になってしまった」
下からパタパタと、階段を上がってくる音がする。
「蘭、起きなさい。時間よ」
ママがあたしを起こしにきたのだ。
ママがブラインドのスイッチを入れると、まぶしい光りが部屋のなかへ侵入
してきた。
「ほら、いつまで寝てるの。遅刻するわよ」
いつもはやさしいママが、この時だけは鬼に見えてくる。
あたしはのそのそとベットを降りると、ピンク色のパジャマを脱ぎ捨てた。
「朝御飯出来てますからね、早く準備するのよ」
そう言い残して、ママは部屋を去った。
いつものように、パパにキスをして家を出る。
いつもと同じ日常。いつもと変わらぬ街。
「とってもいい天気」
こんな日に学校へ行かなくちゃならないなんて、あたしはなんて不幸なんだろ
う。
そんな事をぶつぶつ言いながら並木道を歩いていると、頭のなかで声が聞こ
えてきた。
「あなたでないあなたは覚醒せねばりません」
あの声だ。夢に出てきたあの声だ。
「なんだっていうのよ。覚醒ってなんの事よ」
じっとりと体が汗ばんでくる。
怖い。とっても怖い。
湖だ。湖があたしに語りかけているんだ。
「やめてよ。あたしになにをしろっていうよ」
頭が重い。体がだるい。
あたしはそのまま道にへたりこんだ。
行き交う人々が変な目であたしを見る。
「助けて・・・」
気が遠くなるまえに、あたしはそうつぶやいた。
*********************************
あたしが目を覚ましたのは森のなかだった。
あの奇妙な湖のほとりだ。
「どうしたんだろう」
あたしは、なぜここに居るのかわからなかった。
いつものように家を出て、学校へ行く途中だった。
「いったいあたしがなにしたっていうの!」
誰もいない、薄暗い森のなかで叫んだ。
針葉樹がパサパサと葉を鳴らし、水滴が緑色に輝きながら降ってくる。
そのなかを、少しだけ動くものがあった。
「なんだろう」
それは力尽きて倒れていた。
「人間?」
彼は軍服を着ていた。
あたしは怖々とした思いで声をかけた。
彼はゆっくりと目を開くと、あたしをみつめた。
なんてきれいな目をしているんだろう。
軍人というと野蛮で男臭いイメージしかなかったあたしは、彼の目を見たとき
不思議な感じがした。
けがをしているようだった。腕から血が流れている。
あたしは自分のワンピースの袖を破り取ると、それを包帯がわりに巻いてあげ
た。止血の役目ぐらいはしてくれるだろう。
「ありがとう。自分は地上軍のDという者です」
グレーの士官服を着た彼は、緊張した表情でお礼を言ってくれた。
その顔がちょっとかわいい。あたしはクスクスと笑った。
Dがはずかしそうに顔を赤くした。
あたしはあわてて弁解した。
「ごめんなさい。あぁ、あたしは蘭って言うの。白鳥蘭」
そのあと、あたしとDは2,3会話を交わした。
そして、Dは言った。
「早くここから出たほうがいいですよ」
そのDの表情は険しく、さっきまで話していたDとは別人のようだ。
「もうすぐ軍が自分を捕獲にきます」
「捕獲?」
Dの言った意味がわからず聞き返す。
「自分は軍を脱走してきたんです。でも、もう逃げきれない」
彼がどういうつもりで軍を逃げ出したのか、それは知らない。
でも、逃げ出したからには理由があるはずだ。
それなのに、このまま見捨てていくけにはいかないじゃない。
「あらめちゃダメよ! 逃げなきゃ」
彼はやさしく微笑んだ。
「ありがとう。でも、もういいんです。それより、自分と一緒にいるとあな
たまで危険だ」
どうして?
どうしてこんなときに人の心配ができるの?
