AWC トゥウィンズ・3 一章 (1/3) ( 1/25) あるてみす


        
#625/3137 空中分解2
★タイトル (VLE     )  90/ 9/15  11:45  (197)
トゥウィンズ・3 一章 (1/3) ( 1/25) あるてみす
★内容
一章  雪の中

「わー、止まんないーっ!」
 ドサッ!
 転んで、しりもちをつき、また雪まみれになる。
「あーあ。やんなっちゃうなあ、もう。」
 思わず、ため息。ほんと、やんなっちゃう。
 一美も僕と似たようなもので、やっぱりスキーが好き勝手な方を向いて、キャー
キャー言いながら雪の中を転げ回っている。
「大丈夫か?」
 健司が、すっと滑り寄ってきて、ズザッという音とともに、憎ったらしいくらい
見事に目の前で止まると、
「ちょい動くなよ。」
 と言いながら、スキーの板と足がからまって立ち上がれないでいる僕の足を持っ
て、板を外してくれた。足が急に楽になる。
「まいっちゃうなー。人が滑ってるの見てると、すごく簡単そうなんだけどね。」
「ま、最初は誰だってそんなもんさ。俺だって昔は滑れなかったんだぜ。ほれ、い
つまでも寝てると冷え性になっちまうぞ。」
 健司に手を借りて立ち上がり、再び板を付ける。
 そしてまたプルークボーゲンとかいう滑り方で、ゆっくりと滑り始めた。
「わっ、わーっ!」
 ドサッ!
 小さなコブに板を取られて、また転んでしまった。

 年が明けたばかりで、まだまだ冬休みの真っ最中。
 今ね、健司達一家と一緒にスキーに来てるんだ。
 このスキー場は、健司と康司が生まれるずっと以前から、健司のお父さんが毎年
何度も来ていたお馴染みのスキー場なんだそうで、結婚して二人が生まれてからも、
冬になると、休みが取れる度に家族総出でここに来てたんだって。
 僕達の方は、冬休みの今頃っていったら、例年ならば家で正月気分のまま退屈な
時を過ごしてるとこなんだけど、今年は健司と康司がスキーに行かないかって誘っ
てくれたんだ。
 スキーなんてやったことないって言ったら、教えてやるからさ、の一言。
 そしたら、たまたまそれを聞いてた健司の御両親も、すっかり乗り気になってし
まって、直接うちの親に話をしてくれたんだ。うちの親も最初は「迷惑だから」な
んて言ってたんだけど、でも最後には許してくれて、で、こうして、ここに来れる
ことになったわけ。
 だけど、前にも言った通り、一美も僕もスキーなんて一度もしたことないから、
当然のことながら道具なんて全然持ってないんだよね。そしたら父さんが十二月の
半ばに出たボーナスでウェアやらゴーグルやら一式を、一美と僕にお揃いで買って
くれたんだ。
 さすがに板や靴までは財政上の理由もあって手が回らなかったけど、スキー場に
行けば、どこにでもレンタルスキーがあるって聞いたので、それを借りることにし
た。これだと行き帰りに長い板を持って歩かなくて済むっていう利点もあるしね。
 そして、荷物一式を用意してから正月を迎えて、おとそ気分も抜けやらぬ今日こ
の日、こうしてスキー場に来たっていうわけ。
 今日の朝早く出発して、ここには昼過ぎくらいに着いた。そして、宿に入って部
屋に案内されて一息ついた後、スキーの準備。準備が終わった途端、健司の御両親
は「ちゃんと面倒みてあげるのよ」という言葉を残して、あっという間に、どこか
に消え去った。
 で、僕達は健司と康司にいろいろと教わりながら、こうして今、必死の思いで初
心者用ゲレンデを滑り降りてるっていうわけ。

