AWC 二面の女 2   永山


        
#772/3137 空中分解2
★タイトル (AZA     )  91/ 2/26   8:22  (193)
二面の女 2   永山
★内容
「こいつはサングラスの男だな。あとはいい」
「しかし、警部。水商売風の女は……」
「それもあるが、今はサングラスが最重点だ。君。明日、管理人に会いに、も
う一度行って来るんだ。第一発見者の顔写真も持って行け。モンタージュを作
るかもしれんから、容貌も詳しく聞いて来い」
「はい」
「さらにだ。サングラスの男がマンションに出入りした時間を、より正確に思
い出してもらうよう、ようく聞くんだ」
「分かりました」
 花畑が返事をすると、車が止まった。第一発見者が運ばれた病院に向かって
いたのだ。診断がどうであろうと、動かないよう頼んでいたので、病院にいる
はずだ、と花畑が言っていた。
「えーっと……」
 花畑はロビー内を見回し、目的の人物を捜しているようだ。
「あ、彼女です」
「どこだ?」
「紫の服の人です。目立つでしょう」
 確かに、紫はすぐに下田の目にも入ってきた。髪が長く、美人に見える。
「中川さん。お待たせしました」
 花畑が声をかけると、女ははっとした様子で顔を上げた。
「ああ、刑事さん」
 やけに疲れたような声で、中川は応じた。
「どうでした? 何ともありませんでしたか?」
「はい……。でも、思い出すと、すぐに気分が悪くなって……」
「私達でも、あんな酷いのは見たことありません。あ、私、下田と言います」
 下田は挨拶をすると同時に、皮膚からの連想か、自分では思ってもいないの
に、相手の肌に目がいった。
 遠目ではきれいと思ったのだが、近くに寄ると、それほどでもない。死体を
見たせいばかりでなく、化粧荒れした感じがあり、やはりホステスなんだなと
思える。紫の服というのも、なんとなくイメージである。
「大丈夫ですか? 明日でもいいんですが」
「ええ、大丈夫。仕事もありますので、早くお願いします」
「では、どこかに場所を移しますか」
 下田は言った。

 中川は下田や花畑と一緒に、病院近くの喫茶店に移った。
「早速ですが、鬼面さんを殺すような人に、思い当たりませんか?」
「鬼面さんて、麗、それが本名なんですか?」
 中川は意外に感じた。鬼という名と麗の容姿が一致しない。彼女の顔におい
て、鬼と呼べそうなのは、目がきつい点くらいだ。
「そうですよ。鬼面麗子。これが本名です。あ、お店では本名では呼ばないん
ですか」
「そうなんです。それで、何でしたかしら?」
 質問を忘れてしまった中川は、問い返す。
「彼女を殺すような人に思い当たる節は……」
「そんな人、いないです。麗、客受けは良かったし、誰ともトラブルを起こし
ちゃいなかったし。少し、人見知りするとこがあったんですが、それも最初だ
けで、打ち解けてしまえば」
「まあ、人見知りするだけで殺されることはないでしょうね。他には? よく、
思い出してください」
「あとは……。彼女、お化粧が濃かったけど、そんなことでも殺されたりはし
ないわよね」
「そりゃそうです。では、麗子さんがどこの出身だか、聞いていませんか」
「えっと、確か、大阪よ。甲子園のあるとこだって言っていたから」
「甲子園があるのは、兵庫県でしょう」
「あ、そうなんですか? 知りませんでした、私」
 自分の顔が赤くなるのを感じる中川。
「兵庫のどこかは、知りません?」
「聞いていません」
「そうですか。じゃあ、あなたが通報するまでことを、詳しくお話願います」
 下田に言われ、中川は事細かに話した。
「……ふむ。麗子さんが病気と言って、店を休んでいたのを心配してお見舞い
にね。何日前から、彼女は休んでいましたか?」
「二日前からです。ただの風邪だって聞いてたけど、三日も休むのはどうかな
と思って、今朝、様子を見に行ったんです」
「三日と言われましたが、どういうことで?」
「今朝、電話があったから。今日、休ませてって」
「今朝ぁ!?」
 中川の答えに、相手の男達はひどく驚いた様子だ。
「それは何時頃ですか? それにどこに」
「私の所に。一応、私が一番の親友だったし。時間はそう、九時頃だったと思
います」
「九時! 今朝のですか?」
「もちろんです」
「確かですか?」
「そうですわ」
 中川は、ちょっと腹が立ってきた。折角、協力しようと思っているのに。
「何ですの、その念の押しようは」
「い、いえ。失礼をしました。実はですね、死亡推定時刻が昨日の夜なんです。
あなたが言われる時間帯には、すでに麗子さんはお亡くなりになっていたとい
うことでして」
 今度は中川が驚いてしまった。声も出せない。それでも何とか、口を開く。
「でも、あの声は確かに麗だったわ。間違いない」
「参りましたな。……待てよ。被害者は風邪をひいていたんでしたね? それ
なら声が少しは違うんじゃないんですか。聞き違えということも……」
「いいえ、彼女に間違いありません」
「そうですか。休みを取る直前の麗子さん、風邪声でしたか?」
「……いいえ。ただ、気分が悪そうには見えました」
 よく考えてから、中川は答えた。
「ははあ。それじゃ、彼女の知人、誰か御存知じゃないですかね? できれば
お店の人以外で」
「うーん」
 中川は、しばらく考えていた。
「知りませんわ。ただ、彼女、大学に行ってたみたいだから、そちらの方を調
べたら、いいんじゃないかしら」
「大学? 何て大学か聞いてますか?」
「いえ。近畿の、あまり有名じゃない公立大だとは聞いてますけど」
 中川の言葉をメモすると、少し考えるようにしてから、下田が聞いてきた。
「こんなことをお聞きするのは、大変、失礼かと思いますが、大学を出てホス
テスというのは変わっていると言うか、珍しいのじゃないですか?」
「そうでもないですわ。割に多いんですの、そういう人も。アルバイトでやっ
てみて、味をしめちゃって、そのまま本職にしちゃうっていうヤツ」
「分かりました。それでは、これが最後です。あなたが麗子さんをお見舞いし
たのは、今朝が初めてですか?」
「はい。彼女の部屋に行ったことは何度かあるけど、お見舞いは」
「そうですか。いや、どうもありがとうございました。また話を聞くことにな
るかもしれませんので、その折はよろしく」
 そう言うと刑事は伝票を手にし、外に向かった。

