AWC 500円玉のバトン 刹那


        
#622/3137 空中分解2
★タイトル (HAG     )  90/ 9/13  22:31  (200)
500円玉のバトン            刹那
★内容
  電話がなった。僕は受話機を取った。聞こえてきたのはクラスメ
ートのあいつの声。
『もしもし?俺だ。おまえ暇か?そうか暇か。ならいつもの場所で
3時に逢おう。じゃあな』
  ガチャン!おいおい、僕は何も言ってないぞ。
  まったく、あいつは僕がいつも暇だと思っているな。まあ、実際
暇なんだけどさ。
  あいつはこっちの都合というものを考えない。でも、あいつの
そういうところが僕は好きなのだけど。自分に自信をもった行動。
度を越して時々わがままになるけど僕にはないものを持っている。
だからあいつと遊ぼうという気になる。
  それはそうとやっぱり駄目だったかな?
  電話してきたということはまた女に交際を申し込んで断られたん
だろうな・・・。
  今回も喫茶店にいってあいつを慰めなくちゃならない。
  僕は財布の中に500円があることを確認する。
  あいつもいったい何回振られれば気が済むんだ。
  振られたくて振られるわけじゃないだろうけど・・・。
  確か、一回目が高校1年のクリスマス・イブの日、だったかな?
  僕は靴を履きながら思い出していた。あの時も今みたいな強引な
呼び出しだったな。

はクリスマス・イブ。
  だからどうした、という感じで僕はコタツに入ってテレビを見て
いた。
  電話がなる。
  しまった!コタツにはいる前に電話を手元に持ってきとくべきだ
った。
  今家にはだれもいない。くそ!仕方がない。僕はコタツから脱出。
  小走りしながら電話口まで。ヒンヤリ冷たい受話機を取る。
「はい、もしもし?」
『あ、もしもし?俺だ』
  電話の相手はあいつだった。4時に駅前の本屋にきてほしい。
  ちょっと用事があるから、と。
  電話越しでわからなかったが何となく元気がないように感じた。
  何だろう?あいつが僕を呼び出すなんて始めてだ。
  不思議に思いながらも僕は時間を見計らって駅前の本屋に向かっ
た。
  う、寒い!
  くそ、こんな寒い日に呼び出すなんて。
  文句を言いながらも僕は駅前の本屋には2時ちょうどに着いてい
た。
  うん、我ながら時間には正確だな。
  そう広くもない本屋を一回り。
  あいつを捜す。
  いない。
  僕は別に驚かない。いつものことなのだ。

「そうなんだよな」
  交差点で信号が青になるのを待ちながら僕は空を見上げてつぶや
く。
  雲はすっかり秋の雲。嫌になるほどの猛暑ともやっとこさ縁が切
れ、あと2か月ほどはすごしやすい陽気になりそうだ。
  閑話休題。
  あいつが僕との約束の時間を守ったことは高2になった今までも
ほとんどない。
  どんな理由があるかは知らないが必ず20分ぐらい遅れて来る。
  それなら僕も20分遅れてくればちょうどいいな、と考えるのだ
けど。
  けど。
  もし、万が一、億が一、兆が一、約束時間どうりにあいつが来た
ら僕はあいつを20分待たすことになる。
  僕は待たすのと待つのとどちらを選ぶか?と聞かれれば待つ、を
選ぶ真面目人間なのだ。
  と、いうわけで今だに僕はあいつがまだ来ていないのが分かって
いながらも約束の時間までにはそこに着くようにしている。今日も
どうせ遅れてくるに決まってる。
  ああ、自分で言うのもなんだが真面目というよりも馬鹿という方
がぴったりだと思う。
  お、信号が青になった。
  渡ろう。
  うん、確かあの時も20分ぐらい遅れて来たな。