 そろそろ夕方。必死にプルークボーゲンでゲレンデを滑り降りて、そのまま宿の
前に到着。
 僕達が泊まる宿は、ゲレンデの中にあるんだ。玄関前は既にゲレンデだから、そ
こで板を着ければ、そのまま滑ってリフト乗り場まで行けるし、終わるときもゲレ
ンデを滑り降りてくるだけで玄関前に到着できる。
「ふう、疲れたあ。」
 玄関前でビンディングを外す。
「わっ!」
「おっと、大丈夫か?」
 板を外して靴だけで雪の上に立った途端、急に足がふらついて転びそうになった。
 でも、健司が支えてくれたおかげで、なんとかコケずに済んだみたい。
「ひえー、足がガックガク。こんなに疲れるなんて思わなかったあ。」
「変に力み過ぎたんだろう。慣れりゃそんなことなくなるんだけどな。」
 少しふらつきながら板をかついで玄関に入り、玄関脇にある乾燥室の所定の位置
に板を立てかける。そして、椅子に座って靴を脱ぎ、健司が持ってきてくれたサン
ダルに履き換える。
「うっわー! 足がすごく楽。」
「そうだろ。俺さ、この一瞬が好きなんだ。ほんとに気持ちいいもんな。」
 そして、靴も所定の場所に置いて、玄関でスリッパに履き換えて健司達の部屋に
入る。
「あら、お帰り。一美ちゃんも博美ちゃんも疲れただろ。さあ、早いとこ着替えて
おいで。もうすぐ夕飯になるからね。」
「はーい。」
 一足先に戻っていたお母さんに言われて隣に用意された自分達の部屋に戻り、ス
キーウェアを脱いでGパンとセーターに着替え、健司達の部屋に戻った。

 今、健司のお母さんを、単にお母さんって言っちゃったけど、これ、実は、この
スキーに来る途中、電車の中で言われたからなんだ。「このスキーの間だけでいい
から、お父さん、お母さんって呼んでくれないか」って。
 普段から何度も健司の家に行ってて、健司達の御両親とも親しくなってた僕達だ
けど、さすがに単にお父さんとかお母さんって呼ぶのって、なんとなくこそばゆい
ような恥ずかしいような変な気がしたんだよね。でも悪い気はしなかったし、この
旅行の間だけでもそう呼ぶのって、なんとなく面白そうだったから、今はお父さん、
お母さんって呼んでるっていうわけ。

 館内放送で夕食の用意ができたことが伝えられて、六人で食堂に行く。
「そうか。とうとう健ちゃんと康ちゃんにも恋人ができたか。二人とも、もう、そ
んな年頃になったんだなあ。」
 テーブルの上には六人分の食事が用意され、それを食べ始めたところへ、この宿
の主人がやってきて、お父さんと一緒にビールを飲みながら雑談をしつつ、一美と
僕を見て、そう言った。
 お父さんは、学生の頃からここにスキーに来る度に、必ずこの旅館に泊まってい
るお馴染みさんなんだって。そして、結婚前には恋人(つまり、今のお母さん)も
連れて来ていたし、結婚した後も相変わらず一緒に来てるそうだし、子供が生まれ
てからも毎年何度もこの宿に泊まってるもんだから、健司と康司は、この宿も自分
の家みたいに思ってるんだって。
 そのせいか、好きなときに台所に行って冷蔵庫からジュースとかを持ってきたり
してる。もちろん、ちゃんと断わってから持ってきてるみたいだけど、でも本当に
いいのかなあ。
 そして、この宿には彰子さんっていう、もうすぐ二十歳になる娘(健司と康司は
アキちゃんって呼んでる。)がいるんだけど、そのアキさんも遠慮無しに部屋に入
ってきては健司や康司なんかと親しく話し込んだりしてる。
 ほんと、なんだかやきもち焼きたくなっちゃうくらい親しいの。
「だけど、健ちゃんも康ちゃんもなかなかやるじゃない。こんな可愛い子をそれぞ
れ恋人にしちゃって、こんなふうに連れて来ちゃうなんてね。」
 夕食が終わって、皆で部屋に戻ってきて、ついでにアキさんも部屋に来て、一緒
に過ごす楽しいひととき。
「そういうアキちゃんだって、こうやって抱いてくれる素敵な彼氏がいるんだろ?」
「わっ。」
 一瞬びっくり。健司ったらふざけて、いきなり僕の肩を引き寄せるんだもん。
 バランスを失った僕は健司の胸の中にひっくり返った。そのまま後ろから抱き締
められる。
「あん、もう判ったわよ。邪魔者はさっさと退散することにしましょ。あーあ、熱
い熱い。」
 アキさんは手で顔を扇ぐような真似をしながら立ち上がると、お父さんとお母さ
んに、お休みなさいって挨拶をして、そのまま部屋を出て行った。
「ねえ、いいの? あんなこと言っちゃって。」
 後ろから健司に抱き締められたまま、健司の顔を見上げながら言うと、
「ああ、アキちゃんか? いいの。あれでもね、今年の春に結婚する予定の恋人が
いるんだ。来年はもうここにいないかもね。」
「ふーん、きれいな人だね……。」
 アキさんの出ていったドアを見つめながら呟くと、
「まあな。俺も、一時は憧れたりしたもんさ。でも、ガキん時からの付き合いだろ?
なんとなく姉貴みたいな感じになっちまってんだよな。だから今はアキちゃんに幸
せになって欲しいって思ってるんだ。それに今の俺には、お前がいるしな。」
 健司は僕を抱き締めたまま、こんなこと言って後ろから僕の顔をのぞき込む。
 健司と目が合って……。
「ほら、健司。いい加減にしなさい。あんまり悪ふざけが過ぎると博美ちゃんに嫌
われるわよ。」
 うわっ! お母さんもいたんだっけ。思わず赤面。
「さあ、そろそろ寝ましょうね。一美ちゃんも博美ちゃんも、寝不足になると明日
が辛いわよ。」
「はーい。それじゃお休みなさい。」
 お父さんと健司と康司の三人に挨拶をして、お母さんと一緒に隣の部屋に行く。
 例年だと家族四人で一部屋だけ借りて泊まるそうなんだけど、今年は僕達がいる
でしょ? だから二部屋を続きで借りて、一部屋にお父さんと健司と康司が、もう
一部屋にお母さんと一美と僕が泊まることになってるんだ。
 布団に潜ると、
「二人とも、今日はどうだった? だいぶ疲れたでしょう。」
「ええ。もう、足が疲れちゃって。まだ膝がガクガクしてます。」
「あたしも。もう足が半分死んでます。」
「あはは。最初はそんなもんかしらね。でもね、明後日くらいまで滑ってると、あ
とは慣れて楽になるわよ。頑張りなさいな。さ、寝不足は美容の大敵よ。早く寝ま
しょうね。」
「はい、お休みなさい。」
 目を閉じたら、疲れてたせいか、すぐに眠りに落ちてしまった。

