#644/3137 空中分解2
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トゥウィンズ・3 四章 (1/1) ( 9/25) あるてみす
★内容
四章 放浪・2
「ふわあああ……。あーあ。」
洞の中にまで朝の光が差し込んで、とても爽やか。だけど気分は爽やかとは言え
ないわね。夕べのことがあったから、かなり寝不足気味。眠ーい。
スクルトは既に起きていて、洞の外で伸びをしていた。あたしは着替えの服を出
してもらって、スクルトが小川へ顔を洗いに行ってるときに着替える。破れた服を
脱ぐことができて、ようやく人心地がついたみたい。
その後、あたしも小川の岸辺で顔を洗う。水が冷たくて、とっても気持ちいい。
顔を洗っただけで眠気が完全に吹き飛んでしまった。ついでに髪も少し湿らせて、
手でほぐす。
スクルトは洞に戻ってお弁当を出している。
「これが最後の弁当だ。あとは、カンナ村で食料を買うからな。」
お弁当を広げて取りあえず朝食。さっさと食べ終わったスクルトは荷物をまとめ
て背負って歩き出した。あたしも慌てて後を付いていく。
昨日歩いてた道に戻り、さらに先へ進む。朝の光が木漏れ日となって、あたし達
をチラチラと照らしてくれる。それが、とても綺麗だった。
しばらく行くと、前の方に人影がいくつか。最初は反対方向へ行く旅人かと思っ
てたんだけど、どうも違うみたい。
変に思いながら近付くと、そこには昨日の盗賊御一行様が待っていた。
スクルトもあたしも一瞬身構えたんだけど、どうも様子が変。首領が片膝を地面
に着けて腰を落し、あたしに向かって頭を下げている。他の連中も同じようにして
いて、なんだか水戸黄門みたいな雰囲気ね。
「夕べのようなことをした後で、厚かましいとは存じやすが、一つお願いがありや
す。」
「何だ?」
「我々を旅のお供に加えて頂きたいんでやす。もちろん旅のお邪魔は致しやせん。
道中何かと物騒でやすから、ティアの女神様をお守りしたいんでやす。なにとぞ!」
そして、一斉に平身低頭。困っちゃうなあ。
「えーと、あのですね。あなた方の申し出はとっても有難いんですけど、でも、あ
たし達は皆さんを養えるだけのお金を持ってないんです。だから……。」
「いえいえ、とんでもございやせん。我々自身のことは我々で何とか致しやす。あ
なた様には一切の御迷惑はおかけしないつもりでやす。」
えっと、困ったなあ。あたしとしては、あまり大袈裟な真似、したくないのよね。
あたしが困った顔をしてスクルトを見ると、スクルトは肩をすくめて、そっと耳
打ちをしてきた。
「困ることないよ。連中に付いててもらえば、少なくとも昨日みたいなことがなく
なるだろ。心強いんじゃないか?」
「それは、そうだけど。でも、あまり大袈裟にしたくないの。お城には、なるべく
そっと戻りたいから。」
できたら、大騒ぎしないようにして、そっと博美のことを調べたい。
「うーん……。あ、じゃあ、こうしよう。」
そして、スクルトは皆の方に向き直ると、
「よし、判った。お前達を供の者として認めよう。」
おお! というどよめきが上がる。
「しかし!」
スクルトは一段と声を張り上げて、それを制した。
「次の二つの事を守ってもらいたい。一つ、悪どい真似をして人に迷惑をかけない
こと。そして、もう一つ、我々としては、お前達の事を秘密にしておきたいので、
あまり人前に姿を見せないようにすること。どうだ、できるか?」
「それくらいはワケありやせん。なにしろ今まで盗賊稼業やってやしたから、人に
知られずに動くのは得意でやす。それに、元々、手に職を持ってた者ばかりでやす
から、盗賊稼業を廃業しても、なんとか食っていくだけの技術は持ってやす。」
「よし、判った。」
スクルトがうなずくと、皆、一斉に立ち上がり、首領が大声を張り上げる。
「よーし、貴様らも今のお言葉が守れるかーっ!」
「オーッ!」
「では、行くぞーっ!」
「オーッ!」
そして、首領があたし達に向かって一礼すると、皆、潮が引くようにいなくなり、
あっという間に森の中へ消えてしまった。あとには、森の静かな雰囲気が残るだけ。
あたし達は、その様子を少し呆然として見てた。やがて、スクルトが気を取り直
す。
「さ、俺達も行くか。」
「そうね。」
なんか訳判らなかったけど、でも、なんとなく悪いことではないみたいね。
あたし達は、また森の中の道を歩き始めた。時々、喉が渇くと道を逸れて小川に
水を飲みに行ったりしながら、一本道をひたすらまっすぐに歩いていった。
お日様がだんだん高くなっていき、もうすぐ真上にくるっていう頃になったとき、
道の先の方が明るくなっていた。
「やっと森の出口についたぜ。あとはまたしばらく草原の中だけど、すぐにカンナ
村に着くから。そしたら少し休憩だ。」
あたし達は、やっと森を通り抜けることができたらしい。明るい日差しの中、あ
たし達はカンナ村へと向かう。そういえば、あの連中も、もう森を抜けたのかしら?