「よぉ」
  20分後、あいつは右手を上げながらのご登場。
  来たか、この連続遅刻魔め!
  自分から呼び出して遅れてくるとは・・・
「よぉ、じゃない。たまには定刻どうりに来てくれよ」
  と僕が立ち読みしていた雑誌を棚に戻しながら言えばあいつは
「まぁ、いいじゃないか」
  と、少しの反省も罪悪感も無しに言う。これがいつものパターン。
  ところがなんと今回。
「遅れて悪かった、ゴメン」
  と、言って僕に軽く頭を下げた。
「・・・は?」
  自分の耳を疑いましたね。僕は。
  謝った。
  こいつが僕に謝った。
  頭を下げた。
  ひぇ〜、明日雪降るぞ。
  こいつ、熱でもあるんじゃないか?
「おい、おまえどうし・・・」
  言葉が続かなかった。
  あいつの目を見たから。
  人生経験のない僕が見てもありありと分かる目の表情。
  悲しみ、寂しさ、不安。
  喜怒哀楽の哀がその目に、いや、そこだけじゃないな、体全体か
らあふれていた。
「おい、どうしたんだ」
  僕は不安になって聞く。
「ん?」
「ん、じゃない。本当にどうしたんだ?」
「・・・」
  沈黙
  重い空気、
  あいつは苦しそうに言葉を絞り出す。
「・・・ちょっと辛いことがあってな。・・・誰かにこのことを聞
いて欲しくて、それでお前の顔が浮かんで・・・その、とにかく俺
は今、落ち込んでいて・・・悲しくて・・・辛くて・・・つまり、
そういうことだ」
  歯切れの悪い台詞。
  自信の無いしゃべり方。
  何がそういうことなんだろう。
  分からんぞ!
「しっかりしろ!聞いてやるから」
  僕はあいつの肩に手を置いていった。するとあいつの不安げな顔
が少し安心したような顔になリ、
「ん、ありがとう」
  と言った。
  うーん。何があったんだろう。
  とりあえず僕たちは近くの喫茶店にいくことにした。

(あの時はほんとに何があったのかと思ったものな)
  僕は煙草屋の角を曲がる。
  あの日、本屋から喫茶店にいくまであいつが何も喋らないから僕
も黙って歩いた。いろいろなことを考えながら
  誰か知っている人が死んだのだろうかとか、とんでもないことを
したんだろうかとか。
  あいつがここまで落ちこんだのだから余程のことがあったんだろ
うな、と考え・・・。
(なのに結局理由というのが・・・)
  僕は溜め息をついた。

「で?」
  僕は聞いた。
  ここは仲間内でよく行く喫茶店。
  駅前にしては値段も手頃でサンドイッチセット(サンドイッチと
ジュース)が500円で食べれる。
  窓側の二人用の席に座り、上着は脱いで膝の上。いつものサンド
イッチセットも二人分注文し終えた。
  聞く準備万端整えてあいつが口を開くのを待っている。
  いつもなら窓から入るわずかな太陽の暖かさを体全体で感じて、
気持ちの良い、穏やかな気分になるのだけど・・・。
  今日はそうもいかない。
  長い沈黙。
  重い空気。
  呼吸をするのが辛い。
  ああ、やだやだ、早く済ましてしまおう。
「で?」
  あいつが口を開かないので僕はもう一度聞く。
「うん」
  やっと喋り始める。
  戸惑いながら。
「・・・まあ・・・早い話が失恋したんだ」
「・・・はぁ?」
  我ながらその時は間抜けな顔をしていたと思う。
「だから・・・振られたんだよ」
「・・・」
  言葉が出ない。
  頭がパニック。
  振られた・・・?
  振られたってことは・・・
  振られたってことか・・・?
  エー!?
  振られた?こいつが?女に?当り前か。男のわけ無いよな。
  いや、それにしても、あれ?
  駄目だ、思考ができない。
  ちょうどその時タイミング良く二人分のサンドイッチセットが運
ばれてきた。
  僕は気持ちを落ち着かせるためジュースを三分の一ぐらい一気に
飲む。
「ふぅ」
  一息つく。
  うん、だいぶん落ち着いた。
  さて・・・。
「振られたのか?」
  確認の為に聞く。
「ああ、いや・・・ちょっと違うかもしれない。正確には交際を申
し込んだら断られたんだ」
「・・・」
  こいつ。
  馬鹿じゃねぇか。
  なに考えてるんだ。
  恋愛問題を僕に持ってくるなんて。
  よりによって恋愛経験のないこの僕に。
  こいつもそのことは知っているはずなのに。
  いやみか?
  俺の方が一歩前に進んでいるという。
  いや、違うか。少なくともこいつの表情からはそんな感じは受け
ない。
  本当に僕に話を聞いて欲しいらしい。
  何故僕を選んだのだろう?
  うーん。
  こいつはスポーツは万能、とまではいかないが下手ではない。
  勉強もできるほうだ。身長も高いし、顔も悪くはない。
  だからクラスでも人気があり男女問わず友達が多い。
  総合で言えば上の中といった奴だ。

−2につづく−−
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