#659/3137 空中分解2
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トゥウィンズ・3 八章 (2/4) (17/25) あるてみす
★内容
しかし、疑うわけじゃないけど、もし、この城にソーラ王の手のスパイなんかが
いたりしたら、一発でアウトだし、もしかしたら、もう既にバレているかもしれな
い。
「いえ、やはり、あまり長居はしない方がいいと思います。先程聞いた情報からす
ると、見つかりさえしなければ、こっそりとソーラ王のお城に戻ることができそう
です。戻っていろいろと調べてみたいと思っているんです。」
あたしと同じ事を考えていたらしく、康司がそう言った。
「でも、危険ですわ。」
「判っています。ですが、このまま待っていると、あなた方にも迷惑がかかると思
います。それに、燈台元暗しとも言います。まさか、連中も我々がお城に潜んでい
るなんて夢にも思わないでしょうから、うまく隠れていれば、かえって安全です。」
「そうですか。そこまで言われるのであれば、仕方ありませんね。それでは、密か
に行動しやすいような装備を用意しますわ。それで、いつ出発なさいますか?」
「やはり、夜に紛れて忍び込んだ方がいいと思いますので、今日の夕方、暗くなっ
た頃に出ようと思います。」
「判りました。では、そのように手配しましょう。」
「お願いします。」
そして、あたし達はこっそりとソーラ王の元に戻ることにしたのだった。
太陽が傾き、辺りが暗くなり始めた頃、扉をノックする音とともに、
「お召し替えの用意ができました。よろしいでしょうか。」
という女性の声がした。返事をすると侍女さんが何人か入ってきた。そして、浴
室でシャワーを浴びて髪を洗ったあと、慣れた手付きで新しい下着や短衣を着せて
くれる。このまま軽い鎧なんかを身に付けたりしたら、充分、女戦士として通用し
てしまうような格好だった。
その後、髪もきれいにセットされて、仕上げにペンダントを下げて冠をかぶり、
微かな香りの香水が付けられる。
一美も、あたしと同じ格好をしていた。そして、康司には大きな剣が、一美とあ
たしには細くて軽い剣が用意されていた。どの剣も闇の中で目立たないように、全
体的に黒っぽい色をしている。
辺りはすっかり暗くなり、あたし達は剣を腰にして、そっとマース侯のお城を後
にした。この辺は、この時間になるとさすがに人影もなく、ひっそりとしている。
康司と一美と三人で、闇に紛れて先を急ぐ。数時間後、プラネット公のお城の脇
を通過。さらに数時間後、ソーラ王のお膝元の城下町に入る。これまでは時間的に
いっても人通りが少なかったけど、この辺からは人通りも多くなる筈だから、気を
付けないとお城の捜査陣に見つかってしまう恐れがある。
しかし、予想に反して街中もほとんど人通りがなかった。まるで死んだような静
けさ。
人影を警戒しつつ移動したあたし達は、半ば拍子抜けしていた。本当にあっけな
くお城にたどり着いてしまったのだ。さすがにお城の門の前には兵士がいたけど、
でも、前は確か二、三人くらいいた筈なのが今は一人しかいない。それでも兵士は
兵士、見くびっちゃいけないわよね。
兵士は一人しかいないから康司の力を以てすれば、倒すのはわけないんだろうけ
ど、そんなことするとお城に何者かが忍び込んだのがバレるから、あまり都合が良
くないのよね。かと言ってこのお城、他から入ることができる程簡単な造りはして
ないし、やはりここから入るしかない。
「あ、俺、面白いこと思い付いた。ちょっとここで待ってろな。」
物陰に隠れて門を見ながら、お城に忍び込む方法を考えていたら、康司が何かを
思い付いたらしく、闇に紛れてどこかに消える。
何もすることがなくて退屈すること小一時間。ようやく康司が戻ってきた。何や
らビンを片手にしている。
「なあに? それ。」
「酒だよ。それも結構強いやつ。さっき、街ん中に酒屋があっただろ?」
「そうだっけ?」
「なんだよ、何も覚えてないんだな。とにかく、あったんだよ。で、そこまで行っ
てきたんだ。誰もいなかったけどさ、店は開いてたから持ってくるのは簡単だった
ぜ。」
「それって、泥棒じゃない。」
「まあな。でも、仕方ねえだろ。金持ってるわけじゃないし、緊急時なんだしさ。
後で代金持って、謝りに行けばいいさ。」
一美とあたしの冷たい視線が判らないのか、それとも感じていないだけなのか、
康司はサラッと受け流す。
「ま、そんなことは後回しだ。とにかく、お城に入らないとお話にならないぜ。」
「それで、どうするの?」
「まあ、見てなって。」
