#623/3137 空中分解2
★タイトル (HAG ) 90/ 9/13 23:16 (199)
500円玉のバトン (2) 刹那
★内容
そんなこいつが女に振られ、しかもそのことを、ある意味で恥ず
かしいことを総合評価が中の下(というふうに前にこいつに言われ
た)の僕に話す。
本当に何故僕なんだろう?
・・・まあいいか、考えても分からない。
どんな理由があってこの僕を選んだかは知らないがご指名には答
えることにしよう。
「おい、聞いているのか」
さっきから黙りこんでいる僕にあいつが話しかけてきた。
「すまんすまん。ちょっとびっくりしてしまって。うん、それで?」
僕は話を続けるようにと促した。
するとあいつは堰を切ったように淡々と話し出す。
最初はクラスのある行事で同じ班なった事が始まり。そのうちに
一人の女の子が気になり出した。行事の都合上、放課後も班で集ま
って仕事をすることが多かった。学校でも話す回数がより多くなる。
その女の子と一緒にいると胸がドキドキする。楽しく、幸せな気分
になれる。その内にただの友達では満足出来なくなってきて、1ク
ラスメートではなく、恋人になりたくて交際を申し込み、そして・
・・断られた。明日からどういう態度で彼女に接すればいいのか分
からない。考えられない。どうしょう。どうしたらいいんだ。
「・・・という分けなんだ」
「ふーん」
僕は気の抜けた返事をする。僕はあいつの話を真剣には聞けなか
った。
余りにもバカバカしくって。
だってそうだろ。
恋愛中の人間の思考なんて経験のない僕に理解できるはずがない。
実際に話を聞いたけどやっぱり理解できない。
何故交際を申し込んだんだ?
何故友達でがまんできなくなったんだ?
友達と恋人の違いはなんだって言うんだ?
理解できない。全く理解できない。
でも・・・これだけは分かる。間違っているのは僕の方だ。
あいつの考え、行動のほうがきっと正しいのだろう。
それでもこいつのやったことは僕から見れば馬鹿な人間の行動だ。
・・・まてよ。
じゃあ賢い人間はどんな行動をするのだろう・・・うーん。わか
らないな。
なにげなく窓の外に目をやる。
駅前の大通りをたくさんの人が歩いている。
その中にいる何組かのカップル。
手をつないでいるカップル。腕を組んでいるカップル。
楽しそうに喋りながら、笑いながら歩いている。
こいつもあんなふうになりたかったのだろうか?
ふと、あいつのほうを見るとあいつもいつの間にか窓の外を見て
いた。ナントも言えない表情をして。
「残念だったな」
僕は気休めに、本当に気休めに言った
今の僕ではこれ以上のことなど言えない。
『立派なこと』を言おうと思えば言える。
でも僕には経験がない。経験のない知識としての慰めの言葉など
少しの重みもない。
だから一言だけそう静かに行った。
こんなの慰めの言葉にもならないな。
でもしかたがない。
・・・さてと、僕にできることはもう無いだろう。
ご指名にも答えたし後はあいつ自信の問題だ。
うん、こういうのは突き放すことも大切なのだろう、多分・・・。
僕は何も言わないあいつを無視し、さっきの本屋で買ったおいた
マンガを読み始める。
一つ目のサンドイッチを右手に持って。
あいつを窓の外を見たまま、何かを考えているふう。
「ありがとう」
三つ目のサンドイッチを食べているときに突然こっちを向いてあ
いつが言った。
「?」
「ありがとう」
あいつはもう一度いう。
「やっぱりお前を選んでよかった」
そう言ったあいつの顔には今までと同じ用に苦悩の表情だったけ
ど、わずかに、ホントにわずかに嬉しそうな感じを受けた。
僕の気のせいかしらん。
わからないな。
ホント、今日はわからないことだらけだ。
ま、本人がありがとうと言っているからこれでいい・・・という
ことにしておこう。
僕は四つ目のサンドイッチに手を伸ばした。
(結局その日はそのまま別れたんだっけ)
本屋まで後数分。
人通りも多くなってきた。
このままのペースで行けば約束の時間にちょうど着くことができ
るな。
ま、どうせあいつはまだ来てないだろうけど。
あの日、どうして僕を選んだのかは聞かなかった。
失恋の痛手を抱えているあいつに余計なことを聞くのは酷だと考
えたから。
で、それ以来何となく聞きそびれてしまい結局聞かなかった。
一週間前までは。
一週間前の日曜日、またあいつから呼び出しがあった。
「よお」
約束の時間プラス20分後。あいつは本屋にご到着なさった。
「よぉ、じゃない。たまには定刻どうりに来てくれよ」
「まぁ、いいじゃないか」
「まったくもう。で、僕を呼び出した用事は?」
「まぁそう急ぐな。喫茶店でゆっくり話すからさ、な!」
あいつは僕の肩を叩いた。
何だろう?やけに機嫌がいいな。
「好きな子ができたんだ」
サンドイッチセットを注文し終えた途端あいつがいった。
「・・・はあ?」
「好きな子ができたんだよ」
「・・・あっそ」
「それで近いうちに交際を申し込むんだ」
「・・・それはそれは」
「どうだろう?今度はうまくいくかな」
「・・・さあ」
僕は力なく相づちを打つ。こいつ・・・またか。今度で何人目だ?