姿は見えないけど。
「ねえ、あとどれくらい?」
「もうすぐ着くよ。ほら、向こうの方にいくつか建物が見えるだろう。あれがそう
だから。」
まだ結構遠いけど、道の先の方に小さく建物が並んでいるのが見える。
「カンナ村に着いたら一休みできるからな。それまで、もう一頑張りだ。」
もう一頑張りだなんて言って、およそ一時間。一時間よ。カンナ村に着くのに一
時間もかかるんだもん。疲れたあ。
カンナ村に入ると、すぐに休憩所に行って足を休めた。
それにしてもスクルトってタフよねえ。休憩所に入ったと思ったら、保存できる
食料を仕入れてくるって言って、すぐにまた外に出ていくんだもん。
あたしは疲れ切って、椅子にへたりこんだまま、ぐったりしてた。足がダルくて
たまらない。
しばらく休んで、ほんの少し疲れも取れて、ちょっと待ちくたびれた頃、ようや
くスクルトが戻ってきた。少し大きめの袋を持って。
「待たせて悪かったな。でも、これだけあれば、もう食料の心配はいらないぜ。」
「これだけで大丈夫なの?」
「ああ、実はね、ここまでが、この旅で一番辛い所なんだ。ちゃんと泊まれるとこ
もないし、食料もそれなりに持ってないとキツイしね。だけど、ここからはいくつ
か村が点在してるから、昼飯程度の食料を日数分持ってれば足りるのさ。朝夕の食
事は泊まった村で食えるし、まともに宿に泊まることもできるしね。」
そして、ここでさらにスクルトのタフなところを見せつけられた。
「ところで、そろそろ、腹減ってるだろ? 昼飯にしようぜ。」
スクルトは、結局休憩もとらずに、食堂に向かった。
なんとなく、まともな食事をするのが久しぶりって感じ。昨日の朝以来だから、
そんなに経ってるって訳でもないのにね。
スクルトは出てきた料理を片っ端からパクついている。あたしもお腹が空いてた
ので、それなりに食べてしまった。
そして、食事が終わって一休み。
スクルトってすごいわよね。こんなわずかな休みで疲れを癒しちゃうんだから。
食堂を出たあたし達は、そのままカンナ村を後にする。
「次のナガ村までは、ゆっくり歩いても五時間位で着けるから。」
ひぇー。また、五時間も歩くのお?
あたしは、スクルトの言葉に、ゲンナリした。
でも、今夜はそこで一泊するって聞いて、なんとなく、ほっと一安心。
早く、まともに建物の中で眠りたい!