康司はビンを手に門番の兵士にそっと近寄る。そして、あっさりと殴り倒してし
まった。兵士は声もなく倒れてしまう。
ちょっと、そんなことしたら、誰かが忍び込んだのがバレちゃうじゃない。
康司は気絶した兵士を抱き起こすと、ビンの栓を開けて、兵士の口の中に少しづ
つ中身を流し込む。ビンの中身を半分くらいまで呑ませた後、そのビンを兵士の手
に握らせて寝かせ、あたし達に手招きをした。
あたし達は恐る恐る倒れた兵士の脇を抜ける。
「大丈夫なの?」
「大丈夫だよ。誰かがこれに気付いてもさ、この格好じゃ兵士が酔っぱらって寝込
んでるようにしか見えないだろ? それに、実際に呑ませちまってるから、酔っぱ
らってるのは間違いないしさ、かなり強い酒だから、正気に戻るまで、かなり時間
がかかるぜ。」
そして、あたし達はお城に忍び込んだ。勝手知ったるなんとやらで、大抵のとこ
ろなら判るから、あたし達は迷うことがなかった。
ただ、いつもなら見回りの兵士もいる筈なんだけど、なぜか見当らない。
実は、門番が一人しかいなかったのも、見回りがなかったのも、あたし達を捜索
するのに人手を取られていたためなんだけど、そんなこと、この時のあたし達が知
る由もない。
とにかく、忍び込んだ後は、片っ端から部屋の扉を開けて健司を探してみるつも
りだった。いくら、お城が広いっていっても、それぞれの部屋自体も広いから、数
そのものはそんなに多くないのよね。だからすぐに探せるって思ったわけ。
もちろん、中に人がいたとしても、その眠りを妨げるつもりはなかったから、そ
っと扉を開けて調べてたんだけど、でも、ほとんどの部屋には誰もいなくて、お城
全体がガランとしていた。
もう夜も遅い。と、いうより、もうすぐ明け方かな。寝不足に弱いあたしとして
は、なかなか辛いものがあるのよね。
康司も一美も欠伸をしてる。
「ねえ、少し休まない? 幸い、誰も使ってない部屋があり余ってるみたいだし。」
「ああ、そうだな。慌てることもないし、眠い頭じゃ何もできないしな。少し眠る
とするか。」
適当な部屋を選んで、三人で中に入る。
あたしは欠伸をしながらベッドに倒れ込むと、そのまま眠ってしまった。
「おい、そろそろ起きろよ。」
耳元でささやく声がする。眠い目をこすりながら起き上がると、隣で一美も眠そ
うな顔をして起き上がった。康司があたし達を起こしてくれたらしい。
「ねえ、今、何時頃?」
うう、眠いよー。
「判らんけど、昼近いんじゃないか? 太陽が高いぜ。」
外を見ると、確かにお日様の位置が高い。あたしは一気に目が覚めた。
そっと扉を開けて廊下の様子をうかがうと、とても静かで、本当に誰もいないみ
たいな感じ。
「本当に誰もいないみたいね。」
「ま、俺達としては、その方が都合がいいんだけど、しかし変だな。」
そして、夕べの続きで、健司を探して、残りの部屋を開けて回る。そこはすでに、
今まであたし達が入ったことのない一角だった。
いくつかの扉をそっと開けて回る。どの扉を開けても誰もいないので、つい、油
断していたみたい。あまり注意せずに、いくつか開けて回っていたら、とある扉を
開けた途端に聞こえた声。
「えっ?」
思わず声を上げかけて、慌てて口をふさぐ。
「どうしたの?」
一美が寄ってきて、あたしが開けた扉の隙間から中を見た。
「や、やだあ……。」
一美は真っ赤になって扉から離れる。でも、あたしは身動きができなかった。
その声の主は女性で、悲鳴のような、しかし、それとは違う切なげな声を上げて
いた。部屋の中ではベッドに人影が二つ。二つの影がゆっくりと動いていて、その
動きに合わせるように切なげな声が続く。
あたしだって、その人影が何をしているのか、すぐに判ったから、普通だったら
一美と同じように顔を赤らめながら慌てて扉から離れることくらいのことはしたと
思う。でも、そうはできなかった。だって……、だって……。
その声は、間違いなくマイア姫だった。そして、その上にのしかかって動いてい
る人影は……あたしにとって絶対に間違える筈のない姿だった。あたし、健司のこ
んな姿は一度も見たことなんかないけど、でも、あたしには判る。その影は間違い
なく健司だった。
「健司……。」
声がかすれているのが自分でも判った。ショックの余り、あたしはその場から動
くことができなくなっていたのだ。
やがて、マイア姫の声が悲鳴に近くなり、やがて唐突に途切れる。健司の首に回
されていた腕が離れ、今度は健司にしがみつくように抱きつく。健司の動きはしば
らく変わらなかったけど、やがて、微かなうめき声とともに、その動きが止まった。
そしてマイア姫と熱いキスを交わす。
ドン!