えっと。いち、にい、さん、よん。そう、四人目だ。
クリスマスイブのあの日から今日までこいつは三人の女の子に交
際を申し込み、断られた。
振る女も女だ。こいつはこんなにカッコイイのに何が気にいらな
くて断るんだ?
まったく。
振られるたんびに呼び出される僕の身になってくれよ。
自分でも無茶言って入ると思うけどさ。
ある日突然呼び出しの電話が鳴り、いっつも暇なもんだから呼び
出しに応じ、本屋にいけば20分遅れで現れて、喫茶店にいき、振
られてしまった、どうしてだろう、何故なんだろう、どうしたらい
いんだ、と落ち込み僕を困らす。
いまだに恋愛経験のない僕はこいつに重みのある慰めの言葉が言
えない。なのにこいつはすでに三回の恋愛経験があり、振られ、傷
付き、大きくなっている。
僕が遅いのか、あいつが早いのか知らないが・・・。
どっちにしてもいちいち僕を呼び出すのは止めて欲しい。
他にも友達がたくさんいるのにどうして僕なんだ。
あの日とおなじ疑問が浮かんだ。
よし!
今日こそ聞いてやる。
「おい」
「ん?」
「どうしていちいちぼくにそんなこと言うんだ?振られたとき僕を
呼び出すんだ?他にもっと親身になって話して、慰めてくれる友達
がいるだろう」
僕は一気にしゃべる。
「どうして僕を選ぶんだ?」
これはねんおし。
するとあいつはちょっと不敵に笑い言う。
「それなおまえがバカだからだ」
「・・・」
「例えば今、おまえバカと言われて腹が立ったか?」
「いいや、べつに」
そのくらいのこと言われ慣れているし、実際僕はバカだからな。
自分で認めているから腹も立たない。でもだから余計に疑問に思
うんじゃないか。こんなバカにどうしてこいつは「どうしたらいい
んだ」と相談するのかが。
「ふつうはおこるぞ、バカなんて言われたら。まあそれはいいとし
て、おまえ俺が今まで振られた女の名前知ってるか?」
「知らん」
「だろ?何故僕に聞かないんだ?」
「?・・・だっておまえは言わないし、僕は興味ないし知ったとこ
ろでどうなるというわけじゃないし」
「うん、おまえならそういうと思った。でもな、他の奴ならそうは
言わない。俺が『振られた』と言った時点ですぐに『だれに?』と
聞いてくるだろな。そして根掘り葉掘り俺から聞き出し、分かり切
ったような顔をして『立派なこと』を言う。ここはこうだ、そこが
間違っていた、その時はこうしたほうがよかったな・・・」
「おまえもそう言って欲しいんじゃないのか?よく聞いているじゃ
ないか。どうしょう、どうしたらいいと思う。って」
「まあそれはそうなんだけどな。それは・・・ほら、人間の感情の
複雑なところで、もう答えは出ているんだからこれ以上人にとやか
く言われたくないわけだ。矛盾しているけどな。それでだ、おまえ
は違うだろ。今だって誰を好きになったのか、振られた相手の女の
こと、どういうことがあったのか、俺が言うこと以上のことは知ら
ないし聞きもしない。俺が意見を求めても『残念だったな』ぐらい
しか言わないでくれる。失恋して落ち込んでいる俺にはとてもあり
がたいんだ、そういうのが」
「なら一人でおとなしく家にいればいいじゃないか」
「そういうわけにもいかないんだ。なぜだか分からないが人が恋し
くなって誰かにこの話を聞いてもらいたくなるんだ。で、選んだの
がおまえってわけ。どう?答えになってるか?」
僕は考える。
うーん、うーん、うーん。
結論。
まあいいか。こいつの言っていることは良く分からなかったがど
うやらこいつには僕が必要らしい。人に必要とされるのは嬉しい。
どうせいつも暇だしこいつに付き合うことにしよう。
僕は財布から500円を出しながらあいつに言う。
「今度こそ頑張れよ」
なのに今日電話が鳴った。声の調子からしてどうやら駄目だった
らしい。
やれやれ。また喫茶店に行くはめになる。
お、本屋に着いた。
腕時計を見れば3時2分前。あと20分、また立ち読みでもして時
間をつぶそう。
そう考えて雑誌に手を伸ばすと聞こえてきたあいつの声。
「よお、遅かったな」
「!」
う、嘘だ〜〜〜! そんな馬鹿な!!
あいつが約束どうりに来るなんて。
何があったんだとあいつのほうを見ればあいつに寄り添うように
立っているかわいい女の子。
!!!!! まさか、まさか、四度目の正直か?
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