夕べは、あんなことがあったせいもあって、まともに眠れてないのよね。それに
疲れも加わってるから、今夜はぐっすり寝られそう。
もう少し。もう少し歩いていけば、今夜はぐっすり眠れるんだ。そう思っていた
ら、わずかに歩く速度が上がっていたみたい。スクルトも少し足を早めていた。
そして、何もない平原の中を歩くこと四時間以上。お日様が地平線に沈んで夕闇
がせまるころ、あたし達の前にはナガ村の姿があった。少し早めに歩けたから、五
時間かからなかったのね。
ナガ村に着くとすぐに宿をとって、部屋に入った。宿の食堂には既に夕食が用意
されていて、お腹が空いていたあたし達はすぐに食べにいった。
その後、宿のお風呂に、久しぶりって感じで入って、思いっきり手足を伸ばして
温まった。とっても気持ち良くって、そのまま眠り込んでしまいそう。
充分に温まって疲れを癒したあたしは、部屋に戻るとすぐに寝床に潜り込み、夢
も見ずに眠りに落ちてしまった。
朝の光が目に突き刺さり、あたしは大きな欠伸をして起き上がった。
こんなにぐっすり眠ったのは久しぶり。だけど、足が痛い。
顔を洗って部屋を出ると、スクルトとぶつかりそうになった。スクルトも顔を洗
って部屋を出てきたとこらしい。そのまま一緒に食堂へ行って、朝食をとる。
そのあと荷物をまとめ、宿を出た。
宿代が値上がりをしてたとかで、スクルトはぶつぶつ言ってたけど、宿の主人に
文句を言うだけ言って気が晴れたのか、それ以上の悶着は起こさずに出発できた。
「今日はミナツっていう街まで行くからな。昼過ぎくらいにフハ村で一休みできる
と思うけど、昨日みたいに疲れることはないと思うよ。」
そして、草原や畑などの単調な景色の中を歩くこと約五時間。なんとか無事にフ
ハ村に到着。
さっそく、食堂を探して昼食をとりながら一休み。
「ねえ、すっかり聞くの忘れてたけど、お城に着くのはいつごろになるのかしら?」
「今晩がミナツだろ? で、明日の晩はウキ村だろうから、順調に行けば明後日の
夕方くらいになると思う。もちろん、何のトラブルもなければ、だけどね。」
「明後日かあ……。」
あたしは思わずため息をつく。ほんと、結構遠いのね。
しかし、スクルトの『何のトラブルもなければ』という言葉も空しく、あたし達
はトラブルに巻き込まれ、予定通りに着けないことになる。
昼食を終えて食堂を出て、フハ村を出発しようとしていた矢先、突然、役人とお
ぼしき人物に呼び止められた。その後ろには兵士が何人か。
「待て。貴様、年はいくつだ?」
これはスクルトに向けられた言葉。
あたし、こういうのって大っ嫌いなのよね。どうせ自分では何にもできないくせ
に、権力をバックに偉そうに威張ってるタイプ。でもスクルトは、ここでゴタゴタ
は起こしたくなかったらしく、とりあえず素直に答えた。
「十八才ですが。」
「そっちの男は。」
「おあいにくさま。あたし、男じゃないんですけどね。」
「なにっ! 女か? 女がそのような格好をして、何をしている。いや、まあ良か
ろう。今は女に用はない。問題は貴様だ。成人男子が、このようなところで何をウ
ロウロしておるのか。まさか、その格好で兵士だというわけではあるまい。」
「は?」
スクルトは本当に訳の判らない顔をしていた。
後で聞いたんだけど、ここじゃ十八で成人になるのだそうだ。でも、そのことと、
この役人にどんな関係があるのか、あたしも判らなかった。
「ふむ、やはりな。おい、ひっ捕らえろ。」
その役人の言葉に、後ろに控えていた兵士が一斉にスクルトを捕まえようとする。
「うわっ! こら! 何しやがる。」
スクルトは近寄って来る兵士達を殴り、蹴り倒し、さんざん暴れ回った。
スクルトって、あの盗賊連中にはかなわなかったけど、けっこう強いみたいね。
スクルトを捕まえようとしている兵士を片っ端から倒している。
と、いきなり騒ぎが急に大きくなって、すぐに静かになった。どこから現われた
のか、あの盗賊御一行様がスクルトに加勢して、その役人と兵士達を完全に制圧し
てしまったのだ。
「あら、あなた達……。」
「へえ。なんか、やばそうだったんで、加勢しちまいやしたけど、まずかったでや
すか?」
「ううん、ありがとう。おかげで助かったわ。」
「それじゃ、あっしらは、この辺で。」
言うが早いか、盗賊御一行様はあっという間に姿を消した。本当に、今まで何処
に隠れてたのかしら?
スクルトは肩で息をしながら、辺りに横たわってる兵士達を眺めてた。
「まったく、こいつら、いきなり、なんだってんだ?」
そんなの、あたしだって判らない。
「しかし、あの連中のおかげで助かったぜ。あとは、こいつらが目を覚まさないう
ちに出発した方が良さそうだな。」
スクルトは、放り出されていた荷物を背負うと、倒れてる連中を後にして歩き出
した。あたしもスクルトにくっついて一緒に歩き出した。
−−− 四章終わり