いつの間にか、あたしは扉から離れて、そのまま後ずさり、廊下の壁にぶつかっ
てしまったらしい。力が抜けて、ヘナヘナとその場に座り込んでしまう。
やがて、扉が開くと健司が顔を出した。
「よう。久しぶりだな。会いたかったぜ。もっとも、そちらから来てくれるとは思
わなかったけどな。ま、探す手間が省けたってとこか。」
残忍そうな笑いを浮かべながら出てくると、大声で人を呼ぶ。
康司があたしに何かを言ってるみたいだったけど、何も耳に入らなかった。やが
て、兵士達が集まってくる。
あたしは壁際に座り込んだまま、兵士達に取り囲まれてしまう。そして、いきな
り戻って来る現実感。
康司と一美は、既に兵士達と向かい合っていた。康司は腰から剣を抜く。
あたしはのろのろと立ち上がった。そして、とても本当のこととは思えない現実
に、呆然としたまま健司を見つめていた。健司は再び残忍そうな笑いを浮かべると、
いつの間に用意したのか鋭く光る剣を手に、あたしに近付いてきた。
「火あぶりの刑から逃れたまでは良かったんだろうが、所詮、お前は死ぬ運命だっ
たのさ。まあ、俺の手にかかって死ねることを幸運に思うんだな。」
健司が手にした剣が凶悪そうに光る。あたしには、何もかも現実とは思えない。
やがて、剣を持った健司の手が高く上がり、そして、振り下ろされる。
「だめえっ!」
健司の剣があたしに振り下ろされた瞬間、一美が健司の腕に飛び付いていた。剣
先が逸れてあたしの脇の壁に傷を付ける。
「邪魔するんじゃねえっ!」
健司の一喝。しかし一美は怯まない。
「何よ何よ、あんた、それでも男なの! 仮にも博美はあんたの恋人でしょうが。
それを……それを……よくもまあ、そんな真似ができたものね! 他の女を抱いた
挙げ句、博美に……あんた自身の恋人に剣を向けるなんて、あんた、それがまとも
な人間のすること? 冗談じゃないわよ! あんたなんて人間の屑よ! ううん、
それじゃ人間の屑に失礼ってもんだわ……。」
よくもまあ、口がまわるものだと思う。あらん限りの悪口雑言を並べ立てて一美
がキャンキャラキャンと騒ぎ立てた。
「ぎゃあぎゃあとうるさい女だな。お前から先に死にたいか?」
健司は剣先を一美に向けた。そして、剣が一閃。しかし一美は、その動きを察知
していたらしく、素早く逃げた。
「へーんだ。のろま! そんな動きで、このあたしが殺られると思って? そんな
んじゃ、みみずだって殺せやしないわよーだ。」
健司の剣から逃げ回りながら、一美がキャラキャラと騒ぎ立てる。
その頃には、あたしもどうにか立ち直って、敵に向かうことができるようになっ
ていた。でも、一美を助けに行く暇はなかった。なぜなら、マイア姫が剣を手に、
あたしに向かってきたから。
あたしは腰にしていた剣を抜くと、マイア姫に向かった。
マイア姫が剣を振りかぶって、あたしに向かって振り下ろす。でも、あたしだっ
て昔は剣道やってたんだから。むざむざと殺られるなんてことはない。
キーン!
一瞬、剣と剣がぶつかって火花が散る。あたしはマイア姫の剣を防いだその勢い
で、マイア姫ごと押し返した。マイア姫は飛び退いて離れると、再び剣を向け直す。
そして、馬鹿の一つ覚えみたいに再び振りかぶってきた。あたしは、それを防い
で押し返すと同時に、剣先を回してマイア姫の手首を叩いてやる。もちろん、刃を
立てて叩くとマイア姫の手首が落ちてしまうから、刃が当たらないようにしながら
だけど。
狙い通り、マイア姫は剣を落とした。
あたしは素早くマイア姫の首筋に剣を当てる。
「動かないで!」
そう言ってマイア姫の動きを封じた。
あたしとしてはマイア姫に聞きたいことがあるし、それにマイア姫を傷つけるの
は本意じゃないから、なるべく簡単に済ませるつもりだったのだ。
−−− 続く