「さーて、今日は頂上まで行ってみるか。」
「えーっ? そんな自信ないよー。」
「大丈夫だよ。ここはちゃんと頂上から初心者用のゲレンデがあるんだから。ほれ、
リフト券。」
 渡されたリフト券をホルダーに入れて腕に付ける。そして、必死にプルークボー
ゲンをしながらリフト乗り場に向かう。
 お父さんとお母さんは「それじゃ、頑張ってね」という言葉を残して、とっくの
昔にいなくなっていた。
「あれ? このリフトに乗んないの?」
 健司達は昨日乗ってたリフト乗り場を通り過ぎてしまった。
「ああ、昨日はこれにしか乗らなかったから判らなかっただろうけどさ、これじゃ
頂上まで行けないんだ。上に行くには、そっちのリフトに乗らないとな。」
 そして、すぐ隣にあるもう一つのリフト乗り場に行く。
 昨日から思ってたんだけど、このリフト、今まで乗ってたやつと少し違うんだよ
ね。一度に四人も運んでるし、それに速度も早いみたい。
「ねえ、このリフト、少し早いみたいだけどさ、僕なんかでもちゃんと乗れるのか
なあ。」
 列の最後に並んで順番を待ちながら健司に聞いてみる。
「大丈夫だよ。もう少し待っててみな。すぐに判るから。」
 そのまま進んで、乗る少し前になって、ようやく判った。
「へえ、このリフトって乗るときは遅いんだね。」
「そう。いくらなんでも、あんなに早い速度のままで乗るわけにはいかないからね。
こいつはゴンドラなんかと同じように大がかりな装置を使ってるんだ。だから乗る
ときと降りるときは遅いんだけど、途中は結構早いんだぜ。」
「へえ。」
 そして、僕達が乗る番になった。
 左に健司、そして僕。僕の右には一美が座り、一番右が康司だった。
 後ろから横長の椅子がゆっくり近付いてきて、昨日のリフトより乗るのが簡単。
 四人で座って、康司が上からレバーを下げた。と、同時くらいにガクンと加速。
 一気に加速して、軽い振動とともに、太いロープに乗った。
 ほんと、健司の言葉通り、結構早い。その真下を色とりどりのスキーヤーが降り
ていく。
「今は、これができたから早いけどさ、前はふつうのリフトだったから、すごい時
間がかかったんだぜ。この上に行くだけで十五分以上かかってたもんな、確か。」
 そう言ってるうちに、リフトは上に到着。五、六分くらいで到着するみたい。
 リフトが建物の中に吸い込まれ、ググッと減速をした。と、康司がレバーを上げ、
すぐにスキーが地に着いた。
「へえ、これって結構面白いね。」
「この上にも同じのがもう一つあるぜ。」
「え? この上?」
「そう、この上。そこのリフトに乗って、その上にもう一つクワッドの高速リフト
があるんだ。」
「えー? そんなに上まで登るの?」
「頂上まで行くっつったろ? まだまだ上だぜ。」
「大丈夫かなあ……。本当に僕でも降りて来られる?」

−−− 続く




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