突然、巨大な針葉樹のさらに上空から稲光のような閃光が刺した。
それはいくつもいくつも落ちてきて、森の木技を焼き始めた。
「地上軍が来たんだ!」
Dが叫んだ。
Dを追って来た軍は彼がこの森に逃げた事を知り、山狩りを始めたのだ。
森がごうごうと燃えていく。
あたしは恐怖で体が動かない。ただ呆然と燃えていく木技を見ているだけだ。
「なにしてる。早く逃げるんだ!」
Dは強引に、あたしの手首を引っ張ると走り始めた。
「だめ、あたしそんなに早く走れない!」
あたしの手首は引っ張られて、赤く充血していた。
「いたいよ、そんなに引っ張らないで」
軍はやみくもにビーム砲を撃っていた。
こっちが何処に居るのかまでは、わかってないらしい。
あたしたちは、燃え盛る炎のなかを必死に逃げた。
遠くからジェットバイクの音が聞こえてくる。
あんなものに追われたら逃げられっこない!
「あっ!」
あたしは石につまづいて転んだ。転んで、スカートの下から出ていた膝をすり
むいた。
「痛いよ、もう走れない」
足がズキズキする。息ぎれがして、体も立ち上がる事を拒否していた。
ジェットバイクの高周波音が、だんだんと近づいてくる。
もうだめだ。あたしは共謀者として処刑されちゃう。
そのとき、Dがまわりの草を集め始めた。
「なにをするの?」
Dはなにも言わず、あたしにその草を被せた。
「ちょっとの間、辛抱してください」
そう言いながら、草であたしの体をすっぽりと覆う。
そして、持ってた水筒の水を頭からかけた。
「何するのよ!? 冷たいじゃない!」
「少しの間だから」
そうしている間にも、森はすさまじい勢いで燃え広がる。
あたしたちのすぐそばでも、炎は燃え上がっていた。
Dは腰からハンドガンを抜く。
「ありがとう。君のあたたかさに触れる事が出来て良かった」
その言葉を最後に、Dは炎の向こうへいる敵へ突っ込んでいった。
何発かの銃声が聞こえた。
しかし、音はそれっきり聞こえなくなった。
ビーム砲の攻撃も止まったようだ。
あたしはDがカムフラージュしてくれた草のなかで、涙をながしていた。
なぜ涙が出るのか、わからない。
でも、涙は止まることなく流れ続けた。
「D・・・」
鼻をぐしゅぐしゅ言わせながら、涙声でつぶやく。
やがて雨が降り始めた。森の火を消すために、妖精が降らせたのかもしれ
ない。
あたしはなんとなく、そう思った。
雨が草の間を通ってきて、すでに涙で濡れた顔をさらに濡らす。
「D・・・」
しかし、このつぶやきは雨の音に変わっていた。
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「蘭、しっかりして」
ママの声が聞こえる。
遠い遠い意識の奥から、ママの声が聞こえてくる。
「蘭、死なないでちょうだい」
あぁ、そうか。あたしは死ぬところなんだ。
Dのところへ行くんだ。
「蘭、お願いだから目を開けて」
ママの肌の温もりが伝わってくる。
「蘭、お願いだから・・・」
ママの悲しそうな表情が、うっすらと見えてきた。
「ママ、泣かないで」
あたしがそう言うと、ママの顔が明るくなった。
パパやお医者さまがあたしの顔を覗く。
皆、ビックリしているみたい。
「あたし、生きているの?」
次の瞬間、あたしはママに抱き締められた。
あたしは並木道で倒れていたらしい。
親切な方が、あたしを病院まで運んでくれたそうだ。
でも、あたしは森へ行ったはずなのに。
パパに聞くと、夢でも見たんだろうと言った。
森も火事にはなっていないそうだ。
それなら、Dとあったのも夢?
Dと、軍の追っ手から逃げ回ったのも夢なの?
「蘭、これどうしたの?」
袖の破り取られた服を見ながら、ママは不思議そうな顔をした。
・・・3へつづく