「大学出てホステスか。ま、職種に貴賎はないと言うがね。えらい時勢になっ
たもんだ」
 下田はついて行けない気がしていた。
「全く。親は嘆くでしょうね。それより、事件の方ですが、電話の話には参り
ました」
「ああ、電話か。ちょっと問題だな」
「死亡推定時刻が、八時間も九時間も狂う訳はないですからね」
「うむ。一応、正式なのを待つが、そうだろうな。当然、風呂の湯に浸かって
いたことを計算にいれてのものだし」
 そうしている所に、若い刑事が二人、入ってきた。
「店の他の女性に聞いたんですが、鬼面麗子を殺すような者も動機も出てきま
せん。常連客にも当たってはいますが、今のところ、期待薄です」
「期待薄なんて言ってないで、気合い入れて頑張れ。足で稼ぐもんだぞ」
 そう言ってから、下田は自分が歩き疲れ、足を投げ出して座っているのに気
付き、苦笑してしまった。
 そんな下田に花畑が言った。
「サングラス男は、店で麗子と会ってたんじゃないんですかね」
「まだ分からんが、そうじゃないと、また手間取ることになりそうだ」
「顔の皮膚を剥がした理由は、何でしょうな」
「そいつなんだが、被害者の身元を不明にするためじゃないか、結局は」
「でも、それじゃあ、指紋とかも消さなくちゃならんですよ。犯人の奴は、研
究が足りないんじゃないですか」
「それは分からん。ん? おい、マンションで見つかった遺体は鬼面麗子だっ
て、誰が確認したんだ?」
「それは、鬼面麗子が借りてた部屋で死んでたからでして」
 別の若いのが、当然のように言う。
「誰も確認してないのか? 家族は?」
「家族はまだ見つかってません。アドレス帳なんかを調べても、実家の電話番
号等は見つからず……」
「じゃあ、あれは、麗子じゃない可能性もあるんだな!」
「!」

「指紋? ああ、それが変なんだ。部屋中のほとんど全部と言っていいくらい、
指紋が拭き取られた跡があって、調べようがない」
 鑑識員が言った。
「ブザーやノブは?」
 下田はわずかな期待を込め、聞いた。
「だめだめ。第一発見者が何度か触ったんだろ。それで消えてんだ。ま、拭き
取られていたかもしれんが。だいたいノブはともかく、自分の家のブザーを鳴
らす奴がいるかね」
「そう言えばそうだな。とにかく、鬼面麗子だって確証はないんだな?」
「今のとこは」
「そうか。ありがとう。そうだ、死亡推定時刻、まだか?」
「昨日の今日、いや、今日の今日だぜ。まだだよ。被害者特定もあるから、二
週間は待ってもらわんと。でも、眼球が残っていたから、推定時刻は割と正確
に出るはずだ」
「と言うと?」
「目の濁りが重要なんだよ。犯人が、皮膚を剥がすときに、目玉も持って行っ
ちまってたら、こっちも苦戦しただろうな」
「そりゃ幸いしたな」
「ああ。そうだ、それと凶器だが、現場の台所にあった刺身包丁に間違いない。
血液反応が出たからな。指紋は出なかったが」
「そうか、分かった。じゃあ、引き続いて頼む」
「ああっと、被害者の店に聞き込みに行くんなら、誰でもいいから、鑑識のを
連れて行ってくれ」
「分かった。指紋だな」
 下田は一人納得すると、部屋を出た。

 翌日、花畑は、再び現場のマンションを訪ねた。
「容貌って言われてもねえ。そんな、じろじろ観察するんじゃないし、覚えて
ねえなあ」
 サングラス男について、花畑が聞いたのだが、管理人ははっきりしない。
「髪とか背とかは」
「そうだなあ。よく若い歌手がしてるような髪型だ。サングラスの男を見たと
き、気にいらねえと感じましたから、それは間違いありません。背は七十五に
ちょっと足りないくらいじゃないかな」
「なるほど。では、もう一度お聞きしますが、男が来た時間と帰った時間は何
時頃ですか?」
 ここが大事だと身構える花畑。
「来たのは、七時じゃなかったかねえ。それで階段を昇っていって、三十分も
しない内に降りてきたような。しばらく姿が見えねえなと思ってたら、また上
がっていった。その後は知らねえ。飯食いに、奥に引っ込んじまったからな」
「そうですか。じゃあ、男が帰ったのは見ていないと。何時頃、この管理人室
に戻られました?」
「九時だな。九時までのテレビ見たから」
「ええ? 間違いないですか?」
「ああ。疑うのかい?」
「いえ、そういう訳じゃ。ただ、死亡推定時刻とあわない点がありまして」
「そんなこと知るか」
「そ、それでは。この女性に見覚えは?」
 むっとしながらも、花畑は内ポケットから写真を取り出した。中川祥子の写
真だ。

−続く−




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