AWC Xの殺人 (5)      永山


        
#621/3137 空中分解2
★タイトル (AZA     )  90/ 9/11   8:32  ( 92)
Xの殺人 (5)      永山
★内容
 血の気がひいて行くのが、顔色が変わるのが、自分でも分かった。気付かれ
まいと、うつむく。
「貯蔵庫に隠したのは、こんな理由があったんでしょう」
 浜本が説明を加える。了子は窓ガラスを割って飛び降りたい衝動に駆られた。
「認められますか?」
 不意に別の男の声がした。顔を上げると、了子の知らない人物が立っていた。
「吉田と言います。こいつの上役なんてものをやっております」
 浜本を指さしながら、吉田と名乗った男は言った。
「ま、待ってください。新聞で読みましたが、四つ目の所沢さんが死んだのは、
自殺だったんでしょう? 現場は密室になっていたとも聞きました」
 最後の抵抗だなと思いながら、了子は言った。彼女自身、密室にした覚えは
ないのだ。
「それですがね、これがどうも、被害者が密室にしたんですな」
 ゆっくりと吉田が答えた。
「? それなら、自殺ではありませんか?」
「いえ、殺したのはあなたです。ヒ素を所沢さんに飲ませ、彼が苦しんでいる
間、あなたは彼のワープロで遺書を作り、プリントアウトした。そして所沢さ
んが完全に死なない内に、あなたは現場を離れたんでしょうね。ヒ素は遅効性
の毒。効き目が遅いんです。残された所沢さんは、あなたの行動を見ていて、
全てを悟ったのでしょう。そしてそれを受け入れる気になった。自分が自殺だ
と見えるように、ドアの所まで苦しい身体を引きずって行き、鍵をかけた……」
「あ……」
 そうだったの。この人だけは、分かってくれていた……。
「ご同行願えますかな。実はまだ、四つとも逮捕状が揃ってはいないんですが
ね」
「いえ、もう認めます。私が四人を殺しました。内海俊和さんのために」
 きっ、と顔を上げ、了子はきっぱりと言った。そうだ。これは信念の犯罪。
復讐なのだ。
「私は内海さんが死んだときから、そしてあの忌まわしい事故の写真が出回っ
てから、写真に関係した人達に復讐を誓いました。そのためには、自分が疑わ
れることのないよう、知らないふりをすることにしました。冷たい女だと言わ
れようとも、仕事しか頭にない女だと言われようとも、私はそういう姿勢を貫
きました。その一方、私は少なくとも柳川を殺すときだけは、絶対に疑われな
いようにしようと考えました。そして思い付いたのがこのツインホテルです。
先ほどの方法で、ほとんど間違いありません。警察の方が解かれるなんて、思
ってもみませんでしたけど」
 了子が言うと、警察の者達は、苦笑いをしたようだった。
「いや、私達が解いたんじゃないんです。ある人物、としておきましょう」
「そうでしたの。あ、もうこんな話、ここでしていても仕方ありませんわね。
どうぞ、連れて行ってください」
 了子は歩を進めようとした。しかし、思い付いたことがあったので、立ち止
まった。
「どうしました?」
「あの、凶器はこちらです。ナイフに花瓶、ヒ素」
 引出しからそれらを取り出し、列べる了子。
「証拠としてあずからしてもらいます」
 吉田が言うのと同時に、浜本がハンカチか何かでそれらを包み始めた。
「それから、これはお願いなんですが」
 了子はまた引出しから物を取り出した。紙で作った位牌である。関口春美と
ある。
「これは……」
 刑事の驚く様子がおかしくて、つい笑いそうになる了子であったが、笑える
ものではなかった。
「関口さんにだけは、本当に申し訳ないことをしたと思っています。こうして
紙の位牌なんかを作り、赦しをこうていたのですが。それで、これは少ないの
ですが、関口さんの遺族の方に」
 封筒を差し出す了子。お金で解決できるものではないと分かっているのだが、
これしか今はできない。
「当然かもしれませんが、犯人からだなんて、言わないでください。それに裁
判所の方にも言わないでください。被害者にお金を上げると、反省の様子が見
られるとか言って、罪が軽くなる傾向があるようですが、それは間違いだと考
えていますから」
「分かりました。きっと、お渡ししておきます」

「結局、あの女が犯人だったですね」
 舌足らずな言い方で、花畑刑事が言った。
「しかし、同情すべき点は、いくらかはあるな」
 と、下田警部。
「そうです。曳間了子は凄い女ですよ」
 唐突に、吉田警部が言った。
「内海が事故で死んだと知った瞬間、復讐への計算をしたんだ。すぐに騒ぎ立
てるよりも知らんふりをし、誰もが自分のことを冷たい女だと思うように仕向
け、十年後の今、復讐を実行する。誰もが、あの女は男のために復讐するよう
なタマじゃないと言うに決まっている十年後にだ。それだけじゃない。柳川を
殺すために、あのホテルを建てたんだ。正確に狙えるように石畳をひき、氷の
凶器を作るために七階に貯蔵庫を持ってきて、紐を結べるように空中回廊を用
意したんだ。その全てを計算に入れ、あのホテルを建てたんだ。今度の改装時
期をも計算に入れていたのかもしれない」
「そうですねえ。あの殺害方法だって、流さんに頼んでなければ、解けなかっ
たかもしれない」
 浜本刑事が感嘆したように言う。ついで吉田。
「十年間のトリックだ」
「ああ、本当に凄い女だ。死刑か、よくても無期懲役だろうが、何となく、生
きていて欲しい気もするね。あんな女はなかなかいないよ。好きな男のために
こうまでやる女はね」
「奥さんに言いつけますよ、下田警部」
 からかい気味に言う花畑。
「ばか言ってんじゃないよ! さあ、早く行くぞ」
 そして刑事達は車に乗り込んだ。これから関口家に向かうのだ。今度ばかり
は、探偵への礼は後にさせてもらおう。

−終−




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